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●2022年5月号
■ 命と暮らしを守り改憲阻止に結集しよう
    小笠原 福司

■「狂乱物価」対策も後手後手

岸田文雄首相は3月29日の閣僚懇談会で、ロシアのウクライナ侵攻などに伴う原油価格や物価の高騰に対応するための当面の経済対策を盛り込んだ「総合緊急対策」を4月末を目途に取りまとめるよう指示をした。
   
その柱は、

  1. 原油高対策、
  2. 穀物・水産物高対策、
  3. 中小企業支援、
  4. 生活貧窮者支援

の4つとしている。財源は主に2022年度予算に計上された5兆円の新型コロナ対策予備費から充てるとのこと。
   
岸田首相の悠長さにも程がある。物価上昇は昨年10月から顕著である。ウクライナ侵攻は2月24日に始まり、米欧主導の対ロ制裁に加わった時で物価高騰に拍車がかかるのは分かっていたはずで、4月下旬にまとめるなどコロナ対策同様に後手後手の対応である。
   
コロナ感染収束についても「第6波の出口がはっきり見えてきた」という岸田首相だが、現実は感染者数の減少鈍化や12道県では増加傾向が見られ地域差がある。こうした中で、「コロナ対策の予備費頼み」ではなく、改めて「国民の命と暮らしを守る」補正予算を組むことは待ったなしである。
   
   

■ 大企業の景況感――7期ぶりに悪化

日銀が4月1日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(以下、「短観」と略す)によると、大企業の景況感が7期ぶりに悪化した。資源高と円安(4月13日におよそ20年ぶりに1ドル126円台をつけた)で原材料の調達費が上がり、企業収益が落ち込む。製造業は円安なのにかつてほど稼げないどころか、海外に国富が流失する状態になっている。
   
今回はウクライナ侵攻後に実施した初の短観。3月に対ドルで10円弱下落した円安も反映した。景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業製造業でプラス14と、昨年12月の前回調査から3ポイント悪化。自動車や紙・パルプの落ち込みが目立った。2022度計画の経常利益は全規模全産業で21年度比0.9%減となる見通しだ。製造業が全ての規模で減少する。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
円安下での景況感悪化は日本経済の構造転換を映す。経産省によると、製造業の海外生産比率は東日本大震災が起きた11年度の18%から19年度に23%へと、より利益を求めて海外進出・生産をしてきた。大和証券が主要上場200社を対象に利益の為替感応度を集計したところ、22年度はドルに対し1円円安が進むと0.43%経常利益が押し上げられる。リーマン・ショック後の09年6月の変動率は0.98%で、円安効果は半減となる。
   
さらに資源高やエネルギー高で、円安は製造業にとっても逆風になりつつある。2月の輸入物価の上昇率はドル建てなど契約通貨ペースでは前年同月比25.7%だったが、円換算すると34.0%と一段と高い伸び率になる。
   
大企業非製造業はプラス9と、1ポイント低下。コロナの感染者数が高止まりしたことで、対面型サービス業の景況感が落ち込んだ。旅行業や遊園地などの「対個人サービス」は前回から12ポイント悪化のマイナス14、「宿泊・飲食サービス」は5ポイント悪化のマイナス56となった。
   
先行きは大企業製造業がプラス9、非製造業がプラス7と、ともに悪化を見込む。
   
1年後の物価見通しは全規模全産業で前年比1.8%(前回1.1%)、販売価格の見通しは2.1%(同1.2%)と大幅に上昇した。いずれもこれまでで最も高い水準で、消費者への価格転嫁がさらに進みそうである。3月の内閣府の消費動向調査では消費者心理の明るさを示す消費者態度指数が3カ月連続のマイナスとなり、1年後の物価が「上昇する」と答えた割合は実に92.8%に達している。
   
弱い足取りながらもコロナ禍から回復してきた日本経済に資源高と円安が重くのしかかっている。この間の輸出大企業を中心とした外需優先の成長路線の行き詰まりがますます露わになってきた。新自由主義的政治から転換し、日本経済を支える中小企業を基盤に、できうる限り内需を中心とした「持続可能」な経済へと改革していくことである。
   
