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●2020年9月号
■ 今こそ命と暮らしを守る政治実現へ
    小笠原 福司

■ 1.自然を破壊する資本主義とウイルス

「近年のウイルス性の感染症は、自然破壊によって野生動物との接触を加速したことが原因である。さらに自然資源の開発が続けば、深海や氷河の下に眠っている未知の微生物やウイルスを引きずり出してしまうかもしれない。開発の手を抑えても、地球温暖化は生物の動きを変え、新たな脅威をもたらす可能性がある」
(コロナは巧妙に、現代社会の盲点を突く 寄稿・山極寿一 京都大学長 毎日新聞 4月28日)。

この山極氏(霊長類学者・人類学者で、ゴリラ研究の世界的な権威)の論文で大変興味を持ったのは、「開発から感染へ」という項で、コウモリからゴリラとチンパンジーへの感染は、おそらく樹上で同じ果実を食べるときに接触したか、感染したコウモリの食べ跡に触れて感染したのでないかと考えられている。……夜行性のコウモリと昼行性の類人猿は普段出会わない。でも、伐採によって果樹の数が限られ、ゴリラやチンパンジーが採食する木でコウモリが眠っていれば接触してしまう……これまで手付かずだった原生林に開発の手が入り、動物たちの動きが制限されて接触の機会が変化したことが、感染経路をひろげたことは確かなようだ(弁証法的に自然と動物、人間の関係が分析されている)。
   
ここまで読み進んで、ふとある古典を思い出した。エンゲルスが書いた『自然の弁証法1』(国民文庫)「猿が人間化するにあたっての労働の役割」という論文である。数十年ぶりに読んでみて、エンゲルスが人間と動物の差異、人間は自ら変化をもたらすことによって自然を自分の目的に奉仕させ、自然を支配する。と説き、続いて、それによって引き起こされる環境破壊について「われわれ人間が自然にたいしてかちえた勝利にあまり得意になりすぎることはやめよう。そうした勝利のたびごとに、自然は我々に復讐する」と述べている。今回の新型コロナウイルスのパンデミックはまさに自然の我々に対する復讐ではないのか。
   
山極氏は他でのインタビューで「問題は、利潤をあくまで追求し、利潤を将来の投資に向けるという資本主義の原則です。資本主義はそのための自然破壊をためらわないのです……先進国の中に、発展途上国の手つかずの自然資源を利用して利潤を上げようとしている国があります。違うやり方を入れていかないと世界はもたないと思います。コロナ禍のもとで、誰もが資本主義は限界だと感じているのではないでしょうか」と鋭く提起をされている。
   
   

■ 2.内需を軸に持続可能な経済へ転換

内閣府の「景気動向指数研究会」(座長・吉川洋立正大学長)が7月30日の記者会見で、2012年12月から始まった景気の拡大局面が18年10月をピークに終了し、後退局面に転じたと認定した。景気の拡大期間は71カ月にとどまった。吉川座長は、「賃金が上がらずに消費が伸びなかった」との分析を述べた。
   
茂木経済再生担当相は19年1月、「戦後最長になったとみられる」と発言。戦後最長の「いざなみ景気」(ちなみに小泉純一郎政権下での円安で企業は潤った一方で、家計部門に回復の実感はなく、09年1月与謝野経済担当相は『かげろう景気』と表現した)の73カ月を超えたと経済政策アベノミクスの成果を宣伝した。安倍首相も「戦後最長の景気拡大」とやってる感を事あるごとに振りまいた。
   
安倍首相は、消費税増税前に好景気を印象づけながら、19年10月に国民の不安や懸念の声に逆らって消費税10%への引上げを行ったが、その1年前から景気は下降しており、増税により日本経済をますます冷え込ませ不況を深刻化させたのである。
   
