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●2019年3月号
■ 当面する選挙闘争に全力を
     吉田 進

   

■ 安倍政権による悪政、政治腐敗

昨年秋の臨時国会で、審議を十分尽くさず与党は強引に改正入管難民法を成立させた。国際社会から「奴隷制」と非難されかねない外国人技能実習制度の改善策も示さないまま、経済界が要求する低賃金労働力確保に突き進んだ。その過程で政府は、虚偽の調査結果を公表した。
   
月給6万円、週100時間を超える残業、労災による死亡・自殺などの事例は、「実習に耐えられなかった本人たちの努力不足」では断じてない。どのような基準で入国を拡大するかという議論をする前に、「奴隷状態」と指摘されている外国人労働者の現状を改善することが必要である。民族や人種、文化の異なる人々との共生に真正面から向き合うことができない日本の政治は恥ずかしい限りである。
   
そして、年明けの1月には、賃金や労働時間を示す厚生労働省の勤労統計偽装が発覚した。労働者が労災に遭ったときに給付される休業補償や、失業給付金などに反映される基礎データが偽装されていたという前代未聞の出来事である。しかし、厚生労働省の対応に危機感は感じられない。第三者委員会の調査も、省内部の身内が関わったものであった。厚生労働省に関しては、昨年、労働時間調査で不適切データ問題も発覚しており、病巣は深刻である。
   
「敗戦直後の制度再建に尽力したマルクス経済学者大内兵衛が統計への思いを講演している。混乱期の空白は占領軍の統治や政府の政策の妨げになった。大内は吉田茂首相からの入閣要請は固辞したものの、学者グループを率いて統計制度の土台を築いた。大内は社会問題の研究などで統計の重要性が身に染みていた。ところが、戦時中は、政府が数字を秘密扱いにし勝手に操作した。明治から培った制度の信頼性が壊された。その憤りが大内を駆り立てたともいう。肖像を刻んだメダルを授与する『大内賞』は統計界では最高の栄誉とされる」と地元地方紙(信濃毎日新聞)は紹介し、勤労統計偽装を厳しく批判した。
   
1月末からの通常国会では、この問題に対する野党各党の厳しい追及が行われている。アベノミクス効果を宣伝するために、実質賃金の上昇を示す統計偽装が必要だったのではないかという指摘もされている。しかし、安倍首相は問題の重要性を認識していないかのような答弁に終始している。森友・加計学園問題等で浮き彫りになった「誰も責任をとらない政治」がまたしても繰り返されている。安倍政権の悪政、政治腐敗は、国民の「閉塞感」「息苦しさ」を日増しに高めている。
   
   

■ 皇室発言

昨年末、天皇が85歳誕生日に際して会見を行った。安倍首相の考えと、天皇の会見内容があまりにもかけ離れていることに気付いた国民も多くいたと思う。
   
皇室が政治に対する批判を行うことなどあり得ないが、結果として安倍政権に対する強烈な皮肉・批判になっていることに驚かされた。「天皇制」に関しては、私自身これを全面的に容認するものではないし、さまざまな議論があるのを承知の上で少し触れてみたい。
   
会見ではまず、「私は即位以来、日本国憲法の下で象徴と位置付けられた望ましい在り方を求めながらその務めを行い、今日まで過ごしてきました」述べている。安倍首相は、「みっともない憲法だ、だから改憲する」と言い続け、自民党は「天皇を元首にする」という改憲草案を保持しているが、天皇の憲法を踏えた姿勢とは正反対である。
   
また、「沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくとの私どもの思いは、これからも変わることはありません」と述べている。沖縄県の民意を無視して辺野古埋立てを強行している政府の姿勢とは明らかに基本が違う。
   
さらに、「障害者をはじめ困難を抱えている人に心を寄せていくことも、私どもの大切な務めと思い、過ごしてきました」とも述べているが、ごまかしと杜撰な調査結果が明るみに出た各省庁での採用問題など安倍政権の政治とは全く異なる。
   
