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●2020年2月号
■ 安倍政権の打倒に全力をあげよう
  ―― 院内外の共闘強化こそ課題 ――
         小笠原 福司

   

■1. はじめに

第201通常国会が1月20日に召集された。会期は6月17日までの150日間である。安倍首相は今国会に関連法案を提出する全世代型社会保障改革を「本年最大のチャレンジ」と位置づけた。少子化対策を最長政権のレガシー(遺産)として残したいことのようだ。「そう言い張らなければならないほどのレガシー欠乏症」との指摘もさもありなんである。そして、経済政策を盛り込んだ2019年度補正予算と20年度予算を成立させ、社会保障制度改革関連法案の処理を急ぐ考えと報道がなされている。
   
首相は自民党の仕事始めで、政権に返り咲いて8年目、「桃栗三年柿八年」の諺にかけて「桃や栗は収穫できた。立派な柿を収穫していきたい」と語った。来年の9月までの総裁任期を全うすれば9年となる。そこで、「柚子は九年の花盛り。この柚子までは私の責任をもって大きな花を日本に咲かせていきたい」とのこと。さしずめ「柚子」は悲願の憲法改正なのだろう。しかし、与野党対立の極まった国会で改憲案を発議できる見通しは立っていない。
   
「安倍一強」に対して野党は昨年共同会派を結成し、臨時国会では奮闘をしてきた。さらに通常国会では「桜を見る会」や統合型リゾート(以下、IRと略す)汚職事件などの相次ぐ政権不祥事を追及すべく連携を深めている。そして、総がかり運動と市民など院外の大衆運動と有機的に結合し、安倍政権に引導を渡さねばならない。
   
   

■2. 施政方針演説にみる安倍政治の欺瞞

以下、主要なものを検討してみたい。
   
1つは、経済成長である。「『日本はもう成長できない』。7年前、この『諦めの壁』に対して、私たちはまず、三本の矢を力強くはなった」と改めてアベノミクスを持ち上げ、「『諦めの壁』は完全に打ち破ることができた」と何時もの自画自賛である。
   
しかし、この7年間、名目成長率は目標を1度も達成したことはなく、なおかつG7の中で日本は最下位。さらにIMF統計による他国との比較では、第2次安倍政権発足前(2012年)の国内総生産(GDP)の成長率の順位は136位、その後浮き沈みはあるが19年には172位まで落ち込んでいる。
   
賃金がほとんど上がらず物価は上昇する。さらに度重なる消費税増税、医療・教育・介護など社会保障の縮減と負担増によって国民の暮らしが破壊され、「壁を打ち破る」どころか平均して1%前後の低成長が続く日本経済となり、少子化に代表されるように、「今日の社会そのものが存続出来得ない」事態に陥っているのが現実である。
   
2つには、「来年度予算の税収は過去最高となりました」と述べたが、これはあくまでも政府の「見通し」であり、「過去最高となりました」と過去形で語るのは言い過ぎである。それを前提に20年度の税収を見ると、所得税、法人税は19年度と比べ、1兆1980億円の減少(当初予算比)。すなわち景気悪化による税収源である。一方、消費税収は10%への税率アップによって、2兆3270億円(同)となった。安倍首相が述べた「税収増」の主要な要因は、消費税増税によるものであって、景気回復や経済成長によるものではないといえる。その消費税を主な財源にして、法人税の減税が行われてきたことはご承知のとおりである(ちなみに13年度から18年度にかけて法人税収は10.5兆円から12.3兆円と僅かな伸び。対して消費税収は約7兆円、所得税は4.4兆円の伸びとなっている)。
   
3つは、「この6年間で雇用は380万人増加した」と、度々誇らしげに述べる点である。この点も本誌でも指摘されてきたが、増加した雇用の55%は非正規の労働者である。しかも、年齢階層別に見れば65歳以上の就業者であり、働く中高年が増える大きな理由は、政府の調査でも「生活のため」が1番となっている。低年金と将来不安で働かざるを得ない中高年が増えているのが現実であり、この間の社会保障制度の改悪の結果ともいえる。
   
