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●2019年4月号
■ 通常国会前半の焦点と今後の課題
     社会民主党全国連合幹事長  吉川 元

   

■ 前代未聞の2度にわたる予算案閣議決定

安倍政権の下で7度目の春が来た。本誌が読者に届くころには2019年度予算案は、成立している公算が高い。安倍政権の7度の予算編成によって、社会のゆがみはますます大きくなっている。同時にこの国の政治と行政に癒しようのない傷を残している。
   
そもそも2019年度予算案はその編成過程から異常を呈した。当初、予算案は昨年12月21日、2018年度第2次補正予算案と同時に閣議決定されたが、その後、年末から年始にかけて毎月勤労統計の不正問題が急浮上。本年1月18日に統計不正によって過少に給付されていた雇用保険の失業給付や労災保険の給付など(推計でその数は延べ約2000万人、総額は530億円)を新たに盛り込んだ予算案を閣議決定しなおすという前代未聞の経緯をたどって、1月28日、国会に提出された。
   
この統計不正は遅くとも昨年12月の予算案閣議決定前には根本厚労大臣に報告されており、大臣は統計不正を知りつつ、予算案を了承したことになり、その責任は重大と言わざるを得ない。
   
当然、予算審議では、この「統計不正」問題が大きな焦点となった。政府は国会召集の直前の1月22日に厚生労働省に設置された特別監察委員会の報告を持って幕引きを図ろうとしたが、その内容は杜撰であり、また職員への聞き取り調査を厚労省幹部が行っていたことなどから報告書の信頼性そのものに疑義が生じる事態となった。その後、2月27日に改めて追加報告書が出されたが、その内容はこれまた驚くべきもので、虚偽の報告はあったが、隠ぺいはなかったというおよそ理解しがたい結論が付されていた。
   
安倍政権によるデータや文書の隠ぺい、改ざん、ねつ造は繰り返し行われてきた。PKO日報問題、森友学園問題における公文書、働き方改革関連法案審議での裁量労働制のデータ、入管法改正時の失踪技能実習生の調査など枚挙にいとまがない。政府が出す統計や文書は国会での審議の大前提であり、また、政策決定の重要な判断材料であるにも関わらず、それらが隠ぺい、改ざん、ねつ造される。これでは、まともな国会審議ができないばかりか、行政そのものも立ち行かなくなる。
   
例えば、今年10月には消費税率の10%への引き上げが予定されているが、その前提には様々な経済指標とその分析があったはずだ。しかし、その基礎となる毎月勤労統計で不正が行われ、昨年1月以降、急激に賃金が上がったように見える統計発表が続けられてきた。果たして、消費増税に日本経済は耐えられるのか、その分析を正しいデータに基づいて再度行うべきであるにもかかわらず、経年比較可能な毎月勤労統計の共通事業所の実質賃金を政府はいまだに公表していない。
   
もう一点、焦点になったのは官邸からの圧力があったのかどうかだ。2015年に当時の総理秘書官が厚労省の官僚にサンプル入れ替え時に賃金が下振れすることを問題視する「問題意識」を伝えたことが明らかになっている。加計学園問題でも、当時の総理秘書官が「総理案件」と発言し、官僚組織に圧力をかけたことが問題になったが、今回も同様のケースといえよう。官邸の横やりとそれに伴う文書やデータの改ざんはもはや安倍政権の風物詩ともいえる。その結果としての政治・行政への信頼失墜は深刻さを増している。
   
   

■ バブル期を超える税収見込みだが

今回の予算案は、2017年の9月に突如として行われた解散総選挙の際に、安倍首相がその口実として消費増税の使途変更に言及、消費税収を全世代型社会保障制度に使うとしたことを具体化したものだ。しかし、そもそも社会保障とは病気や失業、老化などによる経済的困窮を個人的リスクとしてとらえ、その保障を行うものである。安倍政権は社会保障に全世代型という言葉を加え、教育までも消費税で賄うこととした。これでは国民生活に係るほとんどすべての分野を消費税がカバーすることになり、高等教育の無償化をはじめとした教育予算の拡充が今後、消費増税とリンクさせられてしまう。
   
