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●2020年1月号
■ 失われた30年と安倍政権の7年
         立松 潔

   

■ はじめに

1980年代後半のバブル経済が崩れはじめたのは、ちょうど30年前の1990年1月の株価暴落がきっかけだった。翌91年には地価も下落し、景気も後退に向かう。そしてその後金融機関の不良債権問題(金融危機)が表面化するとともに、企業のリストラにより失業者が急増し、「失われた10年」とも呼ばれる深刻なデフレ経済が続いたのである。その後小泉政権の下での新自由主義的「構造改革」(いわゆる小泉構造改革)によって大企業は最高益を続けたものの、他方で格差拡大が進行し、貧困に苦しむ多くの人びとの存在が明らかになる。そして08年9月のリーマンショック後の世界同時不況により、「失われた10年」は「失われた20年」へと長期化したのである。
   
2009年9月に発足した民主党政権は、世界同時不況から回復する間もなく、東日本大震災に見舞われる。その後もギリシア危機など世界経済の混乱を背景に円高も進行し、日本経済は低迷を余儀なくされる。ようやく12年末に近づく頃から世界経済も安定に向かうことになるが、そのような中で解散総選挙が行われ、12月26日に民主党政権に代わって第2次安倍政権が成立したのである。
   
2019年12月で第2次安倍政権はその発足から丸7年を経過したことになる。後述するように、日本企業はこの7年間に最高益を繰り返し、株価は大幅に上昇、雇用環境も好転した。しかし、国民生活が改善されたかというと、そうではなかった。多くの国民にとっては、それまでと同様に生活面での困難が続き、「失われた20年」は「失われた30年」へと長期化することになる。
   
しかも安倍政権のもとでは、政治面でも政府与党による強権政治が続き、民主主義も失われつつある。本稿では以上のような第2次安倍政権の7年間を振り返り、検討してみたいと思う。
   
   

■ 1.反動立法の強行と露骨な利益誘導

安倍政権の7年間の特徴と言えば、まず反動的な立法や政策が相次いで強行されたことである。2013年12月の秘密保護法強行採決、14年4月の武器輸出3原則見直し、15年9月の集団的自衛権行使のための安保関連法(戦争法)の強行採決、17年6月の共謀罪法案の強行採決などである。
   
さらに2017年の森友学園や加計学園をめぐる問題では安倍政権の露骨な利益誘導も明らかになった。そして昨年表面化した「桜を見る会」のスキャンダルでは、首相の後援会関係者の大量招待に見られる公的行事の私物化=公私混同が明らかになっている。
   
さらに「桜を見る会」に関しては、招待者に対して安倍晋三後援会が夕食会の会費を補助していたのではないかという公職選挙法違反の疑惑も表面化した。預託商法によって巨額の消費者被害を生んだジャパンライフの山口隆祥(たかよし)元会長が招待されていた事実が明らかになり、反社会的勢力の参加疑惑も表面化している。
   
安倍政権はその強権政治ぶりでも際立っている。内閣人事局(2014年5月設置)を通じて官僚人事に介入することで官僚内の異論を押さえ込み、政権に不利な事実の隠蔽や公文書改ざんが行われるようになった。南スーダンにおける自衛隊のPKO活動の日報の隠蔽(16年12月発覚)、森友学園への国有地譲渡に関する公文書の安倍首相夫人の関与に関する記述の消去(18年3月発覚)などである。
   
またマスコミへの圧力によって政権批判を封じ込めるなど報道規制を強めているのも安倍政権の特徴である。マスコミの側にも政権に対する忖度や自主規制により、政府への批判的情報やコメントを抑制する傾向が強まっている。国際NGOの「国境なき記者団」発表の報道の自由度ランキングによれば、日本の国際順位は民主党政権時代の2010年には17位、11年は11位、12年が22位だったが、安倍政権発足とともに大きく順位を下げ、13年は53位、14年59位、15年61位、そして16年と17年には72位にまで転落している。2018年と19年はやや改善して67位となったものの、依然として報道の自由に「問題あり」とされているのである。
   
しかし、以上のような悪質な強権政治や利益誘導スキャンダルが続けられているにもかかわらず、安倍政権は国政選挙で相次いで勝利を収め、内閣支持率も高い水準を維持している。NHK放送文化研究所の政治意識月例調査によれば、安倍内閣への支持率が不支持率を下回ったのは82回の調査のうち8回だけであった。
   
