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●2024年8月号
■ 解散総選挙に向け共通政策の絞り込みを
    足立康次

■1. はじめに

4月の衆院3補選以降続いた自民系候補敗北の流れは、転換しつつあるのか。6月16日投開票された沖縄県議会議員選挙では、玉城デニー知事を批判する「反知事派」が28議席と過半数を獲得し、県政与党は20議席と開戦前に比べ4議席減らした。「反知事派による、玉城県政は政府と連携ができず経済対策が遅れている」との主張が県民に浸透したことが指摘されている(日経6.17)。こうしたさ中、沖縄県の米軍基地に所属する兵士が、少女を誘拐し、性的暴行を加え、3月に起訴されていたことが、投開票後の6月25日明らかになった。県民の安全よりも県議会選での反知事派の勝利を優先する現政権の姿勢が如実に示された。沖縄県議会は政府と米国に対し、被害者への謝罪、補償と、再発防止、県及び関係市町村への迅速な通報、日米地位協定の抜本的見直しを求める意見書・抗議決議を全会一致で可決した。県議会の新しい勢力分野の中で、そして「台湾有事」を口実とした米軍・自衛隊の増強により、玉城知事の県政運営は今後より困難となることが予想されるが、県民の生活と安全を守るために奮闘されることが期待される(詳細は、本誌新垣毅論文を参照)。
   
7月7日投開票の東京都議会議員8補選では、8選挙にすべてに候補を立てた自民党が2議席(選挙前5議席)しか獲得できず、自民党はだめという都民の声が示された。都知事選は、自公両党に依拠した組織戦に徹しつつ、表向き政党の支援を受けていないとした小池百合子都知事が3選を果たし、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が160万票余りを獲得、立憲・社民・共産が推薦した前参議院議員蓮舫氏は3位の128万票余りの結果になった。
   
都知事選の投票率は前回を5.62ポイント上回った。出口調査を見れば、これも含めた無党派層の票は、多くが小池氏と石丸氏に向かい、蓮舫氏はそれを下回り、40代以下の世代の無党派層の支持で顕著である。そこには若年・壮年層の立憲野党を含む既存政党に対する不信がある。蓮舫氏は、若者の高額の奨学金返済などの就学環境の改善、低賃金・不安定雇用の解消を訴えたが、当該の若者に届いたのか、投票行動に結びついたのか、総括の1つのポイントになるのではないか(詳細は、本誌羽田圭二論文を参照)。
   
   

■2. 空前の利潤を上げ続ける独占資本

独占資本は、2011年の東日本大震災を契機に、当時の民主党を中心とする連立政権に対して、「六重苦」の改善を要求した。六重苦とは、

  1. 円高、
  2. 経済連携協定の遅れ、
  3. 法人税高、
  4. 労働市場の硬直性、
  5. 環境規制、
  6. 電力不足・コスト高、

とされ、それは民主党政権の「アンチ・ビジネス」を批判し、自民党政権の復活を求める政治的宣伝として利用された。
   
2012年政権の座に復帰した第2次安倍政権は、独占資本の意に沿って着実にこの「六重苦」の「解消」を進めてきた。大規模な金融緩和は、結果として極端な円安を生み出した。輸出関連企業はこのことによって莫大な利潤を上げるに至った。 財務省が発表した2023年度の国の税収は72兆761億円と、4年連続で過去最高を更新した。補正予算編成時の見通しと比べ2兆4651億円増。内訳は所得税7579億円、法人税1兆1986億円、消費税1002億円の増。財務省によると、法人税が増えた業種は自動車や電気・ガスなどであったという。トヨタの23年度営業利益が5兆3500億円あまり(グループ全体の決算)となっていることに象徴されるように、円安で輸出産業が儲けていることが特徴だ。
   
この円安が私たち労働者階級には、物価上昇をもたらした。23年中対前年同月比3%台であった消費者物価(総合)は、23年11月から2%台に低下したものの、引き続き上がり続け、直近5月のそれは2.8%となっている。
   
