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●2026年4月号
■ 高市政権の暴走を食い止めよう
足立 康次
■1. 高市圧勝となった第51回衆院選挙
通常国会開会前日の1月19日、高市首相は、「国論を二分するような大胆な政策」に挑戦したい、と衆議院冒頭解散を表明した。
自民党(以下「自民」)は高市人気を最大限活用、野党に総選挙準備をさせない投開票日2月8日という選挙期間を設定。食料品消費税の時限的ゼロなど野党の政策を丸呑みして争点を消し、憲法改正、安保3文書見直し、軍事費大幅増など自身の主張を打ち出さず、「高市早苗を支持するか否か」の二者択一を迫る選挙戦を展開した。
立憲民主党(以下「立憲」)と公明党(以下「公明」)は1月15日、参議院議員、地方議員をそれぞれの党に残したまま、衆議院議員選挙立候補予定者が中道改革連合(以下「中道」)に合流、比例代表では新党の統一名簿を作成、小選挙区では旧公明が候補者擁立を見送る(比例名簿では上位に)ことなどを柱とする内容で合意(翌16日結党)。野田佳彦共同代表は「自民党の右傾化を食い止めるため、中道を分厚くする。政権交代に向けた現実的な選択肢を示す」と述べた。その他の野党は自民も含めこの動きに同調することはなく、従来の枠で候補者を擁立した。
投票率は56.26%(前回53.85%)。与党は、
野党側は、
- 中道49議席、
- 国民民主党(以下「国民」)28議席、
- 共産党(以下「共産」)4議席、
- れいわ新選組(以下「れいわ」)1議席、
- 参政党(以下「参政」)15議席、
- 社民党(以下「社民」)0、
- チームみらい(以下「みらい」)11議席
などとなった。
自民党は小選挙区において約2779万票の得票(得票率49.2%)で、小選挙区議席の86.2%の議席を獲得した(前回24年は約2087万票で132議席)。前々回第49回衆議院議員選挙で自民党は約2767万票の得票で189議席の獲得であり、小選挙区制の問題点が露呈する結果となった。
中道の小選挙区での得票は約1220万票(得票率21.6%)、前回の公明と立憲民主を合わせた得票数約1647万票から約220万票減らした。出口調査(共同通信)では、参院選で立憲に投票した人のうち、衆院選で中道に投票した人は6割どまり。4割は自民党(8.7%)やチームみらい(8.1%)、国民民主党(6.9%)、共産党(4.2%)、日本維新(3%)へ流れている。
比例では、自民党は今回約2102万票(前回1458万票)で前回から約650万票増した一方、中道は約1044万票で、前回の公明と立憲を合わせた得票数約1755万票から約700万票減らした。
いま1つの特徴は、社民、共産、れいわの左派・リベラル政党がともに、小選挙区で議席を失い、比例でも3党で約4割得票を減らした。一方で参政は前回比、小選挙区で2.9倍、比例で約2.3倍の得票で、比例区で15議席を獲得。主要政党で唯一消費税減税に否定的だったみらいは比例区で381万票あまりを獲得し、11議席を得た。
本稿では、この中で、高市自民圧勝と中道と左派リベラル勢力後退の背景を探るとともに、今国会の課題を考えてみたい。
■2. 中道はなぜ惨敗したのか
今回、比例区において無党派層が最も多く投票したのは自民党(25.0%)で、2位は中道(18.2%)、以下国民、みらいと続いた(時事通信2/8出口調査)。また、自民党へは前回参議院選(25年)比例区で参政党に投票した人の18%、保守に投票した16%が自民に投票先を変えている(朝日2/9)ことから、コアな保守層が高市自民に回帰するとともに、前回野党を支持した無党派層が自民党へ流れた。
マスコミ各社、出口調査、取材の結果を見ると、
- 高市首相の個人人気
(一生懸命だ。おじさんたちにたたかれて耐えている姿に萌える。初の女性首相。身の上話をするなど親近感がわく、変えてくれそうな気がする)。
- 外交力がある。力強さを感じる
