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●2021年1月号
■ コロナ禍の打撃と自己責任論克服への課題
    立松 潔

新型コロナの新規感染者数は2020年の11月から再び拡大し、12月12日には初めて全国で3000人を超え、重症者数も過去最多を更新している。実に深刻な事態と言わざるを得ない。
   
このような今回の新型コロナの感染拡大が明らかにしたのは、新自由主義的改革がいかに社会を危機に陥れるものであるかということである。行革の一環として1990年代から進められた保健所の統廃合と人員削減は、感染第一波の際のPCR検査の致命的な遅れをもたらすことになった。また医療費抑制策によって病床数の削減や医師数の抑制が続けられてきたことは、重症患者数の増加によって医療機関を危機的状況へと追い込んでいる。
   
さらに、株主重視経営の謳い文句の下で進められた新自由主義的な雇用流動化策によって、正規雇用の削減と非正規雇用の拡大が推進された。賃金コストの引き下げによって企業利益は拡大したものの、その結果生じたのが、所得格差の拡大と貧困世帯の急増である。そして今回のコロナ禍に伴う不況の深刻化はそのような経済的弱者を直撃し、生活難へと追い込んでいる。
   
しかし、菅政権は新自由主義的なトリクルダウン思想に固執し、所得再分配による貧困問題の解決には消極的である。経済を拡大させればその「おこぼれ」で貧困者の救済は可能というのである。新自由主義的な自己責任思想が、格差是正・脱貧困の実現を阻んでいるのである。本稿では最初にコロナ禍によって悪化した日本経済の状況を分析し、新自由主義的な格差容認論や自己責任論が事態を一層悪化させていることを明らかにしたい。
   
   

■ 消費増税不況からコロナ不況へ

内閣府経済社会総合研究所の景気動向指数研究会の発表によれば、2012年12月に始まった景気回復局面は18年10月に71カ月で終了し、それ以降日本の景気は後退局面に移行した。そして図表1からわかるように、19年10月の消費増税に伴う個人消費の減少によって19年10〜12月期はマイナス成長となり、実質GDP(国内総生産)は前期比で1.9%の減少(年率換算7.2%減)となった。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
続く2020年1〜3月期の実質GDPも前期比0.5%減(年率換算2.1%減)のマイナス成長となり、その後コロナ禍による経済への深刻な打撃が加わることで、20年4〜6月期には前期比で戦後最悪の8.3%(年率換算29.2%)もの落込みを記録したのである。
   
2020年1〜3月期から4〜6月期にかけて、GDPは45.1兆円(年額換算、以下同じ)も下落した。そしてそのうち最大の落ち込みが民間消費の24.5兆円減であり、次に大きいのが財貨・サービス輸出の16.8兆円減であった。コロナ禍の拡大に伴う外出や旅行の自粛・抑制や雇用悪化の影響で個人消費が落ち込んだこと、そして世界的な感染拡大によって輸出や外国人旅行者が減少したことがその要因である。
   
その後2020年の7〜9月期のGDPは年額換算で527.1兆円まで回復したものの、依然として1〜3月期の水準を3.6%(18.6兆円)下回っている。1〜3月期と比べると、民間消費は10.7兆円、財貨・サービス輸出は11.1兆円も下回っており、依然として個人消費と輸出の減少と外国人観光客の激減が景気の本格的回復を阻んでいる。
   
   

■ 経済的弱者に集中するコロナ不況の打撃

コロナ不況の雇用への影響について雇用形態別に明らかにしたのが図表2である。これを見ると正規雇用はコロナ禍が深刻化し、緊急事態宣言が発出された4月以降も5月以外は対前年同月比で増加している。しかし、非正規雇用は前年同月比で減少が続いており、ピークの7月はマイナス131万人(6.0%)である。10月にはやや改善したものの、依然として前年比で85万人(3.9%)の減少となっている。
   

(図表2・クリックで拡大します)
   
正規雇用労働者数が減少していないのは、雇用調整助成金制度などによる雇用維持策によって、コロナ禍で休業等を余儀なくされた企業でも雇用の維持が図られていたからであろう。また、医療従事者への需要拡大は言うまでもないが、他にも在宅勤務やオンラインショッピングの拡大によって、情報通信業やトラック輸送業などでも雇用拡大がみられたのである(総務省「労働力調査」による)。
   
雇用調整助成金制度では、事業主が労働者を解雇せずに休業(による雇用調整)を実施する場合、その休業手当等の一部が助成される。しかし助成対象になるのは、雇用保険加入者に対する休業手当などであるため、雇用期間が短期(30日以下)であったり、1週間の所定労働時間が短い(20時間未満の)非正規雇用労働者の場合、雇用保険未加入のため、助成対象になっていない。
   
