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●2022年2月号
■ 参議院選挙を全力で戦い抜こう
    吉田 進

■1. 衆議院選挙の結果

昨年10月31日投開票で衆議院選挙が戦われた。
   
自民党は単独過半数を超える261議席を獲得した。立憲民主党は公示前110議席を下回る96議席と後退し、日本維新の会は公示前11議席を41議席に増やし大躍進した。
   
立憲民主党など5野党で候補者一本化をした213選挙区において、与党系139勝に対し、5野党は59勝で終わった。64選挙区で当選者と次点の差が1万票未満の激しい接戦となった。
   
小選挙区に限れば、55.93%という戦後3番目に低い投票率であった。自民・公明両与党は有権者総数の3割に満たない2900万票余の得票で、3分の2の議席を占めた計算となる。すべての常任委員会で過半数を確保できる「絶対安定多数」である。
   
しかし、事態はもっと深刻である。なぜなら、7月の参議院選挙と同時に改憲の国民投票を実施すべきと表明している日本維新の会、原発再稼働をめざし野党共闘を妨害している国民民主党など、「補完勢力」「別働隊」と呼ばれる勢力が存在しているからである。
   
時代背景は異なるが、1940年からの「大政翼賛会」のような危なさすら感じる。「挙国一致」のスローガンのもと戦争を遂行した独裁政治である。
   
「中国脅威論」を背景に政治家の勇ましい発言も目立つようになってきた。安倍元首相は、「台湾有事は日本有事である」と述べている。台湾海峡で不測の事態が起こった場合、ただちに日本が参戦するかのように受け取れる不用意、危険な発言である。年末に明らかになった台湾有事を想定した「日米共同作戦計画」の原案は、鹿児島県から沖縄県にかけての離島にミサイル部隊を配備し米軍の臨時拠点を置くこととなっている。「沖縄が再び攻撃の目標となる」「住民の犠牲が前提」など批判が起きている。
   
12月21日に閉幕した臨時国会は、新型コロナウイルス禍における経済対策、国土交通省の建設受注統計書き換え問題、国会議員に月100万円支給されている文書通信交通滞在費などが論点となった。しかし、岸田政権が目指す社会像は具体的に示されず、歴代内閣が積み残した過去の清算も進まなかった。目先の政策を論じるだけで、衆議院選挙終了直後の国会としては全く不十分であった。
   
しかし、国民は「与野党とも国民の期待に応えていない」と批判を野党にも向けており、岸田内閣の支持率も徐々にではあるが上昇している。
   
   

■2. 選挙の争点

菅前首相が退陣を表明した翌日のマスコミは、「コロナ対策は後手と悪手の連続だった。国民の不安を無視して五輪を強行、感染は拡大し医療崩壊を招いた」「棒読みの説明とはぐらかしは政治そのものをおとしめた」「独善と強権が招いた帰結」などと批判した。
   
衆議院選挙の最大の争点は新型コロナ対策であったことは間違いない。しかし、新型コロナ対策を巡って各党の政策が大きく対立したわけではない。「安倍・菅政治」そのものに対する評価が最大の争点であった。
   
世界各地で「戦争」「人権侵害」「人種差別」などが抑止できなくなっている。第二次世界大戦後70数年かけて培われた「普遍的価値」がむしばまれている。アメリカのトランプ前大統領は、その要因を作った象徴的な政治家であった。そして、そのトランプ前大統領にすり寄り、言いなりになった当時の安倍首相と菅官房長官は世界から嘲笑された。
   
「安倍・菅政権」が推し進めた「アベノミクス」は、大企業、富裕層にとっては都合のいい政策であったが、その恩恵が多くの国民に行き渡ることはなかった。貧困と格差拡大は新型コロナ禍によって一層深刻な状況となった。
   
政権運営においては、「隠蔽」「改ざん」「ウソ」で塗り固められた手法がとられた。どう考えても安倍元首相の関与がなかったとは思えない「森友学園問題」、「現金を配る」という戦後間もない頃を想起させるような河井案里夫妻の悪質選挙違反事件などはその象徴である。マスコミやそこに登場する「御用学者」は、「丁寧な説明が必要」と繰り返すが、国民が求めているのは「丁寧な説明」ではなく、「ウソをつくな」「真実を明らかにしろ」である。こんな政治が8年9カ月も続き、国民の「いい加減にしてくれ」という声が蔓延しているなかでの総選挙であった。われわれ野党側にしてみれば、政治を大きく変えられる絶好のチャンスであったとも言える。
   
   

■3. 自民党総裁選挙

しかし、情勢は自民党総裁選挙によって一変した。記者会見すらまともにできない菅首相がテレビに出るとチャンネルを変えていた国民が、岸田首相になってからは少なくともチャンネルは変えなくなった。それとともに岸田内閣に対し漠然とした期待感も生まれ始めた。
   
