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●2016年12月号
■ 第192臨時国会の与野党攻防の現段階
   社民党企画局長 横田昌三

   

■ はじめに

『社会主義』11月号で吉田忠智党首が位置づけているように、今臨時国会は、7月の参議院選挙を前にした「争点隠し」によって積み残された課題の処理が中心課題となっている。選挙に向けて打ち上げた28兆円超の経済対策を実施するための2016年度第二次補正予算案や消費税増税の再延期のための関連法案、そして選挙を前に評判が悪く継続としたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)承認案及び関係法案や年金カット法案、残業代ゼロ制度を導入するための労働基準法改正案、日米物品役務相互提供協定承認案などである。加えて、参議院においても改憲勢力が3分の2を占めたことを受けて、明文改憲に向けた憲法審査会の議論の始動である。
   
このうち、2016年度第二次補正予算案は10月4日に衆議院を通過し、11日に参議院で採決され成立した。消費税増税再延期関連法案は、11月8日に衆議院を通過し、18日に参議院で採決され成立した。また、積み残し課題の外国人技能実習法案と出入国管理及び難民認定法一部改正案も同日成立した。
   
現時点(11月22日現在)では、会期末予定日の11月30日に向けて、後半国会の最大の課題であるTPP承認案及び関係法案の審議が参議院TPP特別委員会で進んでいる。後述するように、両案は11月10日の衆議院本会議で通過が強行され、11日の参議院本会議で審議入りしている。そこで、条約の承認については、衆議院の議決が優越するという「30日ルール」(憲法第六一条)の適用も視野に、12月上旬までの小幅延長も取りざたされていた。しかし、参議院TPP特別委員会は、11月25日に採決の前提となる中央公聴会を設定しており、このまま「順調」に行けば、会期内成立も不可能ではない状況にある。したがって、11月中旬から、がん対策基本法改正案、再犯防止等推進法案、ストーカー規制法改正案や鳥獣被害防止特措法改正案、部落差別解消推進法案、休眠預金活用法案、洋上投票の要件を緩和する公職選挙法改正案など、会期末を目指して議員立法の審議が加速し始めた。
   
他方、衆議院では厚生労働委員会で審議されている、いわゆる年金カット法案(与党は将来年金確保法案と強弁)を巡って25日にも採決を強行するのではないかと言われている。物価が上がっても賃金が下がれば年金を削減する年金カット法案は、民進党はじめ野党が対決法案と位置づけTPP衆院通過後の国会の大きな焦点となっている。これに対し、自民党は来年の通常国会では、働き方改革関連法案の審議で厚労委の審議日程が厳しくなるとし、また公明党も年金問題は選挙の鬼門であり、来年7月の都議選への悪影響を避けようとして、政府・与党一体となって臨時国会中の審議・成立を強く求めている。そうならば、参議院でも一定の審議時間を確保しなければならない。また、「戦争法」に基づき、米軍と自衛隊の間で物品・役務を融通する後方支援(兵站活動)の範囲を拡大するための新たな日米物品役務相互提供協定案(新ACSA)について、一時見送りの方向だったがアメリカから強い要求が来ているし、カジノを解禁するIR法案についても審議促進の要請が出ている。こうしたことを織り込めば、会期延長は少なくとも12月22日くらいまで必要になってくる。しかし、12月15日には、安倍首相が前のめりになっている、ロシアのプーチン大統領との首脳会談もある。その後は来年度予算編成も大詰めを迎え、会期延長の余裕はなくなってくる。一方、解散風はやんだように見えるが、かりに年内の解散・総選挙を構えてくるのであれば、会期延長の幅を広くした方がフリーハンドを取ることができるし、一番可能性が高いと言われている来年通常国会冒頭解散・2月総選挙なら、また話は変わってくる。
   
こうした様々な要素が絡む中、臨時国会の会期は延長含みとなっているものの、今後どのように転んでいくのかについては、もう少し後にならないと見通すのは困難である。したがって、現時点での与野党の攻防の「中間報告」となることを冒頭、お詫びしたい。
   

