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●2022年11月号
■ 胎動し始めた米国の労働運動と社会主義運動
    北村 巌

■ 米国で労働組合支持率が歴史的な高さに回復

民間世論調査会社のギャロップ社が、毎年調査している労働組合に対する米国民の支持率が2022年8月の調査で71%に上昇した。これは1965年以来の高さへの回復である。リーマンショック後の2009年には48%まで落ち込んでしまっていたが、この10年間程度で緩やかに上昇を続けてきた。
   
米国の労働組合組織率は1970年代から低下し、2021年には10.3%(労働省)まで低下した。これは比較可能な最初の年である1983年が20.1%であったことと比べ、おおよそ半減していることになる。組織率は公共部門、特に教員や図書館といった職場で高く、民間は6%に過ぎない。実際の組織率が低いにも関わらず、世論は労働組合に期待し始めており、組合結成はやりやすくなってきているはずであるが、それが実際の組織率上昇に現れてくるかが課題となっている。
   
夫人が教員組合の活動家であるバイデン大統領は、自身がこれまででもっとも親労働組合の大統領であると演説している。政府としても労働組合組織率を上げようという方針であり、これも世論の動きと同期している。
   
そうした世論や政府の態度変化を受けて、新興民間企業において労働組合結成の動きが表面化してきた。米国では日本と違い職場で労働組合を結成するためには、公的機関である全国労働関係調整委員会(NLRB)に管理された投票によって、職場の労働者の半数以上の賛成を勝ち取らなければならない。逆に結成がされれば、会社側に第二組合をでっち上げられることはなく、その組合が労働者の代表として唯一の交渉団体となる。
   
しかし、職場労働者の半数の賛成票を実際に獲得するのはかなりハードルが高い。組合側が周到に準備しても、結成の動きが会社側に知られると、会社側は組合潰しを専門とするコンサルタント会社を雇って違法な手段を含むさまざまな方法で労働者の分断を図ってくる。事前に7割程度の賛成意見を集めておかないと実際の投票では半数に満たないケースが多いという。
   
最近では通販大手のアマゾンやコーヒー店チェーン大手のスターバックスで組合結成が相次いでいる。アマゾンでは倉庫労働者が立ち上がり、組合結成が相次いでいる。スターバックスでは店ごとの結成投票となるので、職場の少数の知った顔同士での賛否になるが多くの店で圧倒的多数での結成に至っている。スターバックスにおける組織化は急速に進んでおり、昨年8月にニューヨーク州バッファローでの結成表明(NLRBへの申請)をきっかけに今では200カ所以上で組合結成が進んでいる。
   
これに対して、アマゾンやスターバックスの経営者側は、団体交渉の要求を無視し、組合結成に至った主要リーダーを解雇したり、組合員への賃金差別を始めたり、NLRBの決定を無視して組合潰しに動いている。これに対して、労働者はストライキで対抗し、経営側に団体交渉に応じるよう要求している。ボストンのある店舗ではハラスメントを行っているマネージャーの更迭を求めて64日間のストライキを行い、経営側に問題マネージャーの調査を約束させ、勝利宣言を行った。また、連邦検事局もスターバックスの労働組合への対応が違法であるとして10の都市でスターバックスを告訴している。この動きも労働者側に自信を持たせているようだ。
   
公共部門で組織率の高い教員組合の活動も活発である。最近では教育委員会による特別教育(養護)の予算削減案に反対してシアトルの教員組合6000人が1週間のストライキを行い、夏休みからの開校を遅らせるといった闘いを行った。妥協案で収拾せざるをえなかったようではあるが、闘いに参加した活動家はストライキ決行の決定が行われた日は人生最良の日だった、と語る。
   
これらの動きは全体から見ればまだ小さな動きに過ぎないが、闘いはSNSなどを通じて拡散され、若い世代に大きな影響を与え始めている、と言えるのではないだろうか。
   
   

■ 若者中心に社会主義運動が活発化

2016年の米国大統領選挙で民主党の候補者を決める予備選挙において、ヒラリー・クリントンに対抗して左派的な立場から出馬したバーニー・サンダース上院議員がかなりの接戦を演じた。この選挙運動には多くの青年・学生が社会変革を求めて賛同・参加した。この動きを捉えて青年層を中心に大きな組織拡大を果たしているのが「アメリカ民主社会主義者」(Democratic Socialists of America=DSA)という活動家集団である。
   
DSAは政党ではない非営利団体という位置づけであるが、事実上はかつてのアメリカ社会党の後継組織とも言える団体である。1972年にアメリカ社会党が崩壊してから、その左派の流れを汲む民主的社会主義組織委員会と学生運動から生まれた新アメリカ運動の2つの団体が1982年に合併してできた組織である。メンバーは民主党や緑の党に加入して選挙を戦うという方法をとっている。
   
