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●2014年8月号
■ 安倍政権の暴挙を許さず闘いの広がりを
    ―― 集団的自衛権行使の容認に反対する ――
   善明 建一

   

■ 憲法第九条を否定した閣議決定

7月1日、安倍晋三内閣は集団的自衛権行使は「憲法第九条の下で許容できる自衛の措置」と位置づける閣議決定を行った。5月15日、安倍首相がこれまでの憲法解釈を変更して集団的自衛権行使容認をめざすとした記者会見から、わずか1カ月余の拙速さである。
   
国会でのまともな審議もなく、時の内閣の一存で憲法解釈変更を行うことは、本来、権力を縛るためにある立憲主義に反するばかりか、戦後、60年に及び定着して平和主義の規範を根本から否定する暴挙と言わなければならない。これを許せば憲法三原則の1つである平和主義に止まらず、他の基本的人権の尊重、国民主権などが有名無実にされる可能性もある。
   
その際にこの間の安倍内閣の改憲策動で指摘しておかなければならないことは、自民党は2006年9月に第一次安倍内閣を発足させてから、本格的な改憲策動を強化するが、これを推進するために、07年4月に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(以下、「安保法制懇」と略す)を設置した。以降、「安保法制懇」が与党協議から閣議決定に至る過程で「解釈改憲」の前裁きの役割を担ったことである。さらに第二次安倍内閣のもとで2013年8月、「憲法の番人」と言われてきた内閣法制局長官(山本康幸)を退任させ、後任に自分が提唱する歴代内閣が慣習としてきた憲法解釈を見直すことを共有する小松一郎駐仏大使に交代させたことである。
   
さて話は2014年5月15日の「安保法制懇」報告書に進むが、この報告を受けて始まった自民党、公明両党による密室の与党協議は、政府が示した武力行使を必要とする「8事例」の議論と閣議決定に向けた文書整理をめぐって、両党間の駆け引きが、マスコミを通じて連日、報道されるだけで国会、国民は蚊帳の外に置かれた。
   
与党協議における公明党の態度であるが、当初は憲法解釈を変更することに慎重な姿勢だと報道されていた。だが山口那津男代表や党執行部は、政権離脱を覚悟に自民党に対峙する姿勢を封印して協議に臨んだ。その結果、公明党に残された選択肢は、集団的自衛権行使を認めた上で、創価学会員、公明党支持者を説得できる文言の「修正」を条件にする他はなかった。最終的に公明党は「修正要求」は受け入れられたとして、安倍首相との党首会議を開き、武力行使の「新3要件」を認めた。
   
山口代表は、閣議決定後の記者会見で、「武力の行使は国民を守るための『自衛の措置』に限られることが明確になっている。その点で憲法上、いわれる(一時的な)集団的自衛権の行使を認めるものではない」と述べているが、このことは閣議決定のどこにも担保されていない。
   
公明党は「行使は朝鮮半島有事を含む日本有事に限定される」と釈明したいのだろう。だが、閣議決定の文言にある「新3要件」をどう読んでも、山口代表の説明は詭弁としかいいようがない。いくら「限定的容認」といっても、集団的自衛権行使の概念は全く変わっていないからである。
   
さらに安倍首相は、「今回の『新3要件』も、今までの『3要件』と基本的な考え方はほとんど同じだといってよく、表現もほとんど変わっていない。憲法解釈の基本的な考え方は変わらない。従って、憲法の規範性を何ら変更するものではなく、『新3要件』は憲法上の明確な歯止めとなっている」と述べている。こんな説明で国民を納得させるのは無理で、身勝手な正当化だといわざるをえない。
   
安倍首相の国会答弁、記者会見では、質問にはまともに答えず、しかも筋違いの答弁で自説の憲法論を繰り返すばかりであった。また、その説明ではいたる所で論理矛盾を露呈するなど、議論として成り立つものではなかった。
   
