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●2025年4月号
■ 参議院選挙を全力で戦い抜こう
    吉田 進

1973年秋、第4次中東戦争が始まり、日本は第1次オイルショックに陥った。あらゆる物価が急激に高騰し「狂乱物価」と呼ばれた。トイレットペーパー買い占めなども記憶に残る。「生活防衛」が緊急課題となるなか、総評は「国民春闘」を提起し、連日の国会前集会等を展開した。そして、58単産、600万人の労働者が参加して74春闘統一ストライキを闘い抜いた。その結果、政府は「インフレ福祉手当」「年金繰り上げ支給」等を約束し、「30%を超える大幅賃上げ」が多くの企業で実現した。65年から始まったベトナム戦争は75年4月に終戦となるが、米軍の空爆が一層強まり、日本国内でも「ベトナム戦争反対」の運動が展開されていた時期である。
   
半世紀を経て、日本は再び物価高による国民生活の危機に遭遇している。ガソリン、電気、ガス、野菜、コメ、家賃……。異常な物価高は国民にとって「非常事態」である。これに真正面から向き合わない政治などあり得ない。「非常事態」と認識できない政党・政治家は与野党を問わず支持されない。「緊急物価高対策」が当面する最大の政治課題であり、与野党の「対立軸」である。「野党共闘」にとっては「結集軸」である。国民は、それぞれの政党・政治家が自分たちの「味方なのか」を見極めようとしている。7月20日投開票の参議院選挙は今後の政治動向をうらなう重要な戦いである。
   
   

■1. 通常国会前半を終えて

昨年秋の臨時国会は、「少数与党」のなかで従来とは様相が一変した。強引な国会運営は影を潜めた。28年ぶりに補正予算案が国会提出後に修正され成立した。与野党が議論して合意をめざし、双方が納得して法案を成立させるという本来の姿が垣間見えた。
   
しかし、1月24日召集された通常国会は国民の期待を裏切る「景色」となっている。政権与党と国民民主党、日本維新の会の「政治的駆け引き」が先行し、野党は、「同床異夢」と揶揄されるようなバラバラの状態となっている。
   
   
・(1)「103万円の壁」
   
所得税が生じる「年収103万円の壁」の見直しについて、国民民主党は178万円まで引き上げるべきとの政策を打ち出し、自民・公明両党との3党協議が行われた。103万円の壁は所得制限つきで160万円まで引き上げるなどの修正が加えられたが国民民主党は合意しなかった。複雑な制度設計との批判も強まった。国民民主党が合意しないものを日本維新の会が合意するという不可解な結末であった。国民民主党の政策が誤りでないにしても、政権与党との接近や焦点である予算成立の取引材料にしたところに根本的な問題があった。
   
   
・(2)高校授業料無償化
   
自民党、公明党、日本維新の会3党が合意した高校授業料無償化は、これまで国公私立に所得制限付きで支給していた年11万8800円の就学支援金を、25年度から全世帯に年収を問わず支給する。私立加算額は26年から所得制限をなくし、上限額を45万7000円に引き上げるという内容であった。経済的事情による教育格差を是正するものであるが、一方で、私立が授業料を便乗値上げする懸念や公立離れがさらに進むという課題も残った。
   
   
・(3)高額医療費値上げ
   
「高額療養費制度」の負担額引き上げをめぐっては、患者団体が「治療を断念せざるを得なくなる」と反発し、立憲民主党が引き上げの「全面凍結」を求めた。2度にわたる修正ののち、今夏の引き上げは予定通り行い、26年、27年の引き上げは再検討するという結論に至った。しかし、自民党内から「これでは参議院選挙を戦えない」との批判の声が高まり、石破首相は引き上げの見送りを余儀なくされた。
   