2019年度予算案は、消費税増税への対応等に充てられる臨時・特別の措置2兆280億円を含めて、前年度当初比3.8%、3兆7443億円増の101兆4571億円となり、当初予算としては初めて100兆円を超え、7年連続で過去最高を記録した。
   
歳入では、租税及び印紙収入で9年連続の増収を見込み、62兆4950億円となり、バブル期の1990年度実績の60兆1059億円を上回る。しかし、その内実は大きく異なる。90年度と2019年度の税収を比較すると所得税26兆円→19.9兆円、法人税18.4兆円→12.9兆円、消費税4.6兆円→19.4兆円となり、所得税・法人税の減収を消費税がカバーしている実態があきらかだ。
   
また、政府は景気拡大が今後も継続するとして実質1.3%成長と見込んでいるが、民間機関は0.4%〜1.0%成長と予測しており、かい離が大きい。しかも国会では、統計不正問題と合わせて、GDPがかさ上げされているのではないかとの問題も取り上げられており、過大な見積もりの可能性もある。
   
   

■ 専守防衛を逸脱した過去最高の防衛費

歳出では防衛関係費が過去最高の5兆2574億円となり、第2次安倍政権以降7年連続の増額となった。さらに18年度第2次補正予算案では、防衛関係で過去最大の3998億円が計上された。その約8割が高額兵器の後年度負担分や、米国のFMS(有償軍事援助)に基づき安倍政権が「ローン」で購入してきたものの返済分のうち、来年度当初予算の枠内に収まりきらない分の「前倒し計上」である。
   
新中期防の今後5年間で27兆4700億円程度という限度を上回る勢いとなり、防衛費だけが聖域化し、歯止めがきかなくなっている。
   
中身も、新防衛大綱や新中期防に基づき、宇宙領域やサイバー領域、電磁波領域における能力の獲得・強化が進められる。さらに、戦闘機F-35Aや早期警戒機E-2D、滞空型無人機RQ-4Bグローバルホークの取得、「いずも」の攻撃型空母への改修に向けた調査研究、無人水中航走体の研究、スタンドオフミサイルの取得、島嶼防衛用高速滑空弾の研究、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の整備、弾道ミサイル防衛用誘導弾の取得などが盛り込まれている。「専守防衛」の枠を越えた能力の獲得が何の議論もないまま進んでいる、
   
また「イージス・アショア」の能力は、米国、具体的にはハワイやグアムの米軍基地に向かうミサイルの迎撃が可能であり、小野寺防衛大臣(当時)もそのことを否定しなかった。これは、日本の「防衛」をはるかに超えた能力であり、いわば「オバースペック」だ。しかも、米国に向かうミサイルを日本が迎撃すれば、「戦争法」でも不可とされたフルスペックの集団的自衛権行使に当たる可能性が高い。配備予定地の山口、秋田両県では、住民の不安が高まり、反対運動も起こっており、配備阻止に向けて社民党も全力挙げていく。
   
米軍再編等関連経費は、1935億円が計上されている(うち辺野古新基地建設などに使われる普天間飛行場の移設費は707億円)。辺野古の新基地建設の総事業費は少なくとも3500億円と防衛省は説明しているが、沖縄県は軟弱地盤の改良工事で最大2兆5500億円かかると試算している。辺野古新基地建設のための埋め立ての賛否を問うた県民投票は圧倒的多数の反対となった。民意は決した。政府は工事強行をやめ、県との対話を行うべきである。
   
他方、沖縄県が3600億円を要望していた沖縄振興予算は、3010億円と前年度と同額となった。辺野古移設を容認した仲井真前知事時代の3501億円と比較すると、新基地建設に反対する翁長・玉城県政への嫌がらせともいえる政府の姿勢が顕著である。しかも政府は、県を通さない新たな交付金として、「沖縄振興特定事業推進費」を新設した。市町村事業への予算配分で国の直接関与を強め、沖縄県の自主性を弱め、分断を図ろうとする意図が透けて見える。安倍政権の露骨な基地と予算のリンクは沖縄振興制度を否定するものであり到底認められない。
   
