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●2026年3月号
■ 衆議院議員選挙結果と今後の政治課題
吉田 進
2月8日投開票で衆議院選挙が実施された。高市早苗首相の人気によって自民党が大勝し、野党第一党の中道改革連合(以下、中道)が惨敗した。今後の政治動向は容易に見通すことができないが、絶対安定多数の議席を得た高市首相が独裁的な政治姿勢を強めてくることは間違いない。本格的な総括はこれからであるが、衆議院選挙結果と今後の政治動向について触れてみたい。
■1. 大義なき解散総選挙
高市首相は、昨年末に「解散を考えている暇がない」と語り、年頭の記者会見では、「目の前の課題に懸命に取り組んでいる」と解散・総選挙を否定していた。しかし、その後政局は一変した。1月19日の記者会見で、23日召集の通常国会冒頭で衆議院を解散し、総選挙を実施すると表明した。解散総選挙は政治空白を生み、物価高の中で26年度予算等を早期に成立させるという従来の説明と矛盾する国民生活を置き去りにした身勝手な決断であった。
「強い経済など新たに掲げた政策実現のため安定した政権基盤を確保したい」と述べたが解散の大義は不鮮明であった。「高市早苗に国家経営を託していただけるのか。国民の皆様に直接判断いただきたい」と訴えたが、「勝ったらすべて任せてもらう」「全権委任」を求めるかのような極めて危うい態度であった。内閣支持率が高いうちに衆院選に踏み切れば自民党の議席を増やせるというあからさまな目論見であったが、有権者にとっては投票の判断をする材料すら与えられないなかでの選挙戦となった。
■2. 選挙結果
選挙結果は、自民党の「歴史的圧勝」であった。「高市旋風」と呼ばれた高市首相の個人的人気が自民党の支持を大きく押し上げた。派閥裏金事件に関係した現職議員37人を公認し、比例への重複立候補も容認した。失言や疑惑報道などもあったが高市人気に影響はしなかった。
高市人気の要因について様々な見方がされているが、この間の自公政権を思い出せばむしろ当然の結果と言える。自らの考えを持たず、自らの言葉で語らない菅、岸田、石破と続いた国のリーダーは国民の支持を失い社会の閉塞感を増大させた。たとえ半信半疑でも強いメッセージを発してくれる政治家を信じたいという国民の思いが高市首相の支持率を上げた。自らの言葉で語れば政策の中身とは関係なく、「今までとは違う」と思い込んでしまう。莫大な資金を使ったと言われるインターネット広告も功を奏した。本来はあり得ない「根回し」なしの政治手法も逆にプラスに働いたのかもしれない。高市内閣は支持率が高いが自民党の支持率は低いとの予想も簡単に覆された。
自民党は、定数465のうち316議席(公示前は198議席)に伸ばし、単独で3分の2を超える議席を獲得した。連立を組んでいる日本維新の会と合わせると354議席であり、まさに「巨大与党」の誕生である。与党は参院で過半数割れしているが、参院で法案を否決されても衆院で3分の2の賛成により再可決し、成立させることが可能となった。「一強多弱」どころか「一党独裁政治」が現実のものとなりつつある。
■3. 野党敗北の要因
中道は、候補者233人を擁立したものの、公示前勢力167人を大きく割り込む49議席に終わった。49人の当選者のうち公明党出身候補は28名全員が当選し、立憲民主党出身者は21名のみとなった。しかも、幹事長をはじめ重鎮と呼ばれる幹部の多くが落選した。
「短期間で中道の名称が浸透しなかった」「新党結成は間違っていなかった」などという元幹部の声も聞かれるが、敗因は中道の結成そのものにあったと見るべきであろう。新党結成という重大な出来事が選挙直前に突然行われ、また相手が26年間自民党と連立を組んできた公明党であったことを国民は支持しなかったのである。
