
●2025年7月号
■ 参議院選挙を全力で戦い抜こう
吉田 進
7月20日(予定)投開票の参議院選挙が目前に迫っている。昨年秋の解散総選挙で、自公政権を「少数与党」の状態に追い込むことができた。国会の風景は変わったが、国民の求めている具体的政策という点ではほとんど何も変わっていない。状況によっては予算が通らない、内閣不信任案可決すらできる与野党の力関係は国会運営に十分反映されていない。一部野党は露骨に政権与党にすり寄り、野党第一党の立憲民主党は(以下「立憲」)全体をまとめるリーダーシップを発揮できていない。「政治不信」を増大させた責任は、政権与党だけではなく野党側にもある。
最優先の政治課題は「国民のくらし」である。主食のコメが高くて買えない実態はまさに非常事態である。国民の切実な声を受け止められない政治は何としても変えなくてはならない。厳しい情勢であっても、「目の前の戦いから逃げず全力で立ち向かう」という参議院選挙に向けた基本的態度があらためて問われている。
■1. 通常国会(後半)を振り返って
・(1)「裏金事件」の反省すらしない自民党
自民党旧安倍派の「裏金事件」に起因する「政治とカネ」の問題は積み残されたままで、自民党はこの問題に真摯に向き合おうとしない。政倫審での弁明等で「みそぎ」は終わったと錯覚している議員も多い。自民党の小泉進次郎前選対委員長はNHK番組で、「企業・団体献金禁止は自民党の弱体化を狙った作戦みたいなものだ」と発言した。問題の発端は自民党が引き起こした「裏金事件」である。それすら自覚できない態度に批判が集中するのは当然である。国民の感覚と大きく乖離した自民党の姿は、長期間にわたり政権を担ってきた驕りによるものである。
自民、公明、国民民主(以下「国民」)の3党で合意した企業・団体献金の存続を前提にした政治資金規正法改正案の国会提出は見送られた。一方、野党5党派が提出した企業・団体献金禁止法案も衆議院で過半数に届かず成立は困難となった。先の臨時国会に続き、今国会でも「政治とカネ」問題は一歩も前に進まなかった。
石破首相による、1期生国会議員15人に商品券10万円相当を配布した問題が明らかになった。野党の追及に対し、「ポケットマネーを使った」と説明したが国民は納得していない。自民党に対する国民の批判は地方選挙などの結果に表れている。
・(2)「国民のくらし」に向き合わない石破内閣
後半国会の焦点は、物価高に苦しむ国民生活への対応であった。5月中旬の各世論調査ではおおむね7割を超える国民が消費税の「減税・廃止」を求めていることが明らかになったが、自民党は野党各党の要求を拒否している。
この間、財政規律を無視した予算執行を続けてきた政権与党が、国民生活の危機に対して財源論を持ち出すのは理屈が通らない。石破首相は、「日本の財政はギリシャ以下」と他人事のような答弁をした。国のリーダーとは思えないような無責任な態度である。「国民のくらし」に向き合わない石破内閣の支持率が上がらないのは当然である。
コメ価格の高騰が政治の焦点となっている。江藤農水大臣は、みずからは「コメを買ったことがない」などと発言し更迭された。後任には小泉衆議院議員が指名された。小泉新農水大臣は、備蓄米を安い値段で市場に放出して値下がりに誘導しようと試みているが先行きは見通せない。
コメ価格は基本的に需要と供給で決まる。単に流通の問題でないことはすでに明らかである。長年にわたる「減反政策」など政府による農政の失敗が原因と見るべきである。農政改革、食料自給率向上などの抜本的な検討が求められている。
小泉農水大臣のパフォーマンスと過剰なマスコミ報道は、参議院選挙を有利にしようとする政治的思惑が透けて見える。「狂乱物価」のなかでコメ価格だけに問題を矮小化する狙いも明らかである。「国民のくらし」は政治の原点である。原点を忘れた石破政権に対し、「徹底的に国民の側に立つ」という明確な態度が野党側に求められている。自民党の「財源論」に、法人税引き上げ、金融所得課税の強化、防衛費削減など真正面からの主張をすべきである。
