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●2026年1月号
■ 高市政権発足と政治・経済の行方
    立松 潔

■ 台湾有事と集団的自衛権

高市首相は、昨年11月7日の衆院予算委員会で中国による台湾有事への対応について、「武力攻撃が発生したら(日本の)存立危機事態にあたる可能性が高い」と明言し、歴代内閣の公式見解を踏み越えた。実は、2015年に集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法が成立して以来、自民党右派のなかでは台湾有事に集団的自衛権の発動は自明のこととされていたのである。安倍晋三元首相も麻生太郎元首相も首相退任後に台湾有事は日本の有事(日本の存立危機事態)であると述べていた。そして高市氏は、首相就任以前から台湾有事は日本の有事=存立危機事態であると断言していたのである。
   
しかしこれまで日本政府の公式見解として、台湾有事が日本の存立危機=集団的自衛権発動につながるとは表明されていなかったのである。そもそも1972年の日中共同声明では、台湾が中国の領土の「不可分の一部」とする中国政府の立場について、日本政府は「十分理解し、尊重」すると明記している。そして、(高市首相の答弁までは)日本政府の台湾に関する立場は同声明の通りで「変更はない」とされていたのである。
   
台湾有事に日本が参戦するなどと政府が明言すれば、中国側を刺激し、日中の政治・外交面での緊張を高めることになるのは明らかである。しかし、今回の台湾有事に関する高市首相の答弁は従来の政府の慎重な対応を否定するものであり、これに対し中国側が強く反発したのは当然であった。「中国の現政権が最重要視する台湾問題に踏み込み、日本の首相が公式の場で、初めて台湾問題への武力介入の野心を表明し、中国に対する軍事的威嚇を行った」と、中国側はとらえている(2025年11月14日付の中国共産党機関紙・人民日報)。
   
しかし高市首相は発言の撤回には応じず、中国はそれに対し、日本への渡航自粛要請や日本産水産物の事実上の輸入停止措置を取るなどの対抗措置を相次いで打ち出している。日中関係の悪化が長期化する深刻な状況である。
   
さらに問題なのは、このような高市首相の発言によって日中関係が悪化しているにも関わらず、共同通信社が11月15、16日に実施した世論調査で、高市内閣を支持するが69.9%、支持しないが16.5%(分からない・無回答13.6%)と、高い支持率となっていることである。また、「台湾有事」で集団的自衛権を行使する考えについて賛否を尋ねた設問でも、「賛成」と「どちらかと言えば賛成」を合わせて48.8%となり、「反対」の44.2%を上回ったのである。特に30代以下の若年層では賛成派が58.7%にも達している(60代以上の高年層は賛成派が39.9%)。集団的自衛権の行使が何を意味するのかを十分に理解せずに回答した者が多かったのかもしれないが、それでは中国政府がなぜ激怒しているのかも分からないであろう。
   
   

■ 防衛費と武器輸出の拡大

このような支持率の高さに気を良くした高市首相は、ますます軍国主義的な政策にのめり込もうとしている。これまでの自公政権の方針は2027年度までに防衛費のGDP比を2%に引き上げるというものであったが、高市首相はそれを2年も前倒しし、今年度中に達成すると決定したのである。トランプ米政権はすでに日本側に防衛費の対GDP比3.5%の実現を打診しており、高市首相はそれに積極的に対応することを考えているのであろう。
   
さらに高市政権は防衛力の強化=防衛費の拡大を、単に国防強化の観点にとどまらず、経済の推進役としても重視する路線を掲げている。バブル崩壊以降低成長が続く日本経済の停滞を打破するために、防衛産業を経済の推進役として活用しようというのである。
   
日本の防衛費は長い間GDP比1%程度に抑制されていたのであるが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとするEU諸国の国防費の拡大に続き、日本政府(岸田政権)も22年末に防衛費の急拡大を決定し、27年度までにGDPの2%まで引き上げることになった。こうして23年度から防衛予算は大幅に拡大されたのであるが、今回の高市政権の政策はそれを更に加速させるものである。
   
高市内閣が11月21日に閣議決定した総合経済対策(「強い経済」を実現する総合経済対策)では、第3の柱として防衛力と外交力の強化を掲げている。そしてそこで防衛費のGDP比2%達成の2年前倒しとともに、武器輸出の拡大が打ち出されたのである。これまでは防衛装備品の輸出目的は「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限定され、殺傷能力のある武器の輸出は禁止されていた。自民党はこの「5類型」への限定を輸出の足かせとして見直しを目指していたが、公明党の反対で実現できなかったのである。しかし公明党が連立離脱し、自民党と同じく武器輸出に積極的な日本維新の会と連立政権を組んだことで、「5類型」撤廃への環境が整ったのである。しかし、これは戦争を利潤獲得の機会ととらえる「死の商人」への道に外ならない。
   
