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●2012年11月号
■ 民主党政権3年の審判が下される解散・総選挙
   柏井一郎
 

■ 解体の危機を深める民主党

民主党は9月21日、代表選挙で4人が立候補して争ったが、野田佳彦首相が実質上、無風で再選を果たした。
 
野田首相は自らの再選をふまえて輿石東幹事長を続投させた。幹事長代行には安住淳前財務相、政調会長に細野豪志前環境相、国会対策委員長に山井和則前国会対策副委員長を配置した。この布陣は党内融和を優先させたもので、この間、衆院で離党者が続出し、単独過半数割れまであと5議席(10月10日現在)になっていることを踏まえたものと思われる。
 
野田首相は、10月1日に第三次内閣改造をおこない、18人の閣僚中10人の閣僚を入れ替えた。その特徴は田中真紀子元外相の文部科学相への起用をはじめ、他の閣僚でも党内融和に腐心した人事となっていることである。
 
党と政府の一体感を持たせるために、城島光力前国会対策委員長を財務相に、三井辨雄前政調会長代理を厚生労働相に、樽床伸二前幹事長代行を総務相に起用するなど、輿石幹事長への配慮が色濃く出たものとなった。
 
一方、野田首相に対抗して代表選を戦った赤松広隆元農水相、鹿野道彦前農水相、原口一博元総務相の3人が獲得した国会議員票は114票で、党所属の3分の1を越える得票であった。だが3陣営からの入閣はゼロで、ノーサイドを強調してきた野田首相に対する不満は根強い。
 
党内融和に向けて「副大臣、政務官の人事が非常に重要だ」(藤井裕久税制調査会長)と注文をつけたが、こうした処遇では穴埋めできないほど、党内の亀裂は深まっているとの指摘もある。民主党国会議員には、いまだに離党予備軍が、20人近くはいると予測されており、党解体の危機は強まっているのが現状である。
 
朝日新聞の野田第三次改造内閣の発足を受けた全国世論調査(10月1〜2日)では、野田首相と自民党の安倍新総裁のどちらが首相にふさわしいかとの問いでは、安倍新総裁が39%で、野田首相の34%を上回っている。
 
衆院比例区の投票先でも、自民党が30%(9月調査23%)に伸び、民主党の17%(同15%)を引き離している。改造した野田内閣の支持率は23%(同25%)でほぼ横ばい。不支持は56%(同53%)と、今年の夏以降から下がり続けている。
 
民主党は報道機関の次期衆院選議席獲得の事前予測では、大幅に議席を失うとされており、このままでは今回が最後の組閣となるおそれがある。ちなみに「日本維新の会」は、比例区投票先では4%(9月8〜9日調査では5%)、次の衆院選で影響力のある議席を「取ってほしい」は47%で、「そうは思わない」は43%と接近している。選挙目当てに参加にした国会議員と橋下代表との不協和音が反映してか、各種調査では支持率が下落し、かっての勢いはなくなっている。
 

■ 自民党総裁選で、5人の候補者は憲法改正で一致

自民党は9月26日の総裁選挙で、5人の争いとなったが、1回目の投票では石破茂前政調会長が圧勝したが、どちらも過半数に達せず、安倍晋三元首相との決戦投票の末に、国会議員数で多数を占めた安倍元首相が逆転勝利し、新総裁に選出された。
 
それにしても自民党総裁選挙を争った候補者5人全員が、異口同音に集団的自衛権の行使と憲法改正を唱えた。国民生活は完全に無視され、右翼的政策を主張する姿勢に多くの国民は違和感を覚えたと思われる。
 
しかも安倍新総裁は、5年前の2007年9月に自らが作り出した政治の迷走で、臨時国会で所信表明演説をした2日後に辞意表明し、政権を投げ出した張本人である。
 
安倍新総裁は、「戦後レジュームからの脱却」、「憲法改正」を叫び、防衛庁を防衛省に格上げし、さらに教育基本法改悪を実行するなど超右翼的政治家である。総裁選挙中の演説でも相変わらず勇ましい発言が続いた。首相時代に靖国参拝できなかったことを「痛恨の極み」といい、従軍慰安婦問題で「心からのおわびと反省」を表明した河野談話(1993年)に反対し、「新たな談話を出すべきだ」と見直す考えを表明した。
 
憲法も変え、九六条の改正手続きの発議要件である国会議員の3分の2を2分の1に緩和する、集団的自衛権の行使で、日米関係を強化することを次期衆院選挙で国民に問い、政権奪還後にこの法案の成立を目指すとしている。
 