(中国、韓国にズバズバ言っているのが気持ちいい)。
- ネット選挙(youtube広告)に膨大な費用を費やし、かつそれが商業目的で拡散された。
などが上げられている。
即断はできないが、1.については、今回高市氏を支持した女性の中に、家父長制、女性差別の中で暮らし、働く自分と、自民党という男社会のなかで首相に上り詰めた高市氏に重ね合わせ、その勝利に期待した心情をみることができる。あわせて若い世代に、「なにか変えてくれそうな気がする」という気持ちを抱かせた背景には、現状を変えられずにきた旧来の自民党、そして立憲をはじめとする既成野党全体への不満をみることができる。
3.は、2024年7月の都知事選での石丸旋風以来、とくに注目を集めるようになった。それ自体は選挙総括の技術的側面の分析が必要だが、25年参院選では国民と参政党、そして今回は高市自民党と「ふり幅」が大きい。ネット選挙のみに頼ることの危うさを感じる。もちろん、自民党による宣伝戦略にともなうカネの流れの解明については、徹底してなされるべきだ。
一方で、中道が前回参院選で立憲、公明に投票した有権者を固めきれなかった。その要因として指摘されるのは、
- 党勢拡大に行き詰った立憲民主党が、選挙目当てで公明党と合流、と見られた、
- 戦後最短の選挙期間で労組をはじめとする組織がほとんど選挙活動を展開できなかった。
- 基本政策の転換(とくに安保・原発)によるいわゆる「リベラル層」の他党への流出。
- 「中道」という打ち出し方自体が旧立民の弱点である若年層に訴求力を持たなかったこと。
などである。現状を何も変えてこなかったとの既成政党批判が、立憲に集中し、前回支持層は左右へ投票先を変えた。
高市自民党と中道の得票の差は、オセロのように裏表の関係だった。2024年都知事選以降、失われた30年の中で強い閉塞感を抱えてきた有権者は、現状を変えてくれる新しい勢力を求めている。その有権者に対して、中道の存在が、自民党の政策を大きくは変えない、と受け取られたのであれば票が逃げるのは当然である。
しかし、中道はこの衆院選で、惨敗したとはいえ、選挙区で約1200万票を得票した。選挙戦では、社民党をはじめとする立憲野党や市民が、高市政権を打倒するという一点で、中道の候補当選のためそれぞれの地域、持ち場で奮闘した。中道、立憲は、今回の唐突な党合流と、新しい政策について、中道を支援した個人、団体、支持した有権者のみならず、公明との合流あるいは新しい政策により他党に投票した有権者に対しても、丁寧な説明と総括が求められている。
■3.「強い指導者」が求められる危うさ
衆院選結果から学び取らなければならないもう1つの教訓点は、高市氏支持の理由の1つとして挙げられている2.の「高市首相の強さ」に期待する声である。このことが、左派リベラルの後退の1つの要因ではないかと考えられないか。強い指導者を求める声の高まりの背景にあるものは何か。そこには、旧来の国際秩序がないがしろにされ、緊迫化し、不安定になっている国際情勢、軍事情勢があるのではないか。
資本主義の発展にともない、資源、市場を求める競争と戦争が激化し、国境の変更と植民地獲得が行われた。領土とは歴史である。帝国主義国間の領土獲得競争の帰結が2度にわたる世界戦争(第1次世界大戦では1600万人〜2000万人、第2次世界大戦では5000万人〜8000万人の命が失われた)であった。これだけの犠牲を払って確立されたのが、戦後の国際秩序である。国際連合がその憲章第二条四項で、「国家は、他国の領土保全や政治的独立に対して、武力による威嚇または武力の行使をしてはならない」と定めるように、武力で領土や状況を変える「力による現状変更」は禁止されている。ここでいう「領土」とは、第2次世界大戦に確定した領土である。
この「力による現状変更の禁止」が国連安全保障理事会で拒否権を持つ米国、ロシア、中国の言動と行動によって存亡の危機に立たされている。