政府は閣議決定を踏まえ、年末に日米の防衛協力のあり方を示したガイドラインの再改定作業を行い、平時に自衛隊が米軍と共に行動する自衛隊改正法や後方支援を拡大する関連法制定に向けた準備を行うことになる。その上でグレーゾーンから集団的自衛権など、安全保障関係の法案を一括して来年の通常国会に提案するとしている。法案提出の時期は、統一地方選挙後に行うと言われている。これは国民の「解釈改憲」に対する批判、関心から目をそらせることを狙った姑息なやり方である。7月13日の滋賀知事選挙では、「卒原発」を掲げた三日月大造前民主党衆院議員が勝利した。これは国民の意見を聞かずに「解釈改憲」を急いだ安倍政権に対する県民の批判である。 閣議決定された後の朝日新聞の世論調査(7月4日、5日)では、50%が行使容認に反対、内閣決議で解釈改憲に反対が63%、議論が不十分だったが72%など、相変わらず国民は納得していないのである。
   
解釈変更が閣議決定されても、自衛隊法をはじめ関連法の改正や新たな法制定がない限り、自衛隊に新たな任務を課すことはできない。議論の主舞台はいまさらではあるが、国会、そして国民の場に移るのである。国会で徹底した議論を行い、与党協議でみられた抽象的で、玉虫色の決着を正すことが必要である。
   
   

■ 安倍首相の肝入りで設置された「安保法制懇」

そこで閣議決定した「新3要件」の土台となっている「安保法制懇」とは何か、少し遡って振り返ってみよう。
   
日本政府の歴代内閣は、戦争を放棄し、交戦権を否定している憲法第九条の制約を受けて、憲法上認められる自衛権は、自国を守る個別的自衛権だけとした。他国を守る集団的自衛権の行使は、「自衛のための必要最小限度の範囲」を越えるもので禁止されているとした。いわゆる専守防衛論の立場をとってきた。これが集団的自衛権は「持っているが、使えない(わない)」と説明されてきたものだ。
   
前述したように第一次安倍内閣は、「安保法制懇」を、自らの歴史認識、憲法改憲論に近い人を集めて設置した。安倍首相が願望してきた憲法第九条の「明文改憲」は、国民の抵抗が強く、すぐには困難なので、「明文改憲」以外の方法で、改憲をめざすことを「安保法制懇」の役割と定めたのである。すなわち「明文改憲」の前に、これまで「違憲」としてきた集団的自衛権行使を「憲法解釈」変更で、「合憲」とする憲法第九条「解釈改憲」をめざしたのである。
   
これを国民に理解させるためには、集団的自衛権行使を容認する根拠、理由が説明されなければならない。かつて米ソの冷戦時代には、日米同盟強化に向けてソ連の脅威論がフルに使われたが、今回は中国、北朝鮮が日本の脅威国として、誇張され宣伝に使われている。「安保法制懇」報告書でも、、朝鮮半島及び周辺地域の有事に備えた安全保障政策の必要性が強調されている。北朝鮮による度重なる弾道ミサイル発射実験、3度の核開発実験などを例に挙げながら、北朝鮮指導部の暴走の危険性、さらに中国の軍事脅威を取り上げている。中国の国防費の名目上の規模は、過去10年間で約4倍となり、国防費の高い伸びを背景に、近代的戦闘機や新型弾道ミサイルを含む最新兵器の導入とその量的拡大が顕著だと指摘している。領土・領海、海洋権益をめぐる日本、ベトナム、フイリピンとの衝突、さらに中国の東、南シナ海における安全保障の強化に向けた軍事演習など、近隣諸国に軍事的脅威を与えるなど、不安定要素は強まっているとしている。
   
日本独自の活動としては、シーレンを脅かすアデン湾における海賊対処、ペルシャ湾における機雷掃海、イラク戦争時でのインド洋における艦艇への燃料補給支援活動、アフガニスタンやイラクの復興支援、カンボジア、モザンビーク、南スーダンへの国連PKO活動参加、さらにASEAN(東南アジア諸国連合)に加え、冷戦の終結や共通の安全保障課題の拡大に伴い、経済分野におけるAPEC(アジア太平洋経済協力)や外交分野におけるARF(ASEAN地域フォーラム)の創設、これにとどまらず、FAS(東アジア首脳会議)の成立・拡大やADMM(拡大ASEAN国防相会議)の創設など、政治・安全保障・防衛分野において様々な協力の枠組みが重層的に発展していることを挙げている。この地域における中国の影響力拡大策も無視できない脅威だと分析されている。
   
