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●2026年5月号
■ 中国14期全人代第4回会議とイラン情勢
    瀬戸 宏

2026年に入って世界情勢は激変している。新年早々の1月3日、アメリカはベネズエラの首都カラカスを奇襲攻撃し、同国のニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拘束・誘拐しアメリカに連れ帰り米国の裁判にかけた。2月28日には、アメリカはイスラエルと共同でイランに奇襲攻撃をかけ、イランの最高指導者ハメネイ師とその家族を殺害した。両者とも明らかに国際法違反行為である。特にイランではこの攻撃をきっかけにアメリカ・イスラエルとの間で戦争状態が勃発し、ホルムズ海峡のタンカー航行を巡って、日本経済にも重要な影響を与えている。
   
一方で、国際的に無視できない影響力を持つに至った中国は、3月に国会に当たる全国人民代表大会(全人代)第14期第4回会議を開き、この1年の政治経済方針と第15次5カ年計画を決定した。本稿ではこれらの問題を検討し、世界情勢の底に流れるものを考えてみることにしたい。
   
   

■1. 中国14期全人代第4回会議と本年の政府工作報告

中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は毎年1回会議を開くが、今年は3月5日から12日まで開催された。全人代代表(代議員)は任期5年で、現在の全人代は第14期であり、本年は第4回めにあたるので、14期全人代第4回会議と呼ばれる。全人代では毎年国務院総理(首相)による政府活動(工作)報告がおこなわれ、その年の中国政府の方針が示されるので注目を集める。本年はさらに第15次5カ年計画の決定があった。李強首相の政府活動報告の検討を中心に、今回の会議の特徴を探りたい。
   
   
・(1)活動の回顧と5カ年計画の発展目標
   
本年の政府活動報告は、

  1. 2025年活動の回顧、
  2. “155(第15次5カ年計画)”時期の主要目標と重大任務、
  3. 2026年経済社会発展の全体的要求と政策の方向、
  4. 2026年政府活動任務

の4部に分かれ、全体で約2万字である。昨年の政府活動報告は2.にあたる部分がなく3部構成で約1万8000字であった。
   
政府活動報告の「1. 2025年活動の回顧」は、まず「2025年は極めて波乱に満ちた1年であった」という言葉から始まる。報告は2025年のGDP成長率は5%を達成したことを確認し、「この1年、わが国の経済は圧力に負けず発展し、強い強靭性をみせた。経済の運行は全体として平穏で、穏やかの中に前進があった」と肯定的に総括した。その一方で情勢の厳しさを次のように表明した。

「過去1年の成績はたやすく得られたものではない。私たちが直面しているのは、長年ほとんどなかった外部からの衝撃や試練と国内のいくつもの難しい問題が混ざりあった複雑で厳しい情勢であった。国際経済貿易の環境が急激に変化し、一国主義、保護主義が突如エスカレートし、市場の期待は絶え間なく影響を受け続け、外国貿易は明らかに圧力を受けた。国内経済は大きく転換し、深層部の構造的な問題が引き続き顕在化し、消費や投資の原動力が不足した」。

報告は、党中央の統一した指導が一切の困難に対処し、各項の仕事をやりとげる根本的な保証であることを証明したと述べ、これまでの政治体制・指導を肯定している。
   
2026年の基本政策の方向については、次のような内容が打ち出されている。
   
経済発展目標は、すでに打ち出されている1人当たりGDPを2035年までに2020年の2倍化する目標にあわせることが必要とされ、すでに日本のジャーナリズムで報道されているように、GDP成長率4.5%から5%という、近年で初めて成長率目標を下げる方針が提起された。近年の目標値は5%であった。またある程度積極的な財政支出も打ち出し、財政赤字率を昨年と同様の4%前後とした。
   
