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●2025年1月号
■ 少子化進展の背景と雇用格差
    立松 潔

2023年に生まれた日本人の子どもは、厚生労働省の『人口動態統計』によれば72万7277人で、統計がある1899年以降過去最少だった。また2024年1〜6月期の出生数(外国人を含む速報値)は、35万0074人と上半期として比較可能な1969年以降で最少を更新したという。2024年は年間出生数が初めて70万人を割り込む可能性が濃くなっている。
   
「国勢調査」によれば、日本の総人口は2010年の1億2806万人から20年には1億2615万人へと191万人減少している。そして生産年齢人口(15〜64歳)は同じ10年間で8173万人から7292万人へと881万人も減少したのである。本稿ではこのような少子化の背景や課題について検討してみたい。
   
   

■1. 少子化の進展

図表1は連続金融破綻を契機にデフレ不況が深刻化した1997年から2023年までの日本における合計特殊出生率を示したものである。出生率は2005年(1.26)まで下がり続けた後で上昇に転じ、2015年には1.45まで回復している。しかしそのあと2018年の1.42までは緩やかな減少だったものの、2019年以降は大きく落ち込み、23年には1.20と戦後最悪の水準となってしまった。もっともこれにはコロナ禍の影響も大きいため、コロナ禍の終息によりどこまで回復するか、今後の動向が注目される。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
年間出生数が戦後最も多かったのは団塊の世代が生まれた1947〜49年であり、合計特殊出生率は47年が4.54、48年4.40、49年4.32であった。この3年間の年平均出生数は268万5785人にも達していたのである。当時は現在とは逆に人口の過剰が問題にされており、移民政策が推進されるほどであった。1953年には外務省に移民課が新設され、中南米などへの移民が奨励されることになった。
   
次に大幅な人口増が生じたのが、団塊世代の子どもたち(団塊ジュニア)世代が生まれた1971〜74年である。この時の合計特殊出生率は71年が2.16、72年2.14、73年2.14、74年が2.05であり、この4年間の年平均出生数は204万0407人であった。合計特殊出生率は、1974年にわずかながら人口置換水準の2.07を割り込んでおり、それ以降は一度も人口置換水準まで回復していない。1980年には1.75、90年は1.54となり、団塊ジュニア世代の子どもたちの誕生が期待された1999年〜2002年も図表1からわかるように低下を続けたのである。そしてこの「消えた第3次ベビーブーム」と呼ばれた1999〜2002年の年平均出生数は117万3183人であったが、その後さらに少子化が進み、最初に述べたように2023年には出生率1.20、出生数72万7277人となったのである。
   
   

■2.「こども未来戦略」の少子化対策

少子・高齢化と人口減少は経済にとって様々な問題を引き起こす。労働力不足、人口減少による需要の縮小、年金や医療など社会保障における現役世代の負担増などである。しかし、少子化が社会・経済面での問題を引き起こすからと言って、社会(や政府)が個人に圧力をかけて、結婚や出産を促すようなことがあってはならない。結婚や出産は個人の自由な選択に基づくべきものだからである。
   
しかし、かつては日本でも政府が個人に出産を促すよう圧力をかけていた時代があった。1941年の1月22日に近衛文麿内閣は「産めよ殖やせよ」を目指す「人口政策確立要綱」の閣議決定を行っている。そしてそこでは「個人を基礎とする世界観を排して家と民族とを基礎とする世界観の確立、徹底を図ること」が謳われ、結婚年齢を10年間で3年早め、男子25歳、女子21歳に引き下げる。そして平均5児以上をもうけることによって、昭和35年(1960年)には1億人の人口を確保するという数値目標を掲げたのである。当時の日本の総人口は7350万人であり、植民地の拡大と軍隊の増強のためには1億人への人口増の達成が必要である、という帝国主義的かつ軍国主義的な人口政策を掲げたのである。
   
このような政府による「産めよ殖やせよ」政策が誤りであることは明らかであろう。しかし、出産・育児を自己責任としてだけとらえ、社会的な支援を行わないというのも間違いである。出産・育児には大きな経済的な負担が伴うため、それを社会的に支えていく政策対応が必要である。先進諸国はいずれも出産・育児に対し積極的な財政・社会支援を行っており、これまで日本はそれに後れを取っていたのである。
   
そのようななかで2023年12月に出された政府の「こども未来戦略」は、子育て支援への今後3年間の集中的な取り組みを「異次元の少子化対策」として打ち出し、児童手当の拡充、出産や子育て費用軽減に向けた支援や保育サービスの質的向上などの政策を推進するとしている。これがどの程度の成果を上げるのかについては、今後厳しく点検していく必要があるが、子育て支援の充実が重要であることは言うまでも無いであろう。しかし、現在の少子化問題が子育ての経済的負担を軽減するだけで解決するかというと、そうではない。というのは、現在の日本では格差の拡大やジェンダー不平等の問題が少子化を引き起こす大きな要因になっているからである。そこで、次にこの問題を考えてみたい。
   
   

■3. 雇用格差の拡大と未婚率上昇

出生率低下の要因の1つとして指摘されているのが未婚率の上昇である。図表2からわかるように、未婚率は男女とも急速に上昇し、30代後半の未婚率は1990年から2020年までの30年間で男性は19.0%から34.5%に、女性は7.5%から23.6%に上昇している。そして、日本では婚外子は極めて少ないため、未婚者の増加はそのまま出生率を押し下げる要因になってしまうのである(なお、男性の未婚率が女性より高くなっているのは「夫再婚・妻初婚」の件数が「夫初婚、妻再婚」をかなり上回っているためである)。
   

(図表2・クリックで拡大します)
   
