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●2019年10月号
■ 第200回臨時国会をめぐる情勢と課題
     社会民主党全国連合政策担当常任幹事 横田 昌三

   

■ 悲願の改憲に向けた内閣改造

9月11日、停電や断水に苦しむ千葉県民をはじめとする台風15号被害対策はそっちのけで、「令和の時代の新たな国創りへの挑戦」と称して、安倍首相は自民党役員人事と内閣改造を行い、第4次安倍再改造内閣が発足した。安倍首相が「新しい体制の下で、わが党の長年の悲願である憲法改正を党一丸となって力強く進めていきたい」(内閣改造前の自民党役員会)、「自民党立党以来の悲願である憲法改正への挑戦だ。困難でも必ずや成し遂げていく」(内閣改造後の記者会見)と発言したように、改憲を必ずやり遂げるための党役員人事と内閣改造である。官房副長官や首相補佐官、総裁特別保佐経験者、他派閥でも首相に近い「お友達」や側近が多数登用された。自民党籍の閣僚19人のうち18人が「日本会議国会議員懇談会」や「神道政治連盟(神政連)国会議員懇談会」のメンバーであり、「挙国一致お友達極右改憲内閣」とでも呼ぶべきであろう。
   
今年5月、「麻生派は安倍政権のど真ん中で輝く令和の日本をつくっていく」と強調し、7月21日の安倍・麻生会談でも「憲法改正をやるつもりだ」、「今後1年が勝負の年になる」という姿勢で一致したように、安倍首相に改憲の発破をかけてきた麻生副総理兼財務相が留任した。日韓関係を戦後最悪レベルにまでこじれさせた河野太郎外相は、防衛相へ横滑りし、日米貿易交渉で米国に有利になるよう押しきられた茂木敏充氏は、外相へ栄転した。「ワイルドな憲法審査発言」や衆院議長の首すげ替え発言など、改憲が進まない状況にいらだった安倍首相の意を体したような発言を連発してきた萩生田光一自民党幹事長代行は、よりによって文科相に就任した。加計学園のグループ校で客員教授を務め、文科省に圧力をかけた疑惑の中心人物であり、歴史修正主義の立場から教科書に圧力をかけ、教育勅語を信奉する萩生田氏による教育右傾化が危惧される。
   
首相と家族ぐるみのお付き合いの加藤勝信厚労相も、年金をはじめとする社会保障制度について、「ご飯論法」で審議を欺くことが期待されている。テレビ局へ電波停止を命じる可能性があると言及した高市早苗氏の総務相再登板も、改憲に向けたメディア対策を担うシフトである。
   
2013年の安倍首相の靖国神社参拝への「失望した」という米国の反応に対し、「むしろ私たちの方が失望した」と反発した衛藤晟一沖縄北方相は、日本会議議連幹事長で、ゴリゴリの改憲・靖国派である。資質が疑問視される北村誠吾地方創生相は、衛藤氏や高市氏、安倍首相とともに、日本軍「慰安婦」は性奴隷でなかったなどとする意見広告を米紙に出した仲である。菅原一秀経産相は、党ネットメディア局長として「自民党ネットサポーターズクラブ」を率い、ネット上で自民党に有利な書き込みや他党に対するネガティブキャンペーンを張ってきた。「自ら日の丸を外すのなら、試合に参加しなくてよい」など嫌韓をあおった武田良太国家公安委員長や田中和徳復興相らは、反社会的勢力との関係が指摘されている。「タマネギ男」だらけの、国民とってお先真っ暗な「ブラック内閣」である。「サプライズ」として環境相に抜擢された小泉進次カ氏は、安倍暴走政治の「イチジクの葉」どころか、実は新自由主義的農林水産行政や社会保障の負担増・給付カットを進めるなど、暴走政治に積極的に荷担してきた。
   