こうした我が国を取り巻く安全保障の環境変化を踏まえ、すなわち中国の経済的、軍事的、政治的力の強まりと脅威とに対抗する日米安保体制を強化することが必要だと結論しているのである。そのために従来の政府の憲法解釈をとることが適切か否か、我が国として効果的に対応するためにとるべき措置とは何かなどについて検討することを「安保法制懇」に投げかけたのである。
   
   

■ 前裁きを務めた「安保法制懇」

安倍首相が投げかけた検討事項は「4つの類型」と言われるもので、それは、

  1. 共同訓練等での公海における米軍艦艇の防護、
  2. 米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの追撃、
  3. 国連平和維持活動(PKO)で他国部隊を救援する「駆け込み警護」、
  4. 同じく国連PKO等に参加している武力行使する他国部隊への後方支援、

などである。
   
これを受けて「安保法制懇」は、「4つの類型」を検討した。その結論を簡潔に説明すると、次のようである。

  • 1.と2.については、集団的自衛権行使を容認する、
  • 3.については、憲法第九条が禁じる国際紛争の解決のための武力行使には該当しない、
  • 4.については、これまでの「武力行使との一体化論」をやめ、政策的妥当性の問題として政策決定すべきである、

と結論づけている。
   
さらに我が国による集団的自衛権行使及び国連の安全保障措置への参加は、政府が適切な形で新しい憲法解釈の変更を明らかにすることで可能であり、憲法改正を必要とするものではないとされている。
   
この報告書は、第一次内閣で安倍首相が退陣した後の2008年6月24日に福田康夫首相に提出されたが、この内閣はこれを棚上げにし、無視されていくことになった。
   
さて、09年の総選挙で自民党は歴史的な敗北を期して、民主党政権が発足した。以来3年3カ月、捲土重来を期した自民党は、2012年12月に、民主党から政権を奪還し、首相に安倍晋三が再び就任し、第二次安倍内閣が発足することになる。
   
こうして中断されていた「安保法制懇」は、13年2月8日に約4年7カ月ぶりに再開され、前述した国際情勢の変化を念頭に置き、安倍首相は安全保障の法的基盤について、再度検討するように指示することになったのである。
   
その際に08年の報告書の「4つの類型」に限ることなく、あらたな環境の下で我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために採るべき具体的行動、あるべき憲法解釈の背景となる考え方、あるべき憲法解釈の内容、国内法制の在り方についても検討を行うことになった。
   
そこで再開された「安保法制懇」では、集団的自衛権行使容認に向けた憲法解釈や法制度の整理の必要性を明らかにするための具体例として次の6つの事例をあげている。

  1. 我が国の近隣で有事が発生した際の船舶の検査、米艦等への攻撃排除等、
  2. 米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援、
  3. 我が国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域(海峡)における機雷の除去、
  4. イラクのクウェート侵攻のような国際秩序の維持に重大な影響を及ぼす武力攻撃が発生した際の国連の決定に基づく活動への参加、
  5. 我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず徘徊を継続する場合の対応、
  6. 海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し、武装集団が不法行為を行う場合の対応、