さらに、親の賃金が上がらないことと一体で、学生アルバイトの増加も就業者数を押し上げている。値上げされた高い大学授業料や生活費のために、働かなければ勉学を続けられない若者が増えているのである。なお、大学生の奨学金受給率は51.3%、生活苦からアルバイトする大学生は35%とのことである(2014年度時点)。
   
働かざるをえない中高年、大学生、さらに40歳代女性などの増加が、安倍首相が誇る「380万人増加」の内実である。先進国のなかで「非正規労働者の増」を「成果」と自慢する首相がいるのだろうか。むしろ、逆に「政治の無策」を自ら公言しているようなものである。
   
最後に、これも聞き飽きた感があるが「最低賃金も現行方式で過去最高の上げ幅となった」と述べた。
   
そして、「最低賃金が史上はじめて全国平均900円を超えた」と訴えたが、700円台の県が17県もある。平均の900円で年間2000時間働いて、年収180万円にしかならない。年収200万円以下のワーキングプアと言われる労働者が雇用者数の約3割を占めている。さらに、いわゆる中間層は減り、年収300万円以下が約4割に達している。ちなみに賃金が上がったというが、実質賃金は第2次安倍政権発足後、18万円も下がっている、安倍政権下で格差、貧困が広がっているのが現実である。
   
なお、これも度々述べているが「戦後最高の有効求人倍率」「失業率も大きく改善し、ほぼ完全雇用」と豪語しているが、その内実はこの間本誌でも述べられてきたが、少子高齢化、人口減少に伴う人手不足に起因する部分が大きく、ただ単にアベノミクスの前から始まった傾向がそのまま継続しているだけである。アベノミクスは「運良く」金融危機などに遭遇していないだけである。
   
   

■3. 通常国会の焦点と野党共闘

冒頭に述べたが、今国会は安倍政権が内政・外交のすべての分野で行き詰まりを深めている中で、野党がこれまで以上に院内外から共闘を強め、安倍政権を退陣に追い込むことが最大の課題といえる。以下、その課題について述べてみたい。
   
1つは、まず問われなければならないのは、安倍政権の政治姿勢である。昨年末に明らかになった首相主催の「桜を見る会」の私物化、公選法違反の疑いなどに加えて、安倍政権が「成長戦略」の目玉と位置付けてきた海外から富裕層を日本に呼び込むIR誘致(カジノという、伝統的に刑法一八五条で犯罪とされているバクチを合法化して行う)をめぐる汚職疑惑(IR担当の内閣副大臣だった元自民党の秋元司衆院議員が逮捕、起訴される)、他の自民党議員らにも疑惑が浮上し、「一強政治」疑獄として最大の焦点となってきた。
   
しかし、安倍首相は、施政方針演説の中で、桜を見る会やIRの問題、さらに昨年10月、公職選挙法に接触する可能性がある「政治とカネ」の問題で重要閣僚が相次いで辞任したことなど全く言及せず、疑惑解決、政治不信の解消に向けた決意や意欲はまったく伝わってこない。
   
共同通信社による今月中旬の世論調査では、首相が桜を見る会の疑惑を「十分説明しているとは思わない」とする回答は86.4%に達し、IR整備を「見直しすべきだ」と答えた人も70.6%に上る。
   
またぞろこれまで同様に公文書を破棄して真正面から説明せず、時の過ぎるのを待ち、数の論理で決めることで政権を延命させるつもりでいるやに見える。しかし、19補正予算、20予算を審議する予算委員会は開かざるを得ない。昨年の臨時国会のように「審議に応じない」ことは出来ない。徹底した疑惑の解明を行い安倍首相の政治責任を明確にする必要がある。
   
2つは、安倍首相が「給付のバランスが悪いので全世代型の給付に変える」と述べた、全世代型社会保障改革である。それは、社会保障給付費の自然増を抑制しつつ、その配分を変えるというものである。子ども、家族、住宅等の福祉分野の配分を少し増額し、高齢者向けを大幅にカットしていく方向が出されている。
   