党役員では、「『護憲』自体が思考停止」発言や「職場放棄」発言で憲法審査会を「止める」オウンゴールを重ねてきた下村博文憲法改正推進本部長が選挙対策委員長になった。本部長には、18年3月に自衛隊を憲法九条に加えるなど4項目の改憲案をとりまとめた細田博之氏が再登板し、最大派閥の会長として、党内ににらみをきかせる。衆院憲法審査会長には、国会対策委員長として公明党や野党とパイプを持ち、2015年に集団的自衛権行使を認める「戦争法」の成立に貢献した佐藤勉氏が起用された。世耕弘成経産相が参院幹事長になり、官邸直結で参院をまとめ、野党の取り込みを狙う。改憲論議にあまり関わってこなかった二階俊博幹事長や岸田文雄政調会長も、安倍首相に忠誠を誓うかのように、「総裁の意向に沿って、党を挙げて改憲に努力を重ねたい」、「改憲が進む流れをつくっていかないといけない」(11日の記者会見)と述べた。
   
「憲法について議論する政党を選ぶのか、議論しない政党を選ぶのか。それを決める選挙だ」と改憲の是非を争点として打ち出した安倍首相は、単独過半数を割り、改憲勢力3分の2割れを喫したにもかかわらず、「世論の支持」を得たと強弁して、「私の使命として、残された任期の中で憲法改正に挑んでいきたい」と改めて決意を示し、新たな布陣で憲法審査会を動かし、国民投票法改正案の成立と自民党案の説明を行おうと狙っている。「3分の2の多数は、これから国会の憲法審査会の議論を通じて形成していきたい」と強調し、国民民主党を改憲勢力に取り込み、数あわせで3分の2以上の確保をはかろうとしている。立憲野党の結束を強化し、なんとしても安倍改憲のための審査会始動を阻んでいかなければならない。
   
   

■ 山積する臨時国会の課題

10月4日に召集される第200回臨時国会は、参院選後初めての本格的な国会である。予定される法案等としては、牛肉・豚肉関税のTPP水準開放、自動車関税は先送り、トウモロコシを押しつけられる日米貿易協定承認案、農水省に他国との交渉や衛生管理審査の一元化した組織を設置する農畜産物輸出促進法案、土曜日の配達や普通郵便の翌日配達の廃止などの郵便法改正案、人工知能やビッグデータ、自動運転などを活用した最先端都市の実現に向けた国家戦略特区法改正案(スーパーシティ法案)、人事院勧告に基づく給与法改正案、上場企業等に社外取締役設置の義務化をはかる会社法改正案、教員の労働時間を年単位で調整できる「変形労働時間制」を導入するための教員給与特措法改正案、外国の法律業務を扱う弁護士の承認要件を緩和する外国人弁護士特別措置法改正案、6月の熊本地裁判決を踏まえ補償に向けたハンセン病補償法改正案、あおり運転の厳罰化などの道路交通法改正案などがある。また、一連の豪雨や台風被害対策、「戦後最悪」になった日韓外交、日ロ外交、過去最大の5.3兆円の防衛予算概算要求、辺野古新基地建設の強行、汚染水の海洋処理問題、かんぽ不正問題はじめ論議すべき課題は山積している。
   
10%への引き上げ直後の消費税については、消費者や事業者に混乱が生じているポイント還元や軽減税率、プレミアム付き商品券、マイナンバー制度を活用したプレミアムポイント等の問題を追及していくとともに、景気状況も含めた議論を展開し、当面8%へ戻すよう求める。野党の中で、「消費税5%」や「廃止」といった声があるが、「2019年10月に予定されている消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図ること」(市民連合の要望)が最大公約数であり、まずは8%に戻すところで一致点を見いだすべきだろう。税率については、はじめから数字ありきではなく、年金、医療、介護などの安心の社会保障を立て直すビジョンを描き、どれだけの財源が必要になり、どこに負担を求めるのか(保険料、税、国債、歳出削減等)の議論を国民合意を得てやり直し、不公平税制の是正とともに、結果として消費税率のさらなる引き下げの可能性も想定するべきであろう。税は応能負担が原則であり、所得税の累進制強化と金融証券課税の引き上げ、半減してきた大企業の法人税率の引き上げと研究開発などの租税特別措置の廃止・見直し、労働分配率が下がり続けている一方で7年連続で過去最大となった企業の内部留保463兆円のうち200兆円を超える手持ちの現預金への課税などを訴えていく。
   