   

■ 暮らしと雇用の不安定性の増大

7月に想定される参院選に向けて与野党とも政策作りが進みつつある。それを検討する際に、コロナ禍における労働者の状態、その特徴から課題を考えてみたい。
   
第一には、「狂乱物価高」による生活困窮の深まりである。4月から多くの商品が一斉に値上げされたことは連日のニュースで報道されている。ウクライナへの侵攻は全世界的なインフレ、さらにはスタグフレーション(不況とインフレの同時進行)に突入との予測も出されている。
   
ちなみに総務省発表(3月18日)の2月の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数は前年同月比0.6%上昇にとどまり、プラスは6カ月連続。エネルギー関連は全体で20.5%上昇し、81年1月以来の上げ幅。電気代は19.7%、都市ガスは22.2%、ガソリンは22.2%も上がり、エネルギー品目の上昇分だけで全体の総合指数を1.41ポイントも押し上げた。生鮮食品以外の食料も1.6%上昇し、1月の1.3%を上回っている。
   
但し、現在の物価上昇は、ウクライナ侵攻前の要因であり、夏以降にさらなる物価上昇が加わるとの分析。それはここ数年、中国や東南アジアなど新興国の生活水準が急上昇しており、全世界的に需要過多の傾向が続いていた。一連の需要拡大に対してエネルギーや資材、食料の生産拡大が追い付かず、価格が上がりやすい状態になっていた。ここにコロナパンデミックが発生し、全世界的に物流の混乱を招き、物価が跳ね上がったという図式である。
   
特に、日本は市場にマネーをばらまく量的緩和策を継続しており、貨幣的にも物価が上がりやすい条件がそろっていたが、景気の低迷が続き、賃金が低く抑えられ、購買力も低く企業が価格を引き上げられなかったのである。
   
携帯電話の通信料は大手各社が21年度春から格安プランを導入した影響で53.6%下がった。この下落分だけで総合指数を1.48ポイント押し下げた。この効果がなかったと仮定すれば、既に物価は2%以上上昇している。今年の春闘では約2%(月額平均で6600円程度)の賃上げが実現したが(但し、東京商工会議所調査の「賃上げ実施予定」から推定すると、雇用労働者全体の1/3程度)、この水準では物価上昇分がほぼ相殺されてしまう。そして、これから本格的に物価高が家計を直撃する。
   
2番目として、「倒産、57年ぶりに低水準」(4月9日、日経)との見出しで、東京商工リサーチ(以下、リサーチ)が8日発表した2021年度の倒産件数は5980件で、1964年度の4931件に次ぐ57年ぶりの低水準とのこと。但し、「資金繰り支援策で、返済能力が低い会社の倒産まで抑え込んだ側面が大きい。原材料高などが懸念材料で、倒産が一転して増える可能性がある」と(因みに、21年度の「休廃業」は4.4万件と、倒産の7倍強)。
   
コロナで売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資する「ゼロゼロ融資」の実行額は20年から21年末までで約42兆円(民間合わせると約55兆円)にのぼった。ゼロ融資の元本据え置き期間は1〜2年(約7割が融資から1年以内に元金を返し始める契約)が多いとされ、今春頃から返済が本格化しているもようとのこと。前述したが急速に進んだ円安や、それに伴うエネルギーや原材料価格高騰が経営に悪影響を及ぼす。リサーチの3月単月の倒産件数は593件、このうち「コロナ関連倒産」は205件で、20年の集計開始以来、初めて200件を超えた。
   
また、2月の調査では、中小企業の35%が自社の債務に「過剰感」を抱いている。民事再生法などの活用を検討する可能性が「ある」との回答は6.7%で単純計算で24万社ほどが事業再生の予備軍となる。特に、自治体を中心として地方経済を支えている中小企業の倒産を防ぐ支援策、地方金融機関の支援など喫緊の課題といえる。
   