野党側は、岸田総裁誕生に対して「表紙を変えただけ」と批判し、「新しい資本主義」に対しても、「政策の中身は何も変わっていない」と切り捨てた。確かにそのとおりではあるが、有権者の気分とは必ずしも合致していなかった。選挙の争点を丁寧に、粘り強く訴えることが欠けていた。短いフレーズで相手を批判・攻撃することがSNS等を通じて流行っているが、政治に関しては1人ひとりのくらしに直結しているだけに説得力のある批判が必要であった。
   
こうした状況を逆手に取り、「野党は批判ばかり」との宣伝が政権与党やマスコミから大々的に流された。それに応えるかのように立憲民主党内では、「提案型の政党を目指す」ことが強調されるようになった。
   
「55年体制下」でも同じ攻撃が繰り返された。権力が反対勢力を抑え込む常套手段である。「数(議席数)によって全てが決まる」と言われる政治の世界で、そんな攻撃に屈して「批判」を弱めたら次は存在価値そのものが問われる。もちろん、「相手の悪口を言っているだけ」と誤解されるようではだめである。「批判」と「悪口」は違うし、批判の中には「提案」も含まれていなくてはならない。
   
   

■4. 野党共闘を巡る攻防

野党共闘の成否は与野党最大の攻防点であった。野党共闘が成功すれば政権与党に大きな打撃を与えることができ、与野党伯仲の政治状況を作り出せる。一方与党側は、野党共闘を壊すことができさえすれば政権の維持・安定が図れる。野党共闘が勝敗のカギとなっていたことは間違いない。
   
野党共闘をめぐる取り組みは、候補者の一本化、野党の共闘(力合わせ)、市民を巻き込んだ「市民と野党の共闘」の3段階に分けられる。1番目は最低条件、2番目は「相乗効果」が生まれ選挙戦で最も大事な「盛り上がり」作れる。3番目は相当に幅広い戦線ができ勝利の展望が大きく開ける。しかし、全国各地における野党共闘を深化させる努力は決定的に不足していた。
   
なぜ野党共闘がうまくいかなかったのか。相手の攻撃以前に、われわれの側に問題はなかったのか総括しなければならない。選挙に限らずあらゆる「共闘」(共同闘争)には基本原則のようなものがある。第1は共通する目標(選挙の場合は政策)の一致、第2は対等・平等の関係、第3は信頼関係である。
   
共通政策をめぐる対応は、市民連合の仲介によってギリギリまとめられたものの、立憲民主党からは、その内容以前に共産党との協議をしないよう厳しい指導が下ろされた。又坂常人信州大学名誉教授は共通政策について、「共通政策は単に関係者間だけのものではなく、有権者との公約である。一種の社会契約であり不可欠である」と述べているが、協議抜きに共通政策ができるはずがない。
   
対等・平等の関係に関しても候補者が一本化した選挙区では、「野党統一候補」の位置づけをし、他党の候補者であっても「支持」などを決めて戦った。しかし、立憲民主党は他党の候補者の場合に「支持」を明らかにしなかった。「ギブ&テイク」ではなく、対等・平等でもなかった。
   
このような状況の中で、信頼関係についても不十分であった。選挙時だけの共闘には限界あり、日常的な活動積み上げの必要性も明らかになった。政党であれば、「党利党略」があって当然であるが、立憲民主党においては野党第一党としてのリーダーシップが強く求められた。
   
   

■5. 労働組合の対応

選挙戦で労働組合の姿は今回の選挙でもあまり見えなかった。一方、連合の民間大単産などは共産党との共闘はあり得ないとの立場で野党共闘を妨害した。また、原発をめぐる課題等で、企業の利益を守る観点から政策に介入してきた。みずからの利益を守るための「業界団体」が自民党の支持母体となっているが、最近ではマスコミが労働組合をそれと同等に位置づけるようになっている。「連合会長が野党代表を呼びつけて注意した」というような報道を見るたびに、「何かが間違っている」と多くの人が感じている。
   
労働組合の支持、特に参議院比例選挙などにおける「産別票」は大事である。しかし、そのような要素が全く持たないれいわ新選組が、無党派層と言われる有権者から予想以上の票を獲得し議席を増やしている。まさに対照的である。「得るもの」と「失うもの」があるという選挙の難しさを考えさせられる。労働組合との連携をさらに強化しなければならないが、企業の利益などの視点ではない労働組合みずからの政治闘争という立場からの協力関係が求められる。
   
私の活動している地域(1市1町3村)は人口約5万人、北アルプスの麓の片田舎であるが、候補者を連れて労働組合へのあいさつ回りも行った。化学関係の労組では昼休みの組合事務所に役員らが集まって受け入れてくれた。また、バス会社の営業所では、休みの社員も子供連れで集まって話を聞いてくれた。
   
公示日のポスター張りには連合等の各単組からも参加があり、政党、市民団体、退職者会などと地域を分担して行動した。現場の具体的活動と中央における動きのギャップについて、改めて考えさせられた選挙であった。
   
   

■6. 改憲をめぐる動向

参議院選挙と同時に、改憲のための国民投票を実施するという動きがどのように進んでいくのか予断を許さない。しかし、冒頭述べたような政治的力関係のなかでは、「あり得る」との前提で戦いを進めるしかない。相手側は改憲という戦略とともに、この動きが野党共闘の分断につながることを意識している。
   
