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●2022年6月号
■ 参院選で問われる経済政策の焦点
    伊藤 修

■ 前置き――ウクライナ侵攻をめぐって

本稿は、参院選で争点になるだろう(あるいは、しなければいけない)経済政策の問題を論ずる。ただその前に、すべての前提になる緊急事なので、ロシアのウクライナ侵攻に少しだけふれさせてほしい。
   
まず最初に、戦争の残虐さを悪として非難する世論になっているのは、健全で、最も大事なことだと思う。他方、おかしいところもある。アメリカも侵攻を重ねてきたことに、報道はいっさいふれない。どの国だろうが侵略や残虐行為は悪い。“NO WAR!”が根本である。
   
ところで安倍晋三が「バイデンも欧州もミスをした(おれならもっと賢くやる)」といった発言をしたようだが、左派からも含めて、同類の妄言がうるさい。「ウクライナにナチっぽいのがいるらしい」「ゼレンスキーも問題」「NATO非加盟で妥協しておくべきだった」等、「ロシアにも事情あり」「双方に問題あり」ということらしい。
   
この種の論評は古色蒼然たるパターンで、視野が広くて賢く見えると思うのだろうが、勘違いであり犯罪的だ。現に殺戮が行われているときに、そんな小賢しい「知識」に何の意味があるか。
   
戦争とは何だ。人殺しである。そして善悪の基準は、「国民にとって良いことか、悪いことか」に尽きる。これ以外にない。国民にとって悪いことだから、侵攻や戦争は悪い。
   
なお国家権力が悪いのであって、「ロシア兵」抹殺や「ロシア人」吊るし上げの方向に行くのは、国民と権力を混同するまったくの誤りだ。
   
右の本筋から外れること、つまり国民の事情でなく権力側の事情を考慮することは、いっさい言うべきでない。そういうことを言うなら、ナチスにも、旧日本軍の中国侵略にも、ソ連のハンガリーやチェコ侵攻にも、虐殺にも、それなりの「事情」があったことになってしまう。
   
もう1つの間違いは、「現実的にはやはり軍事力強化、軍事費の増額が不可欠」という方向へ行くことである。要は「敵が攻撃をためらうような報復力」をもつことだと。
   
しかしこの「常識」を冷静に考えてみると、「敵の攻撃前の報復」とは先制攻撃であり、他国にとって日本の脅威が極度に強まることだ。これこそ危険であり、現実的に、まったく正しくない。ここは、最重要な争点になる。
   
この点に関して筆者は古賀茂明「ウクライナも尊重する憲法九条」(『週刊朝日』5月27日号:AERA dot.(→リンク先を開く))にほぼ完全に賛成なので、ぜひ参考にしてほしい。次の趣旨を述べている。――たとえば強権国家との緊張が高まったとき、「あの平和主義の尊敬すべき日本」が脅かされていると世界が思うか、「あの米国のポチ日本」なら敵視されて当然と見られるか、その分かれ道であることを現実的に考えようと。
   
昨今、屁理屈のうまい連中の声がでかいが、事実にもとづき簡明に説明される“本筋”を見定めねばならない。
   
   

■ コロナ経済対策

1月号でも述べたが、コロナ対策の要点は以下のとおり。
   
表1のように、コロナ流行前2019年の国内総生産GDPは560兆円だったが、その後は最新データまで540兆円付近できている。つまり年20兆円、ここまで累計45兆円くらいの経済的打撃、所得の減少が生じた。
   

(表1・クリックで拡大します)
   
そして、打撃は“まだら模様”で、一部に集中していることが、とりわけ重要である。
   
財務省「法人企業統計」で業種ごとにみたとき、コロナ前の2019年と2021年を比べると、売上高は全産業で5.9%減だが、製造業3.3%減に対して非製造業は7.9%減少している。特に商業8.6%減、運輸7.4%減、サービス18.1%減など、飲食・交通・宿泊・商業を代表とする、人が動く、集まる、対面を要する産業が直撃されている。
   
右と同じく経常利益をみると、全産業2.9%「増」、製造業32.7%「増」、非製造業は9.9%減(特に運輸66.7%減、サービス18.1%減)である。産業ごとの差がきわめて大きい。
   
