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●2014年1月号
■ 現代社会とマルクス主義
   小島恒久

   
   

■ 資本主義社会の解明

読み初めは『共産党宣言』と老いてなほ
      初心持されし兵衛先生

これはかつて社会主義協会代表であった大内兵衛先生を詠んだ私の拙歌です。大内兵衛先生ならずとも、新年の初めに協会の原点であるマルクスの古典を読んで、決意を新たにするというのは望ましい慣習でしょう。
   
この『共産党宣言』は、1848年にマルクスとエンゲルスが書いた本です。2人が当時所属していた共産主義者同盟の綱領として書いたものですが、その中に2人がその頃到達していた新しい世界観、つまり唯物史観をはじめて宣言した歴史的古典として今日まで読みつがれています。この唯物史観によると、社会発展の原動力をなすものは経済です。だから社会発展のしくみを本当に明らかにするためには、その原動力である経済を解明しなければなりません。だからその後マルクスはいよいよ本腰を入れて経済の研究に打ちこみ、その集大成として書いたのが『資本論』でした。
   
この『資本論』は、マルクス自らのべているように資本主義社会の運動法則を明らかにしたものです。もちろん、マルクスがこの『資本論』を書いたのは100年以上前です。だから、その間に大きく変わった資本主義の現状をそれだけで解明できるわけではありません。だが、「資本主義とは何か」を根源的に問い、その本質を体系的に明らかにしたという点で、われわれはこの『資本論』を超えるものをまだもちえていません。だから、資本主義の混迷が深まるたびに、この原点に立ちかえって今日の問題を考察し、そのたどる方途を探求してみようという動きがおこります。
   
資本主義社会とは、読んで字のように資本によって生産が行われる社会ですが、その軸心をなすのは、資本と労働との関係です。この資本と労働との関係を分析し、はじめて科学的に解明したのが、剰余価値の理論でした。その理論を樹立するにあたって、そのカギをなしたのは、マルクスが労働力と労働の違いを識別したことでした。これを識別することによって、労働力の価値(賃金)と、その労働の作り出す価値とが違うこと、そしてその差額、すなわち不払部分が剰余価値として資本家のふところに入り、そのもうけ(利潤)となることを明らかにしました。この剰余価値は労働者から搾取したものですから、この剰余価値の理論を別名搾取の理論と言います。この剰余価値の理論によって、これまで誰も明らかにすることが出来なかった資本のもうけの源泉がはじめて科学的に明らかになりました。とともに労資間の階級対立の大本が明らかになりました。
   
この剰余価値の理論に到達した後、マルクスはさらに現実の社会に対応してその理論を発展させていきます。たとえば、資本はその儲けをできるだけ増やそうとして、その源泉である剰余価値の増大をはかっていきますが、この労働者から取り上げた剰余価値をもとにして生産を拡大し、資本を大きくしていきます。これを資本の蓄積と言います。この資本の蓄積はしかし、労働者の労働と生活を良くはせず、逆に労働者に新たなしわ寄せを生み、労働者を苦しめます。たとえば、失業を生みだします。そのからくりを『資本論』は、資本の有機的組成の高度化傾向にもとづきながら解明し、資本主義における失業の不可避性を明らかにします。資本主義のしくみそのものがこうしたとんでもない現象を生むのですから、これを資本主義的蓄積の一般的法則と言います。
   
こうして資本の蓄積は、資本家の側に富と力を蓄積し、他方、労働者の側に貧困と失業者を累積していきます。ここからいわゆる「窮乏化」という問題も生まれます。この「窮乏化」について、マルクスは『資本論』の「資本主義的蓄積の一般的法則」の章の中で「一方における資本の蓄積は、他方の労働者階級の側における「窮乏、抑圧、隷従、堕落、搾取の度の増大」を生むことを指摘しています。こうした「窮乏化」に対して労働者は当然抵抗し、たたかいます。この労働者の抵抗、闘争がなければ、窮乏化はもっと露骨な形で労働者を襲ってくるでしょう。
   
