
●2025年2月号
■ 再度 政権交代の展望
宝田 公治
■ はじめに
今ほど、国民のための政権交代・「立憲を中心とした野党連立政権の樹立」のチャンスの時はない。筆者は昨年、本誌7月号で「政権交代の展望」を訴えた。昨秋の総選挙、その後の特別・臨時国会や世論調査の分析から再びこのことを訴えたい。昨秋の総選挙がホップ、来夏の参院選がステップ、そして次の総選挙がジャンプ、つまり政権交代という展望を明確にすることである。そして、これを実現させるためには、中央と地方から一体となって野党・労働者・市民が力を合わせる運動の組織化が不可欠である。
■1. 総選挙の結果をどう見るか
このことについては、既に言い尽くされているかもしれないが、私なりに整理してみたい。
(1) 自民・公明が大幅に議席を減らし、与党が過半数割れとなった。他方、立憲民主党(以下、立憲)は小選挙区を中心に大幅に議席を増やし、自民との差が43議席に縮まった。議席数だけで言うと「一強多弱」から「二強多弱」という様相となった。しかし、立憲の比例得票数は微増に過ぎず、「二強時代到来」と言える状況ではないが、「自民党一強時代の終えん」と言えるのではないか。
日本維新の会(以下、維新)は、21年総選挙で4倍に増やし、今回の総選挙では野党第一党・全国政党をめざしたが、比例を中心に減らした。他方、国民民主党(以下、国民)は4倍、れいわ新選組(以下、れいわ)は3倍と増やした。共産党は、選挙区候補を増やし(候補者の一本化はしなかった)、比例の増大をめざしたが議席を減らした。社民党は現状維持だったが、比例票は1.71%と政党要件の2%に届かなかった。一方、参政、保守党が政党要件を確保した。投票率の低さも合わせ考えると、自民の減は支持者の棄権、中道派が立憲・国民に、右派が参政・保守党に流れたと考えられる。また維新の減の多くは国民に、共産の減の多くは「れいわ」に流れたと考えられる。
改憲勢力は、改憲発議に必要な2/3(310)議席を割ることになったが、298議席を確保、その差はわずか12議席でしかない。
(2)野党共闘・候補者調整は、一部地域で何とか実現できたが全体では後退した。このことが政権交代を達成できなかった大きな理由の一つである。立憲は、本気で政権交代をめざしていたのだろうかとの疑問さえ存在する。
(3)選挙の結果は一義的には自民党旧安倍派を中心とする「裏金事件」であり、自民党への大逆風によるものだった。ただ、民意は与党過半数割れまでで、「政権交代」までの熱気はなかったと見るべきだろう。立憲は、物価高対策・子育て政策・ジェンダー平等など訴えたが、立憲への期待は政治改革が中心だったということだろう。
(4)国民の「手取りを増やす」「103万の壁」と「れいわ」の「消費税ゼロ」という主張が、両党の躍進の理由と考えられる。国民の躍進については、巧みなネット戦略がクローズアップされている。これも躍進の理由の一つであるが、もう一つの理由は(この方が本質だと思うが)、「手取りを増やす」というスローガンが、働く現役世代・子育て世代の心に刺さったということだ。そのことは、選挙の出口調査が証明している。国民に比べ立憲の「給付付き税額控除」は、貧困対策としてはよいが、国民が得票した階層とは違う。また「分厚い中間層の復活」は、国民のストレートで分かりやすい発信と比べ非常に分かりにくかった。
■2. 世論調査から見えるもの
「北海道世論調査会(マスコミ9社、10〜12月調査)の抜粋から見てみる。
- 「与党が衆院で過半数割れの不安」を、
と少数与党の状態を受入れている。また、
「与野党の論戦」を、
- 「評価する」43%、
- 「評価しない」49%(日経)
と、一定の評価を得ているようだ。今後、野党の「熟議と公開」の論戦が重要である。
- 「政治とカネ」が選挙に影響したか?