   

■ 焦眉の課題は待機児童解消

全世代型の社会保障制度の目玉の1つが幼児教育・保育の無償化だ。これを2019年10月から実施するとして3882億円が予算に盛り込まれた。地方にとっては寝耳に水であり、当初、市長会などから激しい反発を招いたが、初年度は国が費用を全額負担することで導入が決定した。2年目以降は国1/2、県1/4、市町村1/4の負担割合となるが、公立の場合は10/10自治体負担となる仕組みだ。公立保育園などの民営化をさらに加速させかねない。
   
また、政策の優先順位にも問題がある。焦眉の課題が、待機児童解消であることは論を待たない。保育の無償化が進めば、待機児童がさらに増加するのは容易に想定される。現在、保育施設を作っても待機児童が解消できない1つの要因に保育士不足がある。有資格者の6割が保育士として就労していない現実は、保育士の処遇が他産業に比べて低いことに起因する。重要なのは待機児童解消と保育の質の確保であり、保育士や幼稚園教諭などの待遇改善や配置基準の拡充、施設整備が緊急の課題である。学童保育の充実、児童福祉司の1000人以上の増員や児童虐待相談対応職員の待遇改善等児童虐待防止の増額も緊急に必要である。
   
社会保障関係費は、34兆593億円と最大を更新したものの、高齢化に伴う自然増を約1200億円圧縮した中身となった。第2次安倍政権は一貫して、社会保障費の自然増圧縮を続けている。
   
さらに、消費税増税は社会保障の充実のためといいながら、いわゆる軽減税率による1.1兆円の減収分を補うため、低所得者の総合合算制度の見送りなど、社会保障費を削減してまで財源を捻出した。羊頭狗肉そのものだ。
   
   

■ 逆進性対策とは無縁な消費税増税対策

前回、駆け込み需要とその反動減で増税後に消費などが落ち込んだことから、今回の対策は、住宅や自動車といった高額商品の購入支援、中小企業対策が検討されてきた。19年度予算案では、臨時・特別の措置として、ポイント還元やプレミアム付き商品券、マイナンバー制度を活用したプレミアムポイント、防災・減災、国土強靱化対策など、2兆280億円が計上されている。そもそも、駆け込み需要・反動減対策と国土強靭化に関連があるのか意味不明だが、様々な政策が統一的な観点もなくただ詰め込まれたとしか言いようがない中身である。
   
軽減税率とポイント還元を組み合わせれば、実質的な消費税が3%、5%、6%、8%、10%と5種類も存在する煩雑さ、さらに小規模店舗のカード端末設置は導入費用こそ補助が出るがその後は手数料がかかることになる。持てる層やたくさん購入する層、高額な消費をする富裕層ほど恩恵が大きくなる不公平性の問題は手つかずのままであり、逆進性対策にはならない。また、商品券の費用対効果も乏しい。需要を先食いするだけで、「平準化」対策が切れた後の落ち込みをどうするのか。臨時・特別の措置に加え、幼児教育・保育の無償化や、軽減税率の実施など予算措置、減税などで計4.2兆円近い対策が打たれるが、社会保障の維持、拡充、財政の健全化による後代の負担軽減といった消費増税決定の際の約束は反故にされ、政権維持のための安倍政権のお財布になってしまった。増税自体を中止し、社会保障と税の一体改革をやり直すべきだ。
   
   

■ 大仰な看板と政策決定プロセスのゆがみ

三本の矢に始まった安倍政権の打ち出す政策は、ほぼ毎年、目新しさを演出しつつ別の看板に架け替えられてきた。地方創生、一億総活躍、新三本の矢に女性の活躍、働き方改革、人づくり革命、派手なスローガンが、次々と掲げられる。そのたびに、推進会議や本部、対策室が官邸内外に設けられ、民間委員という名のインサイダー(利害関係者)がそこに入り込み露骨に自らの利益につながる政策を密室でまとめるが、彼らは国会に対して責任を負うことはない。そして、まともな議事録も作られず、決定された方針、報告書、答申は、そのまま安倍総理の「ご意向」となり、霞が関の官僚機構への指示となる。内容がどれほどでたらめでも反対すれば出世は望めず、唯々諾々と従うほかない。「面従腹背」を座右の銘として抵抗を試みるのが関の山で、それも、露見すれば官僚として命取りになる。
   
