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●2012年5月号
■ 金融・財政危機から国家の危機へ(上)
   ――カネか命かが問われている――
   鎌倉 孝夫
 

■ はじめに――情勢の特徴・課題

政府の国民統合策は、欺瞞による以外になくなってしまった。
 
一般消費税引上げは、社会保障支出維持・充実のためだ、という。そういいながら、社会保障支出も「身を切る努力」が必要だという。前原民主党政調会長は、「社会保障は無駄の宝庫」とさえいった(2月9日、衆議院予算委)。「無駄」をなくす――それは何より社会保障を削るということなのである。
 
原子力発電についても、ストレステストの確認の上であたふたと新安全判断基準なるものを策定(4月5日)し、再稼働に向けて走り出そうとしている。地元自治体の了承をふまえてといっていたのに、「地元の同意は法律上、必ずしも義務ではない」(藤村官房長官)という。すでに原発が稼働しなくとも電力供給は不足しない、真夏のピークでも不足することはないことが確実に見通せるのに、電力不足に陥らないために再稼働が必要だと主張して。
 
朝鮮民主主義人民共和国の人工衛星打上げに対し、この政権はそれは弾道ミサイル発射だ、危険だから爆破すると破壊措置命令を発令し、PAC3などの実戦配備まで行っている。人工衛星発射に用いられるロケットは弾道ミサイルに使えるからという理由で――しかしそういうのなら、日本の場合にも妥当する。朝鮮は別だ、危険な国だからというしか理由はない。このような全く不当な脅威宣伝によって全く無駄なイージス艦・PAC3は必要、日米同盟は国民の安全に不可欠だという。これが欺瞞であることは明白なのに、マスコミは全面的に脅威宣伝に同調している。こうして財政支出上最大の「無駄」が手つかずになる。民主党政権は、「コンクリートからひとへ」「経済あっての人間から人間のための経済へ」といって民衆をひきつけ政権を獲得した。ところがこれを実現しようとすれば、財界とアメリカ政府・軍部の要求に従った自民党政権の政策を転換させなければならない。しかし鳩山政権は、財界とアメリカ政府の強力な壁にはばまれ挫折した。菅そして野田政権は、この壁を突破するどころか財界とアメリカ政府の要求に即した政策に回帰してしまった。しかし、にも拘わらずその政策は国民のため、民衆のためだといい続けようとするのだから、国民を欺瞞する以外になくなるのである。
 
しかしすでにこの欺瞞は現実に暴露されてきている。私たちは現実にもそして理論的にもこれを明確にしなければならない。民主党政権のとる政策は、国家の“公”的性格――それは日本の民衆すべての差別なき生活安定、平和的生存権確保にある――を放棄し、ひと握りの財界=多国籍大資本の利益、そしてアメリカはじめとする帝国主義的利益に奉仕するものとなっている。と同時に、公的性格を放棄した国家では、民衆から税金を取立てる根拠はないことを強調したい。生活・人権の維持・確保に何ら寄与しえない政府に国民・民衆は税金を納める義務はないことを明確にしなければならない。
 
しかしこの政府は、さらに民衆に増税を課そうという。どのような理由で、どのような手を使って、これ以上民衆に負担、犠牲を課そう、取立てようとするのか。残された手段、国民統合策は、強権発動・暴力以外にないのではないか。大阪市長橋下、そして維新の会の動向は、明らかにこれを示唆しているように思う。
 
この国家の危機、国家の国民統合の危機の下で、私たちの課題は何か。カネや儲けの追求ではなく人間の命を守ることが問われているのである。
 

■1. 「社会保障と税の一体改革」とは

・(1) ギリシャの危機を招かないため?
 
