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●2018年10月号
■ 「骨太方針2018」と独占資本の戦略
     善明 建一

   

■ はじめに

政府は6月15日、第二次安倍政権が発足してから6度目となる「経済財政運営と改革の基本方針」(「骨太方針2018)」と「未来投資戦略2018」を閣議決定した。
   
本稿では、歴代自民党政権が経済財政方針の司令塔と位置づけてきた「経済財政諮問会議」が果たしている役割、すなわち「骨太の方針」が、サプライサイド(供給側の独占資本)をいかに肥え太らせてきたか、一方で国民生活に何をもたらしているかを論述する。
   
   

■1. 官僚主導から政治主導に転換させた小泉政権

「経済財政諮問会議」(以下、「諮問会議」と略す)は、1997年の「行政改革会議中間報告」に基づいた01年1月の橋本行革の省庁再編に伴い、内閣府に新設された「諮問機関」として発足したものである。
   
「諮問会議」の機能は「内閣総理大臣の諮問に応じて、経済財政、予算編成全般の運営の基本方針、その他の経済政策に関する重要事項についての調査審議」とされている。
   
「諮問会議」は、毎年6月に、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(以下、「骨太の方針」と略す)を策定する。名称は2007年以降、「経済財政改革の基本方針」に変更された。
   
「諮問会議」が本格的に始動するのは、小泉純一郎が森喜一首相の退陣を受け、01年4月4日の自民党総裁選で橋本龍太郎の再登場を阻止し、首相に就任してからである。
   
小泉首相は、01年5月7日に、衆議院本会議で初の所信表明演説で、「官から民へ」、「聖域なき構造改革」をスローガンに掲げ、従来の財務省(官僚)が主導してきた予算編成を転換し、政治主導(官邸主導)による予算編成、政策決定を志向することを表明する。
   
首相は「諮問会議」に2つの役割を課した。1つは首相による集権的な意思決定を支えること、2つは新自由主義的な政策を実現するためのアイディア・センターとして機能させることであった。小泉首相は経済財政政策担当大臣に登用した竹中平蔵を軸にして、新自由主義的な考え方の持ち主を「諮問会議」に集め、彼等にアイディアを出させた。「諮問会議」のスタッフ体制も、旧大蔵省出身の官僚を遠ざけた。財務省に頼ると、財政再建至上主義に堕しかねないと警戒したからである。
   
「諮問会議」の議長は首相が務め、官房長官や経済財政相などの閣僚、日銀総裁、民間から4人を配置し、10人の議員で構成された。民間議員は、経済界から牛尾治朗と奥田碩(ひろし)の2人、学界からは本間正明(大阪大学大学院教授)と吉川洋(東大名誉教授・立正大学教授)の2人を起用した。本間はサプライドサイドエコノミストの主導者であり、吉川は健全財政主義であり、竹中らの考え方と共通するところも多かった。
   
要するにその半数以上が新自由主義路線の信奉者であり、彼らに小泉首相が乗ったことで、「諮問会議」は「無敵戦艦」になる。以降、「諮問会議」は、竹中平蔵が主導し、民間議員が中心となって、マクロ経済政策や予算編成の大枠など「骨太の方針」をまとめていくことになる。
   
01年6月26日に「骨太の方針2001」が閣議決定されるのだが、その冒頭に「不良債権問題を3年以内に解決する」と謳い、経済資源を効率の低い部門から成長分野に回す構造改革の断行を打ち出した。
   
さらに「特殊法人・郵政3事業の民営化」や「国債発行を30兆円以下に抑制する」など、小泉内閣の看板政策が並べられた。「官から民へ」、「国から地方へ」の哲学のもとに、公共投資の大幅削減、社会保障制度や地方財政の抜本的改革も掲げられた。
   
それまでの自公政権では、年末に財務省が主導して予算編成が行われていたが、これに代わって予算編成は、「骨太の方針」で基本的な考え方をまとめる。これに基づいて6〜7月の閣議決定を経て、毎年度の予算が策定される仕組みになったのである。
   