この結果、労働者の実質賃金(5人以上企業の現金給与総額の対前年同月比・毎月勤労統計)は、22年4月以降、24年4月までマイナスを続けている。家計調査を見ても、2人以上勤労者世帯の22年4月の消費支出34万4126円に対し、24年4月のそれは34万5020円に過ぎない。物価高の中で消費を切り詰め、共働きで収入を確保している勤労世帯の姿が浮かび上がる。円高の解消、円安の進行はなるほど輸出産業を中心とする独占資本の利益にはつながったが、労働者の生活にはマイナスの結果しかもたらしていないことはだれの目にも明らかである。
   
法人企業統計から、資本金10億円以上の企業(金融・保険を除く全産業)の動向を見てみると、日本の労働者の賃金が最高額を記録した1997年度の経常利益は約15兆円余り、これが22年度には57兆3000億円余りとなっている一方で、従業員給与(一時金は含まれない)では、約44兆円だったものが、34兆円余りに減少している。ではこの儲けはどこに消えたのか。極端に増えたのは株主配当金である。97年度3兆円に過ぎなかった株主配当金は、22年度には24兆6000億円余りとなり、実に6倍に膨れ上がっている。それでも処理しきれない資本は、現金・預金として積み上がっている(97年度約39.5兆円が、22年度では81.5兆円に)。
   
この間に進行したのは非正規雇用の増大である。1997年(2月)の非正規雇用労働者数は1043万人(雇用者数の23.2%)であったが、2024年(1〜3月平均)は2110万人(同37.1%)に増加した。2012年(1〜3月平均)でも1805万人であったから、約300万人非正規が増えた計算になる。公務職場における民間委託化の推進、民間企業におけるアウトソーシング化の進行は、非正規労働者の存在によって支えられてきた。低賃金と過酷な労働条件による低価格での受託が日本経済を蝕んできた。長時間労働のまん延と不安定雇用は少子化を加速し、岸田首相自らが「この6、7年がラストチャンス」(23年3月)と言わざるを得ない事態に立ち至っている。
   
   

■3. 人手不足が作り出す情勢の転換

1995年に約8725万人であった生産年齢人口は、2024年1月概算値で約7397万人と、約1330万人減少した。独占資本は、この生産年齢人口の減少を高齢者、女性の「活用」(安倍元首相の「女性活躍」もこの文脈で語られた)によって乗り切ろうとしてきたが、それはあくまでも非正規雇用としての活用であった。そして、こうした非正規労働者の活用を通じた低コストによる受託という労働者使い捨てのビジネスモデルは、限界に達し、破綻しつつある。
   
新聞紙上で「人手不足」が叫ばれ出したのは2017年に遡る。リーマンショックを受けて2009年7月には5.5%まで悪化した失業率は東日本大震災での失業者数増などあったものの、ほぼ一貫して低下し、2017年10月には2.7%となった。新型コロナ感染症の流行により飲食・観光業などで需要が蒸発し、失業率は2020年12月に3%台まで悪化したものの、再び下降を続け、2022年からは2.5%台でほぼ底をうった状態となっている。とりわけ、

  • 情報処理・通信技術者(4.84)、
  • 医療技術者(2.77)、
  • 運輸・郵便事務従事者(3.15)、
  • 介護サービス職業従事者(3.61)、
  • 生活衛生サービス職業従事者(3.01)、
  • 保安職業従事者(5.53)、
  • 建設・採掘従事者(4.68)

