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●2016年9月号
■ 「未来への投資を実現する経済対策」の問題点
   立松 潔

   

■ はじめに

安倍政権は2016年8月2日、「未来への投資を実現する経済対策」を閣議決定した。事業費28兆1000億円である。政府はそのため追加歳出4兆円の16年度第2次補正予算案を編成し、秋の臨時国会で成立させるという。赤字を埋めるために3兆円程度の建設国債が発行される。問題は、財政赤字を拡大させてまでこのような経済対策を現在行う必要があるのか、ということである。
   
同じ日に発表された2016年版の『経済財政白書』では、日本経済の現状について次のように言っている。「アベノミクスの取組の下、経済再生・デフレ脱却に向けた進捗がみられる。有効求人倍率は24年ぶりの高水準となり、地域ごとにみても、史上初めて全都道府県で1倍を超えている。また春闘の賃上げは、1990年代以来となる3年連続での高い水準となり、パートタイム労働者の時給は過去最高を更新するなど雇用・所得環境は改善しており、企業収益も高い水準にある」(同、5p)と。雇用も企業収益も順調に推移しているというのである。
   
景気後退で雇用が悪化している状態ならば、財政支出を伴う経済対策も必要であろう。しかし、今回はそうではない。「雇用・所得環境は改善し、企業収益も高い水準にある」にもかかわらず、さらに景気を刺激する対策を打ち出そうというのである。問題は財政赤字の拡大だけではない。地方での労働力不足がこれによりさらに深刻化し、公共事業の進展に悪影響を及ぼす恐れすら指摘されている。
   
これについて、「未来への投資を実現する経済対策」は次のように説明する。「少子高齢化や潜在成長力の低迷といった構造要因も背景に、現状の景気は、雇用・所得環境は改善する一方で、個人消費や民間投資は力強さを欠いた状況にある。また、新興国経済に陰りが見え、英国国民投票におけるEU離脱の選択等、世界経済の需要の低迷、成長の減速のリスクが懸念される」と。つまり、第一に個人消費や民間投資に力強さが欠けていること、第二に世界経済の低迷・減速リスクへの懸念、これが今回の経済対策の理由であるというのである。
   
第一の個人消費・民間投資の弱さは、確かに深刻な問題である。しかし、単なる公共投資による需要喚起策で解決できるかというと、大いに疑問である。特に個人消費の弱さは、非正規雇用の増加による実質賃金の低迷という構造問題や高齢化の進行が背景になっているだけに、一過性の景気対策で解消するのは難しいであろう。
   
しかし、安倍政権はそのような批判をかわすため、今回の「経済対策」をわざわざ「未来への投資」と名付け、単なる短期的な景気対策ではない、中長期的・持続的な効果を狙った経済対策であるとしている。それではどのような意味で今回の経済対策が「未来への投資」なのか、まずその点を検討してみよう。
   

■ 未来への投資と一億総活躍社会

「未来への投資を実現する経済対策」は、その文書の冒頭で今回の経済対策の基本的な考え方について次のように言っている。「本経済対策は、当面の需要喚起にとどまらず、民需主導の持続的な経済成長と一億総活躍社会の着実な実現につながる施策を中心とする」と。
   
まずこの一億総活躍社会の実現に関する施策としては、子育て・介護の環境整備、奨学金制度の拡充による若者への支援拡充、年金受給資格期間の短縮などがあげられている。しかし、その施策の内容説明によれば、その多くは2017年度の当初予算で実施されるというのである。このように来年度の予算で実施するものまで経済対策に盛り込むのは異例のことである。今回の経済対策に「一億総活躍社会の実現」という項目を盛り込むことで、それが単なる短期的景気浮揚策ではなく、構造改革を伴う「未来への投資」であることを国民に印象づけようという作戦なのであろう。また、17年度予算で実施する部分も盛り込むことで、国民に経済対策の規模の大きさを印象づける(錯覚させる)こともできる。8月3日の「毎日新聞」は次のように指摘している。「政府が2日閣議決定した経済対策は、大規模対策にこだわる安倍晋三首相の強い意向を受け、2017年度当初予算で予定する施策を先取りして盛り込むなど異例のものとなった」と。
   