また、年金制度改革や高齢化によって膨張する医療費等の問題についても、参議院選挙に悪影響を与えるとして先送りが報じられている。
   
野党側の要求に対し、真正面から立ちはだかったのは税制等を現状固定的にとらえる財務省であった。しかし、財源がなければ、税制そのものを見直すのが政治である。安倍政権下で大幅に引き下げられた法人税率の引き上げ、株式売却益など金融所得への課税強化、「防衛費43兆円」の見直し等を行えば財源確保は不可能ではない。国権の最高機関である国会をも軽視するかのような財務省への批判が強まっている。
   
   
・(4)足並みが揃わない野党
   
石破内閣の「迷走」が続いている。法案を巡って内容を二転三転させることなど通常あり得ない。自民党内からも「石破おろし」の声が出るなど政局は混迷の度を増している。
   
しかし、野党側も足並みが揃っていない。原因は、国民民主党や日本維新の会の政権に対する思惑にあった。みずからの政策と引き換えに、審議もされていない予算案の賛成を約束する対応はどのような言い訳も通用しない。また、それらが国会の場ではなく、与党との個別政党間協議で進められた点も問題であった。国民の目に見えないところでの密室協議は、「一強多弱」時代に逆戻りしたかのようであった。
   
一方、野党第一党である立憲民主党のリーダーシップも不十分であった。野田代表は、「防衛費43兆円」「日米地位協定」「原発回帰」「核兵器禁止条約」「緊急消費税減税」などに関してほとんど何も語っていない。野党をとりまとめるリーダーシップは、具体的政策を打ち出すことが基本になければならない。
   
   

■2. 後半国会に残された課題

自公政権を「少数与党」に追い込んだ衆議院選挙結果が、十分活かされない現在の情況が続けば国民の批判は野党側にも向いてしまう。後半国会における野党側の対応が極めて重要となっている。
   
後半国会の焦点は「政治とカネ」問題である。旧安倍派の会計責任者に対する参考人聴取が行われたが、刑事事件公判で証言したこと以上の内容は何も引き出せていない。「ホテルの一室」で事情を聴くなどという変則的な対応ではなく、関係者を国会に呼びつけて参考人聴取を行う。応じなければ強い強制力を持つ証人喚問を要求するという「正攻法」で押していくべきであった。マスコミから、「裏金事件のけじめを演出したい自民党と、見せ場を作りたい野党の思惑が一致した」などと論評されるようでは情けない。
   
石破首相が自民党衆議院1期生15人に対して、官邸で会食を行い、土産名目で1人10万円分の商品券を配布した問題が明らかになった。「法的には問題ないが、社会の常識や国民感覚とかけ離れていた」とのマスコミ論調が強まっている。しかし、一連の行為は政治活動そのものであり、ポケットマネーで支払ったなどという説明を国民は信じていない。政治資金規正法違反の立場で徹底追及すべきである。
   
「企業団体献金の禁止」を巡って与野党の攻防が始まっている。自民党は、「禁止ではなく公開」を掲げ存続を訴えている。国民民主党はこれに同調しようとしている。「政治とカネ」問題の最終結論とも言うべき課題であり安易な妥協は絶対に許されない。
   
もう1つの焦点は選択制夫婦別姓問題である。国民の多くが制度の導入を求めているが、「社会の根幹」に関わるなどと反対意見もある。しかし、「社会の根幹」とは個人の尊厳や人権である。「選択」によって救われる人が増える制度であり、強い決意で実現を目指さなくてはならない。
   
トランプ政権は、日本からの輸出品に対する関税強化措置を発動し、「日米安保条約は不公平」「防衛費を増やすべき」との主張も強めている。「日本は適用除外にしてほしい」と懇願するだけの対応はもはや限界である。今後、大きな政治的課題として浮上してくることは避けられない。
   
   

■3. 参議院選挙にむけて

政権与党の戦略は、「少数与党」の解消である。方法は2つある。1つは、「自公連立」にさらに他の野党をつけ加えることである。2つ目は、衆議院選挙を早期に行い、先の選挙で失った議席を取り戻すことである。
   