また驚くべきことに、売上は大幅減なのに利益はそうでもなく、全体では増えている(つまり賃上げの余地はたっぷりある)。売上の減をはるかに上回ってコストを減らしたのだ。仕入れコストは上昇しているから、人件費をものすごく削ったことを示す。すなわち、一部業種の非正規労働者に、犠牲が集中したのである。
   
ここから、所得減少という打撃を受けた一部の人(事業者と特に非正規労働者)を対象に実損填補、つまり所得補償という対応をすべきことは、明々白々である。損害の大きさは、コロナ前の所得と比べた減少分だ。
   
ところが自公政府は、これとは反対に、なるべく浅く広く一律に金をばらまこうとする。票になると思うからだ。トランプに限らず、支持率・票になるかどうかですべてを決める「民主主義の腐敗」の傾向が強まっている。
   
コロナ対応においては、本当に困っている人にピンポイントで所得補償するか、それとも票目当てで効き目の低いばらまきをするか、この2つの間の対決となる。
   
   

■ 久々のインフレ

バブル崩壊後1998年以来デフレ(物価下落)といわれてきたが、本格的なものとしては1979年第2次石油ショック以来のインフレ(物価上昇)が始まっている。
   
数字を確認すると、4月速報の前年比で、輸入物価が44.6%、企業物価(かつての卸売物価で、企業の仕入価格)が10.0%の大幅上昇。
   
消費者物価は、報道では3月分が前年比0.8%上昇だが、これは短期的に変動する生鮮食品を除いたもので(最近はこちらの報道が多いので要注意)、除かないベースでは1.2%上昇だ。発表が早い東京都区部の4月分(生鮮含む)はすでに2.5%まで上がってきている。これから加速するだろう。
   
ちなみに貨幣流通高(M2)は、異次元金融緩和にもかかわらずまったく増えずにきたのが、2020年から急増して、足元も前年比3.5〜6%の高率増加である。 これは世界的なインフレである。
   
図1の国際的な原油価格をみよう。原油は上がっているが、2007〜14年ごろの高騰期と同じくらいである。この前回は、米・欧の不動産バブルがはじけ、行き場を失った投機資金が流れ込んできておきたもの(07年)、およびリーマンショック後の各国の金ばらまきによるもの(10年〜)だった。今回はロシア・ファクターもある。穀物も事情は右とほとんど同じで、今回ウクライナとロシアの輸出ストップが加わる。
   

(図1・クリックで拡大します)
   
ちなみに小黒一正・法政大教授によると、日本国内の現在のガソリン価格は、所得水準との対比で、第1次石油ショック時の半分、第2次の7割ほどだという。それほどでもないことになる。
   
今回のインフレの原因は、第一に、世界中でコロナ対策で金をばらまいたこと。図2は米・中・日はじめOECD主要27か国の貨幣流通量を合計したものだが、コロナ感染が広がった20年にジャンプしたことが明らかである。
   

(図2・クリックで拡大します)
   
第二に、これもコロナで生産の連関や流通が滞り、品不足がおきていること。自動車や電機の生産ストップ、中国産野菜ストップによる品不足→値上がりなどだ。
   
第三はロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーと穀物の値上がり。
   
そして第四に、円安という日本独自の要因である。1ドル=100円から130円へ円安になると、国際価格1ドルの商品を輸入するための円金額が右と同じ数字で増え、価格が1.3倍に上がる。なぜ円安になっているか。インフレ抑制のためアメリカを筆頭に各国金利を上げている。これに対して日本はゼロ金利を続ける。当然、円を売って外貨を買い(円を外貨に両替し)、高利の外貨で稼ごうとする。円を売る→円安というわけだ。これは当面変わりそうにない。
   
   

■ インフレにどう対応するか

では久しぶりのインフレにどう対応すべきか。
   
当面の問題としては、原油などに補助金を出して価格を抑えるという政策を各党が競い、票を得ようとするだろう。それは困っている人を救うようにみえる。だがこの政策は間違っている。すでに経験がある。
   
