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●2025年3月号
■ 野党勢力統一で勤労国民の生活再建を
    足立 康次

■1. 失われた30年

米国トランプ新政権の関税攻勢に世界が身構えている。長く続いてきた国境を越えた経済活動の象徴である自由貿易は岐路に立たされている。その背景には格差が拡大し、インフレに痛めつけられた有権者の不満がある。
   
2024年は主要国すべてで与党が敗北。2月ドイツ総選挙が行われるが、極右Afdが伸長し、第二党に躍り出るのではないかと言われている。このことは政治的に言えば新自由主義的政治に明確なノーが突き付けられている状況だと言える。逆説的に聞こえるかもしれないが、新自由主義は、グローバリズムであるがゆえに、イデオロギー的にはリベラルである。性別、人種、国籍などが異なる個人が、市場に世界中から自由に参加するシステムを目指す。機会の均等が原則である。
   
1980年代、米国レーガン、英国サッチャーに代表された新自由主義的政策は、1991年のソ連崩壊、冷戦の終結により、本格的に展開されるようになった。東欧・ロシアに新たな市場が現出し、70年代後半から市場経済への移行を進めてきた中国も、この時期、改革開放政策を本格化させたことで、その基盤は準備された。この結果、

「世界経済は1990年代から2008年まで比較的高成長を続けた……世界的に搾取が強まったうえに、各国が競争して企業と富裕層を大幅減税したため、異例の資本過剰=資金余剰の状態になっている。この余剰資金=金余りが、一方では投資ファンドに集まり、各国企業の大株主の地位を占めて、容赦のない最大限利潤追求を強制する」
(『新自由主義の行き詰まりと改革課題』)。

これが転機を迎えたのは2008年のリーマン・ショックである。
   
冷戦構造のもと、反共の砦として米国との同盟関係を築き、経済発展を続けてきた日本であったが、その成長故米国は、1980年代から潜在的な競争相手として日本を意識し、対日貿易赤字の原因は日本の市場の閉鎖性にあるとして、経済構造改革と市場の開放を迫ってきた(産業分野への投資から、公共分野への投資への転換)。冷戦の終結がこの動きに拍車をかけた。米国にとって最大の敵=ソ連がなくなったからである。
   
米国との衝突を回避するため、1997年橋本首相は6大改革(行政、財政、社会保障、経済、金融システム、教育)を掲げ、規制緩和を進めていく決意を示した。 しかし、その直後にバブル経済の崩壊で胚胎されていた金融危機が、金融機関の破たんとして露呈したことで、6大改革の実施は先送りとなり、これを継承した小泉内閣が、「構造改革」を行った。こうして、規制緩和とリストラの嵐がバブル崩壊以降日本全国に吹き荒れた。
   
こうして、「雇用か賃金か」を迫られた時、日本の労働組合は、賃金よりも雇用を選択した。その後の春闘におけるベアゼロの定着は周知の通りである。日本経済は均衡縮小に陥り、賃金は低下し、デフレ経済に突入した。
   
新規の設備投資は停滞し、非正規労働者の増加によって勤労国民の生活は不安定に、そして劣悪になり、1995年に8716万人とピークを迎えた生産年齢人口は2024年1月現在約7457万人と約1300万人減少した。未婚率も増加した。1980年には男性2.60%、女性4.45%であった未婚率は、2020年には男性28.25%、女性17.81%となった(国立社会保障・人口問題研究所資料から)。日本は労働力の再生産ができない社会になってきたのである。
   
   

■2. 直近の経済・労働情勢

2024通年の実質成長率は前年比0.1%増となった(2.17内閣府発表)。GDPの過半を占める個人消費が▲0.1%減となったことが要因と思われる。
   
にもかかわらず、大資本の業績は好調だ。上場企業の2024年4〜12月決算状況は、

「堅調……(2月)3日までに発表された2024年4〜12月期決算を集計したところ、6割に当たる182社が増益となった。3年ぶりの高水準となる。投資が活況な人工知能(AI)関連や利上げの追い風を受ける金融が伸びた……製造業331社を日経新聞が集計した結果、純利益合計は7日時点で前年同期比8%増え、24年4〜9月までの6%減益から増益に転じた」
(2.3日経電子版)。