この間の経済政策アベノミクスがもたらしたのは「トリクルダウン」どころか大企業と富裕層にこれまで以上に富が集中し、国民には「したたり落ちなかった」。資本金10億円以上の大企業が保有する内部留保は20年1〜3月期に487.6兆円と過去最高を更新。安倍政権が発足する直前の12年1〜3月期の281.2兆円から1.5倍以上増えている。一方、個人消費は低迷し実質賃金はマイナス0.5%と悪化し、71カ月間の長期拡大期間を経てもなお、個人消費はわずか0.4%前後増(「いざなみ景気」1.0%増すら下回った)の停滞であり、「格差、貧困を拡大し、中間層の崩壊でより二極化を固定化した」と言える。
   
政府はコロナ禍にあって「新型コロナウイルスによる景気の大幅な後退」などと宣伝しているが、それ以前に14年4月に消費税を5〜8%へ(引き上げ以降、実質国内消費が3年連続で対前年比マイナスとなり、13年の水準に回復していない)、19年10月には10%へと増税を行い国民生活の基盤を破壊し、アベノミクスは行き詰まっていたのである。その上に今年に入っての新型コロナウイルスによる命と暮らしの破壊が深刻な事態を招いている。
   
内閣府が8月17日発表した20年4月〜6月期の国内総生産(GDP、季節調整)は物価の変動を除いた実質で前期比7.4%減、この伸び率が1年続いた場合の年率換算は27.8%減と、リーマン・ショック直後の09年1〜3月期の年17.8%を大きく超え、戦後最悪の落ち込みとなった。金額は485.1兆円で12年10〜12月期以来、7年ぶりに500兆円を割り込んだ。GDPの6割を占める個人消費の落ち込みは前期比8.2%減(とりわけ家計消費支出は同8.6%減。背景には雇用者報酬の前期比3.7%減がある)、設備投資も1.5%減で、マイナスは2四半期ぶり、輸出も欧米向けを中心に急減した。7月以降も全国で感染拡大が広がり、外食や旅行などサービス業は苦境が続いている。
   
問題は、今回の経済の落ち込みがリーマン・ショック時と異なる点として、全世界が同時に経済打撃を受けたことである。リーマン・ショックの際は中国をはじめとして新興国はそれほどの打撃を受けなかったので、日本は輸出が回復することで苦境を乗り切ることができた。
   
今回特に欧米は日本以上に深刻な打撃を受けている。さらに中国経済も打撃を受け、多くの発展途上国ではまだ感染拡大が広がっている。故に、これまで同様に輸出の増加(GDPの2割)をテコに経済を回復するという方向は不透明といえる。だからこそ国内でモノが生産され売れるようにする内需を中心とした経済への転換が求められている。
   
   

■ 3.安倍政権の無為無策のコロナ対策

7月から8月にかけての全国的なコロナの感染拡大はまさしく人災と言わざるを得ない。国内初の感染者が出たのは1月16日で、1万人を超えたのはその3カ月後の4月16日だった。7月4日に2万人を上回るまで2カ月半を要したが、21日後の7月25日には3万人を超え、4万人超えとなったのは、そのわずか9日後の8月3日だった。その後、1週間で5万人に達した。
   
全国で感染者が増えている背景には、PCR検査の拡充がある(世界的にみると151位、8月17日現在)。結果として、無症状や軽症の陽性者が多数確認され、感染拡大を防ぐために、隔離する施設・ホテルなどの宿泊施設や自宅での療養が全国で急増している。
   
「経済を回すことと、感染拡大防止」の二兎を追う安倍政権が、世論の8割前後の反対を押し切り強引に前倒しで始めた観光促進策の愚策に対して、

「軽症者をホテルで療養させることで、入院病床の逼迫を緩和し、病院は重症患者を重点的に治療できる。また、自宅からの隔離は家庭内感染の防止にもなる。『GoTo』は、軽症者施設の確保の足かせになるから、いったん中止を」
(医療ガバナンス研究所理事長 上昌広)

との指摘。人が移動すれば、ウイルスも移動する。分かり切った特性を無視した政府のキャンペーンで、ウイルスを全国に拡散させた政権の責任は重大である。
   
また、12日の日経新聞によると、この事業は旅行代金の35%を割り引く消費喚起策だが、消費者に選んでもらうためには、旅館やホテルは登録が必要。ところが、事業スタートから2週間以上が経過した今月10日時点で、登録が、なんと全体の3割程度にとどまっている。しかも、その多くが、大手旅行会社の商品に組み込まれた大型旅館・ホテルで、中小・零細の宿泊施設の登録は進んでいないとのことである。原因は、制度が複雑な上、旅行会社を通さない直接予約だと施設側の手続きが煩雑になるからだ。さらに虚偽申請防止のため観光協会など第三者機関を通さねばならず家族経営の旅館などには書類のやりとりなどの負担が重すぎるのである。
   