   

■ 資本主義の矛盾は深まる

さらに資本主義的蓄積の生みだす矛盾として注目すべきものに恐慌があります。恐慌は資本主義だけがもっている業病であり、封建社会の飢饉のように物不足によってではなく、物が出来すぎて、――つまり過剰生産の結果――困窮するものが生まれるという奇病です。こうした恐慌が、資本主義社会では産業革命期の1825年をはじめとして、ほぼ10年に1回の周期をもってくり返し起こりました。が、その中でもとくに巨大な規模と深さをもって生起したのが、1929年の世界恐慌でした。このように1929年の世界恐慌が大規模化したのは、その前の「繁栄期」がバブル的に過熱し、生産と消費のギャップが拡大して、資本主義的再生産過程の諸矛盾がかつてなく大きくなっていたからでした。
   
この深刻な世界恐慌に対処して、資本主義諸国では国家が全面的に経済過程に介入して危機の打開をはかる、いわゆる国家独占資本主義へと移行しだしました。そうした時期の代表的な経済理論として登場したのがケインズ理論でした。この世界恐慌を機にあらわれた介入政策は、第二次大戦後にも引きつがれ、さらに整備されて、戦後の復興を支えるとともに、その後の経済成長を促進してきました。
   
だが、この戦後の成長を支えてきた枠ぐみが1970年代になると崩れだしました。すなわち、71年のドル・ショック、73年のオイルショックと相次ぐショックをうけて、資本主義経済はスタグフレーション(不況とインフレの同時進行)におちいり、従来のケインズ流の景気刺激策では、この構造的矛盾の打開がなかなかできませんでした。
   
こうした事態に対処して、1980年代に新たに登場したのが新自由主義でした。アメリカのレーガン大統領のとった「レーガノミクス」や、イギリスのサッチャー首相がとった「サッチャーイズム」はその代表的なものでした。中曽根が推進した「行政改革」はその日本版ともいうべきものでした。この新自由主義では、「小さな政府」を旗印として、市場原理主義を基調とする政策が推進されました。さらに1990年前後、ソ連・東欧の社会主義が崩れるとともに、従来、社会主義を意識してとられていた社会的宥和政策、福祉政策をかなぐりすてて、世界経済のグローバル化の中で、よりむき出しの市場原理主義的な政策が強行されました。アメリカのブッシュ大統領や日本の小泉首相がとった新自由主義政策がそれでした。
   
この新自由主義政策は元来、サプライサイド(供給側重視)の経済学を土台とするもので、市場原理を強調し、資本の自由競争による生産力の増強に力を入れました。そして規制緩和が推進され、その弱肉強食の冷酷な競争下に、各種の格差が進展しました。また労働面でも規制緩和が強行され、労働者の権利を剥奪して、労働者の搾取を強化し、人件費の削減がはかられました。さらに「小さな政府」を標榜して自助努力を強調し、社会保障費を抑制しました。こうした新自由主義政策のもとでは消費は伸びず、伸びる生産力と消費のギャップが極めて大きく拡大し、過剰生産、過剰資本が蓄積して、最近の新たな経済危機を招く原因となりました。
   
この新自由主義下に胚胎した経済危機をさらに増幅したのが信用制度であり、「金融工学」を駆使した金融の暴走でした。そしてこれが金融市場に投機的な価格の高騰を生み、金融バブルを引き起こしました。だがこの金融バブルも、住宅バブルの破綻(サブプライムローン問題)につづいて、2008年9月には崩壊しました。この崩壊の端緒をなしたのが投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻であり、このリーマン・ショックにつづいて大手投資銀行が次々に破綻しました。こうしてまずアメリカで起こった金融危機は、経済がグローバル化している今日の状況下では、ただちにヨーロッパその他の世界に伝播しました。また、この金融危機にともなう信用収縮は、実体経済にも深刻な打撃をあたえ、消費や輸出を大きく減らして、世界同時不況が進展することになりました。こうして1929年の世界恐慌以来の深刻な経済危機、100年に1度といわれる経済危機に当面することになったのです。
   
