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●2016年11月号
■ 臨時国会序盤の情勢と社民党の役割
   社会民主党党首  吉田忠智

   

■ はじめに

9月26日、第192回臨時国会が召集された。参議院選挙後初の本格的な国会であり、第三次安倍第二次改造内閣として初めての国会である。また、来年1月冒頭解散の風が吹き始めている中、与野党の意見の違いを明確にして、国民の前に主要な論点を整理すべき国会である。
   
今臨時国会の課題の多くは、28兆円超の経済対策を実施するための2016年度第二次補正予算案や消費税増税再延期法案のように7月の参院選対策として打ち上げたもの、TPP協定承認案、物価が上がっても賃金が下がれば年金を削減する「年金カット法案」、「残業代ゼロ」制度を導入するための労働基準法改正案など、安倍政権の常套手段となっている「争点隠し」で先送りされたものである。そして参議院においても改憲勢力が3分の2を占めたこともあって、安倍首相が狙う明文改憲に向け、憲法審査会の議論も始まろうとしている。こうした重要な臨時国会において、平和と民主主義、働く者と社会的弱者のための政策を掲げる社民党が果たすべき役割を重く受け止め、先の参議院選挙で社民党に託された154万人の期待に応えていきたい。
   

■ 第二次補正予算案

序盤の争点は、「未来への投資を実現する経済対策」を踏まえ編成された2016年度第二次補正予算案である。安倍首相が所信表明で「経済対策のキーワードは『未来への投資』。一億総活躍の『未来』を見据え、子育て支援、介護の拡充を進めます」と大見得を切りながら、「保育・介護の人材確保等」は第二次補正予算案に計上された4.5兆円のうち、わずか149億円にすぎず、極めて不十分である。東日本大震災や熊本地震の復旧・復興関係費などが盛り込まれてはいるものの、リニア中央新幹線や整備新幹線の前倒し、クルーズ船寄港のための港湾整備など、「21世紀型のインフラ整備」とはいいながら、旧来型の大規模公共事業の大盤振る舞いや、「インフラなどの海外展開支援」、「生産性向上へ向けた取組の加速」といった大企業の後押し策が目白押しとなっており、反対した。
   
また、P-1新型哨戒機、SH-60K哨戒ヘリコプター、C-2輸送機、CH-47JAヘリコプター、PAC3ミサイルなどの整備・調達、F-15J/DJ戦闘機やCH-47Jヘリコプターの改修のため、防衛費を217億円余り追加している。この間、補正予算による兵器の調達・改修が常態化しているが、事実上査定の甘い補正予算で新規の後年度負担を増やすやり方は問題である。
   
大企業を応援するアベノミクスの結果、内部留保拡大、賃金伸び悩み、消費低迷の悪循環に陥っている。賃金が伸び悩み、可処分所得が増えない中、大企業優遇のトリクルダウン政策からの転換を図り、子育て・教育支援や将来の不安に備える社会保障の拡充、安心して働ける環境の整備にこそ主眼を置き、家計を応援する、ボトム・アップのサイクルを作り出すべきである。
   

■ TPPの今国会承認断念を

10月11日の参議院本会議で補正予算案が成立した後は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)承認案件と関連法案の審議が最大のテーマとなっている。与党は通常国会での審議時間23時間を含めることで臨時国会の審議を早期に終えようとしている。しかし、交渉を担当した甘利明前TPP担当相は資金問題で姿を隠し、交渉資料もほとんどが「真っ黒クロスケ」、国会に対する情報開示もまったく不十分な状況で行った通常国会での審議を時間に含めることは許されない。農業を中心に国内産業や地域経済、皆保険や食品安全など国民生活にも壊滅的な打撃を与えるおそれが指摘される重大な国際協定を、内容があいまいで国民の理解が深まらないまま数の力で押し通すことなどありえない。米大統領選挙の有力候補者2人がともにTPPに反対していることなどを踏まえれば、TPPがこのまま発効する可能性は極めて低く、承認を急ぐ必要は全くない。
   