などである。
   
その結論は、どの事例に対しても従来の憲法解釈を見直し、集団的自衛権行使と海外での武力行使を容認すべきとしている。
   
その根拠として挙げられていることは、1.の事例では、「このような事案が放置されれば、紛争が拡大し、やがては我が国自身に火の粉が降りかかり、我が国の安全に影響を与え、かつ国民の生命・財産が直接脅かされる」。2.の事例では、「米国が攻撃を受けているのに、必要な場合にも我が国が十分に対応できないことでは、米国の同盟国、日本に対する信頼が失われ、日米同盟に甚大な影響が及ぶおそれがある。日米同盟が揺らげば我が国の存立事態に影響をあたえることになる」。3.の事例では、「我が国の原油供給の大部分が止まる。これが放置されれば我が国の経済及び国民生活に死活的な影響があり、我が国の存立に影響を与える」。4.の事例では、「例えばテロが蔓延し、我が国を含む国際社会全体へ無差別な攻撃が行われるおそれがあり、我が国の安全・国民の生命・財産に甚大な被害を与えることになる」。事例5.および6.でも「武力攻撃に至らない侵害を含む各種の時代に応じた対応を可能とすべく、どのような実力の行使が可能か、国際法の基準に照らして、検討する必要がある」とされている。
   
これらは安倍首相が2014年5月28日、29日、さらに7月14日、15日の衆・参国会で野党の質問に答弁したことと見事に合致していることがわかる。「国の安全、国民の生命・財産を守る」という理由づけをすれば、どんな事例でも歯止めなき集団的自衛権行使が可能になるというものである。
   
   

■ 与党協議に示された自民党の「新3要件」

そこで自民党が提案した「新3要件」の検討の前に、歴代内閣が自衛権の発動として武力行使を認めてきた措置を歴史的に振り返ってみる。従来からの自衛権発動の「3要件」は、吉田茂内閣が1954年、自衛隊発足に向けて法案審議の中で示した見解である。ここでは、「国家・国民を守るために必要最小限の自衛力の保持は主権国家の固有の権利である」という解釈を打ち出した。当時の「3要件」は、

  1. 我が国に対する急迫不正の侵害があること、
  2. これ(侵害)を排除するために他の適当な手段がないこと、
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまる

──の3点である。
   
その後、1972年の田中角栄内閣、そして81年の鈴木善幸内閣が出した結論部分では、前述した「3要件」に言及し、集団的自衛権の行使は、これらの要件を逸脱しており、「憲法上許されない」とした。すなわち必要最小限度の自衛権の中に個別的自衛権は入るが、集団的自衛権は入らないという解釈を打ち出した。以降、この解釈は歴代内閣でいささかの変更もなく踏襲されてきたように、「3要件」は今日まで33年間、歴代内閣の統一見解となってきたものである。
   
さて、報告書を踏まえて、議論は与党協議の場に移ることになる。ここでは公明党が求め、外務官僚の小細工で政府が示した15の事例(そのうち集団的自衛権行使容認が必要とされるものは8事例)が議論されてきた。与党協議の議論を進めていく過程で、自民党はハードルを下げることはなく、強硬姿勢を崩さず基本的なことでは一歩も譲ることはなかった。
   
与党協議が終盤を迎えた6月20日、自民党は侵略した国を国連決議に基づいて制裁する集団的安全保障の際、具体的には戦争中の中東ペルシャ湾のホルムズ海峡にまかれた機雷を爆破処理する事例を念頭に、集団安全保障で武力行使できる案を突然提案した。従来は、戦争中の機雷除去は国際法上、武力行使にあたるとして、日本政府は認めてこなかったものである。だが自民党は政府とも摺り合わせして、機雷除去を空爆などの戦闘行為と区別し、戦争中であっても「受動的かつ限定的」な武力行使として認める憲法解釈を閣議決定の中に一緒に盛り込むように求めた。このことは、5月15日の安倍首相の記者会見で、集団安保での武力行使は本来、日本の自衛に直接結びつくとは言えず、「政府として採用できない」とはっきり否定していたことである。だが安倍首相はこうした意見が外務省内で再熱し、6月9日の国会答弁で、機雷除去は「受動的かつ限定的な行為」と主張するなど、集団安保での武力行使の容認に向け、軌道修正を図っていたのである。
   
これは与党協議で公明党の猛反発で提案からわずか3日で取り下げられた。公明党は集団的自衛権行使容認でなく、現にある個別的自衛権行使の解釈拡大で成立している関連法(自衛隊法、周辺事態法、船舶検査活動法、PKO協力法、テロ対策特別措置法など)とその一部改正、新法制定、警察権などで対応できると反論した。
   