・(3)自公政権に対峙できない野党
政府は、大幅に遅れて年金制度改革関連法案を国会に提出した。少子高齢化で保険料を負担する現役世代は今後減り続ける。受け取る年金は長期にわたって減額調整せざるを得ない。特に、全国民に共通する基礎年金は現在より給付水準が大幅に下がり、その対応策は避けて通れない。
こうした状況のなか、自民・公明・立憲の3党により政府案を修正した法案の共同提出が突如行われた。法案の内容以前に立憲の対応そのものに問題があった。「政権交代」を訴えながら、他の野党の考えも聞かず与党と連携して法案の共同提出をした立憲の対応は筋が通らない。「大連立に向けた布石」などという報道までされた。
国会最終盤では内閣不信任案提出をめぐる扱いが焦点となっている。政権与党は解散総選挙に言及し、野党側は提出を躊躇している。党首討論もそうであったが、「政治空白を作るべきではない」という言葉が独り歩きしている。「政権交代」と言いながら相反する対応を採ることは許されない。「政権交代」は、現政権の否定であることを忘れてはならない。「政権交代」の本気度が問われている。
サイバー攻撃に先手を打って被害を防ぐ「能動的サイバー防御」関連法が成立した。日本学術会議法案も日本維新の会が賛成に回り採決された。両法案とも重要な問題点が含まれているが十分な審議がなく、強行成立となった。
選択制夫婦別姓の法制化はようやく実現すると思われたが、多くの国民の期待を裏切る結果となった。世界で夫婦同姓を義務付ける国は日本だけであり、改姓を強いられる側に対する人権侵害の問題である。国民世論も法改正でほぼ一致している。しかし、「右翼的」な一部の議員が反対した。理由はいろいろ言われるが、要は「家父長制」の維持存続である。古い「男尊女卑」の考え方も背景にある。この人たちの時代錯誤には呆れるが、それに配慮する石破首相も情けない。「少数与党」のなかで、法制化にむけた絶好の機会を逃した野党も批判されて当然である。政権与党に対峙できない野党という印象が強く焼き付けられた通常国会となった。
・(4)「トランプ関税」による混乱
米トランプ政権の発足によって世界が混乱している。「相互関税」の導入により貿易赤字を解消し、米国に生産を呼び込んで雇用創出を図るとトランプ大統領は言う。しかし、このような一方的で身勝手な政策は世界経済に深刻なダメージを与える。米国も無傷であるはずがない。すでに米国内では輸入品の価格が上昇し、インフレ再燃や景気後退の懸念も増大している。
日米の交渉が注目されるが、鉄鋼、自動車等の輸出のために1次産業を犠牲にしたと言われた数十年前の手法を繰り返してはならない。大手企業の工場閉鎖・人員削減計画がすでに報じられているが、労働者に犠牲を強いる対応も許されない。「日米軍事一体化」のさらなる強化につながる合意は「国益」ではない。
石破首相は、「トランプ関税」に対し「国難」と言う言葉を国会で使っている。「国難」の延長線上にあるのは「挙国一致内閣」である。過去の歴史を語るまでもない。
いま、世界で起きていることは各国における資本主義の行きづまりが根底にある。日本国内の出来事は、日本における資本主義の行きづまりと、戦後続いてきた自民党政治の限界を示している。「国難」などと言い、与野党の対立点をぼかし曖昧にする言動に野党は同調してはならない。
トランプ政権は「不法移民」摘発を強行し、これに抗議する集会・デモ等が拡大している。デモを鎮圧するためにトランプ大統領は州兵や海兵隊を派遣した。「狂気の沙汰」であり、米国内の混乱と分断が一段と深まっている。イスラエルとイランの交戦も世界に衝撃を与えている。
■2. 参議院選挙情勢
・(1)参議院選挙の争点