「一億総活躍社会の実現」以外の経済対策を見ると、「21世紀型のインフラ整備」、「英国のEU離脱に伴う不安定性などのリスクへの対応並びに中小企業・小規模事業者及び地方の支援」、「熊本地震や東日本大震災からの復興や安全・安心、防災対応の強化」などがあがっている。たしかに、公共事業中心の短期的景気浮揚策のイメージが強いことは確かである。しかし、安倍政権はそれらも日本経済の持続的な成長に結びつく「未来への投資」だと言うのである。そこで、本稿では21世紀型インフラ整備の問題を中心に、今回の「未来への投資を実現する経済対策」についてさらに検討してみたいと思う。
   

■ 21世紀型インフラ整備

未来への投資とは言うものの、すでに述べたように今回の経済対策が、世界経済の低迷・減速リスクへの対策であることは、政府も否定していない。5月26〜27日に行われた先の伊勢志摩サミットでは、「世界経済のリスクに立ち向かうため、あらゆる政策を総動員していく」という合意がなされているが、これを取りまとめた議長国として「金融政策、財政政策、構造改革を総動員してアベノミクスを一層加速する」責任があるというのである。
   
ここで総動員するという「金融政策、財政政策、構造改革」のうち、金融政策については日本銀行が7月29日に追加金融緩和を発表している。その内容は「ETFについて、保有残高が年間6兆円に相当するペースで増加するよう買い入れを行う」というものであった。現行の約3.3兆円からほぼ倍に買い入れ額を増やすというのである。ETF(Exchange Traded Funds 上場投資信託)とは、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)等の動きに連動する投資信託であり、その購入を増やすというのだから露骨な株価対策である。景気対策として大企業や富裕層の利害を優先するアベノミクスの本質を示すものであろう。
   
そして今回の経済対策で財政政策として注目されるのが、「21世紀型のインフラ整備」である。経済対策のための財政措置13.5兆円のうち、最大の6.2兆円(46%)がこれに費やされるからである。21世紀型インフラ整備とは,具体的に「観光振興のためのインフラ整備」、「農林水産物の輸出促進や競争力強化に向けたインフラ整備」、「リニア中央新幹線、整備新幹線建設」などに対するものであり、それにより「中長期的に成長していく基盤を構築する」というのである。
   
リニア中央新幹線は、JR東海が全額負担することを前提に国が認可したものである。しかし今回その方針を転換し、3兆円の財政投融資や政府系金融機関独自の融資によってJR東海を支援し、2045年とされた名古屋・大阪間の開業を最大で8年前倒しするというのである。これによって直ちに工事が増える訳ではないが、将来的にリニア新幹線の全線開業が早まるという意味で「未来への投資」というのであろう。
   
政府の文書では「21世紀型インフラ」についての定義は不明である。しかし、おそらく20世紀型=製造業へのインフラ投資というイメージに対し、観光や農林水産業へのインフラ投資を21世紀型としているのであろう。たしかに20世紀の高度成長期には太平洋ベルト地帯を中心に臨海工業地帯(臨海コンビナート)の造成が進み、高度成長が終了した1970年代後半以降は地方(農村部)への工業団地の建設など製造業の地方移転への投資が活発であった。しかし、90年代以降製造業は停滞・縮小傾向にある。そこで代わりに観光と農林水産業への公共投資を21世紀型と呼ぶことで、「未来への投資」のイメージを打ち出そうというのであろう。
   

■ 外国人観光客のためのインフラ整備

「未来への投資を実現する経済対策」が、21世紀型インフラ整備として真っ先に掲げるのが「外国人観光客4000万人時代に向けたインフラ整備」である。訪日外国人旅行者数は、図表1でわかるように、2012年の837万人から15年には1974万人へと2.4倍に増加している。
   

(図表1・クリックで拡大します)
   
また観光局の「訪日外国人消費動向調査」によれば、訪日外国人全体の旅行消費額は2012年の1兆0846億円が13年には1兆4167億円、14年に2兆0278億円、15年には3兆4771億円と、これまた急増している。15年は12年の3.2倍である。たしかに、このような外国人旅行者による消費の増加は、国内景気にもプラスの影響を与えている。その消費の費目別構成を見ると、15年では宿泊料金が25.8%、飲食費が18.5%、交通費が10.6%、娯楽サービス費が3.0%、買物代が41.8%となっている。しかも、買物代の割合は12年は31.4%だったから、この間に大きく比重を高めていることがわかる。
   