で有効求人倍率が高くなっている。
   
人手不足は、労働力市場での労働力の売り手である労働者に有利に働く。このことが端的に実感されたのが23年春闘であった。連合は23春闘にあたり、5%程度の賃金引き上げ(定期昇給含む)を要求に掲げた。その結果は、最終集計(第7回23年7月3日時点)によれば、定昇相当込み賃上げ計は加重平均で1万560円・3.58%、賃上げ分が明確に分かる組合の賃上げ分は5983円・2.12%となり、2015年春闘以降で最も高くなった。しかし、大手企業を中心に組合要求に対して満額回答、さらには要求を上回る回答を示す会社が続出し、「要求額が低すぎる」との批判を浴びることとなった。前述の通り物価の上昇は賃上げを上回り(2022年度消費者物価上昇率・総合は対前年度比3.2%)に達しており、連合傘下の組合に限定してもその多くは実質賃金プラスを果すことはできなかった。ましてや労働組合が組織されていない企業における賃上げは一般的に連合傘下の組合のそれよりも低く、毎月勤労統計に示される実質賃金は、23春闘を経ても対前年同月比マイナスを続けることとなった。
   
こうした結果を受けて連合は、24春闘で5%以上の要求を掲げることとなった。ちなみに23年度の消費者物価上昇率(総合)は3.2%であり、定期昇給相当分を仮に2%程度とすれば、昨年の取りこぼし分も含め、「以上」の積み上げが求められた(詳細は、本誌6月号松上隆明論文など特集論文を参照頂きたい)。
   
独占資本は、人手不足の中で新たな人材を獲得するために初任給部分での引き上げを繰り返している。中小企業も可能な限り追随しているが、本誌7月号で全国一般長田順次氏が指摘されていたように60歳以降の賃金を改善し、人材のつなぎ止めを図る中小企業も見受けられるという。置いていかれているのは中高年層である。ここで改めて強調されなければならないのは、全体の賃金水準である。非正規から正規への登用の道が作られたある企業では、当初設定された最終到達賃金(年収約450万円)は変わらないまま、初任給をはじめとする若年層賃金が引き上げられ、1年ごとの昇給が1000円に満たないという。これでは労働者全体の賃金が引き上がることはない。今の日本で人間らしい生活をし、子どもをもち、育てることができる賃金水準はいくらなのか、このことが春闘に問われている。
   
   

■4. 政治の混迷から脱却する道は?

マグニチュード7.6、最大震度7を記録した「令和6年能登半島地震」では、6月25日現在、死者260人(うち、災害関連死30人)、負傷者1323人、住宅被害は全壊が8408棟、半壊棟2万1296棟、一部損壊9万6247棟(以上6.25消防庁)とされるような深刻な被害がもたらされた。しかし、その被害の大きさにともに指摘されるのが、その復興への歩みの遅れである。もちろん半島という地理的な条件は加味されなければならないが、インフラ復旧の遅れ(電気ガスはおおむね復旧したものの、水道の断水は輪島・珠洲両市において約1800戸以上で続いている(5.31石川県HP)。
   
石川県発表による7月8日現在の被災建物の全体の申請棟数(2万2983棟)に対する公費解体の進捗状況は、完了が約3.5%にすぎない(その他緊急解体、自費解体を含めた解体完了棟数でも5.8%)。2016年に発災した熊本地震では発生時約18万人が避難(能登半島地震では最大5275人が避難)したが、発災から5カ月後の9月30日時点での避難者数は335人、一方、能登では発災から6カ月経過した7月1日現在でも1116人の方が避難生活を余儀なくされている。
   
その原因はどこにあるのか。第一にあげなければならないのは、復興の担い手の不足であろう。2000年代の小泉新自由主義路線による地域経済の破壊、とりわけ公共事業の削減により建設業者の廃業が相次いた。全国の建設業許可業者数は、最も多かった2000年3月末時点から全国で▲21.0%減少した。そして石川県においては、これを上回る▲25.5%が減少した(国土交通省2023年)。そして、担い手の高齢化も指摘されている。
   
復興にさらに冷や水を浴びせたのは、4月9日の財政制度等審議会財政制度分科会での、「人口減少が進む中で、…持続可能な社会を作っていくことが必要…、コンパクトシティを前提としながら、国土のグランドデザインを描いていくべき。…災害が頻発化・激甚化する中で、事前防災の観点から、危険性の高いエリアに国民が住まないように規制していくことも重要。…能登半島地震からの復旧・復興に当たっては、地域の意向を踏まえつつ、集約的なまちづくりやインフラ整備が必要」(議事要旨から)との議論であった。
   