この「諮問会議」の果たした機能として、政治学者・政治記者の内山融は、次の様に述べている。

  1. 従来、官僚が独占していた議題設定の主導権を諮問会議が握ることで、官僚や族議員からは出てこないアイディアが政策化されるようになった、
  2. 予算編成にも大きな影響力を持つようになり、財界議員は法人税の減税を実現させ、学者議員は、例えば医療費の伸びをGDPの伸びにリンクさせるなど、社会保障費の抑制に繋げた、
  3. 以前は各省庁のはざまにあって、見逃されていた課題も積極的にとりあげられるようになり、例えば国庫補助金、税源移譲、地方交付税の「三位一体改革」などはその典型であった。
  4. 政策決定過程が透明になり、政治に対する国民の関心を高め、首相の政策に対する支持を強化する作用として働くことになった。

このような機能・運営を通じて、予算編成の主導権が次第に「諮問会議」に移り、鉄のトライアングルと称された従来型の利権構造は次第に政策決定の場から放逐されるかに見えたが、必ずしも全てがそうなったわけではない。
   
その最もいい例が道路公団の民営化で、改革は中途半端なものにとどまった。ここには道路族の意見が十分に反映される仕組みが残されたままであった。
   
いずれにしても、以降、この仕組みは歴代自民党政権で継続されていくが、09年12月に民主党政権が誕生した09〜12年は、「国家戦略室(局)」が設置され、「諮問会議」、「骨太の方針」とも中断された。
   
   

■2. 経済政策「骨太の方針」と「三本の矢」

12年12月に自公両党が政権に返り咲いた第二次安倍政権は、「諮問会議」と「骨太の方針」を復活させた。さらに12年12月26日の閣議で、「日本経済再生本部」が内閣に設置された。構成は本部長に安倍首相を据え、本部長代理に副総理兼財務大臣麻生太郎、副本部長に経済再生担当兼内閣特命担当大臣(経済財政政策担当)茂木敏充、内閣官房長官・菅義偉、他の国務大臣全員となっている。
   
その目的は、デフレ・円高からの脱却、物価上昇率2%の達成、企業の競争力を向上させる成長戦略の策定、雇用や所得の拡大などに向けた経済対策の実施、社会保障改革など、一歩踏み込んだ政策課題の実現を掲げた。
   
すなわち「日本経済再生会議」は、「諮問会議」と連携しながら、経済対策を講じて成長戦略を実現していく司令塔と位置付けられたのである。「諮問会議」が、金融政策や財政政策などマクロ政策を論議するのに対し、「日本経済再生会議」は、民間企業の活性化などミクロ政策を議論するなど、役割が分担された。
   
例えば、デフレからの脱却を掲げた「諮問会議」と密接に連携しながら経済政策を進め、総額13兆円超の12年度補正予算を成長戦略に資する分野に重点配分していくことが議論され、実行されている。
   
13年6月14日に、「骨太の方針2013」を閣議決定する。ここで中長期の財政再建に向けた国と地方の借金残高を国内総生産(GDP)比で、「平成33年度以降、安定的に引き下げる」目標を新たに設定した。
   
国と地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の赤字をGDP比で15年度に10年度から半減、20年度に黒字化するとした。GDP成長率は今後10年間の平均で名目3%、実質2%を実現、1人当たりの国民総所得(GNI)を10年後に150万円以上増やす目標を示した。歳出削減に向け、社会保障と公共事業、地方財政の3分野の改革は「聖域とせず見直しに取り組む」方針を提起した。
   
また、かつての小泉内閣で作成した「骨太の方針」に相当するロードマップ付きの戦略大綱をまとめている。
   
その際、5つの視点として掲げられたのが、

  1. イノベーション(技術革新)の推進、
  2. グローバル化への対応、
  3. 女性、若者、高齢者の活用、
  4. 農業活性化、
  5. エネルギーやIT(情報技術)など先端産業の振興

など、広範なテーマに取り組み、企業活動を強化していくことが決定された。
   
「骨太の方針2014」(6月25日)では、法人税の実効税率について、来年度から数年かけて20%台までに引き下げる(以降、18年までに約10%引き下げられ、29.74%になっている)。成長戦略については、新たな「労働時間制度」を創設することが盛り込まれた。
   
「骨太の方針2015」(6月30日)では、「経済再生なくして財政健全化なし」という基本的哲学が強く打ち出された。「骨太の方針2016」(6月2日)では「600兆円経済の道筋」、「一億総活躍プラン」が、「骨太の方針2017」(6月9日)では、「働き方改革」、「人材への投資を通じた生産性向上」、「子育て安心プラン」(幼児教育の早期無償化)などが盛り込まれた。
   