予算委員会の審議の中でも、国の管理の下で輸入されている主に主食用のSBS米の取引をめぐって、国が公表してきた取引価格よりも実際には安い価格で輸入米が出回っていた価格偽装問題が大きく取り上げられた。SBS米の事実関係の徹底解明とTPP影響試算のやり直しを求める。
   
政府・与党は、維新の党に働きかけ審議入りを強行し、17、18日には安倍首相も出席して本格的な審議に入った。月内衆院通過、その後は場合によっては自然成立も辞さないとする与党側と、充実した審議を求めて、農業への影響だけでなく、食の安全や経済活動、著作権、保険、郵貯など幅広い角度から問題点をあぶり出そうとする野党側の主張は平行線となっている。
   
しかも、特別委の理事だった自民党の福井照氏が、「強行採決という形で実現するよう頑張る」と発言して、引責辞任した際、「強行採決は安倍首相の思い」と問題を上塗りしたのに続いて、山本有二農相が18日、佐藤勉衆院議院運営委員長のパーティーで強行採決を示唆する発言をした問題が浮上した。国会を政府・与党の方針を押し通す場だと勘違いしている与党のおごりが出ており、強行ありきという対応は絶対に許すことができない。
   

■ 消費税増税再延期と「年金カット法案」

消費税10%への引き上げを再び先送りしたことに伴う関連法案が審議入りした。しかし、消費税増税の再延期とはいっても、賃金が伸び悩む中で2年半後の増税が見込まれていては、将来不安から消費が低迷することは明らかであり、再増税を中止すべきである。同時に、雇用の立て直しと安心の社会保障ビジョンと税制全体をパッケージとした、真の「一体改革」としてやり直すべきである。
   
参議院選挙対策もあって、年金額を減らすための年金額改定ルールの見直し等を柱とする「年金カット法案」が継続審査となっていた。今回、先送りされてきた年金受給資格期間の短縮(25年から10年に)を実施するための法律案を提出し、与党は2法案の一括審議を求めている。
   
10月17日になって、ようやく厚生労働省は、新しい減額の仕組みによる影響を過去10年間にあてはめた試算を公表した。しかし、試算の前提に色々と問題があり、社民党も他の野党とともに、政府に対し試算を出し直すよう求めている。また、円高・株安の影響でGPIFの年金積立金が、2015年度と2016年度第1四半期であわせて10兆円を超える巨額の評価損が生じている問題も重大である。厚労委は年金2法案を巡って与野党の対立が激化し紛糾しているが、公的年金制度への信頼を確保し、真に国民の老後の生活を守る立場で臨んでいきたい。
   

■「働き方改革」より「働かせ方への規制」を

安倍政権が参院選に向けて、「未来への投資」とともに打ち出したのが、「働き方改革」である。8月の内閣改造で「働き方改革担当相」を設け、同一労働同一賃金、長時間労働の是正を強調し、「非正規という言葉をこの国から一掃する」と断言した。しかし、非正規という言葉をなくすというのは、低賃金・不安定の非正規雇用自体が一般化したことの反映であり、限定正社員制度や成果主義と相まって、正規雇用を今の非正規の水準に引き下げようとしているとの見方も払拭できない。「働き方改革」の名の下に、残業代ゼロ制度や解雇の金銭解決ルールの導入など、労働法制の改悪を一層加速しようとすることは許されない。一方、継続となっている労働基準法改正法案は、労働時間規制が適用されない「高度プロフェッショナル制度」を創設することが主な内容となっているが、高度専門職の労働者に対して、残業代も深夜・休日出勤手当もなく無制限に働かせることができ、経営者は労働時間を管理する責任がなくなってしまう。「過労死促進法案」、「残業代ゼロ法案」とも言われる労基法改革法案を撤回し、「働き方改革」ではなく、「働かせ方への規制」を強化する議論を進めるべきである。
   