だが最終的には公明党は自民党の圧力に屈して、集団的自衛権行使は、朝鮮半島有事の際に限定して容認する譲歩姿勢を示すことになるが、これにも自民党は難色を示した。そこで与党協議は、「憲法第九条の下において認められる『自衛の措置』」についての閣議決定の文言の摺り合わせに移っていくことになる。
   
与党協議で自民党高村政彦副総裁が示した武力行使を認める「新3要件」は、

  1. 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること、
  2. これを排除し、国民の権利を守る為に適当な手段がないこと、
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、つまり「新3要件」に該当する場合に限られる

と解すると、された。
   
公明党は、この「おそれ」という文言と「他国に対する」という2つの文言の修正を求めた。「おそれ」は、政府がそのように判断すれば「地球の裏側」での戦争に参戦し、武力行使を認めることになりかねないこと、「他国に対する」は、集団的自衛権行使が、無条件に広がることになりかねないというものであった。その結果、自民党は、「おそれ」を「明白な危険」に、「他国に対する」を「密接な関係にある他国」に変更した。これで与党協議は、大きな山場を越えたことになった。
   
そこでこれだけでは「新3要件」で何が決まったのか分かり難いと思われるので少し説明しておきたい。閣議決定の特徴は、これまでの憲法解釈を変え、あらたに「自衛の措置としての武力行使を認める」との概念を打ち出したことである。「自衛の措置としての武力行使」とは、前述した「新3要件」が満たされれば、憲法九条の下において認められ、それは個別的自衛権や集団的自衛権、集団安全保障といった区別をつけないと結論づけられている。ただこの文言は公明党に配慮して閣議決定の文書にはなく「自衛の措置」という表現でおりあいがつけられた。一方で閣議決定では、「憲法上許される武力の行使とは、国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合もある」と明記されている。
   
この文章の意味することは、国民には全く解らないが、安倍首相がこだわる「集団的自衛権」の文言をここに盛り込んだ上で、「場合もある」との表現で集団安全保障への参加も可能にしたものだとされている。これを裏付ける文書に政府の国家安全保障局が作成した想定問答集があるが、ここには武力行使の3要件を満たせば、「憲法上許容される」と記されている。
   
7月14日、15日に行われた衆・参予算委員会で開いた集中審議で、安倍首相は公明党が否定している中東のペルシャ湾・ホルムズ海峡での機雷除去や集団安保の武力行使を容認する可能性を示唆した。このように両党間では集団的自衛権を使うときに自衛隊が活動できる範囲や侵略した国を国連決議に基づいて制裁する集団安全保障をめぐる意見の違いは埋まっていない。
   
さらに重要なことは、武力行使の要件とされる「明白な危険」などの表現はあいまいで何をもって危険とするのか、その判断は時の政権に委ねられていることである。これでは自衛隊の海外での武力行使の範囲が広がり、歯止めはかからなくなる恐れがある。
   
   

■ 残されている議論すべき論点と今後の課題

「安保法制懇談」及び、与党協議で議論されてきた集団的自衛権行使を容認するために挙げた「6つの事例」は、技術面、安全保障面でどれも現実性に乏しく、また、これまでの憲法解釈でとられてきた安全保障政策との整合性など、具体的な事例をあげて検証した形跡はない。これらの事例のうち3.と4.を除いて、その他のものはすでに個別的自衛権行使の拡大解釈で法律化され、政府答弁で容認されてきたものである。それらが日本政府の立場だと知っておきながら、この事実を隠して集団的自衛権の必要性を強調するのは詐欺のようなものである。これらの事例は現実を知れば「うそ」とは解るが、安倍首相から自信を持って繰り返されれば、国民は信じてしまいかねない。
   
そこでこの際だから、ここで与党協議などで議論されてきた幾つかの事例にふれておきたい。1つは、安倍首相は、「朝鮮有事で日本人を救助した米艦艇を、自衛隊が防護しなくていいのか」と国民が反対しづらい事例をことあるごとに挙げて、国民合意を得ようとしていることである。
   