■ TPPをめぐって

与党は、衆院補選での勝利を「弾み」として、TPP特の参考人質疑を委員長職権で設定するなど、10月中の衆院通過を狙って強硬な姿勢を示した。その後の仕切り直しで、27日に改めて野党出席の下参考人質疑が行われ、28日、31日、11月1日と委員会が進み、民進党は、30日までの会期中に「30日ルール」を発動させることはなくなったとして、11月2日の委員会での採決で合意した。
   
しかし、山本農相が11月1日、「こないだ冗談を言ったら首になりそうになった」、「農林水産省に来ていただければ、何か良いことがあるかもしれません」とまたもや問題発言を行ったことを受けて、民進党も対応を豹変させた。四野党は、農水大臣としての資質に欠ける山本氏が辞任しない限り採決に応じられないことを確認した。与党は2日の審議・採決は見送ったものの、4日に職権で委員会を開会し、野党四党欠席の下、山本大臣からの謝罪を行い、維新の党が質疑した後、採決を強行した。与野党が本会議について議運で議論している最中に、佐藤議運委員長が知らない間の強行採決は前代未聞であった。
   
野党は、山本農水大臣の辞任要求に対してゼロ回答であること、TPPの審議も十分だとは言えない状況であること、米国の大統領選挙でTPP撤退を明言しているトランプ氏が勝利した翌日に強行することはあり得ないことなどから、10日の本会議採決に反対した。しかし与党が本会議を職権でセットしたことから、山本農相に対する不信任決議案を衆院に共同で提出して対抗した。残念ながら、与党と維新の会によって不信任決議案は否決された後、TPP承認案と関係法案は衆議院を通過した。
   
参議院では坦々と、トランプ氏の当選との関係、アメリカ抜きのTPPや二国間FTAの可能性、ISDS条項や中小企業・公共事業、薬価や港湾労働者への影響、民泊などへの安全面からの規制ができなくなることへの懸念を始め、衆議院段階では不十分だった中身の審議が進んでいる。会期内に審議をしなければ参議院無用論につながることや、年金カット法案や残業代ゼロ法案を葬り去るためにTPPの審議を進めようというが、本来は採決に瑕疵があり、「荷崩れ」した案件であり、抗議の意思を示すべきではないのか。衆議院で攻防しているさなかに参議院で特別委員会が設置されたり、衆議院通過する前に代表質問のための参議院本会議がセットされたり、しかも参議院での本格審議前から、月内採決を前提とした審議日程案まで出回っていたりしたのはどういうことなのか。安倍首相からも、民間大労組をバックにする議員が多い参議院民進党は衆議院民進党とは違うと見透かされていたほどの不可解な動きである。
   
例外なき関税ゼロ、規制撤廃のTPPは、農林水産業だけでなく食の安全、公的医療制度(混合診療による保険外診療の拡大、公的医療保険の給付範囲縮小)や労働、公共事業、公共調達、著作権、ISDS始め国民生活や地域経済にも影響するが、まだまだ議論は尽されていない。共同通信社の全国電話世論調査でも「今国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」が66.5%、「成立させる必要はない」が10.3%と、国民の4分の3が慎重審議を求めている。21日にトランプ氏は、選挙戦の公約通り、「就任初日に」離脱する考えを明らかにした。アメリカの状況を見極めるべきであり、今国会の承認を見送るよう最後まで奮闘する。
   

■ 緊迫する年金カット法案の行方

継続審査になっていた年金カット法案に加え、政府は新たに年金受給資格期間の短縮(25年から10年に)を実施するための法律案を提出し、「飴と鞭」の抱き合わせによる二法案の一括審議を求めていた。
   
結局、年金受給資格期間の短縮法案を先行させることになり、11月1日に衆議院を全会一致で通過した(11月16日の参議院本会議で成立)が、同じ1日の本会議で年金カット法案の趣旨説明と代表質問が行われ、厚労委での審議が始まった。
   