だが、今度の危機の場合は、1929年の世界恐慌とちがって、直ちに崩落、ガラが起こり、企業の破綻や銀行のとりつけ騒ぎが続出して社会がパニック状態におちいるといった現象が比較的見られませんでした。これは先の世界恐慌の経験をへて、そうした混乱を防止する措置(たとえば預金の支払い保証制度など)があらかじめ講じられており、また危機に対する対応もきわめて迅速に行われたからでした。たとえば金融危機に対処するために、一国だけでなく各国の中央銀行が協調して金利の引き下げ、金融緩和策を直ちにとりました。また財政面からも巨額の公的資金を投入して危機の緩和がはかられました。
   
こうした種々の対策をとることによって、恐慌が劇的に爆発し、パニック状態におちいることを緩和し、崩落をゆるやかな曲線にすることになりました。だが、これは危機の大本を除去するものではないので、危機がそれだけ長びき、しかもこの対応策がまた新たな矛盾をひきおこすことになりました。その端的な現われが欧州の財政・金融危機でした。すなわち、リーマン・ショック後の危機打開のために行われた財政・金融面からのテコ入れが、財政基盤の脆弱な国の財政を悪化させ、債務不履行におちいる危険性をひきおこしました。この債務不履行問題は、2010年以降ギリシャをはじめとして、イタリア、スペイン、ポルトガルなどで発生し、さらに2012年以降は、フランス、オランダなどにも飛び火して、欧州経済をゆるがせ、その危機打開の目途はまだついていません。
   
この債務不履行問題は欧州だけでなく、アメリカ、日本も例外ではありません。現に日本の債務残高は、先進国の中でも突出した高さです。
   
   

■ 独占資本の意向に忠実なアベノミクス

こうした情勢の中で登場した安倍政権は、デフレからの脱却をめざしてその経済政策、アベノミクスを打ち出しました。これは、

  1. 大胆な金融緩和、
  2. 機動的な財政出動、
  3. 成長戦略、

という三本の矢で経済の再生をはかるというものでした。
   
まず(1)の金融政策については、これまでも日銀は長期にわたり金融緩和を行ってきましたが、なお不十分だとして、2%の物価上昇目標(インフレターゲット)を日銀に義務づけ、それを達成するまで「異次元」の金融緩和を行い、デフレからの脱却、景気の上昇をはかろうというものです。だが、いかに日銀から金を注ぎこんでも、目下のように過剰生産、過剰資本が解消されない状況下では、これは実体経済に投資されず、これで景気が浮揚するとは直ちにはいえません。むしろそのだぶついた資金は投機にまわって、バブルを引き起こす可能性をもっています。また物価高によって国民の生活を苦しめる危険性をもっています。
   
第二の機動的な財政出動は、かつての自民党政権の公共事業を中心とするバラまき政策の復活であり、「人からコンクリートへ」の逆行です。その他方、生活保護費を削減し、地方交付税を減らして地方公務員の賃金を引き下げる。つまり、地方や弱者にしわ寄せしながら、財界にカンフル剤を投与しようとするものです。この政策は国の財政赤字を増やし、さらなる増税をまねきかねません。
   
第三の矢である成長戦略は、一方で民間投資を喚起し、民間活力を活用するため、各種の企業減税措置を行います。他方、小泉新自由主義的構造改革を上回るような規制緩和を各方面で推進します。なかでも安倍政権が力を入れているのが労働分野の解雇や労働時間などの規制緩和であり、これによって資本の使い勝手のいい労働力を作り出そうというものです。その意味では、これまでにもまして独占資本の利益にきわめて忠実な成長戦略であるといわねばなりません。
   