総裁選結果を受けて、安倍新総裁は党役員人事で総裁選を戦った石破前政調会長を幹事長に起用した。総裁選挙で党員・党友による地方票獲得では圧勝した石破前政調会長を無視できず、「来るべき総選挙で大活躍していただきたい」と持ち上げた。これは総裁選で安倍元首相が自民党内の民意を無視して国会議員によって選出されたことに不満を持つ地方に配慮せざるをえなかった現れであろう。
 
だが両者の思惑は、幹事長代行、代理の人事でぶつかり合い、石破幹事長は代行をみずからの陣営から出そうとしたが、結局、代行は安倍側の菅元総務相、石波側近の鴨下元環境相が代理に落ち着き、バランスをとった。
 
石破幹事長は、安倍新総裁以上に右翼的で知られている政治家である。国防軍の設置、専守防衛の見直しで日米同盟強化、天皇の元首化など、憲法改正を声高に主張している。ナショナリズムにアクセルを踏み込む主張は、一部の保守層に根強い考え方である。この2人が仮に政府与党をリードすることを想像すると末恐ろしくなる。
 

■ 臨時国会に向けた与野党の攻防が激化する

2009年の衆院選挙で政権交代が実現し、民主党が政権に就いたことで、健全な二大政党制が根付くと期待された。だがこの3年間の政治は「何んだ、これは」と叫びたくなるほど政党政治の劣化は甚だしい有様である。
 
最大野党の自民党は、支持率は民主党よりも高いが、それでも20%強と低いままである。国民は民主党も自民党も支持していないのである。民主党を上回る自民党の支持率は、民主党政治の政局運営、党内意見調整の未熟さなど、民主党のオウンゴールに助けられている側面が大きい。
 
自民党は「社会保障と税の一体改革」では、国民が切実に願う社会保障改革を先送りにし、消費税増税だけを国民に押しつけた元凶である。自民党大会は向こう10年間で公共事業に200兆円規模の投資をめざす「国土強靱化基本法」を制定することを決定し、先の通常国会に提出したように、サプライサイド(供給側の競争力)を強化する新自由主義政策の全面展開を行おうとしている。
 
こうした状況の中で政局は、解散・総選挙の「近いうち」をめぐって激しい与野党の攻防が続いている。民主党国会議員の多くは一年生議員が多く、「近いうち」には反対しており、輿石幹事長は来年夏の衆参同時選挙が望ましいと考えていると言われている。だが、これは自民党、公明党、そして他の野党からの反発は強い。野田首相は、自民党、公明党の解散要求には応じずに通常国会をどうにか乗り切ったが、10月中には召集される臨時国会では今年度の赤字国債を認める特例公債法は成立させなければならない。衆議院の「一票の格差」を是正する衆議院選挙制度改革関連法案の成立も待ったなしで、自民党、公明党の協力が必要になる。また、「社会保障と税の一体改革」を議論する社会保障制度改革国民会議の設置を遅らせることはできない。
 
自民党の安倍新総裁は、これら法案に協力する条件として、解散時期の明確化、2012年度予算の減額補正(高校授業料無料化の見直し)、衆院選挙制度改革での「0増5減」の先行実施、「国民会議」は衆院選前の発足には否定的で、基本的には衆院選後でよい、との姿勢である。公明党も自民党の考え方に同調しており、三党間の話し合い歩み寄りは、簡単には進まない。
 
野田首相は、懸案処理を最優先すべきとして、衆院解散を先送りする姿勢であるが、この思惑が功を奏するとは限らない。自民党、公明党は、これに対抗するために、衆院での内閣不信任案の提出の構えを崩していないからである。
 

■ 政権樹立してから3年間の民主党政権の総括を

野田首相のこの1年間の政局運営で明らかになっていることは、「社会保障と税の一体改革」の三党合意にみられるように、「決める政治」を標榜しながら、その実は自民党、公明党に擦り寄る姿勢だけが目立っている。結果として、民主党は保守政党として深化している。民主党と自民党の政策の違いが不明確となり、これでは国民は民主党政権でなければならない理由はないと思うのは当然である。
 
日本経団連をはじめ財界からの民主党批判も辛辣さを増している。米倉経団連会長は、10月1日に発足した野田第三次改造内閣に対して、民主党政権は「レームダック(死に体)」との見方を示し、「2030年代の原発稼働率ゼロ」方針や尖閣問題を引き合いに日中関係悪化を打開できない野田政権と距離を置く姿勢を鮮明にしている。経済同友会の長谷川代表幹事も「TPP(環太平洋経済連携協定)への交渉ももはや先送りしている猶予はない」と早期参加を要求している。
 