■「戦争法」の廃止を

9月19日に、集団的自衛権の行使を容認するなど違憲の「戦争法」(平和安全法制)が強行成立して丸一周年を迎えた。法律は3月末に施行されたが、参院選を前に有権者の反発をおそれた安倍政権は、具体的な運用を先送りさせていた。参院選が終わり、本年8月から新任務に関する訓練が開始され、11月に南スーダンPKOに派遣される部隊に「駆け付け警護」や「宿営地の共同防護」の任務を付与しようとしている。審議では稲田朋美防衛相の言行不一致の対応や過去の問題発言、白紙領収書問題などがやり玉にあがったが、いくら「衝突」と言い換えようとも、南スーダン現地では政府軍と反政府軍の戦闘が激化しているなど、事実上の内戦状態にあり、そもそもPKO派遣五原則の1つ「紛争当事者間の停戦合意」という条件が満たされていない。また、海外での日米共同作戦に対応できるよう米軍と自衛隊が物資などを融通しあう日米物品役務相互提供協定(ACSA)の改定案も提出された。「戦争法」に基づき拡大・強化される自衛隊の活動を徹底的に追及し、「戦争法」の廃止を強く求めていく。
   
一方、沖縄県東村高江の米軍北部訓練場では、オスプレイ用のヘリパッド(着陸帯)の建設をめぐって、政府は、全国から機動隊を大量動員して抗議する市民を力ずくで排除し、ついには自衛隊のヘリコプターを使って重機を搬入するに至っている。また、本年3月に国と沖縄県の和解が成立し一時中断していた名護市辺野古の新基地建設も、福岡高裁那覇支部による国の主張を追認した判決を受け、工事再開の動きが強まっている。一方的に基地を押しつける安倍政権の沖縄政策は、地方自治・民主主義を否定するものであり、社民党は沖縄の民意としっかり連携しながら、政府の姿勢を追及していく。
   
そのほか、原発再稼働やもんじゅの廃炉問題、リニア新幹線や財政投融資のあり方が論点となっている鉄道運輸機構法改正案など、重要課題が山積している。与野党の真摯な論戦が期待されているし、社民党はこれらの問題点を徹底的に追及する。
   

■「活憲運動」を今こそ

衆参両院で改憲勢力が3分の2の議席を確保し、自民党が参院で27年ぶりに単独過半数を回復したことを受け、安倍首相は、「悲願」としてきた憲法改正について、所信表明演説で与野党の立場を超えて憲法審査会で議論を深めるよう議論の深化を呼びかけた。そして、「案を国民に提示する」のが「国会議員の責任だ」と、はじめて改憲の発議まで踏み込んだ。しかし、参院選で首相は憲法改正論議を避け、自民党の公約でも「国民の合意形成に努め、改憲を目指す」など、最後に触れただけであり、世論調査では過半数が「改正の必要なし」としている。「まず改憲ありき」の姿勢で「お試し改憲」の議論をすることは、憲法制定権力である国民を愚弄するものである。
   
2000年1月に憲法調査会(2007年からは憲法審査会)が設置されてから、17年間近くの議論を経て、現行憲法に国民生活に係わる具体的な不都合がないことは明らかになっている。社民党始め立憲主義を大事にする野党は、少なくとも、憲法理念を軽視し立憲主義の原則を無視し続ける「安倍政権下での改憲」は認められないことで一致しており、現行憲法の三大原則を覆す自民党憲法改正草案そのものを撤回すべきである。自民党憲法改正推進本部の保岡興治本部長は、自民党憲法改正草案を国会に提案せず「棚上げ」して、各党との議論を重ねて合意形成を図っていく方針を示している。しかし、「衣の下の鎧」を隠して改憲項目の絞り込みを図ろうという自民党の姿勢はきわめて姑息である。社民党は、憲法の平和主義、幸福追求権や生存権、労働権、教育権、地方自治など、平和憲法が活かされていない現実の状況をただし、憲法の理念を現実に活かす「活憲運動」を職場・地域から全力で取り組むとともに、安倍政権による改憲発議の動きに厳しく対抗していく。
   