本誌24年12月号で衆議院選挙の総括を特集した。そのなかで、「選挙協力したはずの野党の一部が、選挙後に与党に色目を使うとなれば目も当てられない」との指摘があったが現実はその通りとなった。
通常国会は、「少数与党」の成果がほとんど活かされなかった。国民からすれば、「野党が多数なのに何も変わらない」と実感している。直面している参議院選挙を通じて、ここを克服できるかが問われる。「政権交代」後に実行する具体的政策、1人ひとりが思い描けるような新政権の姿を国民に示すことが何より重要である。「政権交代」の覚悟を鮮明にすることである。
選挙戦の争点は、引き続き「国民のくらし」である。同時に、有権者の心に響く個別政策も大事である。立憲の公約のなかに、「非正規雇用の解消」が入っている。期間の定めがない直接雇用を基本原則とする「労働基本法」を新たに制定するという内容である。緊急かつ重要な課題である。全労働者の4割が非正規という雇用実態は異常であり、この人たちの低賃金は急激に進行する「少子化」問題とも直結している。早急に是正しなくてはならない。
社民党も非正規労働者問題に直接に関わってきた候補者を立てて戦いを進めている。解雇撤回闘争を闘ってきた元労働組合役員も擁立している。少数政党であっても、キラリと光る政策を突き出して堂々と戦うことが重要である。
・(2)予断を許さない選挙情勢
前任の岸田首相は、「みずからが総理の席に居座り続けることが目的」と批判された。官僚が書いた答弁書を棒読みする姿はあまりにも見苦しかった。一方、石破首相は「自分の言葉」で語る姿は良かった。しかし、自民党内の圧力に屈し、「石破カラー」を放棄したことが最大の問題点であった。国民のくらしに向き合わない石破内閣、自民党に逆風が吹いていることは間違いない。
しかし、自民党に逆風が吹いているから野党が勝てるというほど選挙は甘くない。小泉農水大臣の備蓄米放出に関するマスコミ報道が過熱している。直近の世論調査(共同通信社4月15・16日実施)では、石破内閣の支持率が37%と5ポイントほど上昇している。
内閣不信任案をめぐる攻防、「政界再編成」にむけた動向が通常国会最終盤で焦点となるであろう。情勢判断や対応を誤れば、一夜にして「潮目」が変わるのが政治の世界である。参議院選挙をめぐる情勢は全く予断を許さない。
・(3)後退した「野党共闘」
2016年参議院選挙から始まった「野党共闘」は大きく後退している。「野党共闘の時代は終わった」という声もある。共産党や市民連合などとの連携をすべきではないという「圧力」もある。「立憲・国民」による政権をという主張もある。いずれも選挙の現場には馴染まない。
「野党共闘」は1選挙区で1人しか当選しない「小選挙区制」の下における必然性から生まれたものである。「野党共闘」に否定的な人もいるが、「289の1人区がある衆議院選挙も候補者一本化、野党共闘は必要ないのか」という問いには誰も答えられない。共闘は一度壊れたら容易に元に戻らない。政治の世界では常識である。
「候補者一本化は必要だが…」という人もいる。しかし、そんな傲慢な態度が通用するはずがない。「候補者一本化」は一方の政党にとって候補者を下すことを意味する。憲法は、選挙権とともに被選挙権を保証している。誰であっても立候補を止めろと言う権利など無い。ただ一つあるとすれば、政党間で「共通目標」「共通政策」が確認された場合である。もちろん、政党間の「信頼関係」がその前提となる。多くの仲間が結集する運動に、「排除の論理」を持ち込んではならない。「野党共闘」「市民と野党の共闘」、呼び方にこだわる必要はない。しかし、現時点の情勢において、この道以外に腐敗した自民党政治を変える方法はあり得ない。「自民党政治を終わらせる」という一点で、「(小異を残して)大同団結」するのが「野党共闘」である。
■3. 岐路に立たされる戦後政治