25年3月期は期初時点から383社が(配当)予想を引上げ、配当総額は約18兆円と4年連続で過去最高となる見通しだ。3月期企業の上場企業約2330社を対象に日経新聞が集計した(1.30日経)。
   
勤労国民の生活はどうか。直近の経済指標をみると、2020年を100とした2024年の消費者物価指数総合指数は108.5、前年比2.7%の上昇となった。このため、毎月勤労統計からみる直近2024年の実質賃金は、対前年比▲0.2%(事業所規模5人以上、現金給与総額・速報値)とほぼ前年を維持した結果となったものの、きまって支給する給与は同▲1.2%となり、12月は、一時金など臨時的な賃金が実質賃金を押し上げたことが窺える。基本給では物価上昇に追いついていない。
   
支出の側を見れば、2024年の2人以上の世帯の実質平均消費支出は、前年比▲1.1%(23年は同▲2.6%)と2年連続でマイナスとなった。同じ調査で2人以上世帯のエンゲル係数が43年ぶりの高水準の28.3%となったのは、消費者物価の中でも、生活に直結する食料品が4.3%、中でも生鮮食料品が7.0%(ちなみに光熱水道費も4.0%増)値上がりしていることがその原因である。食品を中心とする物価上昇が国民の生活を直撃し、その他の支出を切り詰めていることは明らかだ(家計調査報告2.7)。
   
2023・2024春闘と果敢に闘ってきた賃金闘争の結果、2020年ベースまでの回復が目の前に来ている。連合は2025春闘で、「23年から続いてきた高水準の賃上げを定借させることで賃金も物価も上がらないという社会的規範を変える」として、規模間・雇用形態間・男女間の格差是正を図ることを目指して、月例賃金について賃上げ分3%以上、定期昇給分を含め5%以上を要求目標として示すとともに、中小の取り組みでは大手との格差是正分1%を加え、6%以上という要求目安を示した。
   
生産年齢人口の減少という事態に対して、資本は高齢者雇用の拡大と女性の「活躍」で労働力の確保を図ってきたが、これももはや限界に達している。人手不足は覆い隠しようがない。資本は生き残りをかけて人材確保に躍起となっており、初任給の引き上げが顕著だが、その一方で、中高年の賃上げは少なく、多くの職場で賃金カーブのフラット化が進行している。
   
同時に進行しているのは、コロナ禍を前後した非正規率の低下である。規制緩和とともに上昇を続けてきた非正規率は2019年(1〜3月期平均)に38.3%とピークを迎えたが、コロナ禍での非正規労働者解雇の影響で2021年1〜3月期に2ポイント以上低下し、以降わずかに増加しているが直近2024年10〜12月期も36.9%となっている。この傾向は女性で顕著である。2019年同期57.0%だった女性の非正規率は、2024年同期52.4%まで、4.6ポイント低下した。
   
たしかに、正規労働者への転換、とりわけ雇用期間に定めがなくなることは、大きな前進であるといえる。非正規労働者の最大の不安と不満のもとは、「自分は契約更新をしてもらえるのか」だからである。これがために上司(正規労働者)の意向をつねに覗う。組合加入もためらう。無期雇用に転換することで、労働組合に結集することが容易になり、毎年改善を要求し、それを勝ち取ることで、賃金・労働条件は確実に向上する。だが、無期転換しただけその後の闘いがなければ、それまでの正規労働者との格差は依然として残る。それまでの正規労働者との賃金格差をどうするか、「人間らしい生活」を送るために必要な賃金水準はいくらなのかを実践の中からつかみ取っていくことが課題である。
   
このことと重なるのは、氷河期世代の処遇改善である。氷河期世代・男性の正社員率は90%超とバブル世代並みになった一方、労働政策研究・研修機構の堀有喜衣氏の試算によれば、あとから正社員になった場合は年収の平均が男性で約130万円、女性で約180万円低い、という。低い生涯賃金は、低年金をもたらす。今、従来の正規労働者との格差を是正しなければ、将来に禍根を残す。
   