政策に関しては、安保法「合憲」明記、原発再稼働容認(条件付き)など「路線転換」「右傾化」と報じられた。自民党など他党からは「選挙目当ての野合」との批判が強まった。10年にわたって続いてきた野党の連携や「野党共闘」は崩壊した。新党結成によって「公明票の上積み」が図れたかもしれないが、「失ったもの」はそれ以上に大きかった。一昨年秋の衆議院選挙、昨年7月の参議院選挙で作り上げた「少数与党」の流れは完全にストップした。
衆議院選挙は政権選択の戦いであるが、野党第一党がそのような構図を作れなかった責任は大きい。新党結成の経過や意義を説明するのが精一杯で、政権交代を訴えるような選挙情勢では全くなかった。市民連合の中には、従来のように「推薦」「支持」はできないが、「高市政権の暴走を止める」という一点で選挙に協力した人たちも多くいたが途中で支援は途切れてしまった。
「高市旋風」のなかで野党は苦戦を強いられたが、日本維新の会、参政党、国民民主党は公示前を上回る議席を獲得した。この間の国政選挙で勢力を拡大してきた勢いは維持したものと言える。
一方で、共産党、れいわ新選組、社民党は議席を増やすことができなかった。中道の後退とも重なるが、これまで政治から遠ざかってきた現役世代に訴える主張が展開できたのか、消費減税に反対したチームみらいが大きく躍進したこととあわせて総括を進める必要がある。
■4. 今後の政治課題
選挙結果を受けて、2月18日から特別国会が始まるが今後の政治課題は山積している。高市内閣の政治姿勢、基本政策はすでに明らかになっている。昨年末の臨時国会における所信表明演説では、防衛費増額の前倒しや外国人の規制強化など「高市カラー」を鮮明に打ち出した。「強い経済」「強い外交・安全保障」、閉幕後の記者会見でも「強い」という言葉を9回も繰り返している。「政治とカネ」問題に対しては「そんなことより定数削減」と開き直った。「台湾有事」を巡る存立危機事態についての発言は、中国との外交・経済関係の深刻な悪化を招いている。
高市首相の政治姿勢に対して「歴史の歯車」が逆回転するような気味悪さ、息苦しさを感じている国民も少なくない。一方、さまざまな所ですでに高市首相に対する「忖度」が生まれ、「同調圧力」が強まっている。今後を見通せない政治情勢が続くが、1つひとつの課題に対する院内外の闘いを強化していく以外に道はない。
・(1) 過去最大の予算案
政府が示した26年度予算案は、一般会計総額122兆3000億円で過去最大となった。堅調な企業業績を踏まえ税収83兆円を見込むが、それでも歳出の伸びには追い付かない。財源不足を補うための新規国債は29兆円に上る。国の借金である1342兆円を超える国債残高(25年末)が財政を一段と圧迫するのは確実である。
高市首相は、「責任ある積極財政」を掲げているが財政悪化を懸念する市場は長期金利上昇を招き、さらなる円安やインフレ加速の恐れも増大している。スイスで開かれたダボス会議では、日本の財政悪化についての懸念の声が各国から数多く出された。国の財政が「負のスパイラル」に陥っているにもかかわらず、「責任ある」という枕詞で国民を騙し誤った道に進むことを許してはならない。
・(2) 待ったなしの物価高対策
多くの国民が長引く物価高で苦しんでいる。一昨年の衆議院選挙、昨年の参議院選挙の最大の焦点は物価高対策であった。すべての政党が公約の1番目に物価高対策を掲げた。しかし、この間に実現した政策は、ガソリンの暫定税率廃止のみだった。各党の政策内容に差があるが、消費税減税の早期実施は避けて通ることができない課題である。
高市首相は、安定政権であるにも関わらず消費税減税のための「国民会議」を提唱している。オープンな場で専門家・政治家が意見を述べ合うことは良いことではあるが、そこで決まったことに異を唱えさせないことが目的に見える。「大政翼賛会」的な政治手法と言わざるを得ない。