安倍第二次内閣の経済政策は、「骨太の方針」と重なって、12年12月に第二次安倍内閣の発足時、経済政策として、アベノミクスが打ち出された。アベノミクスとは安倍第二次内閣において掲げた一連の経済政策の通称である。    
「第一の矢」は、「大胆な金融緩和」、「第二の矢」は、「積極的な財政政策」、「第三の矢」は、「民間投資を喚起する成長戦略」である。「三本の矢」で、長期のデフレから脱却して、名目経済成長3%目標を達成することが提唱された。
   
安倍内閣の経済政策は、13年以降、「第三の矢」である成長戦略を軸に、具体化されていくことになる。
   
   

■3. サプライサイドを強化する「未来投資会議」

安倍内閣は、経済成長戦略を具体化するために、13年1月に「日本経済再生本部」の下部組織として、アベノミクスの「第三の矢」を推進する「産業競争力会議」を発足させた(16年6月まで存続)。これは成長戦略の実現に向けた調査審議を目的とされたものである。
   
安倍首相が議長を務め、副総理や経済閣僚、首相が指名した三菱ケミカルホールディングス社長の小林喜光、小松製作所会長の坂根正弘、慶應義塾大学教授の竹中平蔵、元総務大臣・岩手県知事の増田寛也、楽天社長の三木谷浩史、日本商工会議所会頭の三村明夫ら民間議員が名を連ねた。
   
1月23日に第1回会合を開き、議論を深めるために「産業の新陳代謝の促進」、「人材力強化・雇用制度改革」、「農業輸出拡大・競争力強化」などテーマ別に7つの分科会が設置され、民間議員が議論を始めている。
   
月に1〜2回のペースで会合を開き、成長戦略の具体策として、雇用規制の見直し、女性の活躍推進、高度外国人材の活用、国家戦略特区の創設、大学改革、科学技術イノベーション、公共インフラの民間開放、観光立国戦略、農水産業の活性化と輸出力強化など、サプライサイドを強化していく方策がずらりと並んでいる。
   
13年6月に政策の実施に向けた工程表や目標値などを盛り込んだ第1弾の成長戦略をまとめた。さらに14年5月19日に、民間議員は、「空港や水道などインフラの運営権売却」の前倒しを求める案をまとめている。24日には「残業代ゼロ制度」導入の検討が、経済同友会代表幹事の長谷川閑史が提案している。
   
一方で、日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁が、13年4月3日に異次元の金融緩和をアベノミクスの「第一の矢」としてスタートさせた。日本経済再生を図るためには有効需要を拡大することが必要になるとして、市場に大量のお金を流し、金利を下げることで、投資や消費を活発にするケインズ政策が導入された。
   
毎年国債を約80兆円のペースで買い込み、国債利回りを下げ、長期金利低下を誘導した。さらに株価指数などに連動する上場投資信託(ETF)や不動産投資信託などを買い、株価や不動産価格を下支えした。
   
アベノミクスが始まったころに聞かれた言葉が「トリクルダウン」だった。「景気拡大効果が大企業や富裕層から中間層や低所得者にも広がる」、「円安が輸出増に」、「企業業績拡大が設備投資増加に」、「賃金増、雇用増が消費増に」と宣伝されたが、こうした「好循環」は生まれなかった。
   
莫大な利益を貯めこんだ民間大企業は、利潤を着実に再生産できる投資先がみつからず、その資金は実体経済には回らずに、不動産市場、株式購入資金に流れ込んだ。
   
金融緩和による円安・株高の恩恵は大企業や投資資金を持つ富裕層には回った。消費の現場も富裕層向けは活況を呈したが、一方で所得格差が拡大し、実質賃金の低下は長期に続き、社会保障などの負担が増すなか、一般国民の節約志向は高まった。国民消費は増えず、日銀が目指す物価上昇の短期達成は難しいことが鮮明になり、デフレ脱却の時期は遠くなるばかりであった。
   