そして、今年の前半の通常国会では年金、介護保険の改正、後半においては医療保険改正を成立させるとしている。「全世代型社会保障検討会議」で示された改革の方向性は、健康自己責任を基本に据え、大きなリスクについては共助(社会保険)で行い、小さなリスクについては自助で行うとしている(「検討会議」の中間まとめと20年度予算との関連については、別稿田中信孝氏の論文を参照のこと)。「検討会議」の議員にはいわゆる財界の2トップ、経団連会長と経済同友会代表幹事が参加していて経済至上主義を掲げる財界主導による社会保障改革といえる。
   
これに対して、基本的人権としての生存権、生活権、文化権が無視される改革に対抗する真の全世代型社会保障改革、そのための財源論としての税制改革も含めて野党共闘としての共通政策を策定し、国民的な運動を背景にして対峙する闘いが求められている。 3つには、安倍政権は昨年12月27日、国会閉会中に自衛隊の中東への派兵の閣議決定を強行した。
   
1月22日、野党の「中東合同調査会」は、政府へのヒアリングを行い、米軍に情報提供することで自衛隊が軍事衝突に巻き込まれる危険性を指摘した。防衛省は、武力行使を支援する偵察行動を伴うなどした場合には「他国による武力行使と一体と判断される可能性がある」と答弁。野党側の、自衛隊が提供した情報が米軍の軍事行動・実力行使に使われない担保はあるのか、との追及に対して、防衛省は米軍による使用の可能性を否定しなかった。
   
そして、「まず目と耳をふさいでしまえと哨戒機や護衛艦が攻撃されたらどう守るのか」に対しては、「自衛隊が現時点では巻き込まれる恐れはない」と楽観的な見方を述べるにとどめた。
   
中東の平和と安定、日本関係船舶の安全確保のためというのが口実だが、前述したように、この地域への派兵は、自衛隊が紛争に巻き込まれ、憲法九条が禁止する武力行使の危険性を生み出す。これは中東の平和と安定にも、船舶の安全にも逆行する動きである。
   
イランをめぐる今日の問題は、トランプ米政権が核合意から一方的に離脱し、軍事緊張をつくり出したことに始まる。日本はトランプ政権に核合意への復帰を求めるとともに、イランに自制を促し、対話による外交的解決に力をつくすことである。
   
以上、通常国会の主要課題について述べてきたが、最後に野党側の共闘強化に向けての現状について述べたい。
   
野党側は22日衆院本会議で本格論戦が始まったことをうけ、共同会派の国対委員長は野党国対委員長連絡会を開催し、野党のチームワーク、連携を強めて安倍政権と対峙することで一致した(共同会派と共産党との連携)。「桜を見る会」「カジノ汚職」「自衛隊の中東派兵」の3課題を3本柱として政権の姿勢を正し、「安倍政権を倒していく通常国会にしよう」との合意を行った。
   
   

■4. 野党再編と連立政権への展望

最後に、昨年12月6日、立憲民主党(以下、立憲と略す)から国民民主党(以下、国民と略す)、社民党(以下、社民と略す)、社会保障を立て直す国民会議(以下、国民会議と略す)に対して、「安倍政権に代わって政権をも担いうる政党を築き上げ、次期総選挙での政権交代を現実のものにするため」政党の合流の呼びかけが行われ、野党再編の模索が始まった。
   
この動きについて、以下私見を述べてみたい。
   
1つには、安倍政権の行き詰まりについては述べてきたが、では、ポスト安倍政治とは何か。いわゆる社民主義的政権の樹立・連立政権による社民主義的政治の実現である。これは、欧米にみられる新自由主義的政治からの転換を求める流れである。但し、このオールド社民、社民リベラル、民主党左派などと呼ばれている潮流が、現実に政権を担うまでには発展はしていないが、社民主義的政治の実現を目指す潮流と言えるのではないかと思う。
   
