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●2022年4月号
■ ロシアのウクライナ侵攻と参院選の展望
    宝田 公治

■ はじめに

ロシアの侵攻については、21世紀に、それもヨーロッパのど真ん中で現実のものとなるとは、筆者はもちろん多くの読者も思ってもいなかったのではなかろうか。プーチン大統領は、短期間で終結すると考えていたのだろうが、侵攻から1カ月になる現在も戦闘は止まらず、死者・被害・避難民が増え続けている。この侵攻に対し、メディアのほとんどが「プーチン・ロシア悪玉」論調である。しかし、それだけで問題が解決するのだろうか。すばやく欧米そして日本は経済制裁を行ったが、それでいいのだろうか。最優先すべきは、この戦争を早期に終結させることではないのか。また、この戦争の原因は何だったのか。止めることはできなかったのかを冷静に考えることが必要である。
   
そこで「戦争は起こしてはならない」を視点に、これまでの歴史や国際上の安全保障、日本のあり方などについて検討する。ただし、侵攻から1カ月という期間上の制約、戦時に双方から発信される情報はそれ自体が戦術であり、真偽の見極めが難しいという制約の中で、私見としての検討であることを断っておきたい。
   
   

■ ロシアによるウクライナへの軍事侵攻

・1. 非難されるべきはプーチン・ロシア
   
この侵攻に対し世界各地でデモが拡がり、ロシア国内でも反対デモが行われていると報道されている。2月26日、国連常任理事会は「ロシアに対する非難決議」で賛成多数を確保したが、ロシアの拒否権で否決された。3月2日、国連総会は、「即時撤退を求める決議案」を賛成141、棄権35(中国、インドなど)、反対5カ国の圧倒的多数で採択した(法的拘束力はない)。日本の国会でも3月1日に衆議院、2日に参議院で非難決議をした。
   
まずは、ロシアが非難されるべき根拠はどこにあるのか考えてみよう。1つは、戦闘が長期化することによって、ウクライナ市民の犠牲が増え、多くの都市・インフラが破壊されていること。2つは、増え続ける避難民。さらに、彼らの生活を支えるには大変な困難が予想されること。3つは、生物・化学兵器や核兵器の使用までほのめかしていること。4つは、戦争では常識かも知れないが、ロシアのプロパガンダは常軌を逸している。ロシア国民の知る権利は奪われたままである。5つは、罪もないロシア国民の経済的打撃。最後に、今回の侵攻は、国際法・国連憲章違反の侵攻行為ということ。しかし、ロシアは「国連憲章五一条の『集団的自衛権』に則った行為だ」と侵攻を肯定する理屈を述べている。この理屈は、今日のロシアに限ったことではない。嘘の情報や自衛のためとの理屈で戦争を始めた事例は、歴史上多々ある。いや、それがほとんどかもしれない。米国もベトナム戦争、アフガニスタン侵攻、イラク攻撃など、遠く遡れば、日本がしかけた日中戦争もそれだった。まだまだあろうが、以上で置きたい。
   
   

・2. プーチン・ロシアの主張
   
プーチン・ロシアが、何故世界中から非難を受ける侵攻を起こしたのか、このことを理解するには歴史的な考察が必要となる。1989年、ベルリンの壁が崩壊。ドイツ統一の交渉で、ベーカー米国務長官とソビエトのゴルバチョフ書記長の間で交わされたとする「NATO(北大西洋条約機構)を東方に拡大させない」とする口頭約束だ。プーチンは、この約束を「NATOは1インチも東方に拡大しない」と解釈している。91年ソ連邦が崩壊、その継承国ロシアは、ワルシャワ条約機構に対抗するために作られたNATOは当然解体されると期待したが、現実は違った。
   