図表3は雇用形態別の未婚率を示しているが、男性の場合非正規雇用者の未婚率が正規雇用者の未婚率を大きく上回っていることがわかる。また、こども家庭庁「こども・子育て政策の強化について(試案)・参考資料」(p.11)によれば、男性の年収別にみると、いずれの年齢層でも年収が低い人ほど配偶者のいる割合が低くなっている。非正規雇用や低所得者の増加が男性の未婚率を高めることにつながっていたのである。
   

(図表3・クリックで拡大します)
   
図表4からわかるように、デフレ不況が深刻化した1997年から2012年にかけて男性の正規雇用は397.8万人(14.9%)も減少し、かわりに非正規雇用が312.5万人(93.1%)も増加している。その結果、男性雇用者に占める非正規雇用の割合は、1997年の11.2%から2012年には22.1%へと上昇し、2022年においてもこの割合(22.1%)は変わっていない。デフレ不況の深刻化に伴うリストラと非正規雇用の増加が、男性の未婚率上昇の原因だったことがわかる。
   

(図表4・クリックで拡大します)
   
なお図表3の女性の未婚率をみると、20代後半以降は正規雇用者が非正規雇用者をかなり上回っており、男性とは逆になっていることがわかる。これは正規雇用の女性が結婚や出産をきっかけに退職し、その後育児の手間が減った頃に非正規雇用者として就労するケースが多いからである。女性の場合は正規雇用でのキャリア継続と結婚・出産・育児との両立が難しいという、ジェンダー不平等の反映に他ならない。
   
また、国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』によれば、2021年の独身者に対するアンケート調査において、「いずれ結婚するつもりと回答した未婚女性」のうち、希望子ども数が0人(子どもはいらない)という回答は、正規雇用者が15.6%だったのに対し、非正規雇用者は26.0%にも達していた。正規雇用者より非正規雇用者のほうが出産・子育てを躊躇する傾向が強いのである。
   
   

■4. 女性のライフコースとジェンダー格差

少子化の背景としてもうひとつの大きな問題はジェンダー格差である。日本では未だに育児は女性の仕事という考えが根強く、女性が子育てをしながら仕事上のキャリアを維持することが難しくなっている。そのため、キャリアを維持するために結婚や出産を断念するか、逆にキャリアをあきらめるか悩む女性が少なくないのである。そしてその結果、多くの女性が結婚や出産を契機に退職し、子育て期間終了後に(多くは非正規雇用として)再就職することを選択しているのが現実である。
   
しかし、最近ではキャリア重視の生き方を選ぶ女性が増えているようである。図表5は18歳から34歳までの未婚女性に「理想の人生」と「実際になりそうな人生」について聞いたアンケート結果である。それによれば、理想とする人生としては、「結婚し、子どもを持つが、仕事も続ける」という「両立コース」の回答が前回調査(2015年)の32.3%から34.0%に増加し、第1位となっている。
   

(図表5・クリックで拡大します)
   
これに対して「結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」という「再就職コース」を理想とする回答は、2015年調査で34.6%を占めていたが、今回の調査では26.1%に減少し2位になっている。また「結婚し子どもを持ち、結婚あるいは出産の機会に退職し、その後は仕事を持たない」という専業主婦コースを理想とする回答は、2015年の18.2%から今回は13.8%にまで減少している。そしてこれに対し、「結婚せず、仕事を続ける」という「非婚就業コース」を理想とする回答は、前回調査の5.8%から今回は12.2%へと増加し、「専業主婦コース」に迫っているのである。
   
しかし、今回の未婚女性に対するこの調査において最も深刻な結果は、「実際になりそうな人生」の予想が、「理想とする人生」と大きく異なっていることである。特に注目されるのが、実際になりそうな人生として「結婚せず、仕事を続ける」という「非婚就業コース」を予想する回答が、前回調査の21.0%から急増し、33.3%で第1位となったことである。他方で前回トップだった「再就職コース」は31.9%から22.7%へと大きく減って3位となり、前回3位の「両立コース」が第2位になっている。
   
このように、「理想とする人生」としては12.2%しか望んでいない「非婚就業コース」が「実際になりそうな人生」の予想で、第1位になっているのは、多くの女性が結婚・出産と仕事との両立の可能性について悲観的に考えているからに他ならない。図表3が示している、正規雇用で働く女性は40代後半になっても未婚率が27.1%という厳しい現状を反映した結果なのであろう。
   
しかし、このままでは今後女性の未婚率がさらに増加し、出生率の低下が進むことになりかねない。女性のキャリアと結婚・子育てとの両立が可能な雇用環境の確立こそが、未婚率を引き下げ、出生率を上昇させるための重要課題であり、この方向での取り組みが企業や政府に求められているのである。
   
   

■ おわりに

コロナ禍からの景気回復とともに、人手不足が深刻化し、少子化の影響が取り沙汰されている。総務省「人口推計」によれば、2017年から22年にかけての5年間に生産年齢人口(15〜64歳)は175万人(2.3%)も減っている。しかし「就業構造基本調査」によれば、15〜64歳の雇用者数は逆に5130万人から5183万人へと53万人も増えているのである。そしてそれを可能にしたのが、女性雇用者の増加であった。この5年間で生産年齢人口の男性雇用者は38万人減少しているのに対し、女性は91万人も増加しているのである。専業主婦など無就業の女性が就労することで雇用者の拡大がもたらされたのである。しかも注目すべきことに、同じ時期に15〜64歳の非正規雇用の女性は59万人も減少し、代わりに正規雇用が150万人も増えているのである。
   
このような非正規雇用の減少と正規雇用の増加という方向での雇用の改善が、今後女性にとって仕事と出産・育児との両立と結びついていくのかどうかが問題である。女性の雇用面での改善が仕事と子育てとの両立という課題と結びついて進むことが、出生率の回復のための必要条件だからである。
   
   

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