米国とイランとの緊張の高まりを背景に、トランプ米大統領はホルムズ海峡等の「航行の自由確保」を名目として、「有志連合」の結成を各国に呼びかけた。その後、参加を決めたのがイギリス、バーレーン、オーストラリアと広がらないこともあり、「海洋安全保障イニシアチブ」に切り替えた。安倍首相自身、2015年に「戦争法」を強行する際、「ホルムズ海峡における機雷掃海」を集団的自衛権行使による海外派兵の代表例として打ち上げてきた。日本政府も、ペルシャ湾外での自衛隊活動を想定し海賊対処行動や海上警備行動を軸に検討しているとされ、唯々諾々とアメリカに従う安倍政権をみていると、何らかの形で自衛隊を派遣する可能性が高まっている。米艦防護中に突発的な戦闘が発生するなどの際には、「戦争法」の存立危機事態に切り替え、集団的自衛権を発動して一気に軍事行動に発展する危険性もある。平和憲法を持つ日本として、「有志連合」への参加も、軍事的貢献も断じて認められない。米国にイラン核合意への復帰を迫るべきである。野党共闘で「戦争法」廃止法案の再提出をめざしていく。
   
   

■ 年金財政検証と全世代型社会保障

先送りされていた年金財政検証が8月27日にようやく公表された。所得代替率50%以上というのも65歳での受け取り開始時点に限られ、最終的に40%程度に下がる。若い世代はより低い水準からスタートすることになる。経済成長が続くことが前提で、想定を下回れば水準はさらに低下する。また、「参考資料」として、「マクロ経済スライド」や「キャリーオーバー制度」、「賃金マイナススライド」などの抑制策がフル発動した試算も示されている。しかし、これ以上の生活実態を無視した年金額の目減りは低年金者ほど影響が大きくなってしまう。財政検証は、平均的な男子賃金で40年間厚生年金加入の終身雇用の夫と40年間専業主婦の夫婦をモデル世帯としているが、現実と乖離した虚構である。納得・信頼の公的年金制度に向けた国民的な議論を行い、老後の経済的基盤たりうる最低保障年金の創設をめざしていく必要がある。
   
また、「全世代型社会保障制度」の実現に向け、新たに「全世代型社会保障検討会議」が設置された。「マクロ経済スライド」の発動要件の見直し、公的年金制度の受給開始年齢の上限引き上げ、75歳以上の病院での窓口負担の2割への引き上げ、市販薬で代替可能な薬の保険対象からの除外、受診時定額負担の導入、介護保険自己負担の原則2割への引き上げ、ケアプラン作成の有料化、要介護2までの生活援助サービスの地域支援事業への移行など、改悪のプランが目白押しである。スケジュールありきの強行は生存権の破壊である。安倍政権がめざす弱者いじめの「全世代型社会保障」の総仕上げに対し、しっかり対決していく。
   
   

■ 野党共闘の強化と社民党

解散・総選挙は早ければ年内、遅くとも1年以内に執行される。変えるべきは、平和憲法ではなく安倍政権である。安倍改憲を粉砕するためには、政権選択選挙である次の衆院選で政権交代を実現し、安倍首相に引導を渡さなければならない。衆院選、とりわけ小選挙区でのすみわけや候補者一本化を進めるためにも、安倍政権の野党分断に抗するためにも、立憲野党の結束と共闘を強めていく必要がある。候補者決定のスピードアップはもとより、選挙区の実態に即した効果的な選挙協力、「安倍政権」VS「立憲野党連合」の構図の明確化、安倍政権に対するしっかりとした対立軸の打ち出し、原発ゼロ法案をはじめとする国民のための議員立法の成果のアピールなど、今回の参院選の共闘の総括の上に立った「野党共闘の深化」(又市征治社民党党首)が必要である。安倍政権に代わる選択肢を鮮明に打ち出すためにも、市民連合と結んだ13項目の政策要望の具体化を図ることや農林水産政策、地域振興、分権・自治、復興・被災者支援などの分野の補強など、政策の充実強化と国民へのアピールが喫緊の課題である。
   