このサプライサイドの新自由主義政策では、これで生産力が上昇し企業の業績が良くなれば、雇用が増え、賃金が上昇し、消費が拡大するといういわゆるトリクルダウン効果が、さかんに喧伝されましたが、実際にはそうした効果をもたらさず、これまで雇用も賃金も良くならず、労働条件はむしろ悪化してきました。こんどのアベノミクスでも、企業とくに独占資本は潤っても、労働者の状態は悪化し、中小企業や農民の生活は苦しく、国民生活のさらなる破壊がすすむと思われます。
   
   

■ 労働者運動の階級的強化を

以上に見たように今日、ひとつの矛盾を打開するために打った手が、また新たな矛盾を惹起するという弁証法的な姿をとって、資本主義は矛盾を深めています。こうした資本主義的蓄積にともなう矛盾の深化は、発展する生産力にもはや資本主義的生産関係が適合し得なくなっていることを示しています。この矛盾を根本的に解決するためには、資本によって資本の利潤めあてに生産が行われる現在の資本主義的生産関係を、発展する社会的な生産力に合わせて変革する、つまり社会主義社会に変えることによってしか実現しません。ここにマルクスのいう社会主義の必然性があります。
   
この社会主義の実現という歴史的必然を担う主体として、マルクスは労働者階級をあげています。資本主義的生産を担い社会の富を作り出しながら、資本によって搾取され支配されている労働者階級が、この現実の中で鍛えられ、みずからの歴史的使命にめざめ、組織されて社会主義の実現を担っていくのです。この労働者階級の歴史的使命は今も変わりはありません。
   
だが、現在の日本の労働者階級の多くが、そうした社会主義的意識を持つにいたっているとは残念ながら言えません。ソ連・東欧の社会主義崩壊以降、社会主義について触れることをタブー視するような風潮がなおありますし、マスコミもまたそうした風潮をあおっています。また独占資本をはじめとする企業の巧みな労務管理によって、労働運動を労資協調化し、あるいは分断する動きも強まり、労働者の団結や階級闘争がさまたげられています。
   
だが、資本主義の矛盾が深まり、資本の合理化政策がいよいよ激化して、労働者の労働や生活が苦しくなっている現実の中で、不満が鬱積しているのも事実です。また独占資本中心の新自由主義政策によって、中小企業や農民にも大きなしわ寄せが来ています。新自由主義はまた医療、年金など社会保障の改悪をおしすすめ、広範な国民の健康や老後をきわめて不安定なものにしています。さらに当面する原発問題についても、脱原発という大多数の民意に反して、電力資本をはじめとする財界の意向が原動力となって、原発を再稼働させ、存続させる政策が推進されています。このように独占資本の支配する今日の社会の政策が、労働者をはじめとする広範な国民の生活を劣悪化させ、不安定なものにしていますし、また真の意味の民主主義を阻害し、平和をおびやかしています。
   
こうした今日の独占資本の支配は、労働者だけでなく、広範な国民大衆の利害と対立しています。その意味では、この独占の支配にたいして、労働者をはじめ広範な国民が反独占ということで連携する条件が十分にあるということができます。だから、そうした反独占の運動を職場や地域からまず起こし、それを労働組合や政党の階級的強化とあいまって拡充し、強固な反独占、生活向上、民主主義拡充、平和擁護の統一戦線に発展させていくのが、われわれが目指すべき目標ということができます。そしてそこで形成された民主主義的多数派をさらに社会主義的多数派に発展させていくのが運動の次なる課題になります。
   
こうした広範な統一戦線を形成する場合に、そこで中心的役割を果たすのは、労働者運動であることをわれわれは忘れてなりません。労働者運動の階級的強化なくしては、強固な統一戦線の発展はありえません。私たちはマルクスが、歴史の歯車を前に押しすすめる主体として、労働者階級をあげた意義を反芻して、労働者運動の階級的強化につとめていかねばなりません。
   
   

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