「社会保障と税の一体改革」――それはギリシャのようなソブリン危機に陥らないための財政再建の方策なのだといわれる。しかしこの主張はごまかしでしかない。たしかに日本の財政状態は、国(地方を含む)の債務の対GDP比率は220%を突破し世界最悪である。
 
しかし第一に、ギリシャは経常収支は継続して赤字であるのに、日本は黒字である。ということは、国家的にギリシャは資金不足であり外国からの借入れが必要なのに、日本は資金過剰であり、むしろその運用をどうするかが課題となっている。だからギリシャの国債は外国に売出さなければならないのに、日本の国債は現在のところ90%以上国内消化されている。
 
第二に、ギリシャはユーロ圏に参加していることから、共通通貨ユーロを使用せざるをえないので、自国通貨価値の調整(切下げ)によって輸出競争力強化策を採れない。日本の場合は米ドルを使わざるをえないので、ドルの価値変動(ドル切下げ)の影響を被ることになるが(これがドイツとの差である)、円の価値操作(円高回避策)は可能である――しかしこれがマネー過剰をもたらすものとなるが。
 
第三に、ギリシャのソブリン危機の直接の契機はたしかにギリシャ国債の価格低下――格付切下げにあった。日本も早めに財政危機対策を講じないと格付けを下げられ、信用が低下してしまうという危機感がある。このとらえ方は、今日の世界的特徴である金融機関による投機を前提にしている。投機的市場の動きを前提しこれに対応するということでは、実際は国内的にいかに対応しようにも対応は不可能なのである。金融危機そのものを規制しなければならないのである。
 
第四に、これが重要なのであるが、ギリシャはEU、IMFの救済融資を受ける条件にして、財政支出削減(福祉支出削減)、増税(消費税、所得税引上げ)策を進めている。これが大量の失業をもたらして経済を破綻させ、さらにスト・デモの激発によって社会的秩序を混乱させ、危機を深めている。財政支出(福祉支出、公的事業削減)そして増税は、財政収入(税金)の基盤(実体経済)を解体化させることによって、かえって財政再建を困難化させるものとなっている。
 
ギリシャの危機に見習うのなら、この点を教訓化しなければならない。
 
 
・(2) 消費税引上げ・社会保障支出削減で財政再建?
 成長実現?
 
「社会保障と税の一体改革」とは、内実は社会保障支出の可能な限りの削減(「身を切る」削減)、そして大衆増税そのものである(しかも逆進的な)消費税引上げであり、労働者・民衆にとってはまさに一体改悪である。消費税引上げを国民に納得してもらうには、財政支出の「無駄」を徹底して削らなければならないとして、労働者民衆にとって生活維持上不可欠な社会保障支出を「無駄」だとして切りつめようとしている。10%への消費税引上げで民衆は13兆円負担増、社会保障費切りつめで7兆円の犠牲、計20兆円余の負担と犠牲の押しつけ、これが「一体改革」の内実である。しかもそれが財政再建になり、成長実現に必要だという。
 
第一に、菅政権のこの「一体改革」の「成案」(2011年7月1日閣議報告)における社会保障支出のとらえ方(概念)が決定的に変えられてしまった。この中で「社会保障」というのは、個人の尊厳を残し、自立・自助を国民相互の共助・連帯の仕組みを通じて、支援していくことが基本である」としている。ここには「公助」が消されている。これはどういうことか。資本主義の下で必然的にもたらされる失業・貧困、それは「自助」による生活維持を不可能にする。子どもたちの教育も、病院にかかることもできない。それは決して労働者自身の責任ではなく、資本主義社会が招いたのである。失業者・貧困者も人間として生存権が保障されなければならない。「自助」で生活が維持できなければ、「公助」で国・自治体の責任で保障しなければならない。「公助」をなくす――それは失業者・貧困者は、生活が困難になっても、病院・学校に行けなくなってもよい――要するに「自立・自助」という名の下での死の宣告ではないか。
 
「共助」というのは、医療保険、年金、介護保険などの社会保険である。しかし保険料を払えない労働者・民衆はどうするのか。それは「公助」、国家そして労働者の労働から利潤を吸上げている企業の負担で保障されなければならない。これを削除する――保険料を支払えない者は死んでも仕方ない、ということになる。さらに「共助」に関わって、現役世代の負担では少子高齢化でとても高齢者の生活を維持し切れなくなる――だから高齢者の負担を高め(保険料引上げ)、給費を削減(年金引下げ)が必要という。世代間の負担「共助」では確実に社会保障・生活維持は困難である。だから国、そして企業の負担――「公助」が必要なのだ。それを切り捨てる――それは社会保障の切り捨てであり、憲法二五条の完全な形骸化・廃棄といえよう。
 
