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●2020年11月号
■ 菅政権と院内外から対峙しよう
    小笠原福司

■ はじめに ―― 学問の自由と民主主義の危機

菅義偉内閣が発足して1カ月が経ったが、マスコミ各社の世論調査で内閣支持率が10ポイント近く下落した。2001年の小泉内閣以降の9政権で、発足直後と翌月の内閣支持率の増減を見ると、菅内閣は2番目の下落幅とのこと(朝日新聞10月20日。ちなみに朝日新聞の17〜18日調査では、内閣支持率は53%で9月から12%下落)。
   
その主要因は、日本学術会議の会員候補6人を任命しなかった問題で、「人事で脅すという姿勢が怖がられたのではないか」と、自民党の閣僚経験者からも出されている。前述の朝日新聞世論調査では、首相の説明を「十分ではない」とする回答が63%に上った。
   
「着実に全体主義への階段を上がる」と山極寿一・日本学術会議前会長は10月20日朝日新聞デジタル版のインタビューで、要旨を次のように述べられている。

日本学術会議も民主主義を基本として議論を展開する学術の場で、いわば学者の国会のようなものだ。実に多様な学問分野の学者が集まっている。日本国籍を持つ87万人の研究者を代表する210人の会員と2000人近い連携会員からなる。公務員だが給与はなく、会議出席する際に日当と交通費が支払われるだけのボランティアだ。しかも財政難で昨年度の下半期にはそれさえも支給されなかった。
   
会員や連携会員、さらに全国の2000以上の学術研究団体の推薦から選考会議が学術的業績の高い会員候補者を選び、首相に推挙する。首相は推薦に基づいて会員を任命することになっている。これは憲法第六条の「天皇は、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命する」に倣ったもので、任命が形式的なものであることは明らかだ。
   
なぜ、今回に限って菅首相は6人(安保法制や共謀罪に反対してきた人々)を任命しなかったのか。任命しないのは日本学術会議法に違反するし、理由を述べないのは民主主義に反する。国の最高権力者が「意に沿わない者は理由なく切る」と言い出したら、国中にその空気が広がる。あちこちで権威に忖度する傾向が強まる。

との提起である。
   
安倍政権下で内閣人事局を使った官僚支配、さまざまな圧力や介入・懐柔策を使ったメディア支配に続いて、学問の世界まで政権の支配下に置こうとしている。学問の自由(憲法二三条――学問の自由が保障されず、科学が戦争に動員された戦前の教訓をふまえたもの)と民主主義が問われていると同時に、安倍政権の「戦後レジームからの脱却」路線を表紙を替えて引き継ぐ、全体主義(右でも左でもない。1つの理念だけを持ち、その他の考えを排除する国家)への危険な流れといえる。
   
   

■ 1.菅政権の性格とその政治を問う

「三大スガ案件」と言われているらしいが、菅首相が掲げた目玉政策の「デジタル庁」「携帯電話料金の引き下げ」「不妊治療の保険適用」について大々的にマスコミなどで報道されている。安倍前首相の大きなスローガンで「やってる感」を醸し出して煙に巻くのとは対照的で、具体的にターゲットを絞り「値下げ」の類で支持率のアップを狙う手法である(「アーリー・スモール・サクセス」――竹中平蔵氏の主張で、国民にとって身近で分かりやすい問題を取り上げ、それを突破口に改革を広げていこうというもの)。
   
これらの政策を推し進めるための仕掛けと人事では、新自由主義の規制緩和人脈がずらりと並んだ。
   
まずは、未来投資会議を廃止し、「成長戦略会議」の設置を10月16日に決めた。委員には、人材派遣会社「パソナグループ」会長でもある竹中平蔵慶応大学名誉教授(菅首相は小泉政権下で総務相だった竹中氏を副総務相として支えた間柄で、菅首相の「自助・共助・公助」の基本理念には、自己責任と自助努力に基づく競争社会の実現を訴えてきた竹中氏の影響がにじむ)。ITコンサル企業「フューチャー」の金丸恭文会長(安倍政権の「未来投資会議」からの継続で、菅官房長官の名代としてJA中央会制度の廃止など農協改革を主導)。さらに新たに起用されたデービット・アトキンソン小西美術工芸社社長(元ゴールドマン・サックス証券アナリストで菅首相の知恵袋の1人、中小企業を合併・淘汰で半分に減らし、大企業と中堅企業を中心として再編すべきとの主張)。また、竹中氏に近いと言われる元財務官僚の高橋洋一嘉悦大教授が任命された。
   