実は1994年の自衛隊法改正で自衛隊の航空機、艦船による救出は可能になっており、米軍に頼る必要はない。また、かつて日本政府は1993年、北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)脱退を表明した時に、朝鮮半島有事を想定した邦人救出について、米国に打診しているが、米国は「日本の民間人を米艦艇で輸送することはない」と断っているのである。
   
仮に邦人救出が必要とする事態になれば朝鮮半島有事の前に、政府の責任で危険の少ない民間(航空、船舶)の協力を得て行うことを検討しておけばよいことである。朝鮮半島有事で集団的自衛権行使をなにがなんでも容認するために、一度、断られた事実を隠して、米艦艇による邦人救出の事例を想定することは、現実を無視した空論である。
   
2つは、自衛隊の補給艦をインド洋などに送りこんで米艦艇に洋上補給した時に攻撃を受けた場合、政府は個別的自衛権を行使することは、合憲(2006年10月)としている。ここでも集団的自衛権は必要ない。戦争中の機雷除去は、国際法上は、武力行使とみなされており、政府はできないとしてきた。一方で日本の存立にかかわる事態になれば個別自衛権行使で対応できるという政府答弁もしている。だが自衛隊を戦争中の機雷除去や集団的自衛権行使、多国籍軍への後方支援の拡大などに参加させれば、自衛隊員の生命が奪われる可能性が高い。また、紛争当事国の国民の生命や生活に日本も責任を負わなければならなくなる。過去の戦争体験に立ち返り、本当にそれでいいのか、時間をかけて国民的議論をすべきである。
   
シーレンでの日本タンカーに対する海賊対策もしかりである。守るのが日本タンカーであれば、日本独自でやればいいし、集団的自衛権でなくてよい。守るのが他国のタンカーなら、これが「日本の安全への明白な危険」とはいえず、検討する必要はない。ことさように、具体的事例は議論すればする程、集団的自衛権行使が何故必要なのか、国民は「わけがわからなく」なるばかりである。とりわけ安倍首相の説明は、憲法九条の理念、法理に基づく、論理的展開ではなく、もっぱら「敵が攻めてきたらどうするか」、「国民の生命と財産を守らなくてよいのか」という情緒的、国民感情に訴えるだけで国民への説明責任を果たしているとは言えない。
   
それらと共に、今後、しっかり議論し、反論しなければならないことは、安倍首相が強調してやまない朝鮮半島有事、中国脅威論である。その際に北朝鮮から米国へのミサイル攻撃が例としてあげられ宣伝される。仮に北朝鮮が米国の艦艇に仮にミサイルを撃ち込んだとすれば、米国は世界最大の戦力を保持している武力を行使して北朝鮮を殲滅させてしまうほどの強大な核戦力をもち、陸、海、空にわたってその戦力はなお世界最強である。この米国との戦争をまともに考えている国はどこにもないはずである。
   
中国の軍事的脅威論もそうであるが、中国が領土・領海で対立する国に対して、正面戦争を発動することは大きな疑問である。仮にそうした事態になれば、ASEAN諸国からの反発は必至であり、発展するこの地域の経済は崩壊に直結しかねない。かつて、中国はベトナム、インド、旧ソ連との間で、国境紛争を起こしたことがあるが、そのどれも二国間協議で平和的に解決しているのである。
   
北朝鮮が国連の経済制裁を受けながらも核開発や、ミサイル発射を繰り返しているのは、毎年行われる米韓合同訓練に対抗して、「いつ、どこからでも在韓米軍基地を含む韓国のほぼ全域を奇襲攻撃できると、威嚇、牽制する」ことが狙いであろう。北朝鮮の最終的な目的は、「体制保障に向けた交渉に米国を引き出すこと」にあり、米国との直接対話で対等な関係を樹立することにあると思われる。
   
アジア・太平洋地域をめぐる経済的政治的主導権をめぐって中国とは対立する側面が強まっているが、米国は中国との軍事衝突などは考えてはいない。2006年に米国が呼びかけて始まった貿易を中心とする経済協議は、09年に中国が唱えた「米中戦略・経済対話」で外交・安全保障や経済の課題を取り上げるようになっている。
   