第二に、この点と関わって社会保障の維持を求めるなら増税が必要だ、ということから、さらに社会保障は増税――消費税増税で賄えという主張が出ている。消費税の社会保障目的税化、である。これは逆にいえば、消費税による税収で、社会保障を賄え、ということ、だから企業の社会保険料負担や、国の他の財源による負担はしない(軽減する)、ということになる。福祉を求めるなら負担しろ、負担しないのなら福祉はあきらめろという国民全体としての「自助」努力、自己責任の強要――要するに新自由主義の徹底である。
 
しかし第三に、このことがどうして財政再建になるのか、そして成長をもたらすことになるのか。
 
たしかに、財政支出を削減する一方、消費税引上げで増税を図るのだから、その分財政負担は減少し債務は減少する。しかし財務省によると、12年度の新規国債発行額は44.2兆円、年度末発行残高は696兆円の見込みだが、「一体改革」で消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%に上げてでも歳出増――社会保障費や国債元利払い費など――が税収の増加を上回り、15年度の新規発行額は45.4兆円に増える、という。このため国債発行残高は、15年度末には800兆円を突破し、税率10%の消費税収入が年間通して入ってくる16年度以降、仮に新規発行額を11年度と同額に抑えたとしても、国債発行残高は21年度には1007兆円になる――つまり財政危機は克服されずかえって深まる、と試算している。だから財政再建にはもっと消費税率を高めるか、財政支出・社会保障支出をさらに切りつめるしかない――しかしそれは明らかに内需・実体経済基盤をほりくずすことになってしまう。
 
重要なのは、国民の「共助」――負担の分担の中に、「法人」、資本家的企業は入っていない。それどころか、法人企業にはさらに減税を図ろう、ということである。それによって競争力を高め、輸出を促進し、成長を実現しよう、というのである。しかも内需の面でも、高速道路や整備新幹線建設・ダム建設を再開させて、大企業に需要をつぎ込もう、震災による被害復興のためにも大手ゼネコンに発注を増やすという政策が進められている。「惨事便乗型資本主義」(ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』)の導入である。――このような大企業の優遇策、競争の強化策で、成長が実現し、財政危機は克服されるのか、危機の原因をとらえながら、この点を明らかにしよう。
 

■2. 金融・経済・財政危機の3つの根本原因

日本経済は、1980年代のバブルが崩壊し不況に陥った後、90年代半ばから今日に到るまで、GDP=実体経済は全く成長していない。すでに“失われた20年”を越えている。この間、国債発行増大によって財政支出拡大(公共事業支出中心に)を行ってきた。そして法人企業に対しては、法人税減税、リストラ促進によって競争力強化、利潤拡大策を講じてきた。資本の自由活動を保障し拡大するということで、規制緩和・撤廃、公的事業の民営化――新自由主義政策を推進してきた。それにも拘わらず、実体経済は回復、拡大せず、逆に縮小化している。
 
しかも金融危機が深刻化した90年代末には金融機関の経営危機に関わって、国家資金の個別金融機関への直接的投入、金融機関のかかえる不良債権の国家による買上げによる処理という、“公”的であるはずの国家が、“私的”資本家的企業に資金投入して経営を救済するという、歴史上かつてない措置さえ採った。リーマンショックによる金融危機の深刻化の中で、欧米資本主義各国でも、直接金融独占企業に国家が資本を投入して経営を救済する(反面労働者に対してはリストラを強要する)という危機対策を行っている。その下で金融危機が国債増発による財政危機・ソブリン危機をもたらし、金融危機――財政危機の連鎖という前代未聞の事態が生じている。
 