また、「各国からわが国に来て仕事をする人々を、社会の一員として私どもが温かく迎えることができるよう願っています」と、まるで臨時国会での入管法改正法案をめぐる安倍政権の姿勢を批判しているかのような発言もしている。
   
最後に、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」との発言は、安倍政権の安保・防衛政策を危惧していたのかと私は受け止めてしまったが考えすぎだろうか。
   
こうした天皇の会見直前には、秋篠宮が今年の大嘗祭に関して「宗教色が強いものを国費で賄うのが適当なのか」との疑問を投げかけ大きな波紋を呼んだ。
   
   

■ 統一地方選挙の課題

統一地方選挙はすでに本番に突入しようとしている。この選挙には2つの課題がある。1つは、衰退の一途である地方をどう活性化させていくのか、そのために地方議会をどう改革していくのかという課題である。もう1つは、直後の参議院選挙と結合してどう戦うのかという課題である。
   
もちろん、地方選挙は国の政策を批判しているだけでは戦えない。公共サービスのあり方、地域産業の活性化、定住促進・人口減少対策、地域医療の安定などの具体的課題に向き合わなければならないことは当然である。
   
最近、「ふるさと納税」をめぐる話題が多い。地方の自治体に対して寄付をした場合の寄付金税額控除のことである。「ふるさと納税」と言うのだから、ふるさとの自治体に寄付した場合に減税が適用されるのかと言えば決してそうではない。ふるさとであろうとなかろうと可能である。そして、どんどん加熱する地方自治体の返礼品競争に対して、政府は、「返礼品は寄付額の3割の範囲内」「返礼品は地元産品」等の基準を示し脅したりしている。全くのお門違いである。そもそも、返礼品競争に地方自治体を駆り立てたのは政府である。
   
アベノミクスは格差と貧困だけでなく、一極集中による地方の疲弊・衰退をも生み出した。だからこそ政府みずからが地方創生と言わざるを得なくなった。地方創生はアベノミクス失敗のツケのようなものである。アベノミクスの失敗を隠すために、自治体を不毛な競争に駆り立てるような制度は直ちに廃止すべきである。
   
いま、どこの自治体においても議員のなり手不足が深刻である。少子高齢化に伴い、長野県内市町村議会でも無投票当選の議員の割合が増し、定数割れしているところもある。60〜80代の議員は、19市議会の計400人中288人に上り、58町村議会では631人中542人を占めている。各議会は、農閑期・休日・夜間開催、定数削減、議員報酬の増額、住民が議会活動を批評する「モニター制度」の導入など工夫はしているものの厳しい状況が続いている。こうした現状をどう克服するのかも問われている。
   
統一自治体選挙と参議院選挙が一体の戦いであることは詳しく触れる必要がない。本質的にも時期的にも当然すぎるからである。戦いには、理屈では語れない「勢い」が重要である。2つの選挙を結合して戦い抜く以外に道は切り開かれない。
   
   

■ 参議院選挙闘争

参議院選挙は政権選択の選挙ではないが、安倍政権の悪政・暴走にブレーキをかけるという意味で重要である。とりわけ、安倍首相が「悲願」と明言している九条改憲をめぐる動向に限りなく大きな影響を与える選挙である。
   
安倍政権の悪政が続くなか、改正入管難民法の成立を評価しないが65.8%、辺野古への土砂投入を強行する政府の姿勢を支持しないが56.5%というような世論調査結果(共同通信社)が出ている一方で、内閣支持率は40%台を維持している。この状況をどう見るかが問われている。
   