また、昨年には中国の習近平国家主席が提唱した「新型大国関係」の構築で合意し、「互いの戦略的意図」を正しく判断し、「戦略的な忍耐強さ」を維持して対立や摩擦を解消していく努力で一致した意義は大きい。その背景には、両国はグローバル経済の進展で、相互に深まる経済関係が戦争を回避することを条件づけていることがある。
   
   

■ 今後の中長期のあるべき運動

安倍首相は就任以来、1年8カ月になるが韓国、中国との首脳協議もできていないことは、異常なことである。それは安倍首相の靖国神社参拝問題、そして、従軍慰安婦問題に見られる河野談話の見直し発言など、彼の歴史認識問題が両国との関係悪化の原因である。尖閣諸島周辺では一触即発状況が続き、両国には不測の事態に備えた危機回避を話し合う関係機関は、尖閣諸島問題がこじれて以降、機能していない。韓国国会の外交統一委員会は、安倍政権による集団的自衛権行使容認の閣議決定を糾弾する決議を採択するなど関係は悪化するばかりである。
   
安倍首相はこの地域の平和と不安定さを解消したいというならば、両国との関係改善にみずから乗り出すべきで、そのためには自らの歴史観の脆弱さを反省し、歴史修正主義発言を撤回すべきである。
   
尖閣諸島周辺の緊張は、集団的自衛権とは直接には関係なく、当該二国間で解決する他にないのである。いずれにしても戦争状態になる前に、二国間の協議で知恵を出し合い、例えば「尖閣諸島不戦の誓い」(前丹羽宇一郎中国大使)など、多様な外交努力で信頼関係を回復し、事態を改善していくことが現実的で、敵視政策では事態を悪化させるだけである。オバマ大統領は尖閣諸島で衝突が起これば、安保条約が発動すると明言しているが、むしろ米国は中国とは外交努力で平和を維持すべきという考えも強調しているのである。
   
東南アジアにはASEANフォーラムやADMMなどが創設され、この地域の安全保障や領土問題など様々な問題を自由に議論する枠組みがある。これを参考に東北アジアにもこうした枠組みの創設に向けて、日本がリーダーシップを発揮すべきである。
   
安倍首相は、集団的自衛権行使があれば、北朝鮮、中国などに対する抑止力になると強調しているが、抑止力では平和は守れない。抑止力とは、「攻撃されたら倍返しするぞ」と脅すことである。そうすれば相手国は、これを越える軍事力増強で対抗する。それは核武装につながりかねない。
   
安倍首相が唱える「積極的平和主義」も、聞こえはいいが、これは「抑止力=軍事力」をもって、敵国を圧倒し「国益」を貫徹することに他ならない。要するに自国の防衛だけでなく、「国際協調主義」に基づいて、「集団的自衛権」を行使することが、すなわち軍事力の効用(外交への軍事の活用)を説いているのが、彼の平和主義、積極的平和主義である。
   
憲法解釈は変更されても、憲法第九条の理念はまだ生きている。閣議決定は、撤回させなければならないが、そのためには当面する通常国会に向けた国民的運動を強化していくことである。同時に中長期的には集団的自衛権を行使させない闘いを強化し、安倍政権を打倒した後の政権で、元に戻す可能性を展望することである。
   
そういう意味でこれからの闘いが正念場であり、10月26日には原発再稼働を争点に戦われる福島知事選挙、11月16日には普天間飛行場移設の是非を問う沖縄県知事選挙が行われる。その先には来年の統一自治体選挙がある。この戦いと改憲阻止の闘いを結合させ、「戦争をさせない1000人委員会」運動をはじめ草の根の運動を広げ強化しなければならない。
   
野党共闘は簡単には進んでいないが、集団的自衛権行使容認では社民党、共産党、生活の党は反対している。民主党は「不要」、結いの党は「慎重」である。連合も「立憲主義に反し、解釈変更は認められない」という態度である。 こうした一致点に立った野党共闘、労働運動での大衆的取り組み、広がりを作り出していかなければならない。
   
   

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