最後に、経済活動の回復に伴い人手不足割合が上昇し、コロナ前の水準に近づきつつあるとのこと。その一方で、上場企業において「早期・希望退職募集」という名の「リストラ合理化」が静かに進行している。
   
リサーチは2021年度の「上場企業“早期・希望退職”募集状況」に関する調査を実施。その結果、21年度に早期・希望退職募集を開示した上場企業は84社であり、前年の93社から9社減少した。主な上場企業を見ると、最も募集人員が多かったのは「日本たばこ産業」(2950人)。次いで「本田技研工業」(2000人)、KNT-CTホールデイングス(1376人)と続き、募集人員が1000人以上の企業は5社(01年に次ぐ2番目)。100人以下が50社、101人から300人が15社と続いている。
   
「業種別企業数」を見ると、最も多い業種は「アパレル・繊維製品」(11社)、「電気機器」(10社)、「観光」(4社)を含むサービス(7社)、運送は6社のうち、4社が鉄道(18年ぶり)、1社が空運(8年ぶり)と、コロナ禍で乗客・稼働数の落ち込みが深刻だった交通インフラが大半だった。
   
募集企業の本決算の当期損益を見ると、56%が赤字。アパレル関連は11社全てが赤字。観光4社、外食の4社も赤字。一方、募集人員1000人以上の5社中4社は黒字だった。繊維製品を除く製造42社では、黒字が23社、赤字が19社と、黒字が赤字を上回っていた。
   
リサーチは、「早期・希望退職は22年も黒字企業による大型募集、コロナ直撃による小・中規模募集の二極化は継続するとみられ、21年同様かそれを上回る可能性がある」との分析(今年もすでに大手企業11社が早期・退職募集をしている)。もちろんこれはウクライナ侵攻前の調査であり、今後首切り合理化が加速することは言うまでもない。
   
人手不足の一方でリストラ合理化と、いま日本の企業はコロナを契機に構造改革の転換期に差し掛かっている。自動車産業ではIT、DX人材の不足が叫ばれ、「新しい市場の開拓」に向けて、中高年のエンジン技術者とEV技術者との入れ替えが必要とのこと。例え今期業績予想が純利益2桁増であっても、賃金の高い中高年へのリストラ合理化が進められる。資本の「価値増殖欲」に起因する本質は冷徹に貫かれる。労働運動は否応なしに暮らしを守るために闘わざるを得ない客観的条件に置かれている。
   
   

■ ウクライナ侵攻を奇禍として進む政治反動

ロシアのウクライナ侵攻を奇禍として岸田政権の政治反動は一気に進みつつある。無論、ロシアのウクライナ侵攻は絶対に許されることではない。この点を大前提として国内で急速に進む政治反動、一部野党をも巻き込んでの改憲策動にどう抗するのか、以下考えてみたい。
   
1989年、東欧社会主義の崩壊以降、欧州におけるNATO(西側の軍事同盟)加盟国は16から30にも拡大し、「ロシア包囲網」が敷かれてきたこと。そして、ウクライナに米英が高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団を派遣して、ウクライナを「武装化」していたことは周知の事実である。これがロシア軍の戦略の見誤り、「ウクライナ軍の予想を上回る抵抗力」となり、今なお激戦が続いている。
   
元米空軍軍人のシカゴ大学教授・国際政治学者ジョン・ミアシャイマー氏は、感情に流されず「リアル・ポリティクスの観点から、戦争の要因を考えること」(理念よりも現実の力関係や利益を重視した政治)と問題提起をしている。日本を含む西側メディアは、プーチンはかつてのソ連やロシア帝国の復活を目論んでいて、東欧全体を支配しようとしている、等と日々報道をしている。ミアシャイマー氏は、「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確な警告を発してきたにもかかわらず、西側がこれを無視したこと、特に米国の「東方拡大」戦略が今回の戦争の要因との見解である。
   