1月に長野県で市民運動の皆さんが集まって野党(立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党)との意見交換を行った。国民民主党、共産党はすでに出馬表明をしている代表が参加した。そのなかで、市民の側からなぜ安倍政権の支持率が高止まりなのかという質問が出された。各野党代表は、「野党がまとまっていないから」という趣旨の答えをしたが、社民党代表(県連合幹事長)は、「アベノミクスに替わる政策を野党が示せていないから」と答えた。のちに、市民運動の人達から賛同する意見が私にも寄せられた。「安倍政権打倒」「安倍九条改憲反対」と並行して、安倍政権に対抗する経済政策、社会福祉政策、外交政策等を野党が提示し、「いいね!」の数を増やしていくような運動が求められている気がする。
   
アベノミクスの基調は、「経済が成長すればすべての問題が解決する」という発想から成り立っている。高度成長期の延長線とも言える政策である。しかし、成長により税収が増え、1000兆円を超える借金も解消されることを信じている国民はもはやいない。「拡大・成長」ではなく、「持続可能な社会」へと発想を転換する政治が求められている。
   
2018年に生まれた子供は92.1万人で、3年続けて100万人を割り、過去最少となった。死亡数から出生数を引いた人口の自然減は過去最大の44.8万人に上る。この傾向は今後さらに加速していくと見られており、「このままでは国が衰退する」との指摘が強まっている。
   
こうした事態を招いた最大の要因は、若者の生活・労働の不安定さである。国内の非正規労働者は過去最多の2133万人に達している。その中には、最低賃金に近い水準で働く者も少なくない。国税庁の統計では、年間給与は平均175万円余で、正社員との格差は300万円以上となっている。若者たちが将来に希望を持って生活できる条件が根底から崩れてしまっているのである。「少子化対策」という言葉はよく使われるが、この最大の要因に対する政治はほとんど機能していない。野党の少子化政策を早急にとりまとめ、打ち出していくことが不可欠である。
   
安倍政権の成長戦略の柱である原発輸出が行き詰まっている。英国での原発新設計画を凍結することを日立製作所が発表した。事実上の撤退である。トルコでも三菱重工業が計画を断念すると伝えられている。ベトナムでも受注が白紙撤回され、リトアニアでは国民投票で建設が否決されている。米国で子会社が経営破綻した東芝は、海外での原発事業から手を引いた。
   
原発は、安全対策のコストなどですでに安価なエネルギーではなくなっている。2000年代半ば、原油価格の高騰などを背景に追い風が吹いたが、その状況が大きく変化していることを理解せずに官民一体で押し進めた政策が失敗した。福島事故の反省もせず、収束のめどさえつかないのに、みずから原発輸出の先頭に立ってきた安倍首相の責任は重い。野党は、安倍内閣に対する責任追及、国内の再稼働反対、具体的なエネルギー転換政策を国民に示さなくてはならない。
   
安倍首相が自負する外交も行き詰まっている。とりわけ日韓関係が冷え込んでいる。従軍慰安婦問題、徴用工問題、韓国軍による自衛隊機に対するレーダー照射問題などエスカレートしている。昨年、朝鮮半島情勢に詳しい友人と話す機会があった。「韓国国民も冷静に未来志向の日韓関係を望んでいる者が多数である。しかし、問題の解決と過去の歴史的事実を消してしまうことは別である」「安倍首相は韓国では極右、歴史修正主義者と見られている。安倍首相みずからが日韓関係悪化の元凶であり、安倍政権が続く限り関係は改善されないだろう」と述べていた。
   
北朝鮮問題も同様である。北朝鮮の「悪口」に終始してきた政府やマスコミが姿勢を変えない限り韓国、アメリカ、中国、ロシアの急激な動きに日本はついてゆくことすら不可能である。いつまでたっても「蚊帳の外」に置かれるであろう。自民党は訪朝団などの検討をしているようであるが、私たちともに日朝友好運動をしてきた人を窓口にする以外にない状態となっている。
   