米国は2000年代初頭、ネオコンの台頭とともに、2001年アフガニスタン戦争、2003年イラク戦争に突入した(ただし、この時点では国連安保理の決議、有志国を募っての軍事行動など、米国単独主義を否定する装いを施した)。この海外出兵は、国民に大きな負担をもたらした。トランプ氏は、続く海外出兵で疲弊した米国民の不満を吸収して、2016年政権の獲得を果した。2024年政権に返り咲いたトランプ氏はNATOは欧州各国に、中東はイスラエルと穏健アラブ諸国に、そしてインド太平洋はクアッド(米日印豪)を軸に、米国以外のとりわけ日本とオーストラリアによる軍事的負担を大きくし、米軍の比重を低下させ、米国は米大陸(西半球)に注力する、「ドンロー主義」を打ち出した。もはや米国には他国と協調し、妥協しながら行動する経済的余裕はない。トランプ氏に顕著な独善的で、主観的な軍事行動の根底にはこのことがある。今や米国は世界でもっとも予測しづらく、危険な国となった。
ロシアの前身は、ソビエト社会主義共和国連邦(以下「ソ連」)である。ソ連は、広大な領域を有する多民族国家の連合体だった。ソ連はこれをソヴエト政権中央――連邦構成共和国――自治単位、という三層構造で統治した。しかし、ソ連末期に、中央の統制が崩壊し、連邦共和国内の民族対立が激化し、民族対立を内包したまま連邦構成共和国が独立した。独立した共和国が多数派民族によるナショナリズムを強化することが、民族対立を強めた。ロシアの軍事介入によりウクライナからの「独立」を宣言し、ロシアに編入されたクリミアはその典型だ(松里公孝『ウクライナ動乱』)。旧ソ連圏の戦争、民族紛争はソ連崩壊がいまだに継続していることを表している。
中国はその経済成長とともに「脅威」として認識されるようになった。2013年国家主席に就任した習近平氏は、就任演説で「(実現)中国夢」(中国の夢を実現する)を繰り返し述べた、この「中国の夢」が、失った領土・領域を回復するという疑念を、周辺国にもたらしている。そこで飛び出したのが、昨年11月7日の衆院予算委員会での高市首相の「台湾有事・存立危機事態」答弁であった。これは、日米共同で台湾有事に軍事的に対処します、といったに等しく、その軍事的対処を明言しない米国政府の曖昧戦略を踏み越え、軍事的緊張を高めた。再確認すべきは、1970年の「日中共同宣言」だ。この中で日本政府は、台湾は中国に返還されるべきものとの立場を表明し、「中国は1つである」ことを認めた。もちろん、中国・台湾と海によって接する私たちは、統一が平和的に達成されることは必須である。
ロシアの軍事行動は許されるものではないが、旧ソ連の領域に、中国との関係は、1つの中国の行方に規定されていることが確認できる。こうしてみると、「3つの脅威」のうちで、もっとも予測不能で、かつ日本を戦争に巻き込む危険性の高い存在は米国トランプ政権だ、ということになる。今回のイスラエルと合同でのイラン攻撃は、当初は数週間で終わるとされたが、イランをホルムズ海峡封鎖に至らせ、原油価格の急騰をもたらした。トランプ政権は、日本・韓国、NATOの同盟国、中国にまでホルムズ海峡における艦船護衛を要請し、多くの国から拒否されている。
この米国トランプ政権に対抗し、新たな連携を進める動きが始まっている。トランプ氏の「第51番目の州に」との提案を拒絶したカナダのカーニー首相は、「中堅国による人権、持続可能な開発、連帯、主権、国家の領土的一体性といった価値を体現する新たな秩序を築く」と、今年1月のダボス会議で演説した。スペインのペドロ・サンチェス首相は、対イラン軍事作戦を続ける米軍がスペイン国内の基地を使用することを拒否した。
強弱はあれ、米国トランプ政権に距離を置き、新たな連携を求める動きは広がる。それこそが、緊迫化し、不安定になっている国際情勢、軍事情勢に対処し、新たな国際秩序を作り出す力になるはずである。
■4. 高市政権の弱点は
解散総選挙圧勝を受けて2月18日に召集された特別国会で、高市早苗氏は第105代首相に指名された。そこで、今国会での高市政権の弱点をいくつか挙げてみよう。