金利を下げるための国債の買い占めで、日銀は国債発行額の4割超を持つまでになっている。日銀が実質的に国の借金を肩代わりしているのである。株価を支える上場投資信託(ETF)の買い入れでは、日銀が多くの企業の実質的な大株主となる異例の事態になっている。
   
長引く超低金利で、金融機関は貸出金利による利益が生まれず、大手銀行は国内拠点の統廃合や人員規模の削減を相次いで打ち出し実行している。多くの地方銀行は収益悪化にあえぎ、最近のスルガ銀行の融資不正のように無理な営業による不祥事も目立っている。
   
15年9月24日、安倍首相は記者会見で「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言した。「第2ステージ」とは、

  1. 希望を生み出す強い経済(GDP 600兆円)、
  2. 夢をつなぐ子育て支援(出生率1.8)、
  3. 安心につながる社会保障(介護離職ゼロ)

などであった。
   
16年9月9日、これまで「規制改革会議」や「産業競争力会議」など、乱立ぎみの合議体を一本化して、新たに「未来投資会議」を設置した。「第四次産業革命をはじめとした将来の成長に資する分野における大胆な投資を官民連携で進め、成長戦略と構造改革の加速化を図る成長戦略の司令塔としての役割を持たせる」とされた。
   
この構成の民間議員には、榊原定征(さだゆき)経団連会長、中西宏明日立製作所会長、金丸恭文(やすふみ)フューチャー会長兼社長、五神真(ごのかみまこと)東大総長、竹中平蔵東洋大教授、南場智子DeNA会長など、経済界、新自由主義者の6人が就任した。
   
17年6月9日に新たな成長戦略をまとめた「未来投資戦略2017」が閣議決定された。ここでは、先進国に共通する「長期停滞」を打破し、中長期的成長を実現していくためには、近年急激に起きている「第四次産業革命」のイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れ、さまざまな社会課題を解決する「society 5.0」(16年1月に閣議決定された5年間の科学技術政策の基本方針の中で使われた言葉)を重視するとしている。
   
すなわち、日本の強みが活かせる「健康寿命の延伸」、「移動革命の実現」、「サプライチェーンの次世代化」、「快適なインフラ・まちづくり」および「フィンテック」(ITを駆使した金融サービスの創出)を戦略分野として、政策資源を集中するというものである。
   
「日本再興戦略2016」で第四次産業革命に向けて、成長戦略の最重要課題に位置づけられていた「コーポレートガバナンス改革」は、「未来投資戦略2017」に引き継ぎ、改革を形式から実質への強化を図るとされている。
   
主要項目として、企業と投資家の建設的な対話の促進、経営システムの強化、事業再編の円滑化が掲げられた。
   
   

■4.「骨太方針2018」と今後の安倍政権

さて、ここでは、「骨太方針2018」のポイントを取り上げる。「骨太方針2018」で掲げるべきは、喫緊の課題となっている財政再建の目標をどう定めるのか、そのもとで社会保障改革をどう進めるかであった。
   
ところが政策経費を新たな借金に頼らずに賄える基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する時期の目標を、従来の20年度から25年度へ5年遅らせている。
   
その批判をかわすために、新しい財政再建計画で、25年度の国、地方をあわせたプライマリーバランス(PB)黒字化に向けた中間地点の21年度にPB赤字を対GDPで1.5倍程度、債務残高を180%台前半、財政赤字を3%以下に設定した。PB黒字の前提となる成長率の見通しは名目3%超、実質2%にしている。
   
だが、この水準を達成できたのはバブル期が最後で、この20年の日本経済は、停滞が続いてきた。実現不可能な数字を挙げて帳尻をあわす手法は強く批判しなければならない。そもそも20年度としてきたPB黒字化を5年遅らせるのは、この間、アベノミクスの「第二の矢」で、独占資本に大判振る舞いを続けてきた結果である。
   
社会保障については、少子高齢化が加速する日本社会の中で、政府歳出の約3分の1を占め、今後も増加が予想される。今回の計画では、その伸びを抑える「数値」も明記されていない。「給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組む政策は20年度に取りまとめる」とされ、先送りされている。
   
さらに19年10月の消費税率10%引き上げるとしているが、これに備えた経済対策を19、20年度の当初予算に盛り込むことや、幼児教育・保育の無償化の前倒し実施など、歳出拡大につながる項目も盛り込まれている。
   
