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●2012年10月号
■ 東日本大震災から1年半
  ――総選挙で問われるもの――
 
社会民主党宮城県連合 副幹事長  田山英次
 

東日本大震災から1年半が過ぎたが、今だ32万9777人(復興庁調べ9月6日現在)の方が自宅を離れ避難生活を余儀なくされている。住まいは生きるための最低の条件であるが、避難者の大半(31万3153人)が仮設住宅や民間の賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設」での生活を続けている。そのうち福島県の避難者は16万人、避難者全体の約半数を占める。県内で自主的に避難した人はこの数字に含まれていない。東京電力福島第一原発事故から1年半、原発は予断を許さない状況が続いており終わりが見えない。
 
復興庁が8月21日に震災関連死に関する報告書を発表しているが、各自治体の協力を得て復興庁が把握した震災関連死は1都9県で1632人(今年3月末現在)。
 

(図表1・クリックで拡大します)
 

(図表2・クリックで拡大します)
 
県別で見ると福島が761人と最も多い。そのうち岩手、宮城、福島の3県18市町村の1263人を対象に原因調査を行っている。
 
約9割は70歳以上の高齢者。死亡原因(複数選択)では「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が638人と半数を超え、福島県が433人。次に続くのが「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」で401人、うち福島県が380人を占めている。自殺は3県で13人。いかに東京電力福島第一原発事故が住民に苛酷な避難を強い、生命を奪ってきたのかが明らかにされている。
 
また、「東日本大震災の津波や福島第一原発事故で被害を受けた岩手、宮城、福島の3県42市町村で、要介護認定を受けている人が昨年5月末〜ことし3月末の10カ月に1万2140人(12.7%)増えた」(河北新報8月17日)と地元紙が取り上げているが、狭い仮設住宅での暮らしが長期化する中で健康悪化が指摘されている。1日も早い「生活再建(復旧・復興)」は、生命(いのち)の問題であることをかみしめたい。
 
先日、気仙沼市を訪れ震災の課題について話し合った時に、自宅を流され避難生活を送る仲間から「自分のことをいえば、狭くプライバシーも保てない住環境から1日も早く脱出したい」「一定の条件のある人は仮設から出て、自立再建していく。一方高齢者世帯の多くは住まいの見通しが立たない。精神的に萎えていく現状があり、とにかく災害公営住宅がいそがれる」としみじみと訴えられた。大震災から1年半、住まいの再建はどこまで進んだか。青森、岩手、宮城、福島の4県で約2万7600戸の災害公営住宅の整備が計画されているが9月1日現在で着工したのは1.6%しかない。一人ひとりの生活再建・住まいと雇用の再建・復旧復興はこれからであり、政治に問われている課題である。被災地宮城県の現状を踏まえながら衆議院総選挙で問われている課題について報告していきたい。
 

■衆議院総選挙の争点
  どんな社会をめざすのか

秋の臨時国会での解散が濃厚な政治情勢にあり、闘う体制作りをいそがなければならない。今回の総選挙では、3年間の民主党政権に審判が下されことになるが、「どんな社会を目指すのか、あるいは選択するのか」が問われる選挙でもある。大震災・原発震災は一人ひとりに「どんな社会を選択するのか」を突きつけている。
 
政策的には大震災・原発震災からの復興、消費税増税の是非と社会保障、原発再稼動の是非、脱原発・自然エネルギーへの転換、TPP参加の是非、オスプレイ配置と日米同盟などが大きな争点になる。社民党は2月に開催された第13回党大会で「衆議院総選挙重点政策2012」骨子案を確認した。骨子案は

  1. 「たしかな復興」、
  2. 「脱原発・自然エネルギー促進」、
  3. 「安易な消費増税反対」、
  4. 「TPP参加反対、農業再生」、
  5. 「豊かな地域・安心のくらし、いきいきとした地域の再生」、
  6. 「雇用の再生」
  7. 「社会保障の再生」
  8. 「憲法の理念でつくるアジア共生」

の8本の柱で構成。骨子案を土台に総選挙のマニフェスト作成作業が進められいる。
 
原発、消費税、TPP、オスプレイ配置が焦点となっている沖縄の基地問題、いずれの課題も「どんな社会をめざすのか」あるいは「どんな未来を子や孫たちに残すのか」の問題でもある。
 
脱原発についても原発震災がなにをもたらしているのか、から考える事が必要だ。
 
「小さい子どもが2人いますし、放射能汚染を考えるとこのまま住み続けるのか。ここ数カ月で10数年分の夫婦げんかをし、住宅ローンも残っていましたが、持ち家を売却しアパート住まいをはじめました」身近な福島の仲間の話です。
 