このような金融・経済・財政危機をもたらした原因はどこにあるか。私はそれを次の3つの要因にある、ととらえている。
 
第一に、大企業の競争力強化策自体である。第二に、実体経済から遊離した金融の膨脹、肥大化であり、それをさらに促進させる財政・金融政策である。そして第三に、対米関係――日米軍事同盟による日本の“国益”喪失、成長制約である。これら3つの根本原因に関し基本的なポイントを指摘しよう。
 
 
・(1) 大企業競争力強化――その下でのリストラ推進が実体経済を壊している
 
財政支出拡大――需要拡大をテコとした景気上昇が挫折し、減量合理化(省エネ、省資源、省力化)によるコスト削減によって資本家的企業の利潤を維持し景気回復を図ろうとする政策は、1970年代後半のスタグフレーション克服策として推進されはじめた。それは新自由主義政策導入のはしりであった。製品価格を引上げずにも一定の利潤を確保する――コスト、とくに賃金コストを抑えて競争力を強める、それが景気回復――成長実現の基本要因とされた。
 
その下で80年代半ばまで、日本の輸出産業大企業は競争力を強め、輸出拡大によって市場を圧倒した。大企業競争力強化で成長実現は現実に実証されたように思われた。しかしその間国内需要の基本である労働者民衆の賃金・収入は生産性上昇の限度内に抑えられ、いわゆる労働分配率は下落し続けていたことを指摘しておかなければならない。
 
日本の輸出産業大企業の競争力強化に対抗して欧米資本家的企業は対抗策を展開しはじめる――新自由主義政策を本格的に導入して。転機は1985年のプラザ合意による円高転換(1ドル=250円から120円に)であった。こうして本格的な資本主義諸国間の、直接には各国大資本間の世界市場争奪戦の展開となる。その下で日本経済は80年代後半バブルが膨脹した。大企業が輸出拡大で利潤を獲得し資金が十分ある上に、円高対策として利子率が引下げられて金余りが生じ、過剰資金が株式投機、土地投機につぎ込まれたからであった。
 
しかしバブル崩壊とともに90年代以降日本経済は不況に陥り前述のようにGDPは回復拡大していない。しかしこの間、大企業競争力強化策はさらに推進され、法人税は引下げられ、大企業に需要をつぎ込む公共事業支出は増大し続けた。しかしこの大企業の競争力強化策こそが、実体経済回復を阻害し財政危機を深めるものとなったのである。
 
第一に、バブル破綻による不況下で、大企業は不況乗り切りを図るため、リストラを強行したことである。雇用(中間管理職まで含めて)は削減され、賃金は切下げられた。実体経済維持に関わる国内需要の基本である労働者・民衆の消費需要は縮小してしまう。
 
国債増発により(そしてアメリカ政府による構造調整――内需拡大要求もあって)一気に公共事業支出が増大する。しかしリストラ推進の下でこれは一向に需要波及効果をもたらさない。そこで財界はさらに競争力強化を図るべく、労働領域の規制緩和を要求する。その下で輸出産業大企業は輸出拡大で利潤を得るが、輸出拡大――貿易黒字によってさらに円高が進む(1995年、1ドル=89円台に)。円高―リストラ―貿易黒字―円高の悪循環。大企業はその下で国内生産――輸出増大から海外生産にシフトする(これは次の第三点でさらに扱う)。内需の基盤は、産業空洞化によってほりくずされる。
 
景気(GDP増大)は03〜07年にかけ若干上昇する。戦後最長の景気上昇だなどといわれたけれども、上昇率(名目)は0.2〜0.8%とほとんど停滞といってよい状況であった。この景気上昇局面の特徴は、企業、とくに大企業収益の著しい増大、反面労働者の賃金の継続的低下(民間賃金支払総額は98年以来連続低下となっている)である。日雇派遣労働が解禁されると同時に、企業は正規労働者を減少させ、雇用増はもっぱら非正規の日雇い労働、派遣労働だけという状況になる。ワーキングプアの増大である。労働分配率はとくに大企業において低下した。これが労働領域の規制緩和の効果であった。
 
景気回復は、大企業の収益を増大させるだけで労働者の賃金も雇用も回復させない(だから労働者の立場で景気回復・上昇を期待するのはナンセンスだ)――これが今日の資本主義における景気回復の本質なのである。
 