具体的には戦争法の強引な審議が行われた2015年の7、8月、森友、加計学園問題の表面化と共謀罪の強行採決がなされた17年7、8月と10月、さらに裁量労働制をめぐる労働時間の虚偽データ問題と、森友学園事件の公文書改ざん問題表面化後の18年4〜6月である。しかしいずれの場合も比較的短期間で支持率が回復している。「桜を見る会」問題が明らかになった昨年12月も、内閣支持率は45%と11月の47%からわずかに低下したに過ぎず、不支持率(37%)を8ポイントも上回っていた。
   
   

■ 2.企業利益優先のアベノミクス

安倍政権がスキャンダルを重ね、強権的な政権運営への批判を浴びながらも内閣支持率の維持に成功しているのは、企業収益が連続最高益を続け、好調に推移していることがひとつの要因であろう。図表1から明らかなように、バブル崩壊後低迷していた経常利益は小泉政権下で上昇に転じ、2004年度から06年度まで史上最高益を続けるが、リーマンショック後の世界同時不況により大きく落ち込むことになる。しかし、第2次安倍政権下の13年度以降は毎年最高益を更新し続けているのである。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
また安倍政権は、発足以来「株価依存内閣」と揶揄されるほど株価の動向に注意を払っているが、株価上昇も安倍政権への支持率を押し上げる役割を果たしている。第2次安倍政権発足直前の2012年12月に1万0395円だった日経平均株価(月初日終値)はその後急上昇し、1年後の13年12月には1万6291円へ、さらに15年7月には2万0585円になっている。その後16年には世界経済悪化の影響で大幅に下落するものの、17年には回復に向かい、18年9月には2万4120円まで上り詰めている。高株価、高収益の恩恵を受ける大企業の株主や経営者など富裕層にとって安倍政権はありがたい存在であり、それが数多くのスキャンダルにもかかわらず安倍政権を延命させる要因となっているのである。
   
安倍政権になってから、従来禁じ手とされていたような政策的な株価対策も実施されている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、政府の指示により2014年8月に国内株式の保有上限を引上げて買い増しを進めており、日本銀行による上場投資信託(ETF)の大量買い入れと併せて株価上昇に大きく貢献している。日銀の場合は個別銘柄の株式を直接購入するのではないが、ETFを購入することで間接的に上場企業の株主となっているのである。また安倍政権下で進められた法人税減税も、その目的の1つは海外マネーを日本株に向かわせることだったのである。
   
   

■ 3.人手不足下の賃金低迷

バブル崩壊後のデフレ経済の下で深刻だったのは失業問題である。完全失業率は1991年には2.1%だったのが不況の深刻化とともに上昇を続け、2001年には5.0%、02年5.4%、03年に5.3%を記録した。その後07年には3.9%に低下したものの、リーマンショック後の09年と10年には再び5.1%にまで悪化している。
   
しかし、安倍政権が本格的に始動した2013年以降雇用は改善に向かい、失業率は2014年には3%台、17年には2%台まで低下している。有効求人倍率も14年には1.11と1倍を超え、17年にはバブル期を上回る1.50、18年には1.61へと上昇した。また、新規学卒者の就職も売り手市場が続いている。このような雇用面の改善が政権の支持率にプラスに作用したことは間違いないであろう。
   
景気回復による労働力需要の増加に加え、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が人手不足を深刻化させているのも最近の特徴である。国内の労働力人口は2010年の6370万人から15年には6152万人へとこの5年間で218万人も減少している。
   
しかし、人手不足が深刻化しているにもかかわらず、賃金など労働条件の改善はあまり進んでいない。図表2からわかるように、実質賃金も名目賃金も1990年代後半から2010年代の半ば頃までの長期にわたって低下傾向が続いている。名目賃金は14年から実質賃金は16年以降緩やかに上昇しているとは言え、18年の段階で97年の水準より名目賃金で10.5%、実質賃金は12.7%も低くなっている。安倍政権のもとで景気が回復したと言われるが、12年から18年にかけて名目賃金は2.7%の上昇にとどまり、物価上昇分を差し引いた実質賃金は3.6%も減少しているのである。
   

(図表2・クリックで拡大します)
   
デフレ不況期には正規雇用労働者が希望退職募集などでリストラされると同時に非正規雇用労働者が増加することによって平均賃金の下落がもたらされた。しかも正社員でリストラの対象となるのが賃金水準の高い中高年層だったことも、全体の賃金水準を押し下げることになった。そしてこのような中高年層のリストラは、景気が回復し人手不足が深刻化しつつある現在も進められている。
   