社民党は、参議院内における発言力の確保と活動領域の拡大(希望委員会の所属、質問機会・時間の拡大等)を図ることなどのため、参院で立憲民主党(立民)と統一会派を組んできたが、参院選後もあらためて会派を組むこととした。一方、「数あわせの論理に与しない」としていた立民の枝野代表は「ステージが変わった」として、8月5日、衆議院段階での共同会派の結成を国民民主党(国民)、社会保障を立て直す国民会議(社保)、社民党の3会派に呼びかけた。社民党は、「大きな趣旨については理解、賛同する」ものの、次期総選挙を控えて党の独自性、主体性をしっかり国会内で果たしていくべく、これまで通り「社会民主党・市民連合」として活動することにした。党首会談や幹事長・書記局長会談などの政党間協議にも出席できる道が残る。
   
枝野代表の呼びかけは、市民連合の13項目にわたる政策要望や立憲民主党の政策を受け入れることが条件となっており、また政党同士が一緒に統一会派を組むのではなく、立憲会派へ議員が加入していくという「合流感」が目立っていた。紆余曲折の末、8月20日、立民と国民は、衆参ともに会派をともにすることで合意し、9月19日の党首会談で、衆院では、立民、国民、社保が1つの会派になり、参院では立民・社民の会派に国民が加わることになった。民進党分裂以降の経緯や参院選での確執、立民・国民の主導権争いを乗り越え、国民の期待に応えていかなければならない。原発ゼロなどには国民の異論が強く、消費税については社保にこだわりがある。ベースは各党党首が合意した13項目の市民連合の要望であり、安倍政権の新自由主義・新保守主義に対抗する社会民主主義の立場から、政策合意の後退を許さず充実させていく社民党の努力が重要である。
   
また、日本共産党は8月26日、志位幹部会委員長名で「野党連合政権にむけた話し合いの開始をよびかけます」を発表、安倍政権に代わる「野党連合政権」の構想を取りまとめるための協議を各党に呼びかけた。9月12日、共産党の志位委員長と「れいわ新選組」の山本代表との党首会談が行われ、野党連合政権をつくるための協力や安倍政権が進めようとしている九条改憲への反対、消費税問題の3項目で合意した。提案の趣旨には賛成であるが、連合政権というなら、まずは第一党である立民がどうするかであり、社民党は、共産と立民の状況を注視して対応していく。
   
社民党は、全国の同志の奮闘と支持者の尽力のおかげで、比例区で得票率2.09%を獲得し、引き続き政党要件を維持することができた。改憲情勢が緊迫する中、護憲の党・社民党が国政政党として踏みとどまった意義は大きいといえるが、党を取り巻く危機的状況は変わらない。日本で唯一の社会民主主義政党であり、「野党共闘の要石」を自認する社民党が、どういう立ち位置で何をめざしいかに取り組んでいくのかが問われている。
   
参院選で注目された左派ポピュリズム政党「れいわ新選組」も、立憲野党と市民との共闘に加わっていくことになろう。「れいわ」についていえば、インパクトある発信、強烈なメッセージ性、「あるところからとれ」、「貧乏人からは取るな」といった弱者の心情の琴線に触れる訴え、「自分はどうなってもいい」という自己犠牲精神、「みんな生きていてくれよ」、「みんなは悪くない」という有権者との共感、政治本来のパワーをよびさます「お祭り」のような「ワクワク感」、「ドキドキ感」、さらにネット版「どぶ板選挙」とでも言うべきネット対策やSNS対策など、社民党自身、学ぶべきは学んでいかなければならない。よりラディカルなメッセージなど、政策や主張のブラッシュアップ、訴え方の工夫も必要である。
   
新自由主義的構造改革の下で格差が拡大し、貧困が広がり、資本主義の矛盾が極限化している。額に汗して働く人、社会的弱者の思いに応えていく日々の積み重ねが日本における社会民主主義の創造の過程であるとすれば、大衆の中に入って資本主義の矛盾と懸命に闘っている人たちや困っている人たちに真摯に寄り添い、ともに行動すること、運動の現場に入るところに解があるのではないか。職場・地域に入り、労働や生活の現場の人々の声を集約し、政策化し、現実のものにしていこう。計画的・持続的な自治体議員づくりを進めていこう。社民党はこの秋から、「アベ首相は改憲を断念しろ! 社民党全国キャラバン」を行い、改憲阻止と「憲法を活かす政治」のアピールを強めていく。入党の原点を胸に刻み、一歩前に出るところから始めよう。
   
(9月19日)    
   

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