第二に、90年代後半、そして21世紀に入って、新興国(韓国、中国、インド、ブラジル)そして途上国が市場競争戦に本格的に参入し文字通りグローバル大競争戦という事態になった。資本主義各国は、このグローバル競争戦への対処をせまられる。
 
新興国・途上国は、積極的に資本主義各国(EU等の地域)とFTAを結び、資本主義国企業を受入れ、技術導入を積極的に進める。技術的、したがって生産性の側面では資本主義各国企業と直接匹敵しうる水準を実現する。となると、競争戦の勝負はストレートに賃金コスト如何にかかってくる。
 
資本主義各国のこの競争戦への対処の仕方は、各国の世界経済の中の位置によって一定の違いがある。アメリカの場合は、基軸通貨・ドルの特権活用である。それは、ドル価値引下げ(ドルダンピング)である。それはしかし、各国のドル離れ――ドル体制からの離脱の傾向を強めるが、ドルに代る基軸通貨は形成されないし、ドル離脱に対してはアメリカ政府は軍事力をバックに制裁の脅しをかけてドル体制を維持しようとする。このアメリカ政府のドルダンピングは、しかし各国の抵抗、通貨高対策(ドル買い円マネー供給増大に示される)によって実効性は減殺される。反面、これによって生じるのは、世界的なマネー過剰である(後述第二要因、金融肥大化に関わってくる)。
 
EU、とくにドイツの場合には、ユーロ圏内ではドルを使用する必要がない、共通通貨ユーロを使用するので、その限り貿易、経常黒字を出しても通貨高に見舞われない。輸出産業企業の圧倒的な生産力の高さによって、ドイツはEU圏ではひとり勝ちとなる。しかし、それによってユーロ圏内不均衡を拡大させ、調整策(ギリシャ支援に示されるような)をとらざるをえない。そのこともあって、ドイツとしてもユーロ圏外のグローバル競争戦への対処がせまられる。ドイツにおいても賃金コスト引下げ、法人税率引下げ等によって輸出産業企業の競争力強化を図らなければならない。
 
日本の場合には、独自な経済圏を形成しえていない。80年代以降、グローバル競争の中で、日本の輸出産業大資本中心にアジア経済圏形成――ドルに依存しない通貨圏形成を図ろうとしたが、アメリカ政府によって阻止された。ドルに依存せざるをえない関係が続いている。民主党政権下で、とくに3.11以降日米同盟強化、アメリカ多国籍企業中心の自由貿易・投資関係=TPP参加が進められている(これについては、第三要因として後述する)。ドル体制依存の下で日本経済、とくに輸出産業企業はくり返しドル安――円高による競争力低下の打撃を被ることになる。円高回避のための円マネー供給増・ドル買いを行いながら、各企業は円高による競争力低下に対し一段と賃金引下げ、雇用削減で競争力強化を図ることになる――それによってさらに内需は縮小する。
 
いずれにしても、グローバル競争戦への資本主義各国の対応策は、賃金コスト切下げによる競争力強化が中心となる。資本主義各国ともそれぞれ国内的に賃金抑制・引下げ、雇用削減によって実需を縮小させている中で、まさに縮小した実需を奪い合う競争戦を演じている。この競争を野放しにすれば、歯どめはなくなる。日本の財界首脳がいうように、日本がこの大競争戦に勝つには、新興国、さらに途上国なみの賃金に引下げなければならない、ということになる。――しかし生活水準――歴史的・文化的、生活慣習上の基盤、自然環境をふまえた生活環境が違う以上、途上国なみの賃金水準への切下げは現実には不可能である。しかし途上国なみの賃金水準に引下げ賃金コストを低下させなければ、競争戦に勝てないというのは財界のまさに資本としての本音である。競争戦に勝つには、労働者民衆の生活を破壊する以外に手がなくなっていることをとらえなければならない。
 
現実に途上国並み賃金引下げが無理だとしても、資本家的大企業は途上国、新興国の低賃金活用によって競争力強化を実現する方法がある。それは海外投資・海外生産の展開である。
 