一方、成長戦略では、自動運転の普及を促す環境整備、IT、AI(人工知能)の活用を掲げているが、これらは従来の成長戦略で掲げたもので目新しいものではない。
   
このように、安倍内閣の経済財政政策は、行き詰っているのが実情である。金融緩和の出口や財政健全化の道筋も示されない。六年も続くアベノミクスは、すでに「第一の矢」、「第二の矢」は効力を失い、日本経済にとって大きな足かせになっている。
   
「第三の矢」の成長戦略は、結局、独占資本の資本蓄積だけを増大させ、資本主義社会では、過剰資本は労働者に「公正」に配分されることはなく、労働者階級に窮乏化を押し付ける。
   
安倍内閣は、異次元の金融緩和、機動的な財政出動、投資を促進させる成長戦略で、独占資本に手厚い援助を行ってきた。日本企業の2017年度の「内部留保」が6年連続で過去最高を更新している。財務省の法人企業統計(9月3日発表)では、17年度の企業(金融、保険業を除く)利益剰余金、いわゆる「内部留保金」は前年度比9.9%増の446兆円、第二次安倍政権が発足する前の11年度末から約164兆円増えている。
   
企業の経常利益は前年度比11.4%増の83兆5543億円と比較可能な1960年以降で最大であるが、国内の設備投資額は同5.8%増の45兆4475億円にとどまる。設備投資が増えたのは、人手不足を補う生産の自動化への投資や賃貸用不動産の建設投資によるもので、企業利益の伸びに比べると、力強さに欠ける。
   
大企業は最高益をあげているが、労働分配率は42年ぶりの低水準になっている。厚生労働省の調査では、17年度の実質賃金指数も前年度より0.2%減少している。
   
安倍首相は、アベノミクスの6年を振り返って、その効果について、「経済は11.8%成長し、昨年は過去最高。有効求人倍率はすべての都道府県で1倍を超えた。統計を取り始めて最高です。まっとうな経済を取り戻すことができた」など、都合のよい経済指標だけを並べて、アッピールし、自画自賛する。
   
だが有効求人倍率(2018年5月)の上昇は「人手不足で企業が求人を増やしている」ことによるもので、就業者の増加の内訳を見ると、その大半は生活保護費以下程度の収入しかない非正規労働者である。年齢別就業者では、65歳以上が前年同月比65万人増、875万人で高齢者や女性の就業増が実態である。そのうち非正規労働者は74%を占め、賃金は50歳台より200万円近く低い。
   
安倍政権は、国政選挙では小選挙区選挙制度にも助けられて(野党が選挙区で候補者の一本化ができず)、結果として勝利して、長期政権は支えられてきたのである。
   
選挙で得た議席数を背景に、集団的自衛権の行使を認める安全保障法制など「地金」の法律を成立させ、憲法に自衛隊を書き込む九条改憲に踏み込もうとしている。
   
安倍「一強政治」の弊害は、経済だけではなく、森友・加計問題にみる公文書改ざん、隠蔽、虚偽の答弁など、一連の忖度行政をもたらした。民主主義の砦である国会の権威を失墜させた安倍首相の責任は大きく、役人だけ処分して政治家は誰も責任をとらない姿勢は許されない。
   
持続可能な経済成長を推進するためには、サプライサイドを強化する「骨太の方針」から、社会福祉を柱とする国民生活改善を第一義とした経済、社会政策へ構造転換させることが必要である。
   
自民党総裁選挙で勝利した安倍首相は、3年間続投することになるが、米国トランプ大統領の通商政策は世界経済を混乱させ、日本経済への影響は避けられない。さらに安倍九条改憲阻止の国民運動の前進で、早晩、安倍内閣はレームダック状態に陥り、政権崩壊の可能性は高い。
   
安倍「一強政治」に対抗する当面、最大の政治課題は、来年4月の統一自治体選挙、7月の参院選挙で野党が前進し、安倍首相を退陣させることである。安倍九条改憲阻止を柱とする政策一致に立った野党共闘を成功させ、自民党・公明党与党を過半数割れに追い込むことを強く国民にアッピールして戦うことである。野党による本格的な政治政策の擦り合わせ、国会闘争、政権構想などは、その後でよいのである。
   
   

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