- 「そう思う」90%、
- 「そう思わない」6%(読売)
と「裏金問題」が大きく影響している。
- 参院政倫審に27人中22人が非公開を希望したことに、
と圧倒的に公開を求めている。
- 「政治とカネ問題はけじめがついたか」に、
- 「着いた」10%前後、
- 「着いていない」85%強(2社)。
これは、裏金議員にも2000万円支給や当選した裏金議員4人の自民会派入り、新たに浮上した都議会自民党の裏金問題なども理由だろう。その結果、
「石破首相の下で政治とカネ問題は解決するか」に、
となっている。
- 「政策活動費廃止法案」は全会一致で成立したが、「企業団体献金の禁止」は先送りになった。世論調査では「禁止」に、
と禁止が2倍近くになっている。
- 「年収103万の壁」の引き上げに、
となっている。
- 「手取りが増えたら」には、
と将来の生活防衛指向が強い。経済の好循環には、将来不安を取り除く社会保障改革が求められている。
- 「国民の今後の立場」に、
と、全体的には部分連合が支持されているが、
- 「与党と政権交代」23%、
- 「自公連立に加わる」は16%
に過ぎない。
- 「防衛費の増税」は、
が上回っている。「年収103万の壁」引き上げで税収減になることも影響しているのだろう。
- 「原発の新増設」は、
と、反対が上回っている。
一方、現在パブリックコメント募集中の「第7次エネルギー基本計画案」の「原発の最大限活用」には、
と、現実を受け入れている層が過半数いる。
- 内閣支持率は、石破内閣発足直後は、
であったが、10月は
と逆転、12月は
と減少に歯止めがかからない。これには、石破首相が自民党総裁選で主張していた政策が、総裁就任後真逆になったことも大きく影響しているだろう。
- 12月の政党支持率(前月比)は、
と依然低迷している。野党では、
- 国民10.6%(+1.3%)が
- 立憲9.6%(▲3.2%)
を上回った。
以上の世論調査からみえる特徴は、民意は少数与党の政治情勢を歓迎している。そして、国民に部分連合は期待しても、自公連立に加わることは認めていない。裏金問題はさらに企業団体献金の禁止を求めている。物価高対策は、国民の「手取りを増やす」に多くの支持が集まっていて、財源に関連して防衛費増税の撤回が「賛成・先送り」を上回っている。石破首相の言行不一致で内閣・自民党支持率は月を追うごとに下がっている。等が特徴と言える。
■3. 様変わりした?「新しい国会の風景」
・(1)特別国会では少数与党になったことで国会運営にも大きな影響が生まれている。
特別国会前の衆院各派協議会(未構成の議運に変わるもの)では、野党は常任・特別委員会の委員長ポストと予算委員会や政倫審の開催など会期の十分な確保を要求し、会期は与党案の4日間で決着したが、常任・特別委員会の委員長選出については、17ある常任委員会の与党:野党はこれまでの15:2→10:7に、特別委員会は、6:2→4:3(委員会の再編でポスト減)となった。立憲に配分された主な委員長ポストは、予算委員長に安住前国対委員長、法務委員長に西村元幹事長、特別委員会では政治改革委員長に渡辺周氏、審査会では憲法審査会長に枝野元代表が就任した。しかし、憲法審査会での改憲4党の動きはこれまでと変わっていないとのこと。「緊急事態条項の議員任期の延長改憲」は、4党による改憲の骨子案が合意され、4党の改憲条文案づくり、「自衛隊明記改憲」も頻繁に議論され、論点整理が目前の状況にある。
首相指名選挙では、30年ぶりの決戦投票となったが、ご承知のように野党が1つにまとまれなかったことに課題を残した。
・(2)臨時国会は、12月21日閉会の予定で開催されたが、懸案の政治改革を一歩でも進めるため24日まで延長された。通常国会でも「多数与党が政府との事前協議と数の力で決める国会軽視」から「少数与党が野党の協力を必要とするため『熟議』と『公開』の国会」へと「新しい国会の風景」が見られた。
野党側から言えば、野党がまとまれば野党案を実現することができ、選挙で示された民意に応えることになる。一方で野党各党は党勢拡大のため、単独で与党と連携(国民、維新)する弱さも持ち合わせている。与党側から言えば、野党の分断をはかりながら、野党の主張を最小限に押さえ込むことができるということである。
また、石破首相は所信表明演説で「他党からも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図れるよう取り組む」と低姿勢をアピール。「政治とカネ」については「政治は国民のもの、誠実に国民と向き合い取り組む」と政策活動費の廃止などに言及した。自民党HPにも「石破総裁自らが先頭に立って『熟議の国会』を主動していく」と決意を述べている。民主主義の観点からは、当たり前のことであって、これまでが異常だったと言わざるを得ない。
立憲は、補正予算で能登半島支援に1000億円追加する修正をさせた。予算案が修正されたのは28年ぶり、補正予算では初めてのことだそうだが、採決には反対した。他方、国民は「年収103万の壁」を178万円に引き上げる要求に、与党が「178万円をめざし、来年度から引き上げる」と歩み寄ったことで合意に至り、予算案に賛成した(来年度税制改正案では123万円)。維新も「教育無償化の協議体(自公維)の立ち上げ(合意文書なし、党内には不協和音)」に与党が合意し、予算案に賛成した。野党各党から見れば、一定の前進を勝ち取ったと言えるかもしれないが、与党側から見れば、野党を分断し、予算案を成立させることに成功したと言える。
「年収103万の壁」引き上げについては、2025年度予算案をめぐって議論される。今後の課題の一つは、税制だけでなく「社会保険料の壁」も含めた税と社会保障の一体改革として議論することである。二つは、所得が高い人ほど減税額が大きくなる問題。三つは、178万円に引き上げると7〜8兆円の税収減、とりわけ地方税5兆円減の問題などである。