そこでこの点に関係して、第三に、財界が主張し、政府がそれに従っているように、法人税を引下げなければ競争戦に勝てない、法人税が高いから資本は国内投資・国内生産(雇用)をやめ、海外投資・生産にシフトするのだ、というのは果して妥当するのか、を考えよう。
 
実際途上国、新興国がグローバル競争戦に参入することに伴って、資本主義各国の法人税率(実効税率)が引下げられてきている(表1参照)。日本の財界の中には、途上国なみ法人税への引下げが必要だという主張も出ている。途上国企業は、外国からの資金を含め、外部から資金を調達しなければ、資本蓄積を展開しえない。だから法人税を低くする必要がある。資本主義各国の企業は、すでにあり余る資金・資本過剰をかかえている。この主張は、この違いを全く無視している。その上でさらに法人税引下げを、ということになれば、引下げの歯どめはなくなり、限りなくゼロに近づくであろう。資本家的企業の“天国”だ。しかし余った資金の運用が問題になるが。
 

(図表1・クリックで拡大します)
 
しかし法人税率が高いから資本は国内から国外に出て行ってしまう――産業空洞化、雇用機会の減少は、法人税が高いからだ、というのは意図的な誤った主張にすぎない。
 
90年代以降、日本でも法人税率は引下げられてきている(法人税率50%→39.5%へ、表1)。税収中の法人税(三税)収入の割合は、90年の6.4%から2000年には3.7%、10年には3.1%に低下している(GDPが成長しない中での法人税収減少が、財政危機を深刻化させているのである)。このように法人税が引下げられている過程で、資本の海外投資が拡大してきている。
 
日本資本、とくに輸出産業大企業の海外投資拡大は、法人税が高いからではなく、直接には貿易摩擦、そして円高回避が主要な原因である。80年代の円高、90年代の円高――それは国内生産・輸出に打撃を与えた。それを回避すべく資本は海外生産を展開したのである。とくに自動車、電機等の輸出産業大企業は、アメリカとの貿易摩擦回避ということからも促迫されて、対米直接投資を拡大した。アメリカの法人税率の高低はほとんど問題とされていない。
 
21世紀に入って、中国、インド、東南アジアへの資本投資が積極的に展開・拡大している。この海外投資の積極的動因は何よりも、これらの国の低賃金労働力の活用によるコスト切下げにある。ここでもこれら諸国の法人税の低さはほとんど考慮外である。
 
日本の資本が海外で生産した商品が日本に輸出され、それと競合する日本の国内企業は競争に敗れ倒産するという事態が増大している。この逆輸入によって日本国内生産は減少し、日本の貿易収支は赤字に転じた。途上国、新興国の低賃金活用――利潤拡大をめざした海外投資が、国内生産空洞化、雇用状態悪化をもたらしている。TPPへの参加はゼロ関税の下で貿易競争戦を激化させるとともに、日本経済を日本の資本を含む世界の多国籍企業のいわば草刈り場にさせることになろう。しかも資本の主役が、投機的金融資本中心になることによって、投機によって経済が翻弄、攪乱されることになろう。
 
大資本の競争力強化――その反面としてのリストラ、賃金引下げ・雇用削減さらに日雇・派遣労働の活用によって、さらに低賃金の利用を目的とする海外投資の拡大の下で、日本の大法人企業には過剰賃金が形成・蓄積されている。不況――景気後退の下でも(法人税引下げもあって)、大企業の過剰資金はほとんど一貫して増え続けている。1997年の資本金10億円以上の大企業(金融・保険を除く)の内部留保額(資本剰余金、利益剰余金、各種引当金)は、1997年142兆円、00年172兆円、リーマンショックの08年241兆円、10年には266兆円に積み上っている。しかもその上に、法人税をさらに引下げよう、というのである。
 
このような資金過剰こそが海外投資とともに、投機的金融部面に投資され、バブルをもたらしつつ、実体経済を攪乱・縮小させているのである(この点は第二要因、金融の膨脹、肥大化で、検討する)。
 

(2012年6月号掲載の後編に続く)
→後編を読む

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