ところが今回は学生アルバイトなど雇用保険に加入していない雇用者に対しても雇用維持の為の「緊急雇用安定助成金」が支給されることになった。これによって短期のアルバイトまで含めたほとんどの非正規雇用労働者が雇用維持政策の対象となったのである。
   
しかしそれにもかかわらず、図表2で明らかなように非正規雇用者数は大幅に減少している。非正規雇用労働者の多くは政府による助成政策を利用されることなく、雇用を打ち切られていたのである。しかも雇用保険に入っていない非正規雇用労働者は、職を失うことでただちに生活難に陥る事例が少なくない。
   
正規雇用についても今後の動向については決して楽観できない。というのはリーマンショック(2008年9月)後の世界同時不況の際も、非正規雇用は2009年から増加に転じたのに対し、正規雇用は2015年まで毎年減少を続けたからである。非正規雇用の場合は、雇止めや解雇(派遣切り)によって一気に削減されるものの、景気が底を打つと比較的早めに雇用が回復する。これに対し、正規雇用の場合は希望退職の募集や新卒採用の抑制などの方法によって、過剰人員を時間をかけて削減することが多いからである。
   
新卒採用の状況についての文科省と厚労省の発表によれば、2020年10月1日時点での大学生の就職内定率は69.8%で、前年同期比と比べ7.0ポイントも低下している。新型コロナウイルスの流行で企業の間に採用を抑制・中止する動きが広がっており、就職氷河期の再来にならないか懸念されている。
   
また、東京商工リサーチによれば、2020年10月29日までに上場企業の早期・希望退職者募集が72社に達したという。これは19年通年(35件)の2倍増であり、年間で募集企業が70社を超えたのは2010年(85社)以来だという。希望退職募集人数も、判明分だけで1万4095人を数え、19年通年(1万1351人)をすでに上回った。このうち赤字転落によるもの(赤字リストラ)が75%(54社)にのぼっており、コロナ不況が長期化すればさらに赤字企業が増え、希望退職募集が増加すると心配されている。
   
   

■ 経済優先のGo Toキャンペーン

非農林業の主要な15業種のうち、2020年10月において対前年比で最も雇用者数が減少していた産業は「宿泊業、飲食サービス業」である。新型コロナへの感染を防ぐための旅行や外食の自粛が、ホテルや旅館、飲食店の利用者を激減させ、経営悪化による雇用の縮小をもたらしたのである。「宿泊業、飲食サービス業」は15業種の中で最も非正規雇用が多く、2019年の平均では75.5%もの割合を占めていた。しかし、この1年間では正規雇用者数が11.3%(11万人)も減少している。非正規雇用者が9.4%(26万人)の減少であるから、減少率では正規雇用のほうが非正規雇用を上回っていた。
   
このように正規、非正規の両方とも減少しているのは非農林業15業種のうち「宿泊業、飲食サービス業」だけである。倒産や廃業によって正規・非正規にかかわらず職を失ってしまうような事例が多かったのである。同業の深刻な実態をあらわしている(以上「労働力調査」)。
   
政府が「Go Toトラベル」や「Go Toイート」のキャンペーン」を推進しているのも、国内旅行者や外食需要を増やすことで、コロナ禍で最も打撃を被っている「宿泊業、飲食サービス業」を救済することが主な目的なのであろう。しかし「Go Toキャンペーン」の実施に伴い、11月から感染拡大の第三波が襲来し、感染者数も重症者数も過去最多となった。専門家や世論による批判が高まり、内閣支持率が大きく低下したのは当然であろう。
   
そのため菅首相は年末年始(12月28日から1月11日まで)の「Go Toトラベル」を全国で一時中断すると発表した。しかしこれがどの程度の効果を持つのかは明らかではない。「Go Toイート」は継続されることになっており、「Go Toトラベル」も中断後再開されれば6月末まで実施される予定である。これを見直さない限り、感染拡大を食い止めることは困難であろう。
   
   

■ 社会保障の脆弱性とその背景

さらに、コロナ禍の進展は日本の社会保障体制の欠陥や脆弱性を明らかにすることになった。これまで進められてきた政府の医療費抑制策による病院・病床の削減や医師数の抑制が、コロナの感染拡大とともに医療現場を危機的な状況に追い詰めているのである。
   
また、生活保護制度を初めとする社会保障が貧困者の救済の機能を十分に果たしていないことも明らかになっている。日本は収入が最低生活未満の世帯に占める生活保護利用世帯の割合(捕捉率)が他の先進国と比べ異常に低く、多くの貧困世帯が支援を受けることなく放置されているのである。
   