多くの政党、候補者が「大幅賃上げ」を選挙戦で訴えた。労働者にとっても、日本経済にとっても賃上げは重要課題である。しかし、賃上げは労使の交渉によって決まることも理解せず、「日本経済を良くするには賃上げしかない」などと言っている無責任な政治家があまりにも多い。
労働組合の力量が低下しているなかで賃上げは容易ではない。物価変動を考慮した実質賃金は相変わらずマイナスが続いている。総務省の25年家計調査によると、エンゲル係数は28.6%に達しており、1981年以来44年ぶりの高水準である。「大幅賃上げ」を口にするだけではなく、賃上げが困難な中小企業に対する支援、最低賃金の大幅引き上げなどを具現化することが政治の責任である。
・(3) 安保政策の転換
高市首相は昨年の臨時国会で、台湾有事を巡り「存立危機事態になり得る」と答弁した。また、1月の民放番組では、台湾有事が起きた場合に「台湾にいる日本人や米国人を救いに行かなければいけない」「共同行動をとっている米軍が攻撃を受けた時に日本が何もせずに逃げ帰ると日米同盟がつぶれる」などと述べた。台湾を巡る架空の想定で、武力行使の可否という国家安全保障上の最重要課題を述べことは絶対に許されない。中国が猛反発し、日中関係はかつてなく悪化している。最大の貿易相手国との関係悪化は日本経済に大きな打撃となっている。
また、安保3文書や非核3原則の見直しを持論とする首相の官邸幹部から「核を持つべきだ」との暴言まで飛び出している。安保政策の転換を狙う高市政権の暴走を止めるためには、幅広い国民的な運動を巻き起こしていくことが何よりも重要である。
・(4) 膨れ上がる防衛費と武器輸出
予算案に計上された防衛費は9兆353億円と突出している。岸田政権時の「27年度までにGDP比2%の11兆円規模にする」という目標を前倒し、高市内閣はさらに積み増す構えである。防衛費の立て付けは土台から曖昧であり、岸田政権時の目標は「NATO加盟国並み」が根拠であった。「規模ありき」で計上された防衛費に多額の使い残しがあることも会計検査院の調査で判明している。太り続ける防衛費が「聖域」扱いされ、真正面から反対する政党が少なくなっている状況が危惧される。防衛費の財源確保は容易ではなく新たな「防衛増税」は避けられない。
高市内閣は防衛費増額と同時に、殺傷兵器輸出を進めようとしている。自衛隊の防空ミサイル「03式中距離地対空誘導弾」(中SAM)輸出の具体的協議が始まっている。政府資料では、三菱電機が主契約者となり、三菱重工、トヨタ自動車、いすゞ自動車、富士通、NTTなどの企業が関わっている。「産軍複合体」を想像させる動きである。
・(5)「スパイ防止法」
衆議院選挙の結果を受けて、「スパイ防止法」「国旗損壊罪」「改憲」などが政治の俎上に乗ることは間違いない。参政党神谷宗幣代表は、公務員の思想調査をして「極左」と見なせば排除するかのような発言をしている。個人の内心に権力が踏み込む危うさは隠しようがない。「スパイ防止法」は、国家による情報の統制と監視強化につながる危険な内容を含んでおり、何としても阻止しなければならない。「国旗損壊罪」も同様である。表現の自由を制約する時代錯誤の法案である。
本丸の改憲についても、もはや予断を許さない。戦後80年は何だったのかという問いに、被爆者の1人が「二度と戦争はしない」という一言に尽きると応えていた。九条の「交戦権否定」「戦力不保持」は文字通り国是である。これを変えることは国の針路を180度変えることである。幅広い大衆運動が緊急に求められている。
・(6) 原発再稼働
東京電力柏崎刈羽原発は再稼働に大きく動いた。再稼働の是非を問う条例の直接請求に署名した14万人を超える県民の声は無視された。政府の「アメとムチ」を使った圧力に、知事与党の自民・公明が応えた形であった。同じく再稼働を目指していた中部電力浜岡原発ではデータ不正操作が発覚し混乱が続いている。
