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●2012年12月号
■ 非正規労働者の現状と改革の政治課題
   全国ユニオン 鴨 桃代
 

7月11日、中長期的な日本の国家ビジョンを検討していた「国家戦略会議フロンティア分科会」は2050年に日本が繁栄している姿を描いたうえで、2025年までに政府が何をすべきかを同戦略会議に報告しました。その報告書は、国民生活を維持させる経済成長を続けるために、政府が「雇用契約の原則有期化」「40歳定年制」など柔軟な雇用・解雇ルールを整備し、雇用の流動化を促すよう強く求め、こうした雇用の流動化を徹底することで、経済成長とともに「全ての世代に働く場所が提供され、豊かさを実感できる社会」が実現できると力説しています。1995年に日経連が「新時代の日本的経営」と称する「総パート化」を提起し、非正規化を軸とする雇用劣化が急速に進行しました。私ども全国ユニオンは、この10年間、新自由主義に対峙し、均等待遇の実現、合理的理由なき有期雇用の禁止を求め、社会的労働運動に邁進してきました。しかし、今また新自由主義が台頭し始め、昨年3.11以降、雇用は劣化の一途をたどっています。
 

■ 「うちの会社にはあわない」と雇止め

大手流通業の鮮魚部門のパートで働いてきたAさん(女性)は、会社から「同僚に対する批判的言動や暴言、感情的言動が多々見られ、上司の改善指導に対する反省がない等、勤務態度が不良であり、業務遂行能力(職場におけるコミュニケーション能力)が不十分である」との理由で雇い止めを通告されました。その具体的事実として、会社は

  • まな板や包丁等の備品(皆が使う物)が移動していると、「○○」がないと怒鳴り散らす、
  • 社員が流し台を2台使用していたところ「2台も使うなんてありえない」と激怒した、
  • 社員が行った詰め物に、「本当に遅い。私は3カ月でこれだけできたのに」と怒鳴った等

などを挙げてきました。交渉で、ユニオンは「これらの事実があったとしても、労働契約法一六条(解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする)でいうところの解雇理由として認められない」と主張。会社は「事実が解雇理由となるかどうかでなく、それらの事実に対するAさんの態度、言い方が問題。協調性がない人は辞めていただくしかない」と主張。Aさんは、「正社員が会社のルールどおりにやっていない行為に対し、会社が守りなさいと決めたルールを守って下さい、そうでないと仕事に支障が生じると言っただけで怒鳴ってはいない」と述べる。
 
ヨーカドーがパートの90%活用を宣言しましたが、サービス業では50%を超えるパートが、低賃金で雇用不安定な労働条件で職場を支えています。上記事例の背景には、雇用形態の違いでつくられた格差に対する不公平感があります。Aさんの時給は850円で、正社員に3カ月間で仕事を覚えなさいと教育され、その通りにやらないと「だからパートは」と叱られてきました。そのパートを指導する立場にある正社員がルールを守らない、そのことで自分の仕事のノルマがこなせなくなる。しっかり仕事したい、仕事について雇用形態は関係ないというパートが増えています。しかし、人件費コスト・雇用調整可能のみに活用のメリットをおいてパートを増やし続けた会社は、パートの“仕事へのやる気”に対し消極的です。今まで通り黙って言われたことだけをやるパートをという姿勢が抜け切っていません。結果的にこのような問題が表出しています。
 
私たちは、格差は仕事をする上での不公平感を生じさせ、働く人の仕事に対する意欲を阻害し、職場の人間関係及び生産性にも影響すると警鐘をならしてきました。だからこそ、均等待遇を実現することに取り組んできました。
 
来春4月1日に施行される改正労働契約法には「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」(第二〇条)を条文化。有期契約労働者は年収200万円以下が全体で74%に及んでいます。労働条件で不合理な差別があっても闘う手段がなかった有期契約労働者に、

  1. 業務の内容、
  2. 責任の程度、
  3. 職務内容、
  4. 配置の変更の範囲、
  5. その他の事情

を考慮して、正社員との間に不合理な違いがあってはならないとする第二〇条は格差・差別をなくすための武器になります。パート労働法も見直しの審議に入っています。
 
また、今年10月1日に施行された派遣法には、派遣先労働者との均衡配慮義務と派遣先の情報提供努力義務が新設されました。これまで派遣労働者の賃金は、景気と市場に左右される契約料金の上下動につれて変動し、長期的に低落傾向を続けてきたので、改正派遣法がこうした状況を変えることができるかどうかは、残念ながら否定的です。
 
そうであっても均等待遇の実現に向けた一歩が踏み出されました。非正規労働者であることを理由とした一切の差別を禁止とする、実効性ある法制化をさらに求めます。
 

■ 改正派遣法の柱である日雇派遣原則禁止の実態

10月1日に改正派遣法が施行されました。その大きな柱は日雇い派遣(日々または30日以下の有期雇用派遣)の原則禁止ですが、現状に大きな変化は見られません。大手日雇派遣会社であるフルキャストは「今日から短期派遣を廃止し、代わりに長期派遣か日々紹介のみを行います」と発表。現場は、日々紹介という職業安定法で定められている有料職業紹介に移行が始まっています。つまり、日雇派遣会社が紹介会社となって、日々、紹介先企業に紹介し、紹介先企業が雇用主となるやり方です。このやり方については、「日雇い派遣で働きたい」という労働者のニーズがあるからと、厚生労働省が「日雇い派遣が禁止されるから、これからは日々紹介でやってください」と言わんばかりの「日雇派遣会社から日々紹介への移行について」と題するパンフレットを出しました。本来、究極の不安定雇用である日雇派遣を残しておくことはよくないし、不安定雇用をなくしていくのが日雇派遣禁止の趣旨であるはずなのに、もっと不安定になる方向に誘導されています。
 