橋本健二『アンダークラス―新たな下層階級の出現』(ちくま新書、2018年)は、永続的で脱出困難な貧困状態に置かれている非正規雇用労働者をアンダークラスと呼んでいる(ただし、非正規雇用でもパート主婦や非常勤役員・管理職、専門職の人びとは、アンダークラスには含めない)。同書によれば、現在の日本のアンダークラスの人数は930万人、就業人口の15%にも達しており、その平均年収は186万円、貧困率は38.7%だという(同、p.8)。そして今回のコロナ禍は、このようなアンダークラスの人びとに深刻な打撃を与えているのである。
   
   

■ 根強い自己責任論

菅政権がコロナ禍での生活困難者の増大に対し、「Go Toキャンペーン」のような政策を推進しているのは、「自己責任論」と経済成長優先の思想によるものであろう。生活困難者の救済は経済活性化による就業の促進によって進めるべきというのである。
   
残念なことに日本は他の先進国と比べ、格差を容認し、所得再分配に否定的な意識が強いと言われている。最低生活以下の生活を余儀なくされているにもかかわらず、生活保護の利用は恥だと考え、生活保護を申請しようとしない人も少なくない。そしてそれが生活保護制度の周知不足や、申請時における行政側の「水際作戦」と相まって、捕捉率を引き下げる要因となっているのである。
   
2007年にアメリカのピューリサーチ研究所が実施した国際的意識調査では、日本国民の意識に際立って自己責任論=所得再分配拒否の傾向が強いことが明らかになった。「自力で生きていけないようなとても貧しい人たちの面倒をみるのは、国や政府の責任である。この考えについてどう思うか?」という質問に対し、「同意する」という回答(「全く同意」と「ほぼ同意」の合計)が日本の場合59%であり、アンケート対象47カ国の中で最低だったのである。所得再分配に最も消極的な国と考えられているアメリカでも70%が「同意する」と回答しており、その他の国の例を見るとイギリス91%、フランス83%、ドイツ92%、イタリア86%、韓国87%と、8〜9割が「同意する」とした国が圧倒的に多くなっている。日本人の意識が他国に比べ、いかに自己責任論へと大きく傾いているかが明らかである(以上、Pew Research Center”47-Nation Pew Global Attitudes Survey”、4-Oct-07)。
   
このピューリサーチ研究所の意識調査ほどではないが、厚生労働省が2012年に実施した委託調査「政府の格差是正への責任に関する意識について」においても、「所得の格差を縮めるのは、政府の責任である」という意見に同意する割合が、日本は他の先進諸国の結果と比べて低くなっていた。この質問に肯定的な意見は日本は52.1%でアメリカ(32.6%)よりは高いものの、フランス(77.2%)、イギリス(95.3%)、スウェーデン(58.0%)、韓国(75.1%)などと比べるとかなり低い水準であった(『平成24年版厚生労働白書』p.111)。
   
   

■ 自己責任論の克服と社会民主主義の拡大へ!

所得再分配に関する意見は、社会的な階層・階級によっても大きく異なっている。橋本健二『新・日本の階級社会』(講談社現代新書、2018年)によれば、アンダークラスでは所得再分配をもとめる意見が際立って高いのに対し、資本家階級は最も低い水準となっている。しかし、残念なことに新中間階級と正規雇用労働者も、資本家階級と同じぐらいに所得再分配に否定的な意見が多くなっているのである(同上、p.230)。
   
新中間階級とは、管理職や専門職、上級事務職などに従事する労働者であり、一般の労働者より上の地位にあって労働者を管理・監督したり、高度な業務に携わる階層である。資本家階級は就業人口の4.1%に過ぎないが、新中間階級は就業人口の20.6%、そして正規労働者は35.1%を占めており、両者で就業人口の過半数を超えている(同上、p.67)。
   
しかも現在の日本では格差に対する認識があまりにも政党支持と明確に対応しすぎているという。自民党支持者は所得再分配を拒否する傾向が極めて強く、「政権党である自民党は、自らの支持層を裏切らないためにも、所得再分配の強化へと政策の舵を切ることはできない」のである(橋本健二『〈格差〉と〈階級〉の戦後史』河出新書、2020年、p.371)。
   
このように、新中間階級や正規雇用労働者にまで新自由主義的な格差容認論や自己責任論が広がっていることが、日本において格差是正と貧困救済のための社会保障の充実を妨げている。そしてまた労働組合の組織率が低下し、自己責任論に対抗する社会民主主義思想の影響力が弱まっていることも大きな要因である。
   
しかし、コロナ禍が経済的弱者を窮乏化させる中で、反貧困・格差是正に向けた取り組みの重要性はますます強まっている。非正規雇用も含めた労働組合の拡大によって社会民主主義思想の影響力を強め、国民の間に所得再分配による格差是正への幅広い同意を取り付けることが、当面の最重要な課題となっているのである。
   
   

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