   

■「責任ある積極財政」で賃金上昇は可能か

高市内閣は11月28日に2025年度の補正予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額はコロナ禍後で最大規模となる18兆3034億円。前年から4兆円以上増え、財源の不足分を補うため新たに国債を11兆6960億円発行するという。防衛力・外交力には1兆6560億円を投入するが、そこには政府が目標にする、防衛費の国内総生産(GDP)比2%を年度内に達成するための予算も含まれている。
   
高市政権は「責任ある積極財政」のスローガンを掲げ、来年度の当初予算編成でも国債発行による財政拡大を推進する意向を示している。しかしこのような積極財政には、円安や物価上昇をもたらす危険性があることに注意が必要である。 消費者物価(2020年基準、総合指数)の対前年同月比の上昇率は、直近の2025年10月でも3.0%と、依然として高い水準を続けている。対ドル為替相場は25年4月の142.81円から11月末には156.32円へと、円安が進行しており、このままでは輸入品の価格上昇によってさらに物価高になりかねない。日本銀行が次の金融政策決定会合(12月18〜19日)において政策金利を引き上げる公算が大きいと言われているのも、物価上昇が加速する恐れを考慮してのことであろう。
   
日本経済の停滞は企業が海外での設備投資に重点を置き、国内での投資が抑制気味だったことが1つの要因である。経済成長の達成には、国内で新製品や新サービスを提供するために設備投資を行い、付加価値生産性の上昇によって、賃上げと個人消費の拡大という好循環を生み出すことが肝要である。しかしバブル崩壊後の日本企業は、国内では非正規雇用の拡大などによる人件費の削減で利益を確保することに力を注ぎ、技術革新のための積極的な設備投資というまっとうな方法がおろそかにされてきたのである。
   
厚生労働省『令和5年版 労働経済の分析』(2023年9月)によれば、日本の労働分配率は1996〜2000年以降一貫して低下傾向にあるという。そしてその結果、1996〜2000年には米国、ドイツ、フランス、英国といった主要先進国と比べても比較的高い水準にあった日本の労働分配率は、ここ20年間、一貫して低下傾向で推移し、2016〜2020年には、主要国で最も低くなってしまったのである(同上書、p.86)。そして以上のような労働分配率の低下が、図表1で明らかなように、90年代後半から続く実質賃金の低下をもたらしたのである。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
高市内閣の「総合経済対策」では、経済対策の第一の柱として生活の安全保障・物価高への対応を掲げ、次のように述べている。

「第一に、物価高から暮らしと職場を守る『生活の安全保障』として、足元の物価高対策を最優先で実施する。賃上げが物価上昇を上回る状況を実現し、家計の実質所得を確保することが喫緊の課題である」(p.2)

と。
   
そしてその具体的施策として、「中小企業・小規模事業者をはじめとする賃上げ環境の整備」を掲げ、賃上げに向けた中小企業の稼ぐ力の強化や賃上げによるコスト増の価格転嫁・取引適正化の推進などが挙げられている(p.24-26)。
   
春闘では2024、25年と2年連続で高水準の賃上げが実現したのであるが、原材料費の上昇などによる経営悪化で賃上げに対応できない中小企業も多く、これが実質賃金低迷の要因の1つになっている。その意味では、中小企業の稼ぐ力を高め、賃上げ分の価格転嫁が進められるような経済環境を整備することは極めて重要である。
   
しかし今世紀に入ってからの日本企業の経営状況は、全体的には順調であった。「法人企業統計」によれば、2000年度から24年度までの25年間のうち、2004〜06年度と2013〜18年度、2021〜24年度が経常利益で史上最高益を記録していたのである。
   
最近10年間を見ても、2014年度から24年度にかけて従業員の給与・賞与の合計(名目賃金)は18.5%しか増えていないのに、株主への配当は2.37倍も増加している。株主へは高配当を行っても賃上げには消極的という、株主重視=従業員軽視の経営が行われていたのである。このような株主重視経営が続く限り、経営状況が好調でも賃金は低いままということになりかねない。
   
   

■ コーポレートガバナンス・コード改訂に向けて

そこで注目されるのが、2025年10月から検討が始まったコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂(見直し)である。そしてその中心課題が、従来の株主偏重だった行動指針に、人材重視への視点が付け加えられるかどうかである。
   