「政治とカネ」については、野党7党が「政策活動費廃止法案」を共同提出した。自民党は廃止に応じる一方、支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」の新設を提案したが、野党の「ブラックボックス」批判に遭い撤回した。最終的には、与党も野党案に賛成し全会一致で可決・成立した。石破首相は国会閉会後の記者会見で、「少数与党の意見がそのまま通るわけではない。一歩でも前に進むことが大事だ」と強調している。立憲野田代表は「動かなかったテーマが具体的に前進したのは一定の成果だ」と述べている。このことが文字通り「新しい国会の風景」と言えるのではなかろうか。これが本来の民主主義である。
「政治とカネ」で残された大きな課題は、「企業・団体献金の禁止」である。現時点では「3月までに結論を得る」となっているが、見解の相違は大きい。石破首相は「企業団体献金も国民からの浄財の一種」「企業団体献金の禁止で政党助成金の比重が上がることによって、政党が国家に依存する」など禁止には否定的である。一方で、野党も一枚岩ではない。「企業団体献金」の問題点をあげれば、一つは政策がねじ曲げられ、便宜が図られるという賄賂性。二つは、議員が私腹を肥やすという収賄性。三つは、献金の多寡による政党・選挙活動の差異などである。早急に、立憲のリーダーシップで野党が共同提案できるようまとめ、実現することが求められる。
■4. 野党連立政権への展望
述べてきたように昨年の解散総選挙、特別・臨時国会の分析や世論調査からも、政権交代の声は大きくはなっているが、燃える程のものではない。しかし、読売の世論調査(12/16)でも
「次期衆院選後の政権は」に、
- 「自民党中心政権継続」41%、
- 「野党で政権交代」41%
と拮抗し、そのために
「野党は候補者を一本化した方が良い」に、
と一本化が過半数を超えているが、批判的な声も一定程度あり難しい課題ではあるが実現しなければならない。こうした情勢の中で「政権交代の展望」を検討する。
まずは、私たちの現状認識として、「少数与党の与野党伯仲という政治情勢」とは、「国民の要求を実現し、政治を国民の手に取り戻すチャンスが到来した」ということである。そして、このことを具体的に実践し、積み上げるなかで政権交代、つまり、「立憲を中心とした野党連立政権の樹立」をめざすことである。このことが「政治的統一戦線の今日的適用」ということではなかろうか。
先の衆院選でホップ→今夏の参院選(同時選挙もあり)でステップ→次の衆院選でジャンプ(政権交代)と言う展望を明確にすることが求められる。この展望にそって通常国会、参院選、都議選を各野党が統一的に戦うことが求められる。そのためにも野党第一党・立憲のリーダーシップが必須である。
通常国会では、国会内で野党共闘を形成し、国民の要求を具体的に実現していくことである。通常国会での主要な論争点は、本誌2月号飯山満論文に詳しいが、簡単に揚げると
- 「予算案、なかでも防衛費8.7兆円の縮減」
- 「政治とカネ、とりわけ『企業団体献金の廃止』『都議会自民党のパーティ裏金問題』」
- 「『年収103万円の壁』に端を発した『税と社会保障の一体改革』、『消費税減税』(立憲内では『給付付き税額控除』や『食料品の消費税を時限的にゼロ』の意見を早急にまとめること)」
- 「『給食費の無償化』(小中学校で年間4900億円。12/23立憲・国民・維新の3党で共同提案している)、『高校・大学の授業料無償化』」、
- 「選択的夫婦別姓制度の実現」
などである。
参院選の戦いについては、目標にする獲得議席数であるが、少なくとも124の改選議席の過半数は、現在与党66、野党51、欠員7なので、51→63議席。非改選も含めた過半数ならば、51→78議席で相当厳しい数字ではあるが、以下の実践が求められる。いの一番は野党共闘、とりわけ32ある1人区の候補者調整・一本化である。立憲・野田代表は「総選挙では候補者調整は成立しなかった。参院選では野党間で一本化することで、かなりの確度で自民党に勝てる選挙区が増えるので、準備をしていきたい」としている。しかし、現実は多難である。維新・国民・共産は一本化に否定的な意見が多く、れいわに至っては完全に否定している。これの克服は、国会での連携を通じて野党間の信頼関係を強め、有権者の信頼を得ること。政策実現に向けた大衆運動の実践、そして地方で野党共闘の積み上げなどで克服する以外にない。
二つは、労働組合連合である。立憲と国民の連携については求めているものの、共産党については「非共産」の立場である。このことが地方での共闘の壁になっていることを認識すべきである。また、最近ではいくつかの地方で立憲支援労組と国民支援労組がギクシャクしているところが見うけられるが、この調整も求められる。また、各構成組織の選挙闘争が弱体化している課題もある。
三つは、地方における共闘である。総選挙における北海道・宮城・新潟・長野などの取り組みにまなび、置かれた状況に合わせた共闘の強化である。
最後に、野党第一党の立憲には自民党と違う社会像を(筆者はこの間、立憲の理念である「支え合う社会」(公助の充実)と自民党の「自己責任社会」(自助の押し付け)は対立軸にある社会像だと述べてきた)示し、国民の求める政策を実現させるため、当面する参院選に向け、野党共闘・連携を強化し、参院における与党の改選過半数割れを最低目標として戦いぬくことである。
もう一度言うが、今ほど国民のための政権交代・「立憲を中心とした野党連立政権の樹立」のチャンスはない。
(1月22日記)
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