   
・(2)2026年政府活動任務
   
「4.の具体的な政府活動任務」では、次の10項目の方針が提出されている。

  1. 強大な国内市場の整備に力を入れる。(市場政策)
  2. 新たな原動力の育成・強化を加速させる。(産業育成政策)
  3. ハイレベルの科学技術の自立自強を加速させる。(科学技術政策)
  4. 重点分野の改革を持続的に深化させる。(改革政策)
  5. ハイレベルの対外開放をさらに拡大する。(対外開放政策)
  6. 農村の全面的振興を着実に推進する。(農業・農村政策)
  7. 新型都市化と地域間調和発展を推進する。(都市開発政策)
  8. 民生の保障・改善にいっそう注力する。(民生政策)
  9. 全面的緑化の推進を加速させる。(環境政策)
  10. 重点分野のリスク防止・解消と安全保障能力の整備を強化する。(国家安全・治安政策)

この10項目の方針は、昨年の政府活動報告とほぼ同じである(昨年の政府活動報告の内容については、本誌2025年5月号の拙稿「第14期全人代第3回会議と中国」を参照されたい)。10項目のあとに、政府機構改革、軍事、外交、台湾政策などが簡単に述べられているのも、昨年と同様である。市場政策が首位にあるのも同様で、内需主導を堅持し、消費の促進と投資の拡大を統一的に計画し、内需成長の新たな空間を拡張し、わが国の超大規模市場の優位性をよりよく発揮させよう、と指摘されている。消費の落ち込み克服が2026年も中国経済の重要問題であることを示しているのである。
   
しかし昨年と比べて項目の順序が少し異なるものがある。昨年の報告では、国家安全・治安対策が6番目だった。しかし今年は110番目に下がり、それに代わって民生政策が第8位に上がっている。しかも民生政策は、他の項目が800字前後であるのに対して倍以上の約1900字が費やされている。字数の多さは昨年も同様で、民生政策が中国現政権の重要課題であることを示している。
   
民生政策の具体内容には、高い質の十分な雇用、教育の公平性と質の向上推進、基本医療衛生サービスの強化、社会保障の強化、人民大衆の精神文化要求の満足が上げられている。このうち社会保障の強化では、都市・農村基礎養老年金の月額最低基準をさらに20元(約400円)引き上げることが述べられている。さらに、というのは、昨年も20元引き上げたからである。
   
国家安全の具体策では、不動産市場の安定、地方政府の債務リスク解消、金融分野のリスク解消がまず提起され、そのあとに国家安全保障と社会の安定という本来の安全政策が述べられている。不動産市場の不安定が、社会不安の重要な要因であることが示されている。
   
台湾政策や外交政策は、例年と同様に簡潔に示されている。台湾政策については、「両岸関係の平和的発展」「両岸の交流・協力と融合発展を深化」という文面があり、武力行使の文面はないことに注意しなければならない。本誌などで何度も述べてきたが、日本のマスコミなどで流布されている「台湾有事」は根拠がないのである。台湾問題については、本号で別の執筆者によって述べられるので、ここではこれ以上触れない。
   
外交政策はこれまでと同様に、独立自主の平和外交政策堅持と覇権主義・強権政治反対が打ち出されている。アメリカなど特定国への言及は、政府活動報告ではみられない。国際情勢については、中国に冷静な姿勢がみえる。
   
このほか、今回の全人代では、中国国内各民族のより一体化をめざす民族団結進歩促進法、環境保護関係法規を一体化した生態環境法典も可決決定された。今回の全人代はもともと人事案件が決定される会議ではなく、国家幹部の補充人事もなかった。
   
   
・(3)第15次5カ年計画の概要
   
第15次5カ年計画は、昨年10月開催の20期4中全会で「国民経済と社会発展第15次5カ年計画制定についての中共中央の提案」と題する文書が採択され、その骨子が示された。それを受けて採択された第15次5カ年計画は正式名称を「中華人民共和国国民経済と社会発展の第15次5カ年計画要綱」といい、公刊されている単行本では160頁に達する長文である。かつては全人代で5カ年計画そのものの提案報告も行なわれたが、近年は政府活動報告の一部で提案が行なわれている。ここでは紙幅の関係もあり、政府活動報告の第15次5カ年計画の提案部分を中心に、その概要をみていきたい。
   
