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●2015年7月号
■ 労働関連三法案に反対し闘い続けよう
   月刊『社会主義』編集部

   

■1.

6月19日、自民党、公明党が提出し、今国会で成立をめざしてきた労働者派遣法改正案が、衆院本会議で与党と次世代の賛成多数で可決され、参院に送られた。
   
与党案が採決された背景には、次のような経緯がある。今回の労働者派遣法改正案は、過去2回にわたって廃案となってきたものである。今回も連合をはじめ労働組合、野党は反対の姿勢を崩さず、また、日本年金機構から個人情報が流れた問題が起き、衆院厚生労働委員会で採決の見通しが立たなかったことがある。
   
さらに与党案に対して、民主党、維新の党、生活の党と山本太郎となかまたちの野党三党は、正社員と派遣社員らの賃金格差を解消する「同一労働同一賃金」推進法案(以下、「推進法案」という)を議員立法として提出していた。このため自民党は労働者派遣法改正案の採決への道筋をつけることが出来ないでいた。
   
この事態を打開するために、自民党は維新の党へ「修正協議」を打診し、これに維新の党が応じたことで野党共闘は瓦解することになった。自民党側からすれば厚生労働委員会で全野党が欠席の中で採決を強行すれば、今後の国会運営に支障が出ることを懸念し、何としても避けたいという事情があった。維新の党を委員会に参加させるため、維新の党内の「親政権」派への誘いを粘り強く行い、野党三党の「推進法案」の「修正協議」で合意した、と報道されている。こうして厚生労働委員会は、

――野党三党が提出した「推進法案」を否決する。維新の党は与党が強行する派遣法改正案の採決に出席し反対する。その後、維新の党と自民党で合意して「修正」された「推進法案」を、与党と維新の党が賛成し、可決する――

という政治決着が図られた。
   
ところで「修正合意」は、野党三党が提出した当初案にあった「職務に応じた待遇の均等の実現を図る」との表現を、「職務に応じた待遇の均等および均衡の実現を図る」に修正された。また、措置を講ずる時期は「施行後1年以内」を「3年以内」へと緩和することになった。これで野党三党の「推進法案」は、完全に「骨抜き」されたのである。
   

■2.

野党三党が提出した「推進法案」は、非正規雇用者の待遇改善をめざすもので、派遣社員の権利は認められていないという問題点はありながらも、与党案の「対案」には一定なりうるものであった。派遣社員の平均年収は2011年調査で257万円、6割以上が300万円未満で400万円超とされる正社員との差は大きなものがある。
   
野党三党の「推進法案」は、賃金、労働条件、立場も不安定な派遣社員の待遇改善が狙いで、同じ仕事なら正社員と「均等」な処遇を求めている。現行の労働者派遣法は派遣社員の賃金は社員との「均衡(バランス)」に配慮するように義務づけているが、これと比較すると、その処遇をより強く求めている内容となっていたのである。
   
派遣労働者は一時に比べて減少しているとはいえ、現在も126万人いる。与党の改正案は、派遣会社にキャリアアップの措置を義務づけ、派遣労働者の能力を高めて、正社員になれる道筋を描いたと言われている。だが派遣労働者が能力を高めても、派遣先の対応が変わらなければ待遇は改善されない。そこで同じような仕事をしている人の待遇を同じようにする「均等待遇」の原則が必要である。そういう意味で野党三党の「推進法案」は、労働者の待遇を均等にする法律を1年以内に作ることが規定されていたように、働き方に関するあるべき方向を示していたのである。
   
ところで「修正協議」で合意した内容には、維新の党内でも根強い批判があり、党内全体の合意に至っているとは言えないとのこと。維新の党は、大阪都構想の住民投票で敗れた橋下徹最高顧問(大阪市長)が政治から引退を表明、そして江田憲司代表の辞任などを契機に党内混乱、動揺は続いている。そして今回の自民党との「修正合意」では、「親政権」か「野党路線」かで、党内抗争は激化している。今回の「修正協議」を中心的に進めたのは、橋下徹最高顧問に近い大阪選出の議員で、馬場伸幸国対委員長だと言われている。松野頼久代表、柿沢未途幹事長らが、最終的に「大阪組」が主導して自民党と交渉を進めた「修正合意」を追認せざるを得なかったのは、「維新分裂の危機」に繋がることを避けたからだと報道されている。
   
維新の党の路線をめぐる対立は、今後の安全保障法制関連法案の採決でも、今回と同じような事態が予想され、自民党による野党間の分断に止まらず、党分裂の危機をはらんだ展開になることは避けられない可能性が強い。
   

■3.

現行の労働者派遣法は、企業が無期限に派遣社員を受け入れられる仕事を通訳や秘書など「専門26業務」に限り、それ以外は最長3年に制限している。今回の改正案では、どの業種も同じ職場で働ける期間を「原則3年」とする一方、企業は労働組合などの意見を聞くことを条件に、働き手を変えれば業務内容に関係なく派遣社員を受け入れ続けることができる。すなわち「企業はずっと派遣を使えるのに、労働者は3年ごとに行先を探さなければならなくなる」という改正である。これは規制の対象を「業務」から「人」に代えることで、人を代えれば企業はずっと派遣を受け入れられるようになり、直接雇用につながることはない。すなわち「生涯派遣」法に他ならない。また、社員を直接雇う理由も弱まり、正社員の仕事が派遣に置き換わっていく恐れがあるとされる。
   
ではどうすべきかであるが、その方途を探る上で参考になるのは、例えば日本と肩を並べる経済競争力を維持しているドイツがある。ドイツのパートタイム労働者には日本と違って「一部の時間(パートタイム)だけ働く正社員」制度がある。これは期限の定めがなく働き、社会保険に加入し、30日間の有給休暇、病気休業、育児・介護休業を取得でき、企業内福祉も利用できる。唯一違うのは、働く時間を短縮した分、すなわち働いた時間がフルタイムの何割にあたるかに応じて給与が決まる(減少)ことである。
   
この労働時間の設定は、本人と上司の間ですり合わせて、時に人事担当者や従業員代表委員会の関与を経て決まる。働く時間を大胆に柔軟化する「人生対応型人事管理」と呼ばれるこの方法は、一定の生活保障を基盤とした「働き方の多様性」を前提としたものである。
   
労働法制の規制緩和は、これで終わりではない。承知のように年収が高い人を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の導入が、「労働基準法改正案」として提案されている。いわゆる「残業代ゼロ法案」である。さらに「女性活躍推進法案」があるが、これは大企業に女性の管理職や採用比率の数値目標を義務づけるというものである。これで大企業の女性登用を進めても、働く女性の約半数はパートや派遣などの非正規である。正社員との待遇の差が埋まらないでは、多くの女性は恩恵を受けにくいことは明らかである。どれ一つとっても、サプライサイド(供給側)の強化が優先されており、働く者のディーセント・ワーク(人間らしい働き方)は全く保証されていない。
   
労働者派遣法改正案は、参議院に場を移して論議されることになる。安倍政権が進める労働法制改正に対して、この間の連合、全労連、そして全労協など労働者の統一闘争の広がりの教訓を活かし、大衆運動を背景にして労働者の要求を掲げ、断固として闘い続けていくことが必要である。
   
編集部
   
   

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