ちなみに、主要政策に関連して携帯電話料金の値下げは、新規参入で大手3社体制に風穴を開けた三木谷浩史・楽天会長兼社長。地方銀行の再編構想(「第4のメガバンク」を形成する)は、地銀連合の取りまとめ役を担う北尾吉孝SBIホールディングス社長(竹中氏も社外取締役)。外国人観光客の誘致や中手企業の再編は前述したが、アトキンソン氏などがブレーンについていると見られている。
   
「自助、共助、公助、そして絆、規制改革」が菅総理の「目指す国家像」とのこと。この「自助、共助、公助」(厚労省は7:2:1の割合)は1995年の阪神・淡路大震災以降、災害対応の文脈で広く使われる言葉だった。しかし、国の基本理念として語られる場合は、自分の事は自分で、それでもダメなら他人に頼れ、国は基本的に手を差し伸べない、という新自由主義の冷酷な論理そのものである。
   
自助、共助ともそれを可能にする環境を整えるのが公助=政治の務めである。公助としての社会保障政策を、「高齢化、財政難」を理由にズタズタにし、社会的弱者にも自己責任を押し付け、格差社会を放置・蔓延させたのが安倍政治の7年8カ月ではなかったのか。その中心メンバーが反省のそぶりも見せず、次期総理となり「自己責任論」を継承するというのである(「安倍なき安倍政権」とも揶揄)。まさしく剥き出しの新自由主義政治が行われていく。
   
そして、地域金融機関の再編(異次元のマイナス金利で弱体化させた上に、自助と努力が足りないと数を減らされれば地方はさらに衰退する)は菅首相が掲げる「活力ある地方の再生」の真逆で地方の破壊である。
   
さらに、「中小基本法で定める人数や資本金の定義などは見直した方が良い」「中小企業の再編を必要ならできる形にし、足腰を強くする仕組みをつくる」と基本法見直しという猛烈な規制緩和を促進するというのである(優遇措置や補助金を撤廃させ、企業を合併せざるを得ないような苦境に追い込む。それは地方における倒産・廃業、失業の増、地域経済のさらなる疲弊に直結する)。
   
日本企業の99.7%、雇用の7割を占めている中小企業を中心とした内需型経済への転換と真っ向から対立する政治が行われようとしている。コロナ禍にあって早晩、この矛盾は国民との対立を否応なしに激化させる。
   
   

■ 2.野党再編と野党共闘の深化

9月10日立憲民主党(以下、立憲と略す)と国民民主党(以下、国民と略す)が合流し、合流新党「立憲民主党」(略称民主党)の代表に枝野幸雄氏が選出された。結党大会は15日に行われた。合流新党の国会議員は合計で150人(衆院107人、参院43人)となった。09年に民主党が政権交代を果たした衆院選前の同党の衆院議員は115人で、新党は政権交代直前に近い規模となった。
   
枝野氏は「政治家が『自助』と言っては責任放棄だ。自助、共助でどうにもならない時、政治による公助がある」と。自助は、新党が掲げる「自己責任から支えあいへ」と再分配を重視する理念と真っ向から対立する概念である。
   
また、「働いて稼いだ所得税よりも、金融所得課税の税率が低いのはおかしい」と、所得再分配機能の見直しを主張した。経済政策では、「消費減税は与野党で時限的に合意する」。原発ゼロをめぐっては「スローガンで勝負しない。使用済み核燃料の問題を地道に進める」(日本記者クラブの討論会より、毎日新聞、9日)と述べている。
   
「元のさやに収まっただけ」とマスコミからも揶揄されるが、枝野代表は

「合流新党の綱領には、『適度な自己責任論には陥らず、公正な配分により格差を解消する』とある。民主・国民両党の時代にあった新自由主義的な傾向からは明確に決別した」
(朝日新聞、9月11日)