第15次5カ年計画の範囲は2026年から2030年までで、2035年までに1人当たりのGDP値を2020年の2倍にするという中期目標の過程の中にある。このため第15次5カ年計画の目標もこの中期目標を実現する過程の目標だと位置づけられている。その観点に立って、経済発展、革新駆動、民生福祉、緑色低炭素化、安全保障の5分野で計20の指標が設定されている。今回の指標の特徴は、かなり多くの指標で2030年の到達目標数値が設定されていないことである。最も基本になるGDP成長率は、各年度ごとに情況をみて設定すると規定されている。都市調査失業率や住民平均収入増加率なども同様である。住民平均収入増加率はGDP増加と同様と注記されている。具体的な数値目標が設定されていないのは、中国経済がやはり予測不能の事態を迎える可能性があるからであろう。
   
具体的な達成目標数値が明記されている指標もある。民生、環境、安全保障関係が主で、1000人あたりの医師数を2025年の3.1人から3.7人にする、非化石エネルギーの総エネルギー消費に占める割合を21.7%から25%にする、食料の総合生産能力を1兆3900億斤から1兆4500億斤前後にする(1斤は500グラム)などである。これらは現在の中国経済の実力から見て、実現可能と判断されたのであろう。 政府活動報告は、計画の重大戦略任務を4方面から描き出している。
   
第1は、質の高い発展を推進することである。特に科学技術革新の牽引力が強調されている。
   
第2は、国内大循環の強化である。外部環境が複雑かつ厳しい状況の中、内需拡大という戦略的基点を堅持しなければならないこと、民生改善と消費促進、「モノへの投資」と「ヒトへの投資」の緊密な統合を堅持し、消費の押し上げに大いに力を注ぐことが強調されている。
   
第3は、全人民の共同富裕を推進することである。中国式現代化は全人民の共同富裕を目指す現代化であることが指摘されている。
   
第4は、発展と安全を統一的に考慮することである。安全は発展の前提であり、発展は安全の保障であることが強調され、食糧やエネルギー・資源などの安定供給能力強化の必要が指摘されている。計画は軍事についても述べているが、その記述はごく簡単である。
   
計画はこれらを踏まえて109件の重要工程(プロジェクト)を設定している。たとえば、高速鉄道網、高速道路網の充実などである。残念ながら紙幅の関係でその詳細を紹介することができない。
   
   

■2. イラン情勢の背景と状況

冒頭でも述べたように、2月28日アメリカとイスラエルは突然イランを攻撃し、イラン最高指導者のハメネイ師とその家族を殺害したほか、数百ともいわれる多数の軍事施設を攻撃した。アメリカとイスラエルがイランと対立している遠景には、21世紀に入って暴露されたイランの核武装志向がある。イラン核武装については国際的に不安と批判が高まり、2006年には対イラン経済制裁が行なわれ、2008年には国連安保理で非難決議が採択されるまでになった。経済制裁はイラン経済や国民生活に苦境をもたらし、その後各国の協議を経て、2015年7月に国連安保理常任理事国およびドイツとイランの間で包括的共同計画(JCPOA)と呼ばれる合意が成立し、イランは核兵器開発を放棄する代わりに各国もイランへの制裁を行わないことになった。
   
これでイラン核問題は解決したかにみえた。しかし2017年に第1次トランプ政権が成立すると、アメリカは2018年5月にJCPOAから脱退し、経済制裁も復活させた。イランの軍事施設への査察が含まれていないなどJCPOAには抜け道があることがアメリカ脱退の理由であった。これ以後イランとアメリカ・イスラエルとの対立は激化し、イラン要人の暗殺や2025年6月の6日間戦争と呼ばれるイスラエルとイランの軍事衝突も起きた。
   