新型コロナ対策予算の中でも破格の1兆3500億円という巨額を投じる「地方経済救済策」は、大手に偏り、中小・零細には支援が届いていないという支離滅裂なのである。医療専門家、経済学者などが提言しているが、徹底したPCR検査・医療提供体制増強を軸にした積極的な感染防止戦略に転換し、国民の安心感を生むことで経済活動も活性化すべきではないだろうか。
   
全国的に感染拡大が広がる中、国民の命と暮らしを守るべく野党は憲法五三条にもとづく臨時国会召集要求を7月末行った。だが政府・与党は早期召集に応じない方針。これに対して「立憲デモクラシーの会」は8月13日に記者会見を開き、「内閣の裁量権の逸脱乱用だ」「憲法違反が常態的に繰り返されている」と批判する見解を発表した。
   
憲法五三条は、衆参いずれかの1/4以上の議員から臨時国会の召集の要求があった場合、「内閣は、その召集を決定しなければならない」と憲法上義務づけたものである。6月の那覇地裁の判決は、内閣には通常国会の開催時期が近かったり、内閣が独自に臨時国会を開いたりするなどの事情が無い限り、「合理的期間内」に召集する法的義務があるとした。安倍政権は2015年と17年も、野党の53条に基づく要求を事実上無視してきた。国民の命と暮らしが危機に陥っている時に、主権者・国民への説明責任を回避するものである。
   
また、政権与党が憲法上重大な「敵基地攻撃能力」(国際法上preemptive strikeすなわち先制攻撃と見なされる)を軽々しく議論しているのも現政権の姿勢を示すものだとして、「これ以上、立憲主義や議会制民主主義を冒涜することを許してはならない」と警鐘を鳴らしている。
   
時事通信が7日から10日に実施した8月の世論調査で、内閣支持率は前月比で2.4ポイント減の32.7%と第二次安倍政権発足後2番目に低い数字となった。新型コロナウイルス感染拡大への政府対応を「評価しない」との回答は59.6%に上り、「評価する」の19.4%を大きく上回った。なお、NHKの調査でも支持率は34%と第二次安倍政権で最低を更新中である。混迷の上実現した10万円の給付、持続化給付金の遅れと一部企業との癒着など、海外メディアにまで酷評されているが国民に対しての説明責任を果たすべく国会も開かない、週一回の閉会中審査にも出席しない安倍首相にはもはや退陣の道しかない。
   
   

■ 4.国民の負託に応え早期の臨時国会召集を

今政治に問われていることは、直ちに臨時国会を開きコロナ禍における命と暮らしを守る具体的な政策作りとその迅速な実行である。与党は、「審議すべき法案や予算案がない」ことを理由に10月末以降まで臨時国会を開かない構えでいる。しかし、国会には行政のあり方について議論し、ただす行政監視機能がある。さらに、予算についても国会審議にもとづいて執行するというのが財政民主主義のあり方である。第二次補正予算で10兆円もの予備費を計上しているが、その使途についても国民の命と暮らしを守る観点からチェックし、変えていくことが求められている。
   
安倍政権の無為無策のコロナ対応への怒り、憤り、さらに国民1人ひとりにコロナ禍が襲いかかる中で否応なしに政治に対する関心が高まってきた。こうした中で、19日国民民主党(以下、国民)が立憲民主党(以下、立憲)との合流新党結成を正式決定した。旧民進党の分裂以来、3年ぶりに自民党に対抗する「大きな塊」が誕生することになる。国民の衆参62人の国会議員の多くが合流新党に参加し、野田佳彦前首相などが率いる無所属議員の大半が参加する見通しで、「150人前後の新党を9月中旬に結成」(立憲福山哲郎幹事長)との報道がなされている(自民党の1/3を超える勢力となり、旧民進党と並ぶ)。
   