このような財界の強い要求で、野田首相は9月に政府の「革新的エネルギー・環境戦略」がまとめた「2030年代の原発稼働率ゼロ」方針を閣議決定することを見送るなど、原発推進の余地を残した。さらに原発の再稼働や建設中の工事再開を認めるほか、使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル政策」も当面は続けるとしている。
 
政府は、原発再稼働を認めるかどうかの権限は、発足した原子力規制委員会にあるとしている。これに田中俊一原子力規制委員長は、その権限は委員会にはないと責任の擦り合いをしている。政府内では原発稼働率ゼロの目標明記を見送る選択肢も浮上するなど、民主党政権の無責任体質が改めて浮き彫りになっている。
 
こうした民主党の体質を一口でいうとすれば、要は国民的立場に立って、国民の安心と安全、豊かな生活、暮らしを実現していくためには、その前に立ちはだかる独占資本を規制することが必要であるが、こうした政治哲学、政治路線が確立していないということにつきる。さらに決定的なことは、財界の抵抗には国民多数の支持を背景に押さえ込んで実現していく姿勢がみられないことである。
 
その態度を明確にできないことが、サプライサイドを強化する新自由主義に組み込まれていくことになったのであり、民主党の3年間の政治は、基本的にその結果である。その不十分さが、「社会保障と税の一体改革」に内包する政策の全てに如実に現われていると考えるべきである。
 
この反省は民主党だけに求められるものではなく、こうした政治を許した社民党の力不足、そして、連合をはじめとする労働組合の責任でもある。
 

■ 衆院選挙の争点を明確にして国民の審判を

衆院選挙を戦う争点は本誌でも繰り返し論評されてきたので、ここではその骨格を箇条書き程度に留める。
 
第一には、消費増税反対を基本に、増税する前に法人税率の引き上げ、所得税の最高税率の引き上げ、資本所得、資産家優遇の税制である証券優遇税制の見直し、さらに大企業優遇の租税特別措置の見直し、ないしは撤廃することである。
 
福祉、社会保障の財源は、原則として「必要充足・応能負担」で、累進型の所得税を基本として、個人であれ、法人であれ、「応能負担」で増収を図っていくことである。
 
失業者、非正規雇用、生活保護など憲法に謳われている生存権保障に不可欠なものは、ナショナル・ミニマム保障(国民生活の最低限保障)とし、無条件に保障する。最低賃金の引き上げも当然に必要である。その上で年金、医療、介護など、個別の政策は現実の実態を踏まえて、将来を見通したあるべき姿を示し、その改革を議論すべきである。
 
第二に、雇用問題である。特に若者の失業率の高さは社会的問題であり、雇用創出(例えば公務員採用を増やす)、教育訓練、生活・住宅助成など、制度として充実していくことが課題である。それと共に、法律による規制措置が必要である。雇用保険の適用範囲の拡大、派遣法の抜本的改正、有期労働契約の抜本的改正、女性の社会進出と均等待遇処置、保育、子育ての社会的助成措置など、大幅に立ち後れている労働行政を抜本的に改革し、実現させることである。教育改革もさしせまった課題である。また、公務員労働者の労働基本権確立を早期に実現し、賃金をはじめ行政改革、地方分権など、労使協議のルールを確立し議論を尽くすようにすべきである。
 
第三に、憲法問題である。自民党は憲法改正を軸に、集団的自衛権行使による日米安保体制の強化、オスプレイの沖縄配備、そして尖閣諸島の国有化を掲げている。
 
尖閣、竹島、北方四島など、隣国との懸案問題が顕在化している中で、これが排外主義と結びつかないように、丁寧な議論が必要である。「領土、領海を国家として断固守る」と絶叫するだけでは解決しない。歴史問題も絡んでいるだけに、戦略的互恵関係の構築に向けて、経済・文化的交流を粘り強く積み上げながら、相互信頼関係をとりもどす知恵を出し合い、外交交渉で解決していくことである。
 
第四に、民主党、自民党の二大政党に対抗する第三極をどう形成するかである。
 
各政党が独自の政策を打ち出して戦うことは当然として、二大政党に代わる政党、勢力が反増税、脱原発、オスプレイ反対など、当面一致する重点政策で緩やかに連携することが必要である。自民党、公明党を除く野党八党の国対責任者は消費税増税に反対することを確認している。また、8月の通常国会で7つの小政党が野田首相の問責決議案をまとめ、参院で可決させた経験もある。第三極を形成するためには、社会民主主義を党是としている社民党の前進が不可欠である。選挙協力なども選択肢に入れて衆院選挙後の政界再編成などを展望して戦うことが必要である。
 
(10月19日記)
 

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