1つは、数を頼みとした強引な政権運営である。高市政権は、維新とあわせて衆議院352議席という数の力で強引な国会運営を行っている。党利党略で解散総選挙を行い、審議入りを1カ月近く遅らせたにも関わらず、26年度予算を年度内に成立させるとして、通常1カ月程度かけて行われる衆院での予算審議を、わずか2週間の2月13日に終わらせ、翌16日からは参議院に審議の場は移された。強引な手法は野党の結束を促す。
2つは、米・イスラエルによるイラン攻撃への「協力」の帰趨である。イランの核開発をめぐっては米国を含む6カ国で2015年に合意が成立したにも関わらず、第1次トランプ政権は、2018年一方的に離脱した。イランの核開発を放置したのは米国である。今回の米国のイラン攻撃に明確な戦争目的は見いだせない。トランプ氏による艦船派遣要請は、安倍晋三元首相であっても、国際法に違反して一方的な攻撃を行っている米国・イスラエルの側に立って行うことは想定していなかっただろう。ドイツ、英国、フランスなど欧州各国は艦船派遣には否定的である。米国に追随する自衛艦派遣などあってはならない。
高市首相は2月19日(現地時間)の首脳会談で、「憲法九条」をあげて艦船派遣できないと答えたと伝えられる。「九条改憲」後には、ペルシャ湾への艦船派遣要請を受け入れる、というのであろうか。台湾有事とそれに伴う九州、南西諸島へのミサイル配備も米国との共同軍事行動の一環である。その同一線上に改憲がある。
3つは、「責任ある積極財政」への債券市場の反応である。衆院選にあたっての高市首相の「食料品の消費税からの2年間除外」発言で、急騰した長期金利は、自民党圧勝で一旦落ち着いているが、市場は第2次高市政権の財政政策を注視している。市場は「積極財政」が財政拡大につながると見なせば、即座に金利高騰で応えるだろう。
4つは、労働規制緩和である。2025年の出生児数は70万人を割り、生産年齢人口は約7358万人(25年12月)とピーク時の1995年(約8700万人)から減少を続けている(厚労省)。資本の儲け(=剰余価値)を作り出しているのは生身の労働者であり、生産年齢人口の減少は剰余価値の減少に直結する。これを解決するには少子化に歯止めをかけ、増加に転じることが根幹だが、政府・資本は常に目先の対策に走ってきた。その要点は、
- 今働いている労働者に今以上に働いてもらう、
- 高齢者、女性を労働市場により多く参加させる、
- 外国人労働者を今以上に導入する。
この3つだ。1980年代以降、変形労働時間の拡大、裁量労働制の導入・拡大など労働法制の改悪、派遣労働の解禁を含む短時間勤務など非正規労働者の拡大、年金支給年齢の引き上げ、技能実習制度の導入に始まる外国人労働者の活用策の導入が進められてきた。
高市首相は、過労死問題をきっかけに、2019年から順次施行されてきた「働き方改革関連法」の骨抜きに焦点を当てた。高市首相は、自らが立ち上げた「日本成長戦略会議」の分科会で裁量労働制の見直し議論を始めた。施政方針演説では「働く方々のお声を踏まえ」としているが、厚労省の調査によれば「労働時間を増やしたい」とする回答は調査対象の10.5%に過ぎず、しかも、増やしたい理由の多くは、「たくさん稼ぎたいから」で、回答の5割を超えている。裁量労働制の拡大は、労働時間の延長に直結するだけでなく、労働時間管理そのものを曖昧化する。もちろん、裁量労働制拡大反対だけでは足りない。時間単価の引き上げが必要である。
高市政権の政策は上記の論点以外からもその矛盾を露呈するであろう。その問題点について、職場、地域、そして所属する党の中で、ともに学びあう立場で討論、交流し、反対の輪と、改善の声をあげていくことが高市政権の暴走を食い止める全国的な闘いを組織する第一歩である。
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