外国人観光客の急増を背景に、政府は2020年までに訪日外国人観光者数を2000万人にするとしていた目標を、今年になって4000万人に引き上げた。そして今回の経済対策では大型クルーズ船受入れのための港湾整備、空港駐機場の整備など首都圏空港・地方空港の機能強化、鉄道駅・バスターミナル等のバリアフリー化の推進、観光拠点情報・交流施設の整備・改良等がハード面についての具体的施策として掲げられている。いずれも外国人観光客の増加に対応するためのインフラ整備にほかならない。
   
以上のように、外国人旅行者数とその旅行消費額(特に買物代)が急増したのは、まず第一に訪日外国人の多いアジア地域において経済発展により国民所得が増加し、海外旅行が可能な所得水準の人口が増えたことによるものである。アジア諸国は今後も経済成長が進むであろうから、訪日外国人の増加も大いに期待できる。
   
また、アジア諸国など新興国向けに日本政府が行ったビザ要件の緩和や訪日外国人旅行者向けの消費税免税制度の改正などの効果も、訪日外国人増加とその消費増を促進した。『観光白書(各年)』によれば、まずビザ要件の緩和については、2013年にタイとマレーシアの観光客向けにビザ取得を免除、フィリピンとベトナムに対して数次ビザの発行を開始している。さらに14年には7月にインド向け、8月にブラジル向けに数次ビザの導入を決定、そしてインドネシア、フィリピン及びベトナムに対しては9月に数次ビザの発給要件を大幅緩和し、11月に指定旅行会社パックツアー参加者用一次観光ビザの申請手続簡素化を行った。また12月には、IC旅券事前登録制によるインドネシア向けビザ免除を開始している。
   
そして2015年には1月19日から中国人向け数次ビザの発給要件を緩和し、6月にブラジル向け8月にモンゴル向け数次ビザの発給を開始した。16年に入ってからも1月にインド向け数次ビザの発給要件大幅緩和、2月にベトナムとインド向け数次ビザ発給要件の緩和、ブラジル向け数次ビザの滞在期間延長措置開始など、相次いでビザ要件の緩和措置を行っている。
   
外国人旅行者向けの消費税免税制度については、2014年度税制改正において従来免税販売の対象ではなかった食品類、飲料類、薬品類、化粧品類などの消耗品を免税対象とし、14年10月から施行している。これにより、14年4月1日の時点では5777店だった免税店が1年後には18779店へと3.25倍に増加し、もともと買物への支出の多い中国、台湾、韓国、香港などアジアからの観光客を中心に旅行消費が一段と拡大することになった。
   
また、2012年末以降進んだ円安により、日本旅行と日本での消費が訪日外国人にとって割安になったことも、外国人旅行者とその消費が増加した要因であった。ただし、今年になってからの円高の進行により、訪日外国人の伸び率が低下し、また1人当たりの旅行支出は減少傾向にある。中国人観光客による「爆買い」も勢いが弱まっているという。今後も訪日外国人旅行者数の増加は続くと思われるが、これまでのようなペースが維持されるかどうかについては不透明である。
   

■ 日本人の国内観光需要低迷とその背景

外国人観光客の誘致はアベノミクスの中で最も成果が上がった分野とも言われているが、他方で日本人の国内旅行は低迷を続けている。特に連続金融破綻が起こり、デフレ不況が深刻化した1997年からの落ち込みが大きく、97年から2004年までの7年間に国民1人当たりの宿泊観光旅行は旅行回数で27.6%減、宿泊数では30.7%減となっている。そしてその後も減少が続き、05年から12年までの7年間で旅行回数ではさらに21.3%減、宿泊数では24.3%減となっている。05年から統計の取り方が変わったので連続のデータはないが、国内の宿泊観光旅行需要が1997年から2012年までの間に大きく(おおよそ55%程度に)落ち込んだことがわかる。
   