昨年12月の臨時国会で衆議院憲法審査会の実質討議を行ったことを踏まえ、自民党は今通常国会でも開催回数を増やし改憲を加速させることを狙っている。立憲民主党は、改憲の是非を問う国民投票時のCM規制など法整備を先行させるべきとして自民主導の議論に慎重な立場に立っているが、日本維新の会、国民民主党は憲法審査会の毎週開催を訴え自民党の後押しをしている。戦後政治のなかで、「改憲」「護憲(改憲阻止)」「論憲」などに分かれたせめぎ合いが続いてきたが、その構図がいま大きく変化しようとしている。みずからの「立ち位置」を明確にしない限り参議院選挙も戦えない情況になりつつある。
   
改憲か改憲阻止かという言葉だけの単純な対立構図にしてしまえば、衆議院選挙結果からしても改憲策動を止めることはできないであろう。具体的な戦い方が問われている。
   
コロナ禍における「生存権」問題、コロナ対策における「緊急事態条項」の必要性等々、具体的な課題と結び付けた世論形成を図ることが重要である。すべての国民が有するはずの健康で文化的な最低限度の生活を営む権利、教育を受ける権利は保障されているか、身の回りの問題に当てはめて考えたとき初めて違う世界が見えてくる。そして、「改憲を持ち出すのは、もともと改憲したいと思っている人たちの思惑である」という本質を暴いていく戦術が大事である。
   
もう1つ付け加えるとしたら、国会内の力関係や事情だけで対応してはならないという点である。国の針路に関わる最重要課題であるなら院外の闘いも同時に追求しなくてはならない。2015年安保法制をめぐる闘いのような盛り上がりを作れるかどうかが問われている。
   
   

■7. 野党共闘(市民と野党の共闘)の再構築を

来る参議院選挙は、結果次第で戦後政治の大きな転換点になるかもしれない。沖縄県、山口県、広島県で年末から感染が急拡大した原因は米軍基地にある。しかし、岸田首相は日米地位協定の見直しを頭から否定している。閣僚からは、「米軍の機嫌を損ねる」などという声まで聞こえている。日本が「主権国家」であることすら否定する対応である。
   
背景にあるのは、密室同然で、なし崩し的に進められている日米軍事一体化である。日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議(2プラス2)では、「台湾有事など地域の安定を損なう中国に対し共同で対処する決意」が示され、日本政府は敵基地攻撃能力を念頭に「あらゆる選択肢を検討する」方針を米側に表明している。極めて危険な道に突き進んでいると言っても過言ではない。
   
参議院選挙に向けての最大の焦点は野党共闘の再構築である。32の1人区で、野党共闘によって「1対1の対決構図」を作れるのかが勝負の分かれ目である。そして、「いのち」「くらし」「平和」等の争点で世論を盛り上げ、多くの国民を巻き込んだ「与野党対決」の状況を作ることができるかである。同じ失敗を繰り返せば、同じ結果しか生まれない。
   
各党間で考え方や政策の違いはあって当然である。しかし、候補者一本化は必要という考え方はほぼ一致している。野党側がバラバラでは太刀打ちできないからである。そうであるならば、話し合いは不可欠である。話し合いもせずに予定候補者を下すことも一本化することもできない。ここがスタートである。
   
次に、その候補者の考え方や政策が支持できるとなれば、「野党統一候補」にすることができる。候補者一本化から一歩進めて野党共闘にする知恵と努力が求められる。ここに市民連合等が加わればわれわれがめざす「市民と野党の共闘」が実現する。野党第一党である立憲民主党を中心とした各野党の真摯な取り組みにかかっている。
   
最後に、社民党など少数政党のことに触れておきたい。衆議院選挙後に河村和徳准教授(東北大学、政治学)は少数政党について、「LGBT(性的少数者)の人権問題に着目した政党があったように、大きな政党対立からこぼれ落ちた争点を探し出し、全国的な課題に押し上げることができる」と評価し、存在感を高めるには「多くの人を振り向かせるような、生活に密着した政策提言をしなければならない」と述べている。
   
社民党は、立憲民主党への「合流問題」で分裂し厳しい戦いを余儀なくされてきた。しかし、比例得票数は100万を超えた。主体的な取り組みだけで分析できない「傾向」(「風」と呼んでもいい)が表れたと見るべきであろう。ポスターを掲出できない、ビラを配れない県で「万単位」の票が出て善戦したのは、野党共闘における存在感、唯一の女性党首など党のイメージによるものと見られる。
   
もちろん、社民党を取りまく厳しい状況は変わっていない。野党第一党の立憲民主党はもちろん、共産党やれいわ新選組とともに野党共闘再構築に向けて連携を強めながら奮闘する以外ない。緑の党、新社会党など国会における議席を有していない政党(地域政党)も軽視してはならない。市民運動などに参加している人々との連帯・共同も非常に大切である。腐敗した政治を国民の手に取り戻すために「大同団結」を目指していくことである。そのために、社民党として果たすべき任務・役割は決して小さくはない。
   
(1月15日)

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