高齢化、人口減少が進む中で、商業など都市機能と、医療・福祉、教育など公的サービスを中心部に集約し、住民も集住されることによって、効率的な都市運営を図るというコンパクトシティ構想は、すでに1990年代半ばから国土交通省サイドから象徴されてはじめた。平成の市町村合併はそのための実施主体である自治体の再編、集約化を目的に行われた。集約化を前提として復興は、周辺部での復興を抑制し、人が住めない地区を拡大するものと言えるだろう。
   
自民党派閥による裏金づくりの発覚は、物価高、不安定雇用、低賃金に苦しむ勤労国民の怒りを引き起こした。それは、自民党政権、そして岸田内閣への不支持の拡大として現れ、各種選挙における自民党候補の落選、後退に如実に表れた。同時に、今回の都知事選挙に示されたように、その不安、不安を解決する存在と立憲野党がみなされていない現実を認識しなければならない。北海道世論調査会集計によると、次期衆院選で「政権交代を」望むとする割合は3社平均で47%あるが、「政権継続を」とする回答も38.9%あり、これは内閣・自民党支持率をいずれも上回っている。衆院選後の政権について尋ねた読売(6.24の調査では、「野党中心」(42%)よりも、「自民中心」(46%)が上回っている。
   
213国会を振り返っても、焦点とされた政治資金規正法が、自公両党と維新の会の不透明な修正の駆け引きの末に、ほとんど実効性のないまま改正されたことをはじめ、子育て財源を社会保険料に求める子育て支援一括法案、経済クリアランス法、地方自治法など中央集権化を進める一連の法案が成立してしまったことは、立憲野党、とりわけ立憲民主党の存在感を薄め、勤労国民の期待を削いだことは否めない。野党も含めた既成政党への失望がこの結果に表れているとみていいのではないか。
   
しかし、立憲野党のふがいなさを嘆いて済む話ではない。彼我の力関係を考えた時、我々の陣営は小さく、弱いことは明らかだ。労働組合の組織率は17%を割り、その連合ですら、立憲・国民に分立し政治的統一には程遠い。だからこそ我々は、現状を少しでも改善する施策を提示し、広く戦線を統一する働きかけを強めることが求められる。それぞれがおかれた異なる環境の中にあって、戦線統一のための共通課題を押し上げていく必要がある。
   
強調すべきは物価高のもとで苦しむ生活を改善する問題である。導入当初から低所得層ほど負担がのしかかる逆進性が指摘されてきた消費税減税については、税率は維持しつつ、給付付き税額控除の導入を掲げる立憲民主党と、税率の緊急の引き下げ(共産党)、廃止(れいわ)、当分の間引き下げ(国民)、3年間ゼロ(社民党)などの政策が分立している。早急な政策の調整が求められる。
   
所得の改善では、最低賃金の全国一律による引上げと中小零細企業への補償、物価上昇を完全に補填する年金給付のための特別措置が必要であろう。また、独占資本をはじめとする発注元による価格転嫁の妨害にも徹底した摘発と改善が求められる。
   
働く者の賃金の引き上げは一義的に労働者、労働組合の闘いによるべきものである。あわせて未組織職場の労働法違反を摘発するための人員増を主体とした労働行政の体制強化が必要である。さらに、労働組合への弾圧、妨害の摘発強化が求められよう。
   
財源の面では、95年より一貫して引き下げられてきた法人税率の引き上げ、そして岸田首相が政権発足当初に掲げたものの、富裕層からの反発で早々にひっこめてしまった、いわゆる「1億円の壁」、すなわち金融所得の総合課税制度の導入も上げられなければならない。あわせて、5年間にわたる軍事費43兆円という大軍拡の中止で、社会保障財源を確保する必要があるだろう。
   
自民党総裁選を見据えたポスト岸田の動きは活発化している。次期衆院選挙を見据えた立憲野党の早急な政策協議が求められている。
   
(7月19日)
   
   

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