年金改定ルールの大きな変更点は、

  1. マクロ経済スライドついて、デフレ時に給付抑制できない分を繰り越して物価上昇時に実施する未調整分のキャリーオーバーを導入すること、
  2. 賃金・物価スライド(本則)について、現役世代の賃金下落に合わせて年金額を下げるルールを徹底する

ことにある。その結果、物価が上がっても賃金が下がれば年金額は下がることになり、低所得者や国民年金のみの高齢者ほど影響が大きくなる。福祉的給付措置(低年金者へ最大年6万円)があるとはいっても、これは年金納付期間に応じて支給されることとされており、焼け石に水と言わざるを得ない。
   
TPP審議のあおりを受けて衆議院が不正常となったことから、野党の質疑が始まったのは、16日の厚労委からとなった。18日の採決は余りにも乱暴だとして見送られたが、25日が山場となっている。
   
しかし、年金カット法案は、年金額の改定ルールの見直しだけではなく、短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進、国民年金の産前産後期間の保険料の免除、GPIFの組織の見直し、年金機構の宿舎を売却した代金の国庫納付規定の整備といった5本の法案が束ねられている一括法案である。「結党以来強行採決は考えたこともない」というのなら、都議選などを考えて今のうちに押し切るのではなく、丁寧に徹底的に議論するべきである。今や生活保護受給世帯の半数が高齢者世帯であり、公的年金の最低保障機能を高めない限り、さらに増加する。「百年安心」が崩れ、「社会保障と税の一体改革」も破たんしているわけで、貧困・格差が広がる中の年金カットは容認できない。国連社会権規約委員会から日本は2度にわたり最低保障年金の創設を勧告されている。憲法二五条を具体化する方向で、年金制度の抜本改革の議論こそ始めるべきである。
   

■ 憲法審査会の始動と南スーダンPKO

参議院憲法審査会が11月16日、9カ月ぶりに再開し、「憲法に対する考え方」をテーマに各党が意見を表明した。また、衆議院憲法審査会も17日、昨年6月の参考人質疑で、自民党推薦の憲法学者らが、「戦争法」を「憲法違反」と断じて以来約1年5カ月ぶりに審議を再開させ、「憲法制定の経緯」などをテーマに各党が意見を表明した。24日には立憲主義、憲法改正の限界、違憲立法審査権について議論される予定である。
   
自民党は、九条改正が必要との認識を示し、前文や選挙制度、地方自治、私学助成などを改憲項目に挙げ、緊急事態条項や環境権など新しい人権の新設も主張した。憲法改正を要する項目の絞り込みを急ぎたいようだが、加憲の公明党は、現行憲法を評価するとともに、押しつけ憲法論に否定的であるなど、改憲勢力内の足並みも乱れている。
   
「改憲ありき」で議論を進めてはならない。まずは、立憲主義のあり方や「戦争法」の是非、そして、憲法の理念が現実の政治や国民生活に活かされていない状況をしっかり調査していくことが求められる。
   
政府は11月15日の閣議で、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣される陸上自衛隊に、他国PKO要員などの救出を行う「駆け付け警護」と国連施設などを他国軍と共に守る「宿営地の共同防護」という「戦争法」に基づく新しい任務と、これらの任務遂行のための武器使用権限の付与を決定した。「戦闘」ではなく「衝突」という言葉でごまかし、新任務付与に躍起になっている安倍政権の対応は、今後に大きな禍根を残す極めて無責任なものである。新任務によって、自衛隊員が相手から反撃を受けるリスクが高まるとともに、憲法の禁じた「武力の行使」に発展しかねない。そもそもPKO参加の前提である、停戦の維持や当事者間の同意などの「PKO参加五原則」自体が事実上崩壊しているのではないか。
   

■ 野党共闘の立て直し

民進、社民、生活、共産、沖縄の風の四野党一会派は、9月23日に党首会談と幹事長・書記局長会談を開き、

  1. 国民生活を守るために、四野党一会派で連携して臨時国会に臨む、
  2. 次期衆院選について「できる限りの協力」を行う、
  3. 10月の補欠選挙も含めた選挙協力に向けた早期の協議を開始する