■ 本気の野党共闘で衆院選勝利を

民進党の代表選で蓮舫氏が選ばれ、9月23日、民進、社民、生活、共産、沖縄の風の四野党一会派の党首会談が行われた。急遽設定されたこともあり、私が所用で出られず社民党は又市幹事長が代理で出席したが、これまでの四野党党首会談・幹事長会談の合意事項をしっかり踏まえ、

  1. 国民生活を守るために、四野党一会派で連携して臨時国会に臨む、
  2. 次期衆院選について「できる限りの協力」を行う、10月の補欠選挙も含めた選挙協力に向けた早期の協議を開始する

ことで合意した。引き続いて行われた幹事長・書記局長会談でも、

  1. これまでの四野党党首会談や幹事長会談での合意事項の具体化に向け、引き続き連携していく、
  2. 臨時国会の対応は、補正予算の問題点追及やTPPの拙速な審議・強行阻止、残業代ゼロ法案阻止など、国民生活を守る立場で連携して審議に臨む、
  3. 安保法制廃止と立憲主義の回復、安倍政権の進める憲法改正反対など四野党で確認した共通課題や四野党が通常国会に共同提出した国民生活に身近な15本の議員立法など)の実現を追求する、
  4. 衆院選に向けた選挙協力の協議を開始する、とりわけ10月の衆院補選について、早急に協議を進め対応する

ことを確認した。
   
「小選挙区で野党候補が乱立しますと、勝利に向けて厳しい道も想定されますので、それぞれの地域事情も踏まえつつしっかりと対応して参ります」、「巨大与党と対するには、市民連合を主体にするなど、いろいろな形が想定される中で取り組んでいきたい」など、蓮舫代表は次期衆院選の対応に関して、野党三党と候補者の一本化を目指していく考えを表明している。民進党はその一方で、補欠選挙での他の野党からの推薦や応援は不要であるとしたり、衆院選は「政権選択選挙」であり参院選の野党の連携・協力の一定の見直しが必要であるとしたり、新潟県知事選では自主投票としたりすることなどからみると、岡田執行部より共闘の姿勢が後退している感が否めない。
   
しかし新潟県知事選挙では、出遅れもあって自公推薦候補優勢と言われていた中で、野党と市民の共闘が米山隆一知事誕生という歴史的な快挙をもたらした。民進党も最終盤にようやく蓮舫代表が現地入りしたが、野党が共闘を深め市民と結束しなければ、アベ政治の暴走を止めることはできないのは自明のことである。参院選の野党共闘の成果と新潟県知事選の教訓に学び、野党間の選挙協力と市民との共闘を次期衆院選でもしっかり進めていくべきである。私も衆議院の小選挙区で野党四党による候補者のすみ分け・一本化の実現に向け、野党共闘の「要石」として汗をかきたい。
   
現在、国会の議席では与党が圧倒的な多数を占めている。しかし、「戦争法」、原発再稼働、TPP参加、憲法改正、沖縄基地問題など、国論を二分する重要課題について安倍政権の方針のすべてを国民が支持しているわけではないことは、この間の各種選挙からも明らかである。社民党も、参議院で生活の党(現在は自由党)との統一会派「希望の会」を結成するなど、巨大与党の暴走に少しでもブレーキをかけるよう努力している。民進党や共産党、沖縄の風とも連携を強化しながら臨時国会に臨み、アベ政治の暴走をストップさせていくために全力をあげたい。
   
解散・総選挙は、早ければ来年の通常国会冒頭にもありうるのではないかと言われている。社民党にとって、引き続き正念場の戦いであり、日本の平和と民主主義、そして国民生活を守るためにも必ず議席を増やさなければならない。党首続投を決意したからには、全党の先頭に立って、衆議院選挙勝利に全力を捧げたい。とはいえ、国会の議席を失った人間が党首を続けることはまさに異例の事態であり、全国の同志の皆さんのご理解ご協力が不可欠である。どうか、この決意を受け止めていただき、皆さんのこれまで以上のご支援をお願いしたい。
   
(10月20日 記)
   
   

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