昨年の解散総選挙は、自公政権にとって大きな衝撃であった。「裏金事件」に対する国民の批判は当初の予想をはるかに超えていた。また、石破内閣の支持率は低く、最近では「政権末期」との見方も出始めている。
   
こうした中で行われる参議院選挙は政権選択の戦いではない。しかし、当面する政策決定や政権運営を左右する重要な戦いとなることは間違いない。また、遠くない時期に行われる(衆参同日選挙の可能性は消えていない)と予想される解散総選挙につながる戦いでもある。野党側の闘争態勢確立が急務である。
   
   
・(1)くらしを守るための緊急政策
   
立憲民主党は先の衆議院選挙で「政権交代」を打ち出した。2月の党大会でも、「政権交代の実現に向け全力を注ぐ」方針を決定した。野党第一党として当然の方針である。
   
しかし、「政権交代」はあくまでも政党としての目標であり、国民はそのために投票するわけではない。国民は、「政権交代」後の政策や政治に期待して投票するのである。「政権交代」は選挙の結果であって、直接の目標ではない。したがって、「政権交代」後の具体的政策や新たな政権の姿(政権構想)を示すことが何より重要である。
   
長野県内の市民団体が結集した信州市民連合は、3月15日長野市内で全体会議を開催した。食料品の消費税ゼロパーセントとガソリン暫定税率の廃止、男女差別の撤廃と選択性夫婦別姓の導入、専守防衛と軍拡のための大増税反対の3項目を柱とした参議院選挙基本政策を決定した。そのうえで、野党各党や候補者との協定書締結、「候補者一本化」など連携を協議する「共同テーブル」設置を目指す方針を確認した。
   
4月12日には、新潟県市民連合の代表を招いての「市民政治の未来を考える集い」を開催し、6月15日には長野市における県民集会を開くことも決定した。長野県(定数1)で、現職の立憲民主党議員と自民党新人女性候補との激しい戦いが予想されている中での取り組みである。
   
石破首相がコメの価格について、「1.5倍ぐらいになっていると思う」と国会答弁したが、「ふざけるな、2倍を超えている」との批判がすぐさま沸き起こった。物価高による国民の生活困窮は想像以上に深刻さを増している。
   
立憲民主党内では、70人ほどの有志議員が食料品の「消費税ゼロ税率」を求める勉強会を立ち上げた。そして、夏の参議院選挙の党公約に減税を明記するよう求めている。国民の置かれている生活実態を受けた動きであり、有権者の評価とともに野党の連携を進めるうえでも重要な意味を持つであろう。
   
社民党など少数政党は、「総花的」な政策では埋没してしまい大きな政党に対抗することはできない。少数政党でしかできない国民のくらしに密着した具体的政策を早く示し、臨戦態勢を作ることが重要となっている。
   
   
・(2)「野党共闘」の再構築を
   
参議院選挙の最大の焦点は32の「1人区」である。野党が連携し、「候補者一本化」「野党共闘」を進めない限り勝ち目はない。しかし、「野党共闘」は残念ながら大きく後退している。
   
昨年秋の衆議院選挙以来、「野党共闘」を否定する声が増えている。安倍政権以来続いた「一強政治」が、自民・立憲民主党による「二強政治」に変わったなどという意見もある。連合芳野会長のように、立憲民主党と国民民主党の共闘を求める主張もある。いずれも、選挙の現場とはかけ離れたものである。戦後80年続いた自民党政治を転換させる絶好の機会を逃すことになりかねない。
   
参議院選挙における野党側の「候補者一本化」「野党共闘」は容易ではない。しかし、「衆参同日選挙」になった場合、衆議院289の1人区について、「一本化はうまくいかなかった」「残念」では済まされない。「同日選挙」にならなくても、そう遠くない日に必ず解散総選挙が実施される。「野党共闘」は一度壊してしまえば簡単に元に戻すことなどできない。政権選択が求められる衆議院選挙で、野党がバラバラというのは有権者に対する裏切りである。
   