2015年頃まではベトナム反戦運動世代を中心に6000人程度であったメンバー数が、2016年以降、急速に加入者が増加し、現在のメンバー数は昨年夏の段階で9万5000人に達しており、さらに増加しているようである。メンバーの年齢も若返りしていて平均30歳程度ではないかとされている。全く新しい組織に生まれ変わったとも言えそうだ。
   
なぜ、アメリカでこのように社会主義運動が伸びているのか、DSAの活動家のCさんに話を聞いてみた。Cさんは4年前に加入し現在は地域の組織評議会の一員として活動している。
   
まず、なぜDSAが伸びているのか、であるが、Cさんは圧倒的にバーニー・サンダース効果であるという。2016年の大統領選挙でバーニー・サンダースが民主党の大統領予備選挙で善戦したことが、多くの左派的心情を持つ人々、特に若年層に左派政治勢力の可能性を感じさせ勇気づけた。DSAがサンダースの支持団体として有力であったことから、ここに結集しようという動きになったと言う。Cさん自身もその1人であるというわけだ。
   
DSAは活動家集団であるとはいえ、その組織はかなり政党的である。地域ごとに地域本部(チャプター)があり、現在は全国で238カ所に上る。それぞれが非営利団体として法的には個々の団体となっている。DSAはその連合体という形態をとっている。全国的には空白地域も多いため、DSAは空白地域での地域本部結成を呼びかけている。
   
地域本部では全体集会が月1回開かれて参加メンバーの1票ずつの投票でさまざまな決定がなされる。幹部による意思決定が先行するのではなく、メンバーの参加がかなり保障されている制度が整っている。ただし、全体集会といっても参加率はそう高くはないそうだ。Cさんの所属する組織での全体集会への参加率は概ね2割で、出席する人は決まっており、活動する人とそうでない人に別れているのが問題であると言う。加入したものの会費を払うだけという人も多いという。それも財政寄与で良いことだが、課題はいかに実際に活動する人を増やすか、というのがC氏の考え。加入要件がゆるすぎるからではないか、と質問を向けてみたが、あまりにきついよりはまずは加入してもらい、それから活動への呼びかけをする方が広がるのではないか、という点で意見は一致した。
   
DSAの場合にはDSAのホームページからクレジットカードか銀行口座からの引き落としで月会費を納める手続きをして加入を申し込めば会員になれる。選挙権のない外国人も加入でき、特に既存メンバーの推薦なども必要としていない。全国で唯一シアトル市議会に議席を持っているSocialist Alternativeという団体は面接などの加入要件が厳しく、申込から承認まで数カ月かかるので、これではメンバーは増えない、とC氏は批判する。
   
Cさんの所属する地域本部の最近の月例の全体集会には会場に40人、ZOOMでの参加が110人程度で150人ほどの参加だったという。会員の10%程度の参加である。ここでは、大きな議案として、これまで専従者がいなかった地域本部に、パートタイムの専従者を置くとの提案が行われた。提案者は地域本部の役員が中心だが、あくまで執行部提案ではなく、賛同者の共同提案という形で行われるようだ。2名を雇用する原案に対する修正動議(1名に絞る)が提出され、賛成・反対の討論が行われた結果、動議は反対多数で否決された。
   
そのほか、中絶禁止反対の行動への参加(費用負担)、中絶禁止反対のワーキンググループの結成と、併せて3つの提案の採決は集会参加者による72時間以内のネット投票で行われるとのこと。これにはネット投票サイトが利用されている。
   
地域本部にはいくつか運営の役割ごとの評議会があり、組織、国際、技術(IT)、データ、警備、会員への参加呼びかけ、といった役割を分担している。この人々が役員と言える存在のようである。
   
また政策テーマによるワーキンググループがあり、Cさんの地域本部では労働、選挙、環境社会主義、健康、住宅などとなっている。会員が全体集会に提案して新しいワーキンググループを作ることも可能なようで、今回の中絶禁止反対のワーキンググループもその1つである。その他、グループは自由に形成できるようで、マルクス主義文献を読むグループ、つまり古典学習会といったものもある。
   
この地域本部では隣接する黒人労働者の多い地区における組織の確立が課題とされている。実際に現在のメンバーはほとんどが白人でアジア系やヒスパニック系が多少いる程度で黒人の参加者は非常に少ない。インテリ中心の運動という面を克服していくことが課題のようである。
   
地域本部の下にさらに市議会の選挙区ごとに分かれた地区があるが、特に決議機能のようなものはないようだ。市議会における推薦候補者の選挙運動を担うといった役割がありそうだが、推薦候補のいない地区もあるので、地区によって活動には差がありそうである。
   
活動についての連絡、大衆行動への呼びかけ、意見交換やドキュメントの配布などには、Slackというアプリケーションが使われており、Googleのファイルシステムなどとも連携して「活動」が行われているようだ。この辺りは若い人が主導してITの活用を十分に行っている様子である。
   
会員数は増加しているものの、辞める人も多く、出入りが大きくなって全体数はやや頭打ちになってきているそうで、活動する人を増やすことが急務であるとの問題意識をCさんは持っていた。
   