問題はこの新党が国民に対して明確にポスト新自由主義的政治を打ち出せるかどうかにある。そのキーワードは度々述べてきたが、「国民の命と暮らしを守る」という立場、政策を柱として明確に打ち出せるのかである。そして、来るべく総選挙に向けて野党共闘の共通政策を作り、289小選挙区の統一候補者の擁立を急ぐことである。その土台は、昨年の参院選のいわゆる「13項目の共通政策」であり、これにコロナ禍の緊急課題含めて組み入れることで国民に自公政権と対峙できる政策として提示できるのではないだろうか。
   
なお、社民党は立憲との「かりに合流を選択した場合」という課題に焦点をあてた「討議資料(二)」に基づいて党内討論が進められている。その2ページ中ほどに4つの課題を党内の共通認識にすべく、議論が要請されている。求められていることは立憲から出されている新党の綱領・規約案との比較も含めて、「社民宣言」とこれまでの運動の総括をふまえつつ、党内議論を進めることではないだろうか。
   
厚労省が18日公表した14日現在の集計によると、新型コロナウイルスの感染拡大に起因する解雇や雇止めにあった労働者が、見込みも含めて4万5650人に上った。7日現在の前回集計と比べ、1502人増加した。そのうち非正規労働者は1万8762人で、872人増加した。
   
業種別にみると、製造業が7425人(うち非正規労働者61人)、宿泊業が6908人(同5人)、小売業が5822人(同310人)、飲食業が5778人(同10人)、労働者派遣事業が3740人(同127人)となっている。無論、これも氷山の一角であることはいうまでもない。
   
また、総務省が7月31日に発表した「6月労働力調査」のうち、就業者数を見ると非正規の雇用者数は104万人減の2044万人となり、比較可能な14年以降で最大の落ち込みとなった。失業者のうち、勤め先の都合などリストラによる失業者は41万人。前年から19万人増えた。失業には至っていないが、仕事を休んでいる人も236万人となお高水準だ。5月に423万人いた休業者のうち45%は6月も引き続き休んだ。
   
東京商工リサーチの調査によると、上場企業の早期・希望退職募集が20年上半期(1〜6月)だけで41社に上り、昨年1年を上回った。そして8月13日までに52社に達し、このうち15社が新型コロナの影響を理由に挙げた(募集人数は判明分で43社・約1万人に迫っている)。業種別では最も多かったのがアパレル・繊維製品で8社。電気機器7社。自動車などの輸送用機器5社、小売りと外食が各4社と続いている。「赤字企業の早期・希望退職の募集は、本決算の発表後に集中する傾向にあり、秋以降に募集が加速する。募集が正社員から契約社員など他の雇用形態にまで広がる可能性がある」と。雇用の補償、維持に向けた取り組みはまったなしである。
   
コロナ禍で明らかになったエッセンシャルワーカーの低賃金と劣悪な雇用条件の改善(例えば、介護・福祉・保育職員は、平均賃金が全産業平均より月に10万円低い)、医療機関への支援や保健所体制の強化、中小企業や個人事業を守る持続化給付金の拡充、さらには観光・旅行業界を支援対象にするなど、感染防止に実効性をもたせるために補償と一体となった自粛要請、雇用調整助成金の特例措置(8月13日時点で、79万3180件)期間の延長と拡充などの具体的な改善策の実行が急がれている。
   
特に、雇用調整助成金の特例措置は期限が9月30日である。これが終了したら休業者が一斉に解雇される恐れがある。解雇は1カ月前に予告をする必要があることから、8月末に解雇通告をする企業や廃業を打ち出す企業が予想される。リーマン・ショック後に派遣切りが社会問題化し「派遣村」が作られ、一定の雇用改善が勝ちとられた。連合を始めとして労働三団体が黒子に徹して野党との共闘を強めて闘い抜いたことを今こそ想起し、あの闘いを上回る全国的な取り組みこそ求められているのではないだろうか。まさしく労働者運動の社会的な役割が問われている。
   
(8月20日)
   
   

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