出される方針は異分野を専門とする素人が集まって作ったものだけに、行政の継続性も客観的な裏付け、根拠もないものが少なくない。また、意外に思われるかもしれないが、安倍総理は世論動向に敏感で、批判が高まれば打ち出した政策を簡単に変更する。とりわけ、厚生労働分野でその傾向が顕著だ。例えば幼児教育の無償化で当初認可外が対象から外れていたが、批判が高まると認可外はもちろんそれ以外の行政の目の届いていない保育にまで対象を広げた。こうした猫の目のような政策変更はその都度、行政機関に無理な力を加えることになる。
   
「無謬の継続性」こそが、至上命題である官僚機構は、継続性を守り立法事実を示す必要性のために公文書を隠ぺい、改ざんし、データのねつ造に手を染める。
   
これがいま日本の中心で起こっている事態である。政治・行政の混迷は国民生活、将来の世代へのつけとして今後重くのしかかることになる。
   
安倍政権は実は第1次産業の分野で次々と大掛かりな法改正を行ってきた。2017年に農業分野の規制緩和の法律(農業競争力強化支援法)が成立したのを皮切りに、昨年の秋の臨時国会では地元漁業者が持っていた漁業権の優先権を取り上げる漁業法が改正、今国会には国有林で伐期を迎えた樹齢70年前後の樹木を民間資本が手にできるような法改正(国有林野管理経営法改正案)が目論まれている。コンセッション方式による上水道供給事業への民間資本の導入を可能にする水道法も昨年秋に改正された。
   
食や緑、水といった人間が生きていくうえで必要不可欠な分野での安易や規制緩和は将来に禍根を残す。例えば、木は植林するだけでは育たない。数十年単位の時間がかかるだけでなく、鳥獣被害を防ぎ、下草を刈り、枝打ち、間伐という手間のかかる機械化の難しい作業を長期にわたって行うことでようやく伐期を迎えることができる。短期的な利益を求める民間資本が半世紀にわたってこうした手間をかけるとは考えにくい。このままでは50年後に全山はげ山という事態も想定される。
   
   

■ 政治決戦を戦いぬき、政治を変える

今年は12年に1度の統一自治体選と参院選が同じ年に行われる政治決戦の年である。衆参ダブルもその煙は消えていない。現在、各地で統一自治体選挙が戦われているが、社民党公認、推薦候補全員の当選を目指す。
   
そして、参院選挙、中央ではすでに1月末に5党1会派の党首級会談が行われ、1人区での野党候補の一本化を合意した。その後、幹事長級での会談が重ねられ、3月上旬には愛媛、熊本での一本化に合意した。政策面でも各党が市民連合との間で政策合意を目指すことも確認されている。
   
野党間の調整・合意のメカニズムは3年前より早い段階で出来上がった。しかし、残念ながら実際の調整は難航している。総論は一致しているものの、様々な思惑から各論では一致を見ることが容易ではない。社民党は「小異を残して大同につく」ことを基本として協議に臨み、32の1人区で一本化を推し進めるために汗をかいていく。
   
同時に今回の参院選挙は公職選挙法上の政党要件を守れるかどうか、社民党が国政政党として残れるかどうかがかかった戦いでもある。すでに全国比例で3人の有力候補を擁立した。それぞれが特徴を持ち、社民党の政策を訴えることのできる候補である。また、複数区でも公認候補を擁立し、1人区においてもわが党の推す候補を統一候補に押し上げていく。選挙闘争体制、戦術もこれまでの前例にとらわれることなく大胆に変えていきたい。そして、大会などでも確認された選挙区・比例区合わせて3人以上の当選を目指して全党挙げて戦いぬく決意である。
   
   
(3月21日)

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