Cさんの所属する地域本部では、これまで予算というものを作っておらず、その時々で200ドル以上の支出を全体集会で承認するという方法だった。専従者を置くことにもなり計画的に組織活動を強化していくために予算を策定するとの提案がされ、10月の全体集会で承認された。急激に膨らんだ組織の整備はまさにオン・ゴーイングという段階であろう。
   
   

■ DSAを構成する各傾向

DSAは規約第二条で「私的利益、疎外された労働、富と権力の偏在、人種・性別・性的傾向・ジェンダー表現・障害・年齢に基づく差別によって基礎付けられた経済システムを拒否するが故に我々は社会主義者なのである。資源と生産の民主的制御、経済計画、公正な分配、フェミニズム、人種平等、抑圧的でない関係に基礎付けられた人間社会の秩序という展望を共有するがゆえに我々は社会主義者なのである。この展望を実現するため、またアメリカにおいて民主的社会主義をリアルなものにする多数派運動のための具体的な戦略を発展させているが故に我々は社会主義者なのである。我々は、そうした戦略は、アメリカ社会の階級構造とそれが巨大な経済権力と圧倒的多数の民衆の間の基礎的な利害の衝突をもたらしていることを認識しなければならないと考える」としている。この基礎的な合意のもとにメンバーにはさまざまな思想傾向があり、また受け入れられている。
   
DSAにはいくつかの分派が大っぴらに存在している。組織になっているものもあれば、組織としては確立していないが、DSA全体の執行機関である全国政治委員会(National Political Committee=NPC、選挙で選ばれた18名で構成)の選挙対策におけるグループという形のものも存在するようだ。実際には諸傾向の均衡がとれたNPCが構成されているようである。
   
以下、主要な分派について簡単に紹介していきたい。

  1. Bread and Roses(パンと薔薇)
    DSA中最大の分派であり、DSAのNPCで3名を得ている。自らをマルクス主義者の集まりとしており、DSAを多人種の労働者に根ざして強化する、としている。また、トランプ主義を敗退させ、戦闘的左翼かつ民主的労働運動の再建、医療皆保険、グリーン・ニューディールを勝ち取ること、全ての被抑圧人民の平等と解放のために闘い、民主党による進歩的政策に対する背後からの抑えつけを終わらせる、とする。インターネットラジオ(podcast)“the CALL”を運営している。
  2. Socialist Majority Caucus(社会主義多数派)
    この分派からも全国委員会に3人選出されており、ニューヨークのような鍵となる地方本部(チャプター)で影響力を持っている。もっとも喫緊の課題を、社会主義多数派を形成することであるとし、DSAが他の進歩的団体と共闘することにも積極的であるようだ。Transformative Reform(構造改革?)に力点を置いているように見受けられる。
  3. Green New Deal Slate(グリーン・ニューディール)
    この分派も全国委員会に3名選出されている。Workers And The World Unite!を標語とし、環境問題が21世紀の社会主義のキーとなるとする。主に環境社会主義を基調としている。DSAを政党的なものに建設するという路線のようであるが、組織というよりも全国委員会選挙のためのグループということのようだ。
  4. DSA Renewal(DSA改革)
    全国委員会選挙のためのグループで、全国委員会には2名選出されている。労働者階級に深く根ざした大衆組織を建設するとしている。反帝国主義、意識的な組織拡大、民主的な構造と組織、戦略的なキャンペーンによって、DSAを労働者階級の力の手段に転換する、としている。
  5. Libertarian Socialist Caucus(リベタリアン社会主義)
    この分派は「DSAが複数の傾向を持つ社会主義大衆組織であることを評価し、DSA内に国家を超えた社会主義について議論し、組織する余地を作っていきたい」「社会主義の原則である生産手段の共有化は、労働者所有企業、ラジカルな労働組合、労働者と地域の委員会、住民会議、信用組合や現在とは違う銀行システム、コミュニティの土地トラスト、その他の直接民主主義的な組織によってのみ達成できると信じる」とする主張を行っている。
    また社会主義政党や社会主義政権はこれらの分権的な草の根組織より下位に置かれるべきである、としている。
  6. Reform and Revolution(改革と革命)
    この分派はマルクス主義を標榜している。経済的不平等、人種差別、性差別、あらゆる種類の抑圧と闘う、としている。分派の役割を、DSAを労働者階級や被抑圧者の闘いに根ざした大衆政党にすることである、とする。

このようにDSAは科学的社会主義の政治団体ではないが、マルクス主義的な社会主義観を主流としながら、環境社会主義、リベタリアン社会主義やキリスト教社会主義なども含む幅広い大衆的な社会主義運動として成立している。労働運動や平和運動、差別反対運動など大衆運動の上での大きな違いは生まれておらずアメリカの社会運動の中でかなりの力を持つ組織に育っていく可能性があると言えるだろう。
   

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