日雇派遣の場合、多めに手配されているので、今までも当日行った仕事現場で「今日は仕事ないよ」と帰されてしまうことがありました。その場合は日雇派遣会社に休業手当の支払い義務があり、一定の賃金補償が成立していました。しかし、日々紹介の場合は、前日に仕事が紹介された時点では、あくまで仕事の紹介ということなので雇用契約は成立していません。翌日、仕事をする現場に行ったときに、初めて雇用契約が成立するので、仕事がないときは何の保障もないという事態が生じています。
 
全国ユニオン傘下の派遣ユニオンの仲間が、10月1日以降、日雇い派遣会社に登録し、働いた体験では、「倉庫内の肉体労働で時給800円。8時間労働で1日6400円。往復の交通費が900円かかったので実質収入は5500円。1日だけの就労なのに、労働条件通知のメールには雇用期間11月8日から12月10日と明記されていた」とのこと。つまり、30日以内の労働契約の派遣が禁止されたため、労働契約期間だけを31日以上とし、法に抵触しない形がとられています。ちなみに、日雇派遣原則禁止の例外規定として設けられた

  • 年収500万円以上、
  • 主たる生計維持者でない者、

のどちらにも該当しない者を1日だけの日雇い派遣の対象としたのは、明らかに改正派遣法違反です。残念ながら、改正派遣法は全然守られていないのが実態です。
 
また、別の会社では「今後、当社は5週間の雇用契約を結びます」と発表。しかし、顧客からの発注を前日まで受け入れるという態勢でやってきた日雇派遣会社が、始業・終業時刻を毎日きちんと5週間決めることは不可能です。5週間結ぶと言う会社のやり方は、「あなたの好きなときに働けます」という「フリーシフト」の導入です。労働契約を結ぶとき、労働者に対して始業・終業時間、休日などを具体的に明示しなければならないとなっている労働基準法一五条に違反する働き方ですが、拡がっています。
 

■ 偽装請負・多重派遣が福島原発事故現場で横行

Hさん(40代男性)は、東京電力(株)→(株)東京エネシス→(株)エイブル→(株)テイクワン→鈴志工業(株)→TSC→RH工業、という重層下請けのなかで、法人格もないRH工業に雇用されていました。福島原発現場では、東京エネシスとエイブルの管理下におかれ、指揮命令をされて働くという、まさに偽装請負、多重派遣でした。
 
エイブル担当者から放射線量の高い所での作業と、東京エネシスから「現場では9ミリシーベルトを閾値にする」との説明を受け、Hさんは、「それは高すぎるんじゃないですか」と言ったところ即座に解雇されました。団体交渉でRH工業は「私たちは末端だから、現場でどんな作業が行われているか、わかりませんよ」と公然と主張。これが偽装請負、多重派遣等の実態です。
 

■ 急速に拡がる有期契約化

有期契約労働者は1200万人と言われています。交渉で対応する会社側の管理者・部長が1年契約の「有期」、社長とトップ2以外の従業員全員が有期契約である会社など、急速に有期契約化が拡がっています。
 
全国ユニオンは2010年9月末に平均勤続年数11.33年の国際オペレーターを解雇したKDDIとたたかい続けています。改正労働契約法では「無期雇用転換申し出権」が同じ事業所で更新を重ね5年間を超え働き続けた有期契約労働者に付与されることになりました。派遣ユニオン・KDDIエボルバユニオンの仲間たちは、切られないで、これからも5年間働き続ければ、無期転換を申し出ることができた人たちです。
 
JR東日本では今春、1年契約・5年上限で働いていたグリーンスタッフが200人が雇い止めされました。

  • 長期間存続する業務あるいは恒常的にある業務において、「次回の更新はしない」という不更新条項が入った契約に同意させ雇止めする、
  • 入社時に契約更新の上限回数(年)が入った契約を結ばせ、上限回数(年)が来たからと雇い止めする

などに対し、今回の法改正では効力が及びません。
 
仕事は恒常的なのにいつでも切れる状態に労働者をさらし、更新を重ねても雇い止めの不安から逃れることができない有期という働き方を例外的働き方とし、労働者の使い捨てをなくすために、何としても、今回の改正から削除された入口規制の実現が求められます。
 

■ ディーセントワークの実現を

非正規も正規も、人として生きる、人として働く尊厳を奪われています。格差、競争社会は残念ながら労働者同士の足のひっぱりあいを強めています。労働組合を既得権者として存在を否定する橋下・維新の会の手法は、残念ながら、まさに、生きること、働くことに希望を見出すことができない人々に支持されています。
 
この機にやるべきことは、人として生き・働くことができる、希望がもてる雇用の創出です。「直接雇用・無期雇用」を雇用の原則とする働き方の実現です。今こそあきらめずに、ディーセントワークを実現させましょう。
 

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