これを日本の今日的な政治勢力で考えると、社民、立憲、連立政権に入るかどうかは別として共産党などが中心と考えられる。国民も、という意見もあると思うが、筆者は国民は「保守中道」との分析をしているので、社民主義的潮流の対象には入れていない(無論、国民内にも社民主義的な勢力があり、立憲へ合流をする議員も2桁との分析もあるので、一概には否定できない面もある)。
   
野党共闘の深化においてもこの野党が中心となり、如何にまとまり他の野党との共闘を強め、安倍自公政権に対峙できる構図をつくるかではないだろうか。そして、ポスト安倍政治として、いわゆる野党共闘としての共通政策、それも連立政権政策を打ち出すことが求められている。その下稽古は昨年の参議院選での「13項目の共通政策」(まさに社民主義的政策そのものといえるが、特に社会保障改革の財源確保の具体化含めて税制改革、さらに農漁民など諸階層をも包含したものに豊富化は必要と思われる)を出して戦ってきた。それを土台として、さらにバージョンアップさせ、「連立政権政策」(国民的な課題として大きな柱で幾つかの政策に絞り改革する政権)としてまとめ上げることが求められている。その策定に向けての確認はすでに昨年末に行われているが、前述した立憲からの合流の呼びかけもこれあり進んでいないと聞く。いずれにしても喫緊の課題である。
   
2つには、立憲と国民の合流に向けての協議は21日、合流協議をいったん打ち切りことで合意をした。立憲は通常国会召集前の合流を求めていたが、国民が結論を出せなかった(合流方式や人事、政策などで隔たりが埋まらなかった)。そして、当面する国会では衆参の共同会派で連携を強化し国会論戦に集中することを確認した。
   
この協議の中で注目したいのは、国民から立憲の「原発ゼロ政策の白紙撤回」要求である。これに対して立憲は拒否をしたとのことだが、日本における社民主義的政治の大きな柱と言えるので、「国民が言っていることを立憲が採り入れたら、民進党への逆戻り、立憲が有権者の支持を失っていく道ではないのか」(社民党又市党首談)との指摘は全く同感である。因みに、マスコミの世論調査では、「合流した政党に政権を任せたい」と答えたのは立憲、国民、社民支持層では50%を超えているが、共産、れいわ支持層は34%前後、無党派層は約14%と低調であった。国民的なうねりと支持に残念ながらなっていない。通常国会で野党共闘を中心とした院内外の大衆運動の組織化抜きには国民的な広がりは出来得ないことが明らかになったのではないだろうか。
   
「原発ゼロ政策の撤回」は電力総連などの組織内議員からの要求との報道がなされているが、背後に電力資本の影が見え隠れする。この間の野党間の合流をめぐっては独占・支配層の「保守2大政党づくり」の策動が繰り返し行われてきた。今回の「合流打ち切り」は、当面独占・支配層の野望をくい止めたとは考えすぎだろうか。
   
最後に、社民党であるが、1月23日の第51回常任幹事会において、合流の是非については2月の党大会で決めるのではなく、討議資料に基づき、「よびかけ」に対する党内議論を継続・豊富化し、丁寧に積み上げるとの方向が示され、「合流の是非にかかわらず、いかに今後の展望を見出していくのか、社会民主主義の理念・政策・運動、組織を継承し広げていくために何が必要なのか、について議論を深めていく必要がある」ことが確認された。
   
立憲との協議については、「情報の不足」「判断材料が少ない」などの声を受け止め、さらに、党内議論を深めていくため、かりに合流を選択した場合どうなるかなど具体的な内容について協議を行っていく、としている。
   
問われていることは、社民党の置かれた危機的な現状認識含めて共通させ、いかに今後の展望を見出していくのか。この間の運動の総括を組織的に行い、情勢が求める社民党の課題を明らかにし、全党的な共有財産とすることで、いかなる事態にも対応できる主体を構築することではないだろうか。その過程は同時に、年内に想定されている衆議院選挙に向けた態勢作りと一体であることは言うまでもない。
   

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