このような国内の観光需要縮小の大きな原因として指摘されるのが、「カネ不足」と「時間不足」である。長引くデフレ不況の進行による勤労者世帯の可処分所得の低迷と、労働条件の悪化に伴う観光のための時間的余裕(休暇)の縮小が、観光旅行需要を減少させているのである。非正規雇用の割合が増加することで、ワーキングプアと呼ばれる低所得層が増えていることも「カネ不足」の背景になっている。また人員削減により現役労働者の負担が増え長時間労働を余儀なくされていることも観光旅行のための休暇の取得を困難にしている。
   
安倍政権の下での国内旅行延べ人数を図表2で見ると、宿泊旅行は2012年から13年にかけて増加したものの、消費増税のあった14年には大幅に減少し、15年には回復に向かったが、まだ12年の水準を下回っていることがわかる。同様に国内日帰り旅行延べ人数も14年、15年と減少し、やはり12年を下回る水準となっている。
   

(図表2・クリックで拡大します)
   
訪日外国人旅行者数が増えたとは言え、国内の延べ宿泊者数に占める外国人の割合は2015年時点で13.1%であり、9割近くは日本人で占められている。安倍政権も観光を成長戦略の柱に据えるのであれば、外国人観光客の誘致だけでなく、日本人がもっと観光旅行を楽しめるよう、国民生活に(時間及び金銭面での)余裕をもたらすような政策を実施すべきであろう。
   

■ 進まぬ有給休暇取得

2016年6月2日に閣議決定された『日本再興戦略2016』では主要施策の1つに観光立国を掲げているが、そこには「観光資源魅力向上」、「観光関連規制・制度の見直し」などの課題に加え、「休暇取得の促進・分散化」による観光需要の平準化が掲げられている。すなわち、宿泊施設や交通の混雑を緩和することで家族旅行を推進するために、学校の休業日の「柔軟な設定による分散化を進め、産業界には有給休暇取得の年間3日増を働きかけるというのである(同41p)。
   
実はかつて小泉政権時代にもこのような年次有給休暇取得促進の提言が行われている。経済産業省と国土交通省がつくる「休暇制度の在り方と経済社会への影響に関する調査研究委員会」が2002年6月に提出した報告書である。それによれば、全国の会社員、公務員が有給休暇を完全に消化すれば、レジャー支出などで11兆8000億円の経済波及効果があり、雇用創出効果は148万人に達するという。このような観点から報告書は年次有給休暇の完全取得の推進とそれに向けた休暇環境の整備を提案している。安倍政権の「日本再興戦略2016」が有給休暇取得3日増と控えめなのに比べると、かなり「過激?」な方針が打ち出されていたのである。
   
2000年当時の正規雇用者の有給休暇日数は平均で18.0日であるが、取得率は49.4%であり、9.1日が未消化となっていた。これに対し、2015年の年次有給休暇日数は18.5日で、取得率は47.3%(9.7日分が未消化)と15年前より低下しているのである(厚生労働省「平成27年就労条件総合調査結果」)。
   
実は、有給休暇の消化促進には財界団体も積極的である。経済団体連合会も「21世紀のわが国観光のあり方に関する提言」(2000年10月)の中で「企業としても、従業員が生き生きと働き、創造力を発揮する環境を創出するという意識に立って、有給休暇を積極的に取得させるとともに、例えば2週間以上の長期休暇を取得できるように企業内の環境整備に努めていく必要がある」としている。
   
このようにすでに15年も前に政府の研究会や財界団体が有給休暇の積極的消化を提言しているにもかかわらず、現在も有給休暇取得率は一向に高まっていない。このままでは、「日本再興戦略」が目標とする有給休暇取得の年間3日増の実現も危ぶまれる状況である。
   
外国人観光客を増やすための試みは大いに推進すべきであるが、未来への投資というならば、日本人が国内旅行をもっと楽しめる環境を作ることにも力を注ぐべきであろう。そしてそれには有給休暇も十分取れない職場の実態にメスを入れ、労働条件の改善を進めることが不可欠である。
   