2月28日からのアメリカ・イスラエルのイラン攻撃の直接の背景は、2025年12月に経済制裁などによる国民の生活苦から首都テヘランをはじめ各地で大規模な反政府デモが行なわれたことにある。イラン政府はアメリカなどによる謀略の結果だとして、デモを武力弾圧した。イラン政府発表でも死者は3117人に達したと言われる。デモは1月半ばにはほぼ鎮圧されたが、トランプ政権はこれでイラン国内には反政府感情が充満し、イラン指導部や軍事施設に打撃を与えれば、イラン民衆の間から反政府運動の動きが活発化し、アメリカに反抗する現政権を打倒できると判断したようである。この判断の背景には、2010年から12年にかけての「アラブの春」と呼ばれる民衆デモからアメリカに非協力的な政権打倒が実現した「成功体験」があったと思われる(「アラブの春」はその後アラブ諸国に内戦など大きな混乱や独裁政権の復活をもたらし、今日では成功とはみなされていない。現在の欧州難民問題の大きな原因は、「アラブの春」後の内戦や社会混乱である)。
   
しかしアメリカの目論見ははずれた。イランの政府・軍事機構は最高指導者層がいなくなっても指揮系統が混乱しない強靭さを示した。3月8日にはあらたなイラン最高指導者として、故ハメネイ氏の次男のモジタバ・ハメネイ師(56歳)が選出された。イラン南部ホルムズガン州の女子小学校で175人の児童ら死亡をもたらした誤爆などで、民衆の反アメリカ感情も高まっている。イランはイスラエルへのミサイル爆撃など軍事攻撃を行うと同時に、ホルムズ海峡封鎖を行うなど、反撃の姿勢を示している。
   
国際世論もアメリカに批判を強め、4月7日には2週間の停戦が合意された。4月11日にはパキスタン・イスラマバードでアメリカ・イランの両国協議が行われたが、不成立に終わった。やはりイスラマバードで2回目のアメリカ・イランの両国協議開始が伝えられているが、イランはアメリカの高圧的姿勢に反発して再交渉拒否の姿勢を示したとも言われる。2週間の停戦期限は21日(日本時間22日)に迫っており、本稿を執筆している4月20日現在では、交渉の行方は見通せない。
   
イラン戦争は、国際的にも大きな影響をもたらした。特にホルムズ海峡封鎖と解除を巡って、原油価格や株価は報道のたびに乱高下を繰り返している。日本は原油輸入の約96%をホルムズ海峡経由に依存しており、経済やそれに基く国民生活に直接の重大な影響が懸念され。一刻も早い停戦が強く望まれる。
   
中国の王毅外相(中共政治局委員)は、3月8日の全人代記者会見でイラン情勢について触れた。現時点で最も中国の立場を代表する発言である。「一言で言えば停戦することだ、戦闘は新たな怨みを生み出すだけだ」とし、「国家主権を尊重する、武力を濫用しない、内政不干渉の堅持、焦点問題の政治解決、大国の積極的役割の発揮」の5点を問題解決の基本原則として提起した。この発言でも、アメリカなど具体的な国名は挙げておらず、慎重な姿勢を示している。
   
今回のイラン戦争は、イランが交渉に着く姿勢を示しているにもかかわらず奇襲(だまし討ち)をしたアメリカ・イスラエル側に明らかに非がある。そのためアメリカを含む世界各国で反戦運動が繰り広げられ、日本でも国会前抗議行動などで従来にない参加者増が伝えられている。しかしながら高市早苗内閣は、トランプ訪日時の高市首相の媚びを売る態度に典型的なように、アメリカ追従の姿勢を改めようとはしない。日本で流布される「台湾有事」も、根底にはイラン情勢と同様のアメリカ・トランプ政権の好戦的高圧姿勢がある。本誌読者を含めて、日本国民は反戦の意思をこれまで以上に強め、反戦・平和希求の態度を示していく必要があるだろう。
   
 (4月20日)
   

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