また、日米関係も貿易摩擦などで前途多難である。ロシアとの関係は、1月に安倍首相とプーチン大統領との会談が行われたが、北方領土問題の進展は見られなかった。北方領土問題は日米関係とリンクしているところに困難さがある。なぜならば、日米安保条約は、日本の施政が及ぶすべての領域で米軍が活動できることになっているからである。歯舞群島と色丹島の返還が実現した場合、この2島は日本の施政が及ぶようになり、当然のこととして米軍が展開することになるのである。尖閣列島をめぐる日中の問題にも同様の背景がある。
   
外交・安全保障問題は、政権を担っていない野党にとって難しさはあるが、国連中心主義の外交、日米地位協定見直し、民主党政権時の「東アジア共同体構想」等を踏まえた具体的な政策提起を行っていかなければならない。
   
   

■ 市民と野党の共闘

新潟県では、市民団体が「バランスのとれた県議会を実現する県民の会」を結成し、自民党が独占している選挙区に候補者を立てる運動を進めている。十日町中魚沼郡選挙区(定数2)で共産党が出馬を決め、隣の南魚沼市南魚沼郡選挙区(定数2)では社民党が候補者(元県職労役員)を決め野党共闘を進めている。
   
長野県北部には、須坂市・上高井郡という県議選の選挙区がある。定数2で保守が独占している。この状況を変えるために野党共闘を追求してきた。結果として共産党の党籍を持つ元労組役員の無所属での出馬を決めた。共産党に対する過去のわだかまり等は残っているが、無所属出馬という異例の決断を受け止めようという流れになりつつある。このように統一地方選挙においても、「安倍九条改憲に反対する地方議員を1人でも増やす」ために可能な限り野党共闘を追求していくことが重要である。
   
最近、衆参同時選挙の可能性が言われ始めた。「頭の片隅にもない」と言われると余計にあるような気がする。「一寸先は闇」という言葉が永田町でよく使われるが、衆議院選挙の対応も常に考えておく必要がある。なぜなら、同時選挙があってもなくても、いずれ遠くない時期に解散総選挙が行われることが必至だからである。
   
その場合は、「1人区の候補一本化」から一歩も進まない野党共闘の現状は絶対に許されない。解散総選挙は政権選択の戦いだからである。連立政権を目指すのであれば、与党に対抗する野党の「政権構想」議論は避けて通れない。中央段階における野党共闘の遅れが地方の取り組みを阻害している。各野党に党利党略があることを否定しないが、国民不在の言い争いをしていてはいけない。このままでは国民から見放され、与党を利する結果を招いてしまう。
   
長野県では、「信州市民アクション」(12月の全体会議では約40の市民団体、80人が出席)が、野党4党との「共同テーブル」を作って、参議院県区の候補者選定を進めている。2016年の戦いで杉尾秀哉氏(当時民進党)を野党統一候補に決め、県内各地における共闘運動によって自民党候補を破った経験をもう一度再現しようという取り組みである。ただ、大きな進展には至っていない。
   
その要因は、中央における野党共闘の停滞にある。また、2017年の総選挙の際、希望の党に走った旧民進党の議員や国民民主党に対する不信も根強い。連合の共産党に対する拒否反応もある。さらに、臨時国会で顕著になった国民民主党の基本スタンスも問題となっている。国民民主党が改憲勢力なのか、改憲に反対する勢力なのかという疑問も出されている。しかし、候補者を一本化しなければ勝てないことは共通認識となっていることも事実であり、そこを土台にして作業を急がなくてはならない。
   
社民党は、直面している2つの選挙を「後のない戦い」と位置付け全力をあげている。日本における社会民主主義勢力の火を消さないためにも社民党の存在は不可欠である。政党要件を満たす結果を出すためには、党員はもちろん支持団体が一丸となって得票数を増やす運動を強化することである。あわせて、安倍政権に対抗する野党共闘という構図のなかで存在感を示していくことも重要である。国民の中に、「少数であっても社民党の存在は大事」と思わせるような粘り強い大胆な取り組みが今こそ求められている。
   
   
(2019.2.18記)

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