ことで合意した。
   
しかし、東電柏崎刈羽原発をめぐる原発再稼働とTPPが大きな焦点となっていた新潟県知事選挙では、民進党が自主投票を決め、10月23日の衆院東京10区、福岡6区の補選では、候補者を民進党公認に一本化したものの、連合との間で、

  1. 共産の候補取り下げ、
  2. 政策協定は結ばない、
  3. 推薦は受けない、
  4. 表立った場所で共産と選挙活動はしない

ことを約束したと報じられるなど、本格的な共闘に踏み込むことができなかった。また共産党も、「連合を取るのか、野党共闘を取るのか」と志位委員長が迫るとともに、「野党連合政府」の樹立を打ち上げ、民進党を追い込もうと言わんばかりの対応をとった。
   
社民党は、連合に苦言を述べるとともに、自由党や共産党、民進党、市民連合とそれぞれ会談するなど、野党共闘の立て直しに努力した。その甲斐もあって、11月9日、1カ月半ぶりに四野党幹事長・書記局長会談が開かれた。そこでは、山本農水大臣の辞任や鶴保沖縄・北方担当大臣の「土人発言は差別と断定できない」との問題発言の徹底追及、TPPの徹底審議、年金カット法案、南スーダンPKOの駆けつけ警護の付与の阻止、残業代ゼロ法案反対、四野党共同提出の長時間労働規制法案の成立といった、後半国会の重要課題について野党の共闘を強化することとした。さらに、昨年から4回にわたり議論を重ねてきた「市民連合」参加の諸団体との意見交換会を速やかに再開することにした。そして次期衆院選の選挙協力について、各党の意見を踏まえ、できる限りの協力を進めるために、具体的な取り組みの議論を加速化することを確認した。
   
11月17日には、約2年ぶりに四野党政策責任者会議が再開され、

  1. TPP承認案と関連法案の徹底審議、
  2. 年金カット法案の成立阻止、
  3. 南スーダンPKOに派遣される陸上自衛隊の部隊への駆けつけ警護任務付与への反対、
  4. 電通問題等を踏まえて政府提出の残業代ゼロ法案の断固反対と野党提出の長時間労働規制法案の早期成立

の四点について、後半国会の重要課題とすることを確認した。IRや新ACSA、奨学金や農政改革、衆院選の共通政策の扱い方についても議論を行い、その他重要な政策課題があった場合にも適宜適切に会議を開いて政策責任者間で政策面の連絡・調整を行うことを確認した。
   
同日夕方には、市民連合参加団体との意見交換会が開かれ、市民連合側から、「安倍政権に対するオルタナティブを提示することが重要」、「分断社会、格差社会、女性の課題、若者の課題など、生活に根差した課題についても議論していくべき」など、野党と市民の共通政策づくりの必要性について多くの指摘があった。意見交換会は月に1回のペースで開催していくこと、生活に根ざした政策課題について、お互い工夫して知恵を出していくことを確認した。
   
野党共闘を深め市民と結束しなければ、アベ政治の暴走を止めることはできない。明確な政策的対立軸を打ち出し、有権者の「自分の1票で変わるかもしれない」との現実的期待感を持てる取り組みが求められている。民進党が一番ナーバスになっている政権問題は、閣外協力も含めてその時々の状況によって様々な形態があり、今持ち出して、民進党を追い込むのが得策なのか。相互推薦・協力もできればそれにこしたことはないが、機械的・画一的に考えるのではなく、295小選挙区のそれぞれの実情に応じて最も効果的な協力を追求すべきではないのか。野合批判に対抗しすみ分けを進める上でも共通政策は必要だが、形式にこだわらず、参議院選挙のものをベースに広げていく努力をすべきではないか。市民連合からの意見は、民進党内と連合への説得材料にしていく意味も期待される。「民進党の後退」と「共産党の突出」に対し、柔軟で実りある効果的な選挙協力を実現すべく、社民党は野党共闘の「要石」役として汗をかいていきたい。
   
(11月22日 記)
   
   

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