コーポレートガバナンス・コードとは上場企業の行動指針であり、最初のコーポレートガバナンス・コードは東京証券取引所から2015年6月に発表されている。これは当時の安倍政権が打ち出した成長戦略(日本再興戦略)の2014年改訂版に企業統治の強化が盛り込まれたことがきっかけである。
   
「日本再興戦略改訂2014」は次のように記している。

「コーポレートガバナンスは、企業が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みである。コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方を諸原則の形で取りまとめることは、持続的な企業価値向上のための自律的な対応を促すことを通じ、企業、投資家、ひいては経済全体にも寄与するものと考えられる。こうした観点から、上場企業のコーポレートガバナンス上の諸原則を記載した『コーポレートガバナンス・コード』を策定する」(p.30)

と。
   
しかし、2015年に策定された最初のコーポレートガバナンス・コードでは株主の立場の重要性だけが強調されているのである。すなわち、その「基本原則1」の冒頭には次のように書かれている。

「上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである」

と。そしてこの規定についての考え方を次のように説明している。

「上場会社には、株主を含む多様なステークホルダーが存在しており、こうしたステークホルダーとの適切な協働を欠いては、その持続的な成長を実現することは困難である。その際、資本提供者は重要な要であり、株主はコーポレートガバナンスの規律における主要な起点でもある。上場会社には、株主が有する様々な権利が実質的に確保されるよう、その円滑な行使に配慮することにより、株主との適切な協働を確保し、持続的な成長に向けた取り組みに邁進することが求められる」(p.5)

と。
   
株主は「コーポレートガバナンスの規律における主要な起点」として、ステークホルダー(利害関係者)のなかでは別格な存在とされているのである。このコーポレートガバナンス・コードでは第2章で株主以外のステークホルダー(従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会など)との適切な協働についても述べられているが、従業員の処遇改善や人材育成についての具体的な記述はなされていない。
   
安倍政権が成長戦略の一環としてコーポレートガバナンス・コードの策定を進めたのは、海外から投資マネーを呼び込み、株価上昇につなげようという思惑があったといわれている。その結果、コーポレートガバナンス・コードは株主重視の経営に重点を置くかたちで策定されることになったのである。
   
なおコーポレートガバナンス・コードは法律ではないので、企業に対してそこに記載されている原則を実施する義務は課されていない。しかし、実施しない場合にはその理由を説明することが求められている。
   
コーポレートガバナンス・コードの原則が実施されない理由に株主が納得できない場合は、株主から経営者の罷免要求が出されたり、株価が下落するなどの結果が生じる可能性があるため、企業経営者は慎重な対応を求められることになる。こうして株主重視経営が強められることで、配当増や株価の上昇が進む一方、従業員の職業能力向上に向けた教育訓練や賃金など人的資本への投資が抑制されることになったのである。
   
しかしながら、最近では実質賃金が低下・低迷を続けることが、個人消費の減少・停滞をまねき、経済成長を抑制していることが問題視されるようになっている。GDP統計によれば、民間最終消費支出(実質、2020暦年連鎖価格)は2013年度の313兆円をピークに減少・停滞が続いていて、24年度においても305兆円であり、11年前を8兆円(2.6%)も下回っているのである。
   
さらに2022年からの物価上昇により、政府や財界においても賃金引き上げの必要性が理解されるようになっている。また、従業員の処遇については、賃上げだけでなく、技術革新への対応のための人材育成投資の重要性も合わせて認識されるようになったのである。
   
そして、そういう中で2026年半ばを目処にコーポレートガバナンス・コードが見直されることになった。金融庁はコード改定に向けて、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 2025」を25年6月に公表し、人材育成投資に関して次のように述べている。

「人的資本への投資に関する開示を充実させる観点から、有価証券報告書における従業員給与・報酬に関する記載事項を集約するとともに、新たに企業戦略と関連付けた人材戦略や従業員給与・報酬の決定に関する方針、従業員給与の平均額の前年比増減率等の開示を求める」(p.3)

と。
   
企業が人的資本投資の重要性を認識し、その充実を図るよう、積極的に企業での取り組み内容を開示させようというのである。この内容が改訂版のコーポレートガバナンス・コードに盛り込まれることになれば、労働者の処遇改善にむけて株主重視経営を転換させるきっかけにはなりうるであろう。コーポレートガバナンス・コードの改訂結果について、それが日本企業の株主重視経営をどの程度是正することになるのか、労働組合の賃上げへの取り組みと合わせて注目していきたいと思う。
   
   

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