高市内閣は原発の「最大限活用」を掲げているが、この問題は国策の基本に関わる重要案件である。しかし、残念ながら衆議院選挙の大きな争点にはなり得なかった。福島第1原発はいまだ廃炉の道筋が見えない。暮らしや命を脅かす原発にこれからも頼り続けるのか。福島の事故後に多くの国民が考えたはずである。もう一度、1人ひとりがその問いに向き合うための運動を再構築しなければならない。
・(7) 外国人政策
有権者が投票先を選ぶ上で欠かせないテーマとなったのが外国人政策であった。少子・高齢化が極端に進行し、外国人労働力の受け入れは不可欠である。昨年11月時点で前年比11.7%増の257万人を超えている。深刻な人手不足のなかで外国人が国の産業や社会を支えている。一次産業、製造業はもちろん、最近は介護の職場なども外国人労働力なくしては成り立たない。「日本人ファースト」を声高に叫び、「野放図な移民政策を是正する」などと扇動する手法は「排外主義」そのものである。自民党は「国民の不安と不公平感に正面から応える」とし、あたかも大きな社会問題となっているかのような態度をとっている。共に安全・安心に暮らせる環境を整備し、多文化共生社会をめざす政策が求められている。
■5. リベラル勢力の再結集を
選挙戦終盤に高市首相は、「憲法になぜ自衛隊を書いてはいけないのか。彼らの誇りを守り、しっかりとした実力組織として位置付けるためにも、当たり前の憲法改正をやらせてください」(2月2日上越市)と述べた。選挙に圧勝した高市首相にとって改憲はすでに政治日程に組み込まれていると見るべきである。そして、改憲の次に待っているのは、「核武装」「徴兵制」などである。衆議院選挙は終わったが、平和、民主主義を守る本当の闘いはここから始まる。「高市政権の暴走を許さない」という一点で結集する国民的運動が今こそ求められている。
日本の政治において「保守」「中道」「リベラル」の三極化が明確になったという論評があったが、そのような選挙結果にはならなかった。SNSの影響も大きく選挙戦の対立構図は分かりにくくなっている。しかし、高市政権の勝利によって、「国論を二分する」政策が出されてくるなかでイメージ優先の論争では済まなくなるであろう。
もちろん、闘い方は政治情勢を踏まえ、特に若者たちの共感が得られるような工夫なども重要である。今後、最大の争点となる憲法についても、従来の「改憲」「護憲」という対立構図にしたならば負けてしまうかもしれない。1人ひとりの国民にとってどのような事態となるのか、みずからの問題として考えられる具体的提起がなければ改憲反対の大きな運動は作れない。
選挙結果も相まって「保守」に押されているように見えるが、「リベラル」勢力が果たすべき役割は重要である。「リベラル」勢力の再結集は、かつての「社共共闘」のように限定的ではなく、もっと幅広い統一戦線的なものでなくてはならない。中道や立憲民主党がどのように動いていくのか注目しなければならない。労働組合、労働者を巻き込んだ運動にすることが重要である。選挙で議席を得られなかった社民党は、この運動に積極的に関わり、活路を見いだしていかなくてはならない。
衆議院選挙結果はさまざまな分野に大きな影響を及ぼすことになるであろう。野党第一党が「内閣不信任案」を単独で出せなくなった政治情勢はあまりにも衝撃的である。日々のくらしのなかで今まで当たり前であったことが当たり前でなくなることもあり得る。しかし、諦めているわけにはいかない。全国各地で催される「5.3憲法集会」を大きく盛り上げていくことが最初の出発点である。
(2月15日)
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