第1次石油危機で原油価格が一気に4倍に上がる中、物価統制令を求める声が噴き出たが、戦時中に商工省・軍需省(いま経産省)で物資統制の指揮をとった椎名悦三郎・自民党副総裁が経験から強硬に反対し、日本は強い価格規制と補助金を実施しなかった。
   
結果として、強い価格規制と補助を行った国は資源多消費が直らず苦しむことになり、日本のように行わなかった国は、一時はつらかったが資源の節約が進んで、その後の経済力は世界の前へ出たのだった。
   
不足で値上がりしている資源を無理に抑えてはいけない。節約しなければいけないからだ。――これは経済を学んだ者なら知っていなければならない超大事な教訓である。薪や炭の値上がりで庶民が大変だと補助金を出していたら、いまごろ日本の山に木はなくなっているだろう。
   
しかし、では値上がりで現に困っている事業者や家計はどうするのか、という疑問が出るだろう。こういう場合の経済学の答えには定石がある。「需給(生産と消費)や価格に介入せず、所得補償(給付)せよ」だ。今回特に苦しいのはコロナとのダブルパンチの場合だと思うので、前述の所得補償政策の中で工夫してはどうか。……右の考え方を応用すべきケースはとても多いので憶えておきたい。
   
以上は当面の対応だが、もう少し先まで見通すと、あまりに長くデフレに慣れてきたので忘れてしまっているインフレ対処の基本を、思い出す必要がある。
   
つまり、インフレ下では実質価値が目減りするので、最低限「物価スライド(調整)」しないと生活が低下する。いちばん基本が賃上げ、わけても最低賃金の引き上げである。年金、生活保護、その他の社会保障も基準の改定を要する。これらの課題を昔は労働組合が率先してとりあげたものだ。他方では、税金などの負担基準も改定しないと、金持ちに軽くなりすぎたり、庶民に重くなりすぎる。
   
右の心構えをつくっておくことに尽きる。
   
   

■ 日銀は政府の子会社か?

周知のように安倍元総理が「日銀は政府の子会社」「借金がふえても、持っているのは子会社の日銀なので心配いらない」との趣旨を述べた。マスコミは安倍の持論だ(笑)というが、F、T、Mら「MMT」信者のブレーンがセリフを吹き込んだ情景が目に浮かぶ。そして問題は山のように重なっていて、こういう生徒には教師は頭が痛くなる。
   
第一に、「政府と中央銀行を一体」にして考えてみるという「統合政府」論というのが経済学にあるが、これは日本より30年以上も遅れて政府の力で中央銀行をつくったアメリカ独特のローカル理論だと思う。中銀は、公的に影響を及ぼす一方、国債を購入したり貸出したり、等価交換の商取引で貨幣を発行しているのであって、権力をベースにする政府とは根本的に違う。そういう「中間的であいまいな存在」(故吉田暁・武蔵大教授)なのである。
   
第二に、右のとおり経済学では「一体と考えてみる」のであって子会社ではない。子会社という言葉で何を考えているのか不明だが、言いなりにできるという意味であれば、黒田日銀総裁が

「政府から過半の出資を受けておりますけれども……議決権が付与されておりません。……新日銀法によって自主性が認められております。……政府が経営を支配する法人とか子会社というものではない」

と明快に否定している(4月5日・衆院財務金融委員会)。
   
第三に、子会社なら国債を持たせても大丈夫というのは何を考えているのだろうか。国債は政府の借金証書である。親会社の借金証書を外部は買ってくれないので子会社に持たせるというのは、バブル崩壊後に数多く露呈した、最も不健全でほとんどが破綻した不良債権企業のパターンではないか。
   
第四に、本来のMMT理論は子会社などとは言わずに、こう言う。国債が累積しても、中銀や政府が貨幣を発行して返済すればいいから問題ない。それで貨幣が過剰になりインフレがおきたら、止めればいいだけだ。
   