旧東欧諸国が、NATOの存続に固執し、自らそれに参加することを望み、99年ポーランド、チェコ、ハンガリーが加盟、2004年にバルト三国が加盟した。そして、ロシアに最も近いジョージアやウクライナに親欧米派の政権が誕生すると、NATOもこれらに接近した。プーチンは「両国の加盟は、ロシアに対する直接の脅威。受け入れられない」と強く批判し、阻止しようとしてきた。
   
従って、今回の問題は直接的には当時者であるウクライナとロシアの問題ではあるが、本質的にはNATO、その代表国米国とロシアとの問題だといえる。
   
   

・3. ウクライナの言動
   
ロシアの主張に対し、ウクライナの対応はどうであったのか。ウクライナはソ連邦の崩壊によって主権国家として独立した。その後、親ロシア派の政権と新欧米派の政権が交代しながら微妙な政治バランスの上に成り立ってきた。今回侵攻の引き金となった東部ドンバス地方については、2014年親ロシア派のヤヌコービチ大統領がキエフから追放されると、ロシアはクリミア半島を併合。暫定政権を担ったヤツェニュク首相は、ウクライナ東部の公用語であるロシア語をウクライナ語に変えようとした。ロシア語を公用語とするドネツク州とルガンスク州では猛烈な反発が起こり、2018年総選挙が実施され、新ロシア派が勝利した。しかし、欧米はこの結果を認めず、19年5月に選出された現ゼレンスキー大統領は「新ロシア派は、テロリストなので自分は会わない」と公言したとのこと(プーチンは、逆に親欧米派を「ネオナチ」と称している)。
   
21年10月、ゼレンスキー政権が東部地域を「自爆型ドローン」で攻撃したことで、プーチンがゼレンスキー政権に懸念を持つことになったとされている。プーチンにとっては、この地域に住む35万人のロシア系ウクライナ人を守ることは絶対なのである。これらの認識(ロシアにとってのレッドラインがどこにあるのか)がゼレンスキーや欧米の首脳、とりわけバイデン米大統領にあったなら、事態は違う方向(戦争回避)に向かったかもしれない。
   
もう1つは、ロシアの侵攻後、ゼレンスキーは国民に武器を与え徹底抗戦を呼びかけ、市民をロシア軍に立ち向かわせる戦術を選んだ。ウクライナの世論調査では、国民の90%がゼレンスキーを支持しているというが、この戦術が市民の被害を拡大することは自明の理である。以上を考えると、市民の生命を守るには非暴力の抵抗運動しかないのではなかろうか。
   
   

・4. 欧米の対応
   
ロシアの侵攻を止めることができなかった欧米・NATO、バイデン政権の対応はどうであったか。キッシンジャー元米国務長官や世界の一部メディアからは、「NATOの拡大は戦争を引き起こす」「ウクライナはNATOに加盟すべきではない」との警告がされたが無視をされた。
   
二つは、経済制裁の早さである。まるで軍事侵攻を確信していたようでもある。経済制裁は、今後ロシアだけでなく欧米、そして日本にも及ぶものであり、この損失(経済以外の国際関係もある)は莫大なものとなるであろう。最近では、「経済制裁の効果が発揮できるかどうかは『中国の出方』にかかっている」と、中国に責任をなすりつけている。この間、米国は中国との関係を悪化させ、自分では中国を説得できない状態を作っておきながら中国が米国の側に立つことを期待している。いかに日常的な対話が重要であるかの証左である。
   
三つは、ウクライナのNATO加盟問題への対応である。侵攻が始まる前にNATO自身が加盟を否定できなかったのだろうか。戦争が始まった現在でも、和平の基本がこのことであることに変わりはないと考える。
   
   

・5. 日本はどう対応すべきか
   
岸田内閣の対応は、欧米とりわけ米国に追随しているだけでしかない。日本独自の外交は全く見えない。多くの点で日本は欧州とも米国とも違う位置にあるはずである。とりわけ第二次世界大戦の敗北を反省し、戦争放棄をうたった憲法を持つ国家であること、唯一の戦争による核の被爆国であることだ。
   