   

■3. 求められる政策一致による野党の共闘

衆議院での与野党逆転となってはじめての通常国会が現在開かれている。当面の焦点は2025年度予算案である。その概要と問題点は以下の通り。インフレで国の税収は増えている。決算ベースで見れば、2023年度の主要3税の税収(以下すべて概数)は、法人税15.8兆円、所得税22.1兆円、消費税23.0兆円で合計61兆円となった。コロナ前の2019年度決算と比較して12.7兆円増えた。なお、2025年度予算では主要3税で約67兆円を見込んでおり、その通りとなれば2019年度決算比約19兆円増となる。
   
このため、一般政府債務がGDP比254.6%に上っているにも関わらず、財政規律は緩んでいる。とくに、安保3文書に基づく軍事費の伸び(5年で43兆円)は著しく、25年度予算では当初予算で8兆円台(3年間で3.3兆円増)となっている。また、AIと半導体分野の大企業支援に3328億円が計上されている。小泉改革以降切り下げられてきた大学、大学院への補助金など基礎研究の充実が先だと考えるのは筆者だけであろうか。
   
一方で実質削減を強いられているのが社会保障費だ。とりわけ高額療養費多数該当の自己負担額引上げでは、中間的な所得区分である年収約650万〜約770万で27年8月から、現行より3万2400円引き上げ7万6800円とされている(患者団体、野党からの強い反発を受け、修正含みの協議中)。また、教員の長時間労働解消は、給特法の改正ではなく、来年度教職調整額の1%引上げという弥縫的な対応だ。
   
歳入では、いわゆる「103万円の壁」は123万円への引上げとされているものの、岸田前首相、石破首相と就任当初は掲げていた、「1億円の壁」の解消=金融所得課税の強化には切り込まず、年収30億円以上の超富裕層に対する追加課税制度(ミニマムタックス制)の2025年度実施でお茶を濁そうとしている。
   
この結果、国債費は償還分で約17.3兆円、利払い分が約10.5兆円となる。本誌1月号伊藤修氏によれば、金利が1%あがると利払い費は9兆円引き上がるという。この事実を見据えた予算審議が求められる。
   
この予算審議にあたって、省庁別審査が行われ、財務相と省庁を担当する閣僚が予算案の狙いを説明し、予算の具体的内容が集中的に議論された。立憲民主党(以下「立民」)は、この中で予算案の修正を視野に削減できる予算を洗い出し、他の政策の財源に回すよう訴えた。立民はこれをふまえ2025年度の予算案に、予備費や基金から財源を捻出し、給食費無償化などに充てる3.8兆円規模の修正案をまとめた。
   
こうして国会における熟議を求める立民に対し、国民民主党(以下「国民」)、日本維新の会(以下「維新」)は、自公との個別協議での要求引き出しを図っている。国民は、2025年度予算に盛り込まれた「103万円の壁」の123万円への引き上げに対し、それを上回る提案を自公に求め、単身者の生活保護費を念頭に、「生存権を保証するためには156万円以上」が必要だ、と主張するなど、その帰趨は現時点で明らかではない。維新は、高校授業料の無償化に重点を置いている。これに対して自民・公明は、2025年度から年収目安910万円以上の世帯にも、公私立を問わず年11万8800円を上限に給付する案を示した。私立高校に対しても上限額を引き上げることを求める維新と自公との決着点は、こちらも不明だ。
   
国民が要求する「103万の壁」を178万円までに引き上げるためには7〜8兆円必要。一方で、維新の所得制限を設けない高校授業料無償化には6000億円必要(維新の試算)とされる。2025年度予算を年度内に自然成立させるためには、3月2日の衆院通過、予算案の修正作業を考慮すると、野党との修正の期限は2月20日頃とされ、自公政権による国民と維新を両てんびんにかけた協議が続く。なお、石破首相は昨年末、2025年度予算案が否決されたりした場合、衆院解散も選択肢になると発言(12.28日経)しており、4月総選挙も可能性ゼロではない。
   