たしかに頭の中の空想では、無限の貨幣発行で国債返済すればいいから、問題はインフレ「だけ」であり、まずくなったら(財政赤字→国債増発→日銀買入→貨幣増発を)止めればいい「だけ」だろう。しかし現実にはそうはいかない。物価が上がっていれば政府支出の額も膨らまざるをえず(人件費、物件費、社会保障費などの支出を削れるか考えてみてほしい)、出発点の財政赤字を止めることができない。物価が200倍にも上がりドッジラインまで止められなかった戦後インフレとの死闘をまさか知らないのか? だからこそ古今東西、財政赤字の累積を恐れてきたのだ。
   
特に現在の日本は、財政赤字、国債累積ともに恐るべき巨額の危険状態にあって、「ちょっとだけ増発してみる」という軽症国とは条件がまったく違う。この点、決定的に重要。
   
今はゼロ金利だが、少しでも金利が上がったとしよう(そして必ず上がる)。金利が上がると、まず、今は異常に少ない国債利払いが急増して予算が組めなくなり、財政危機に陥る。つぎに、金利が上がるとは国債価格が下落することである。ほかに高利回りの運用があるなら誰も国債を買わないからだ。国債値崩れは、大量にもっている日銀、ゆうちょ銀などに大損失をもたらし、破綻の危険にさらす。――これが近未来に迫っている。
   
ここまで日本を陥れたのは「アベノミクス」である。万死に値するこの責任をわかりやすく説明し追及しなくてはならない。そのための質問なら何でも受け付ける。
   
   

■「新しい資本主義」はどうなっている?

岸田首相の大スローガンは「新しい資本主義」だった。どうなってしまったか。「新しい資本主義実現会議」で議論していて、内閣官房のウェブサイトにある。6月に一定の線を出すとして、参院選直前にぶつける予定だろう。
   
いま自民党、あるいは保守の中には、経済路線に少なくとも三派ある。

  • 第一は小泉・竹中流の新自由主義で、市場競争信仰と「小さな政府」、つまり「自由にのたれ死ね」派。
  • 第二は安倍たちばらまき右翼で、拡張主義の「大きな政府」、自由でなく統制。
  • 第三が岸田ら宏池会系伝統の「ハト派」「リベラル」で、もう少し国民にやさしく妥協的にしないと私有財産体制がもたんぞと考える。

この中では岸田らのハト派はベターではあって、「新しい資本主義」「資本主義のバージョンアップ」はその流れで出しているのだが、彼の致命的な問題は、根性がまったくなくて、すぐ妥協して引っ込めることだ。
   
小泉から安倍・菅までの悪夢の自民政権で悪化した日本社会を修正し、賃上げ、格差の縮小、金融所得の公平課税など、それ自体よい方向を打ち出してはみたが、ちょっと反対が出るとすぐに、ほとんど引っ込めてしまった。
   
いま「実現会議」で議論していることには、成長戦略として、

  1. 科学技術立国、
  2. スタートアップ(新興)企業の支援、
  3. デジタル田園都市国家(ネットを利用した地方分散)、
  4. 経済安全保障(重要な技術の国内確保)、
  5. 資産所得倍増プラン(貯蓄から投資へ)、

分配戦略として、

  1. 賃上げ、教育訓練、正社員化や処遇改善、中小企業活性化などを「人への投資」と位置づけて支援、
  2. 看護・介護・保育などの現場の収入増額、

がある。
   
全部これまでどおりで、自分で考えたことは何もない、と書いてある。がっくりだ。
   
   

■ 自民党の弱点と野党側の戦

いまの自民党には2つ弱点がある。
   
1つは右にみた岸田の根性なしで、いいことは言うのだがすぐ引っ込む。まともな政策はもっとやれ、どんどんやれと尻を叩き、逃げ腰をみせたら国民の方を向いて批判する、という方針で行こう。ただし文句つけるだけではなくて、こちらにもよく勉強して練った政策がなければ、呆れられる。
   
もう1つは反発を呼ぶ安倍の妄言だ。しかも自民党はこれを止められない。野党側はここを徹底的に突くべきだ。乗せてたわ言をしゃべらせ、彼らのおかしさをはっきりさせて、良識ある国民の批判を呼び覚まして組織することである。
   

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