■ 地方創生と東京一極集中

『社会主義』2016年新年号の拙稿「アベノミクス第2ステージの内実」でも触れたように、安倍政権は地方創生の推進を掲げ14年9月3日に首相を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、地方創生事業への取り組みを開始した。15年6月に閣議決定された「日本再興戦略改訂2015」では「ローカル・アベノミクスの推進」をアベノミクス第2ステージの成長戦略の柱の1つに掲げ、また今年の「日本再興戦略2016」でも「GDP 600兆円に向けた官民戦略プロジェクト10」のうちローカルアベノミクスの深化関連が4プロジェクトも含まれている。
   
その4プロジェクトは「サービス産業の生産性向上」、「中堅・中小企業・小規模事業者の革新」、「攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化」、「観光立国」である。そしてその内容の多くは今回の「未来への投資を実現する経済対策」にも盛り込まれている。このように成長戦略や経済対策において地方創生に向けた政策を打ち出すことで、アベノミクスの効果が地方に及んでいないとの批判をかわすつもりなのであろう。
   
しかし、安倍政権が成立しアベノミクスが発動されてから、地域間格差はさらに拡大している。特に目につくのが人口の東京一極集中である。2016年6月2日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」によれば、東京都に埼玉県、千葉県,神奈川県を加えた首都圏の人口は12年から4年連続で増加を続けており、15年の首都圏の人口は3612万6000人となり、全人口の4分の1以上を占めることになったという。しかも、首都圏への人口移動の大半は若年層であり、15年には15〜24歳で9万人を超える転入超過になっている。さらに最近では25〜29歳の転入超過数も増加傾向にあるという。
   
2015年12月24日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)」は次のように言う。「人口移動の傾向は世代ごとに異なっており、近年は、若年層(特に若年女性)の大都市への流入が増大する一方、高齢層の都市部からの流出が減少している。こうした東京一極集中を是正する観点から、企業の本社機能や政府関係機関の移転をはじめ、地方への新しいひとの流れをつくる施策を強力に推進する必要性が高まっている」と。
   
しかし、現実は企業の地方移転とは逆の方向に進んでいる。帝国データバンクの調査によれば、2015年に首都圏に他の地域から本社機能を移した企業は335件であり、集計可能な1981年以降で最多となったという。しかも14年と比べて13%も増加しているのである。逆に首都圏から他の地域への転出企業は231件で、14年と比べ14%の減少である。このように企業の首都圏転入が増えていることについて帝国データバンクは、地方で人口減少が顕著であるため、労働力や商機を求め、東京に拠点を移す傾向が強いと分析している(以上、「日本経済新聞」16年8月8日)。
   
先にみた外国人観光客の増加も東京一極集中と地域間格差拡大を促進している。外国人観光客は東京、箱根・富士山、京都、大阪を巡る「ゴールデンルート」など人気の高い観光スポットに集中する傾向がみられるからである。観光庁の「宿泊旅行調査」によれば、2015年の外国人延べ宿泊者数(6561万4600人泊)のうち東京都が全体の26.8%という圧倒的な比重を占め、大阪府(13.7%)と京都府(7.0%)を加えた1都2府で全体の47.4%を占めている。地方圏に訪れる外国人観光客は近年増加しつつあるとはいえ、まだ圧倒的に少なく、たとえば東北6県合わせても全体の0.9%でしかないのである。インバウンド観光(訪日外国人観光旅行)の恩恵は、地方に十分及んでいるとは言えない状況である。
   
また、今回の経済対策の課題に挙げられている農林水産物の輸出促進と農林水産業の競争力強化も結局は一部の農業事業者を潤すことはできても、(中山間地など条件不利地域を含めた)地域の農業全体を引きあげることは困難である。製造業が円高で大きな打撃を受け、縮小を余儀なくされたように、為替相場により左右される輸出への依存を増やすことは、農業を一層不安定な状態に置くことにもつながりかねない。
   
以上のように、安倍政権による「未来への投資」では地域間格差は拡大する一方であり、「明るい未来」はあまり期待できそうにもない。インフラ投資によって生産基盤を強化するだけでは消費は拡大しない。国民の暮らしの中での将来への不安を解消することで、停滞する消費を増加させ経済全体を上向かせていくような施策が求められているといえよう。
   
   

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