1つの視角として、ここで紹介をしておきたい。
   
安倍元首相は「核共有論」(配備された基地が攻撃の対象、核使用は国内で行う)、「軍事費のGDP 2%への増額」、「敵基地攻撃能力」の保有(「専守防衛」をも超える「中枢への攻撃」も検討の対象)。そして極めつけは「憲法九条は無力」等とこの機に乗じて一気呵成に改憲に突き進んでいる。この流れに岸田首相も同調し、「今こそ憲法改正を」と前のめりになっている。
   
さらに、衆参両院の憲法審査会が淡々と審議を重ねている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて緊急事態条項が焦点として急浮上。与党と日本維新の会、国民民主党との間で総論で合意ができつつあるとのことである。野党第一党の立憲民主党の泉健太代表は4月2日、奈良市での街頭演説で「改正のための改正はみなさんの生活を考えていることにはならない」と訴え、自民党などの改憲ありきの姿勢を批判している。
   
日本は、世界でも稀有な戦争放棄を謳った平和憲法をもち、国際紛争を解決するのに武力による威嚇、行使を行うことを放棄した国である。また、唯一の被爆国でもある。だからこそ日本こそがロシアのアジア側の隣国として中国、インドなどに働きかけ、即時停戦を両軍に呼びかけ仲介を行うことが必要ではないのか。これが日本政府が世界に先駆けて行う平和外交である。
   
それはまた、昨今特に米中対立で軍事的緊張の高まりが指摘されている東アジアにおける緊張緩和、平和への道にも繋がる。また、国内の改憲阻止とも直結する。連日流される戦争による無残な死の報道は、一日でも早い日本政府の平和外交に向けた立ち上がりを促している。
   
   

■ 野党共闘を軸に改憲阻止に全力を挙げよう

前述した、今こそ平和憲法の現代的な適用を通して平和外交を進める考え方は、既に学者、文化人の中で訴えが始まっている。ロシア史の激動を知り尽くした和田春樹東京大名誉教授が、ウクライナ停戦に向けての行動を開始した。「ウクライナ戦争を一日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか」とのアッピール文が、最初の署名者14人で出された。
   
日本、中国、インドが仲介者になるというプランである。そして、「日本政府はやらないだろうが、私たちの提言は、即時停戦、停戦会議の本格的開始を広く世界によびかけ、トルコの仲裁努力を応援する意味があると思っている」(和田氏)と述べられている。
   
2015年市民と野党の共闘(以下、野党共闘と略す)を軸に、安保法制廃案に向けて国会周辺を拠点に全国で大衆闘争が展開された。無論、自公を除くすべての野党が結集をした。特に、シールズ、ママの会など若者の参加が未来への希望を与えてくれた。戦争法は強行採決されたが、燎原のごとく広がった灯は間違いなく全国に残っている。
   
さらに、野党共闘は「安倍政権下における改憲反対」から命と暮らしを守るために、16年、17年、19年、21年と国政選挙を戦い、自公政権に代わって「政権交代」を展望した闘いへと質的発展をしたのはご承知のとおりである。この闘いへの自民党と独占の巻き返しは近年激烈になってきた。日本維新の会と国民と都民ファーストを軸とした保守二大政党をも睨んだ右からの第三極づくり、その基盤として連合内の民間大産別を中心とした反共主義による野党間の分断の促進など、資本主義の行き詰まりを背景に独占の生き残りをかけた巻き返しといえる。
   
現段階ではこの自民党と独占の分断攻撃は一定功を奏して、野党共闘の再構築は進んでいないと聞く。改めて想起することは、15年の闘いの教訓として報告されている「市民、国民の中に渦巻く怒り、憤りを引き出し、繋げること」によって「格差、貧困、二極化、将来不安」を生み出した安倍自公政権への責任追及の広がりが、「安保法制廃案」に結実し、安倍政権下における改憲を許さなかったという政治的経験である。
   
今こそ大衆の中に入り、命と暮らしを守り、改憲阻止に向けて広範な戦線の構築に全力を挙げて取り組むことである。今こそ大衆の中へ!である。
   
(4月20日)
   

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