「野党共闘」が始まった2015年当時は、「安保法制反対」で多くの人々が結集した。「結集軸」は当然のこととして情勢の変化でかわる。現在における共通のスローガンは、「緊急物価高対策」である。
   
野党の連携・共闘に党利党略を優先して「排除の論理」を持ち込むべきではない。結果的に、野党の分断を招き、政権与党を利するからである。もちろん、与党にすり寄りたい政党などが「脱落」することはあり得る。
   
   
・(3)国民民主党について
   
前述の上に立って、国民民主党に関しては問題点を指摘しておきたい。2月の衆議院予算委員会で、党所属議員が防衛省の「制服組」を出席させるべきと繰り返し求める場面があった。安住淳予算委員長が叱責し、本人が謝罪したものの「文民統制」の基本を逸脱した問題発言である。
   
榛葉幹事長は一昨年の通常国会で、「今も昔も鉄道は国防上重要なインフラ、有事の際、北海道の弾薬や戦車を南西方面へ輸送するには鉄道貨物が欠かせない」としてローカル線の維持存続を求める質問をしている。
   
また、政府が中長期的なエネルギー政策の指針となる新たな「エネルギー基本計画」を閣議決定したが、その前段で国民民主党は「原発再稼働・新増設」を政府に迫っている。ひとたび事故が起きれば甚大な被害を生む原発への国民の不安は、福島原発事故以来払拭されていない。「核のごみ」処分問題も見通しが立たない。柏崎刈羽原発の再稼働をめぐっては、「県民投票」を行う動きが起こった。東京電力は、原発の新規制基準で設置が義務付けられたテロ対策施設工事の遅れを理由に再稼働を先延ばしにせざるを得なくなっている。こうしたなか、「再稼働・新増設」をやみくもに求める態度はどう考えても理解できない。
   
いずれも、われわれの考え方や運動とは相容れない。問題の本質を考えると、これらは決して「小さなこと」ではない。
   
   
・(4)大衆行動の強化
   
夕方のスーパーでは、「値下げ札」が付くのを待っている人たちが大勢集まっている光景を目にする。町内の集まりなどでも物価高の話が交わされ、政治に対する不満、不信、怒りのような声も聞かれるようになっている。
   
2024年1月、当時の岸田首相は「値上げができれば企業は儲かるはず。給料も上がる。すると消費も増える。つまり商品がよく売れる。そしてまた企業が潤う」と述べた。「経済の好循環」論である。さすがに、こんなことを信じている国民はもういない。
   
『人新世の資本論』(斎藤幸平著)の一節は説得力がある。

「豊かさをもたらすのは資本主義なのか。……むしろ、こう問わないといけない。99%の私たちにとって、欠乏をもたらしているのは、資本主義なのではないか、と。資本主義が発展すればするほど、私たちは貧しくなるのではないか」。

いま、緊急に求められているのは、小さな違いを乗り越えて、「くらしを守る」という一点で大勢の人が力を合わせる「大同団結」である。「国民生活防衛」の統一戦線運動である。「野党連携」「野党共闘」「市民と野党の共闘」……呼び方など問題ではない。「大同団結」は、具体的な共同行動を通じて出来上がる。
   
14年が経過した東日本大震災や東京電力福島第1原発事故にちなんだ行動が各地で積極的に取り組まれている。「女性の声で政治を変える」と題したフェミブリッジの集会等も今まで以上に行われるようになった。
   
こうした情勢のなかで全国各地での大衆行動が強く求められている。「国民のくらしを守れ」の街頭宣伝は、最初は少人数であっても積み上げていけば人々が関心を持つようになる。異常なぐらい静かな国会前も変えることができるかもしれない。本誌は、政治運動や労働運動に関わっている人たちにとって一定の役割を果たしている。さらに実践的な立場で理論研究に取り組んでいかなくてはならない。「実践的」とは、「明日から自分は何ができるか、何をしなければならないか」を常に考えながら取り組むことである。
   
(3月15日)
   
   

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