農畜産物への被害も深刻だ。JAなどでつくる損害賠償対策協議会分で東北6県の農畜産物の損害賠償請求額は1165億円(8月末現在)。先日、宮城県で開催された「放射能被害を語る宮城県民の集い(主催:食・緑・水を創る宮城県民会議)」での訴えを紹介したい。登米市でシイタケを栽培する農家は「福島、宮城の両県は原木の供給地であったが使用できない。山が元に戻るのに100年かかるといわれている。原木の入手が難しく、県内で約200人のシイタケ栽培農家の90%はやっていない。瀕死の状態。子どもが後を継いでくれるようになり設備投資したばかり。私は脱原発ではないが、こんなに苦しめられ、なくて済むなら原発はいらない」と語った。肉牛を育てる宮城県内の畜産農家は「良質のブランド牛(仙台牛)を30年かけてつくってきた。昨年7、8月に宮城県産牛肉が出荷停止。9月に解除されたがキロ2100円の相場が1500円に下落した。いまだに採算割れが続いており廃業を口にする仲間も。東電の損害賠償も誠意が感じられない。今年1月以降はまだ仮払いで請求の半分。支払を待ってもらったり、借金をしてしのいでいる。以前の生活を返していただきたいがささやかな願い」と訴えた。
 
放射能汚染による健康への不安と合わせ、生きる糧が奪われている。原発震災で奪われている命や暮らしをどう守るのか、私たちに何が出来るのかが、脱原発運動に問われている課題と同時に、私たちが訴える選挙の争点でもある。

■ 住まいの再建
  広がる自治体格差 求められる国の財源措置

前述したとおり、災害公営住宅の着工率は1.6%に留まっている。防災集団移転促進事業で国の同意を受けた地区は東北全体で162地区(9月1日現在)だ。
 
気仙沼市の現状を紹介し住まいの再建の現状を報告したい。気仙沼市で大きな住宅被害を受けたのが約8000世帯。そのうち1821世帯がすでに再建し、約7割以上の世帯が今も仮住まいの暮らしを続けている。仮設住宅には3114世帯が暮らし、2割は高齢者だけの世帯が占める。市が昨年末に行った意向調査では1204世帯が災害公営住宅を希望した。
 
大きな被害を受けた約8000世帯のなかで4000世帯以上が災害危険区域から外れている。災害危険区域とは地方自治体が津波や傾斜地の崩壊などで危険の著しい区域を指定し、建築などを制限する。防災集団移転やがけ地近接等危険住宅移転などの補助事業の前提となる。津波で全壊しても災害危険区域から外れた世帯は移転再建に国の支援が受けられないため、元の場所に再建するか、災害公営住宅に入るか決めかねている世帯も多く8月に行われた3回目の意向調査でも回収率は66%(9月11日現在)に留まっている。防災集団移転は住民主導型で40地区(803世帯)、市主導型で7地区で計画、検討されている。
 
これ以外に気仙沼市では南気仙沼地区と鹿折地区で被災市街地復興土地区画整理事業が年度内事業化にむけて作業がするめられている。3.5〜5.2mのかさ上げを行い7〜8割は住居ゾーンとなる。
 
前出したように災害危険区域から外れると国の支援が受けられないため、仙台市では津波浸水地域で危険区域から外れた地域を対象に集団移転と同等の利子補給と移転費用助成を行うなど各自治体が独自の助成を決めている。しかし津波被害が最も大きかった石巻市は独自助成はなく全額自己負担での再建となる。自治体間格差は県の独自支援でも差がある。
 
また、義援金でも格差があり被害が大きい石巻は被災世帯への義援金支給額は最も低い。同じ被害を受けながら住んでいる自治体で支援が違うのは問題だ。必要な支援で本来国が行うべきものであり、国に対し

  1. 平成23年度の復旧・復興予算のうち不要額となった約1兆1000億円については、復興特別会計に繰り入れ、主に被災地の生活再建支援策に充当すること。
  2. 被災住宅再建のため、自治体が独自支援を実施できるよう、復興基金の大幅な積み増しとそのための特別交付税の追加交付

を行うよう強く求めてきた。
 

■ 被災地を直撃する消費税増税

消費税増税は被災地を直撃することになる。とりわけ住宅再建が具体化される時に増税となる。被災地の復興に重大な支障を生じさせることから、最低でも被災地への特例措置を講ずることが必要である。
 