今年は敗戦から80年という節目の年である。自民党の西田昌司参議院議員は沖縄戦で犠牲になった学徒らを慰霊する「ひめゆりの塔」の展示説明について、「歴史を書き換えている」との発言をした。沖縄県民から批判が噴出した。県議会においても抗議の決議が採択された。国民の代表である国会議員の歴史事実をゆがめる発言は謝って済む問題ではない。同様の考えをしている議員は西田氏だけではない。自民党「保守派」と呼ばれている人たちである。石破首相はこの人たちに配慮して、政治を前に進めようとはしない。
ヘイトスピーチを繰り返し、法務当局から人権侵犯と認定された杉田水脈元衆議院議員を自民党は比例候補として擁立する。「裏金事件」でも不記載があり、政倫審の場で弁明もしていない人物である。にもかかわらず、3月の党大会で公認候補と決定し、笑顔で握手を交わす石破総裁の姿には呆れる。日本の政治は文字通り岐路に立たされている。
・(1)原発に象徴される誤った国策
国の針路に関わる重要課題として原発問題がある。原発は単なるエネルギー政策ではない重要な問題を含んでいる。
「柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会」の運動が前進し、14万名を超える署名が集約された。これに対し、「再稼働に関する決定は非常に専門的で、一般の県民が十分な知識を持って判断するのは難しい」「(県民投票は)感情的判断に陥りやすい」などと反論が強まった。最終的に新潟県議会は県民投票を否決した。民主主義のあり方からしても県議会の決定は誤っている。
原発事故と公害の原点である水俣病を結び付け、原発回帰の愚かさを指摘する論評を最近目にする。国、企業、被害者を巡る構図が似通っているというのである。何よりも、企業と行政の不作為が惨禍を招いたという事実である。水俣病の公式確認は1956年であるが、メチル水銀を含む排水を流した工場の操業を止めたのは68年であった。被害はその間に拡大した。
福島第1原発も、事故原因である大津波の危険性は以前から指摘されていた。しかし、東電は安全より経営を優先し、防潮堤建設などの対策を取らなかった。行政・議会等が地域経済のために誘致や操業継続に動いた点も共通している。また、国策として進めた政府の責任が曖昧なままになっている点も同じである。新たな「エネルギー基本計画」は矛盾に満ちている。福島の事故に関して「反省と教訓を肝に銘じ」と記述しながら、原発再稼働・新増設を推進するという方針は支離滅裂と言わざるを得ない。
・(2)参議院選挙を全力で戦い抜こう
2015年の安保法制に反対する闘いから始まった市民と野党の共闘は10年が経過した。この間、長野県においても4回の参議院選挙(1回は補欠選挙)を市民運動がリードする形で戦った。「野党共闘」が功を奏し全戦全勝した。
6月14日、信州市民連合と野党各党の間で共通する政策を確認し合った。さまざまな紆余曲折もあったが、「総がかり」で戦う態勢は何とか出来上がった。15日には、信州市民連合による県民集会・デモが長野市で開催された。
こうした長野県での取り組みが続いてきた要因はいくつかある。信州市民連合に集まっている市民団体の努力は何よりも大きい。選挙以外の日常的な大衆行動も団結力につながっている。野党各党の対応も評価できる。とりわけ、社民党は県労組会議(平和センター)と共に重要な役割を果たしている。本年4月には、新潟県市民連合代表を招いて交流を行ったが、隣接の新潟県もほぼ同様に戦う態勢が作られている。
「国民のくらし」は、かつて経験したことがない深刻な状態に陥っている。国民生活に背を向ける自民党政治を1日も早く変えなくてはならない。そのための重要な戦いが参議院選挙である。「生活防衛」の旗を高く掲げ、幅広い戦線を作るために奮闘しなくてはならない。最終盤を迎えている選挙戦に全力を挙げよう。
(6月15日)
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