こうした国会の動きを国民はどうとらえているのだろうか。北海道世論調査会がまとめた1月の各社世論調査の平均値を見ると、

  • 石破内閣の支持率は
    • 「支持」36.1%、
    • 「不支持」48.2

で前月と比べてほぼ横ばいだが、

  • 政党支持率は、
    • 自民党27.0%(前月と比較して0.3増)、
    • 国民民主11.4%(同0.8ポイント増)、
    • 立憲民主8.8%(同0.3減)、
    • 維新4.2%(増減なし)、
    • れいわ3.6%(0.7増)、
    • 公明3.4%(0.3増)、
    • 共産2.4%(増減なし)、
    • 参政1.0%(0.3増)、
    • 日本保守1.1%(0.1増)、
    • 社民0.3%(0.1減)

である。深刻なのは総裁選で新しい党首を選んだにも関わらず、従来の3割台の支持率を回復できない自民党である。
   
予算に関連する個別の政策ではやはり103万円の壁が注目されており、かつ与党案の123万円では納得していないことが見て取れる、また高校授業料の無償化、小中学校の給食費無償化も多くの支持を集めている。こうした個別政策での野党の政策への支持の反面で、政権交代の期待については、朝日新聞では「今後の自民党政権が続くことに」「自民以外の政権に」が51%ある一方、読売新聞では「次の衆院選後の政権は」の問いに、「自民中心」41%、「野党中心」40%とそこまでの期待が高まっていないことも事実である。
   
今夏に予定される参議院選挙の大きな焦点は、全国に32ある1人区の結果である。2007年に29あった1人区で自民党は6勝23敗と敗北、「ねじれ国会」となり、これが2009年の民主党政権誕生につながった。2010年には、自民の21勝8敗でねじれ国会は解消、第2次安倍政権を迎えた。安倍政権の強権政治、とりわけ戦争法制の強行成立に対し、野党統一候補の擁立が進み、全体では自民党の勝利を許しつつも、1人区については2016年自民21勝11敗、2019年22勝10敗と追い詰めてきた。だが、全国的に野党共闘が後退する中、前回2022年の参議院選では1人区で自民党が28勝4敗、全体でも自民党の勝利を許す結果となった。その意味で今回の参議院選挙の1人区でどれだけ野党統一候補を擁立することができるのかが、全体の結果を大きく左右する。しかし、現状はこれにほど遠い。
   
参議院選1人区を中心とした野党の選挙方針を見ると、国民は2月11日に開催した党大会で、夏の参院選で、全国32の改選1人区に公認候補を積極的に擁立する方針を打ち出した。衆院選での躍進、堅調な政党支持率(前述)を踏まえ強気に転じた。衆院選で不振を極め、大阪万博の不人気もあって人気が低落気味の維新は、世論調査をもとに候補者を決める予備選の実施を野党に呼びかけている。共産党は「自民党と対決するのか、部分的なところで一緒になるか……、どうなるか見えない」(田村委員長)とし、れいわ新選組も、「1人区、2人区も必要があれば立てる。互助会的なところには参加しない」(山本代表)、とともに現状での野党候補一本化に否定的である。
   
このような各党の党利党略が先行する通常国会の情勢は、自公政権を利するだけではないか。物価高によって勤労国民の生活は困窮し、これ以上自公政権が続くことを許さない。野党第一党の立民は、野党のまとめ役として、2025予算案の修正を野党勢力が1つになって具体的に進めていくよう呼びかけ、参院選での1人区を中心として勤労国民・年金生活者の生活再建を目指す政策で一致する野党統一候補の擁立に全力を挙げるべきである。全国に自治体議員を持つ社民党は、野党候補一本化を地域から進める役割を果たすことが求められる。私たちも、おのおのが置かれた条件のもとで、1つでも多くの1人区で野党統一候補の擁立を図ることをめざそう。
   
(2月19日)

   
   

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