日本政府として行うべき一つは、ロシア・ウクライナ両国に「即時停戦、ロシア軍の撤退、和平」を訴え、行動することだ。二つは、ウクライナへの非軍事の支援と難民の無条件受け入れだ。三つは、唯一の被爆国として、プーチンの核使用を阻止することだ。また、ウクライナの原発が危険な状態にあると報道されているが、戦時には原発は兵器になるということだ。このことは我が国にも言えることで、「原発の廃止」を国是とすべきことの証左だ。また、安倍元首相が、「核の共有」を提案しているが、言語道断だ。岸田首相は、非核三原則の立場から否定したが、当然のことである。四つは、欧米からウクライナへ武器供与が行われ、ウクライナの反撃能力は増しているが、一方で戦争の長期化、被害の拡大につながっている。また、この武器が戦争終結後の内戦に利用された歴史は多数ある。改めて、日本は「武器輸出三原則」に立ち返るべきである。五つは、今日の戦争を起こした原因の1つに、ゼレンスキー大統領の反ロシア・親NATOの安全保障政策がある。このことは、米中対立の間にいる日本とダブってみえはしないだろうか。日米同盟堅持・強化、対米追随路線からの脱却、中立政策が求められる。六つは、国連が戦争停止に向けてほとんど何もできないことが露呈した。とりわけ国連憲章五一条の「集団的自衛権」は、違法な戦争を肯定する根拠とされることが明らかとなった。また、常任理事国の拒否権によって重大な決議も決められないことも明らかとなった。国連改革をはじめ、国際秩序の再構築や安全保障の新たな枠組みが求められる。これらについて、日本国憲法前文・九条を持つ日本の積極的な発信が求められる。
   
   

■ 野党共闘の現状と課題

次に、参院選の展望である。昨年の衆院選で追求した「市民と野党の共闘」は、一部成果はあったが、立憲民主党と共産党が議席を減らしたことも含め不充分に終わった。参議院選の最大の焦点は、ロシアのウクライナ侵攻に乗じて憲法九条改憲策動が強められ、自民党、日本維新の会などから核共有論、敵基地攻撃能力保有が声高に叫ばれている。こうした改憲勢力の2/3阻止を最低限の課題として戦われる。しかし、昨年衆院選で共闘を構成した党や団体は、選挙総括をめぐって不協和音があり、参院選に向けた共闘体制が揺れ、遅れている。以下、課題を考えてみたい。
   
   

・1. 立憲民主党
   
2月27日開催の全国大会で泉代表は「あらためて権力の暴走を防ぐ『立憲主義』を掲げる」「リベラルと中道の旗手になっていこう」「自民党とは違う選択肢を提示する政策主導型のリベラル中道政党として期待されている」と述べた。維新・国民民主党の保守側からの第三勢力づくりに対抗した発言である。野党共闘の方針は「1人区における野党候補一本化への取り組みを図りたい」とし、3月18日泉代表は、共産・社民・れいわの三党首と個別に会談し「1人区での候補者調整の協議を開始する」ことが合意された。国民民主党との会談は実現していない。
   
   

・2. 社民党
   
参院選方針では、比例代表で2%を確保した上で、得票率4%と2議席獲得を目標としている。また、野党共闘を断固進め、1人区での候補者一本化に努力するとしている。
   
   

・3. 共産党
   
「市民と野党の共闘を必ず成功させる」と野党共闘路線はゆるがないものと思われる。3月18日、志位委員長が「参院選では、衆院選で合意した政権協議や共通政策には固執しない」と述べ、野党共闘の決意は固い。
   
   