と新立憲の立ち位置について述べている。
   
そして、「野党第一党で『非共産』」を掲げない歴史的意義は大きいものがある」(毎日新聞、9月15日)との解説。これまでの野党第一党は「反自民、非共産」であったからである。2015年からの戦争法反対の闘いで本格的に共闘が組織され、その後16年と19年の参議院選で全国32の1人区すべてで選挙協力が実現できたこと。さらに衆議院における共同会派づくりと共産党との連携などの積み上げによる「安倍政権打倒」に向けた野党間の信頼関係が積み上げられてきたことが大きいと言える(9月16日の首相指名選挙で、日本共産党が立憲民主党の枝野幸男代表に22年ぶりに投票した。その主旨は「野党連合政権をつくっていくという意思表示」志位和夫委員長談)。
   
衆院選に向けても289の全国選挙区のうち野党統一候補が確立されていないのは約90と言われている。また、旧立憲と旧国民の候補者の重複も11あるとのこと。共産党とは62が競合していて、これから本格的に協議が行われる。志位共産党委員長は、「野党連合政権の政権構想をまとめて国民に訴えられるのか、共産党が閣外協力できる程度の政策合意が必要」と述べている。
   
9月25日に立憲民主党、日本共産党、社民党に「立憲野党の政策に対する市民連合の要望書」――いのちと人間の尊厳を守る「選択肢」の提示を――が出された。これは、「ポストコロナの時代にも向けて従来の市民連合の13項目の政策をグレードアップしたもの」(山口二郎運営委員)として、15項目にわたる「要望書」(各地域の野党共闘・選挙協力の参考となるものとして作成)の実現について要請がされた(立憲、共産党、社民党は賛同、9月26日時点)。
   
これを受けて立憲を中心として衆院選に向けて「国会内外で連携して選択肢づくりを進めたい」(枝野幸雄代表)としている。
   
社民党は、立憲からの合流「『よびかけ』についての討議資料(2)」に基づいて、9月末を目途に党内討論が積み上げられ、全国幹事長会議などを経て10月22日付で第18回臨時全国大会議案が下部討論に付された。
   
その議案は、党内議論で確認された共通認識として、

  1. 社会民主主義への確信、
  2. 自公政権の暴走に終止符を打つ、
  3. 社民党を取り巻く危機的な状況、

を踏まえて「よびかけ」への社民党の対応とその理由として2.の項で、

「社民党を残し、社会民主主義の実現に取り組んでいく」という選択と同時に、「『よびかけ』に応えて、立憲民主党へ合流し、社会民主主義の継承・発展をめざす」という選択のいずれも理解しあうこととします。

としている。
   
そして、

「党内議論の積み重ねに基づき、合流の是非を問うのではなく、いずれの選択も理解する対応をとることにしました。今回の対応は、社会民主主義の理念や政策の実現をめざす実践の場の拡大であり、それぞれが否定・対立するものではありません。……社会民主主義の継承・発展をめざすという共通の頂上に向かう道です」

としている。
   
この間の党内議論の反映としての「対立や混乱、遺恨を招かないよう、英知を絞るべきだとの声に応えたもの」との提起である。議案提起にあるように菅政権に対峙するのは社会民主主義であり、その勢力の結集、強化になるかどうかが問われている。

   
   

■ 3.コロナ禍で広がる生存の不安定性の増大

厚労省が10月9日発表した8月の毎月勤労統計調査によると、現金給与総額は前年同月比1.3%減の27万3263円と5カ月連続で減少した。残業代を含む所定外給与も14%減った。総務省が9日発表した8月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は物価変動の影響を除いた実質で前年同月比6.9%減った。かねて働き方改革によって下落傾向だったところに新型コロナウイルス禍が重なり、マイナス幅が膨らんでいる。
   
総務省が2日発表した8月の完全失業率(季節調整値)は、前月比0.1ポイント上昇の3.0%と、3年3カ月ぶりの3%台になった。ちなみに

  • 米国 8.4%
  • 英国 4.1%(7月)
  • ドイツ 4.4%(7月)