東京商工リサーチによれば、2019年1〜11月に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は1万1351人に達し、社数・人数ともに11月までで14年以降の年間実績を上回り、最多を更新したという。36社のうち業績不振の会社が24社と3分の2を占めるが、驚くことに業績が堅調な企業でも希望退職の募集が行われている。大手企業では、この時期に49〜52歳になるバブル世代や45〜48歳になる団塊ジュニア世代の社員数が多くなっており、しかもこれらの階層は年功制のために賃金水準が高くなっている。この高賃金層を減らすことにより賃金コストを引き下げようというのである。
   
かつては人材重視こそが日本的経営の最大の長所と称えられたが、デフレ不況期を経た現在、そのような長所は失われてしまったように見える、景気が回復しても相変わらず人件費の削減が最重要課題とされ続けているのである。宮川努『生産性とは何か』(ちくま新書)によれば、日本企業の人材育成投資額も1991年をピークに年々低下し、2015年にはピーク時のわずか16%になっているという(127頁)。
   
   

■ 4.行き詰まりのアベノミクス

人手不足でも賃金が上がらないのでは、個人消費も停滞せざるを得ない。「国民経済計算」で民間最終消費支出(実質・2011暦年連鎖価格)の動向を見ると、2012年(292.2兆円)から13年(299.0兆円)にかけて増加したものの、その後は16年(294.9兆円)まで減少傾向をたどり、18年(298.8兆円)になっても13年の水準以下にとどまっている。このような消費の低迷が景気の本格的回復を阻んでいるのである。
   
昨年10月に8%から10%への消費税率引上げが実施されたが、その景気に及ぼす影響も気になる点である。政府は今回の増税前の駆け込み需要の増加が前回ほどではなかったことから、駆け込みの反動による増税後の消費減も前回ほどではないと予想している。
   
しかし、総務省が実施した10月分の家計調査では、2人以上の世帯の消費支出が前年同月比で5.1%も減少し、前回の消費増税後の落込み(4.6%減)を上回った。また内閣府が公表した10月分の景気動向指数も予想以上に悪化しているのである。
   
安倍首相が頼みとする株価についても、2018年10月からの下落・低迷が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や日本銀行に運用損をもたらしている。GPIFの発表によれば年金積立金の運用損は18年10〜12月期で14兆8039億円に達したという。これまでの含み益があるため、年金支給に悪影響を及ぼすことはなかったものの、今後さらに株価が暴落すれば、これまでの累積黒字も吹き飛びかねない。
   
また日銀による上場投資信託(ETF)の大量購入も、今後の不安材料である。2019年3月5日の朝日新聞は次のように報じている。「日本銀行が大規模な金融緩和で買う上場投資信託(ETF)の保有が膨らんでいる。株式投資を促す『呼び水』の位置付けだったが、今は株価下落局面での買い支え役で、昨年の購入額は過去最高になった。日銀保有のETFはまだ含み益があるが、今後含み損を抱えれば日銀の財務悪化につながり、通貨の信認に影響しかねない」と。同紙によれば、今後景気減速などで株価が17%下落すればこれまでの含み益は吹っ飛んでしまうという。
   
アベノミクスの三本の矢のひとつである異次元金融緩和によるデフレ克服策も、その目標である消費者物価の年2%上昇を達成できず、逆に地方銀行の経営を悪化させるなど、マイナス面が目立つようになった。そしてアベノミクスを支えていた世界経済の安定も揺らぎ始めている。
   
2019年4〜9月期の上場企業の決算では純利益が前年同期に比べ14%も減少している。米中経済摩擦の長期化で世界的にも景気の減速が顕著になっており、日本の製造業は対前年同期比で31%の減益となったという。順調に拡大してきた企業利益も減少を余儀なくされているのである。
   
安倍政権は昨年12月5日に事業規模26兆円もの大型経済対策を閣議決定した。景気の先行きに対する危機意識によるものなのであろう。しかし、公共事業中心の一時的な景気対策では格差拡大や貧困問題の根本的解決は困難である。消費増税により低所得層の生活は一層の悪化を余儀なくされている。大企業や富裕層への課税の強化により財源を確保し、格差・貧困問題の構造的な解決を図らない限り、個人消費の低迷は続き、世界経済の動きに翻弄される状態からの脱出は困難であると言わざるを得ない。
   

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