・4. 国民民主党
   
国会での維新との連携や参院選での都民ファ―ストとの連携の動向がある。「改憲問題」には「柔軟に議論すべき」とし、「敵基地攻撃能力」には「保有の検討は必要だ」と自民党へ秋波を送っている。また、衆院選後、野党の国対から離脱、極めつきは衆議院で22年度予算に賛成した。「事実上の『与党化宣言』である」(共産党の小池書記長)と言われても仕方のない対応である。参院選1人区においては「積極的に候補者の擁立を検討する一方、政策面で一致できる候補者については一本化の努力を最大限行う」「共産党と選挙協力や選挙区調整を行うことはない」と、残念ながら野党共闘の姿勢は見られない。むしろ、連合内の一部構成組織と連携を強化することで、不団結要素になる懸念さえある。だからこそ、改憲勢力の側に追いやることのないよう粘り強く働きかけることを忘れてはならない。
   
   

・5. 日本維新の会
   
自民党の補完勢力、別動隊であり、野党共闘の対象にはなりえない。総選挙で躍進し、その後の世論調査でも立憲民主党を上回る支持率を得ている。その要因として、吉村大阪府知事がコロナ対策で連日マスメディアに登場し「やってる感」を演出したことがある。しかし、その実態はあまり知られていない。大阪府は、第六波での人口当たり死者数・重症者数は全国ワーストワン。その原因と考えられるのが

  1. 人口275万人大阪市の保健所は1つで、対応が遅れ
  2. コロナ病床に使用できる急性期病床を昨年と今年で600病床以上削減
  3. 鳴り物入りで開設した大規模医療・療養センタ―は、医師・看護師不足でフル稼働できない状態など、大阪府のコロナ対策は後手後手となっていること

があげられる。
   
   

・6. 連合
   
連合は、「共産党を含む野党共闘にはくみしない。同党との選挙区調整は、政党間で協議・決定されるものであり、連合として関知するものではない」「目的や基本政策が大きく異なる政党等と連携・協力する候補者は推せんしない」と。一方、2月17日、芳野会長は会見で「地域によって事情が違うので、地域がどう判断するかということになる」と、一定地域の決定に幅を持たせているとも考られる。もう一つは、自民党との接近である。2月17日、芳野会長・小渕自民党組織運動本部長会談で、自民党から「連合や友好な労組との懇談を積極的に進め、連携を強化していきたい」と秋波が送られるなど懸念される動向もある。
   
   

・7. 市民連合
   
3月2日、拡大運営委員会で「自公政権の最大の戦術は『野党共闘つぶし』であり、立憲野党が分断されれば憲法が危機に直面する」。参院選は、「中央、地方での立憲野党と政策合意」、「1人区は候補者の一本化」を基本に、獲得議席数の目標を「最低でも改憲勢力の3分の2割れ(国民民主党を九条改憲反対勢力に加えれば、改憲議席124議席の内43議席獲得)を勝ち取る」としている。
   
政党間の政策合意は「衆院選では実現できなかった政党間合意を支持し、支援する」とし、市民連合との政策合意は「情勢を見ながら作成し、できるだけ早く政策合意を行う」としている(過去には16年6月7日、19年5月29日)。
   
   

以上の政党や団体の現状から、現時点での参院選に向けた「市民と野党の共闘」の課題は、一つは、ようやく3月18日、立憲四党による候補者一本化の方向が確認された。この実現に向けて、早急に中央・地方で努力すること。二つに共通の政策づくり、できれば野党間における政策合意がベストであるが、最低限でも衆院選で実現した市民連合と各野党間の政策合意は実現しなければならない。三つに、野党間、さらには市民との選挙体制の強化を地方から作り上げながら、中央との連携強化が求められている。
   
これらを達成するためにも、野党第一党である立憲民主党が、その政治スタンス「中道リベラル」(泉代表の全国大会挨拶)のリベラル色をより強め、野党をまとめていくことが求められる。その際に、これまでもそうであったが社民党の存在と果たすべく役割りが重要となっている。連合や市民連合は、幅広い労働者、市民から支持される野党共闘の実現に向けて取り組むことが求められる。
   
(3月22日)
   

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