となっている。完全失業者数は、同じく3年3カ月ぶりに200万人を突破した。
   
同日発表された8月の有効求人倍率も前月よりも0.04ポイント低い1.04倍と8カ月連続で悪化した(14年1月以来、6年7カ月ぶりの低水準)。新型コロナウイルスによる経済への打撃で、雇用情勢の悪化が続いている。8月の就業者数は、前年同月より75万人少ない6676万人だった。産業別にみると、

  • 製造業が52万人、
  • 宿泊・飲食サービス業が28万人、
  • 卸売り・小売業が16万人、

それぞれ減っている。国内外の需要減が大きい業界で、働き手の減少が目立つ。非正規雇用の働き手は、前年同月に比べて120万人減っており、うち7割が女性だった。緊急事態宣言下で4月に597万人まで膨らんでいた休業者数は、8月は前月比4万人減の216万人に。前年同月と比べると14万人増の水準で、総務省は「(休業者)コロナ禍前の状態に戻りつつある」と見ている(休業者の減は他方で失業者の増ともなっていることを見ておくことが必要)。
   
しかし、「個人消費の回復傾向に比べ労働市場の回復は遅れる傾向がある。今年度いっぱいは完全失業率の上昇が続き、4%前後まで上がる可能性がある」(ニッセイ基礎研究所斎藤太郎・経済調査部長)との分析もなされている。
   
なお、企業の休廃業や解散が、過去最多を更新しそうな勢いで増えている。9月23日、東京商工リサーチが速報値を発表したが、2020年1〜8月の全国の「休廃業・解散」企業は3万5816件で、前年同期と比べて23.9%増えた。現状のペースが続くと、年間5万3000件を突破して、過去最高を大きく更新する可能性が出てきた。2016年度の国内企業数(規模を問わず)は約358万社で、単純計算で1.0%が今年1〜8月に「消滅」したことになる。
   
厚労省の10月2日発表の、解雇や雇い止めは見込みも含めて累計6万3347人。業種別では、製造業1万1072人とトップで、飲食業1万78人、小売業8765人。4位と5位は宿泊業、労働者派遣業で、コロナで客数が途絶えたり、売り上げが急減した業種ばかりである。
   
さらに、ハローワークなどに休業に関する相談をした事業所・雇用調整の可能性がある事業所数は累計10万2876件に上る。そして、「医療・福祉」や「専門サービス業」(国家資格の税理士や弁護士、行政書士のほか、セキュリティー、ビルの清掃・メンテナンス、法務や給与の代行業務など)など幅広い業種に広がっている。いずれにせよコロナ禍におけるこれらの事業所はリストラ予備軍といえる。
   
東京商工リサーチによると、上場企業の早期・希望退職募集は9月14日に1万100人に。1万人超は前年より1カ月早い。募集社数は60社で、すでに前年1年分の1.7倍だ。大手企業さえうかうかできず、職種単位や事業所単位での早期退職募集を進めているという。非正規雇用労働者、中小零細企業労働者の雇用悪化・劣化が取りざたされているが、その裏には大企業労働者へも「雇用危機」は確実に忍び寄っているといえる。
   
   

■ 4.当面する臨時国会の課題

10月26日から開催される臨時国会では、冒頭に述べたが、学問の自由と民主主義の危機、そしてコロナ禍における命と雇用、暮らしをどう守るのかが問われる。
   
解散総選挙について年明けに、あるいは2021年度予算成立後の4月頃などと取りざたされているが、前述した課題の改善にむけ国会内における野党共闘としての共同行動、さらにはそれを支える国会外における連合、市民との共同闘争など大衆運動の強化こそ問われている。
   
また、こうした中央における院内外の闘いに呼応した地方における野党共闘を中心とした国民的な闘い、統一行動の組織化が問われている。この中央と地方の連動した菅政権への闘いを通して、来る解散総選挙に向けての野党共闘への国民的な支持を広げることである。そして、全国の小選挙区における野党統一候補の擁立と野党の共通政策づくりを推し進め、菅政権に代わるもう1つの選択肢を国民に提示することである。
   
(10月23日)
   
   

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