中小企業の再建も大きな課題である。沿岸部では水産加工業をはじめ大きな被害を受けている。消費税増税は中小企業へ再建の足かせとなる。事業者の中には消費税分を価格に転嫁できず、消費税の負担者となっている中小・零細企業や下請け業者が多いことはこれまでも指摘されてきたことであり、こうした立場からも反対をしていくことが必要である。
 
中小企業の再建支援策として国が創設したグループ補助金がある。被災施設や設備の復旧費の最大4分の3を国と県が補助する。7月に交付が決定した五次分の申請には、宮城県内企業集団から1441億円分の応募。うち、採択されているのはわずか315億円分。採択率は約2割。中小企業グループ化補助金制度の継続と拡充を行い被災中小企業の救済に差をつくらないことが必要だ。
 

■ 被災自治体の労働条件改善

住宅再建が進まない背景に

  1. 適地が見つからないこと
  2. 自治体職員の不足

が指摘されている。土地取得にしても地権者との交渉などを担当する職員は相当に必要になる。全国からも震災時から多くの職員が派遣されているが、7月下旬に陸前高田市に派遣された盛岡市の男性職員が「希望して被災地に行ったが、役に立たず申し訳ない」主旨の遺書を残し自殺した。衝撃の出来事であった。自治労が今年5月に被災自治体職員の「こころの健康」調査を行っているが、震災から1年以上が経過するが、現在も職員の4人に1人が震災対策業務に就いており、職員の4割が震災前よりも時間外労働が増えている。震災後の業務で、被災住民から、職員の2人に1人が理不尽なクレームを受けた経験があり、3人に1人が被災住民から暴言・暴力を受けた経験があるとしている。宮城県が7月に行った健康調査では県職員の1割が燃え尽き症候群の兆候を示している。いずれもメンタルヘルスケア等の対策の必要性が指摘されている。それも必要と思うが、働き方を変える取り組みが何よりも必要だ。
 

■ 震災がれき広域処理と放射能汚染

県外に行くと必ず質問されるのが「震災がれきの広域処理問題」なので最後に述べたい。
 
震災直後、津波被害の現場にいた人は、誰もが膨大ながれきをかたづけなければ復旧は始まらないと感じた。自治体単位では最大のがれき量となった石巻市では「使えるトラックのある方は役場に来てください」からがれき処理が始まっている。環境省が広域処理のガイドラインを出した昨年8月以降、特に今年になってから広域処理の問題が全国で取り上げられ問い合わせも多くなり、問題点を伝えてきた。
 
広域処理反対の方の最大の理由は「放射能物質を拡散させるな」につきるのでないだろうか。現地では「復旧のためにがれきをどう処理するか」から「放射性汚染への対応」を考え広域処理も必要との認識できたが、広域処理反対の方は「放射能物質を拡散させない」から「復旧・復興」を考えるので、なかなか意見が合わない。
 
溝を埋めるために、

  1. 放射能物質は程度の差はあれ全都道府県に降下したこと。
  2. 東京都の清掃工場で高濃度の放射性物質を含む焼却灰の発生判明が最初と記憶しているが環境省は7月〜8月に16都県の「一般廃棄物焼却施設すべての焼却灰の放射性測定」を行っている。私はなぜ全国を調査しなかったのかと疑問に思っているが、深刻な汚染状況が分かる。
    ※ 参考資料:16都県の一般廃棄物焼却施設における焼却灰の放射性セシウム濃度測定結果一覧(環境省・PDF)
  3. 一般廃棄物約30万トン、産業廃棄物は約3600万トンが広域処理されている(2010年度)。産廃の広域量処理量はがれき広域処理の倍以上だ。東北や関東から九州にもそれなりの量が運ばれている。「放射能を拡散させない」問題で考えると一般廃棄物、産業廃棄物の通常処理のほうが深刻なのではないかと考えてきた。
    ※ 参考資料:廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等循環利用量実態調査報告書(平成23年度・環境省)
  4. 焼却灰は8000ベクレル以下は埋め立てが可能であり淡々と埋め立てされている可能性が高く、計測と公表を行わせる必要がある。
  5. 宮城県の震災がれきの焼却灰は飛灰で1000ベクレル以下で推移している。県内の一般廃棄物の焼却灰の方がいくらか高い。
  6. 広域処理反対の理由に「焼却炉のバグフィルターでセシュウムを除去できない」指摘がある。一方で「被災地に焼却炉を増設」すれば広域処理はいらない等の意見もある。これは被災地差別であり「自分たちのところでダメなものは被災地でもダメ」であること

を伝えてきた。
 

■ 解散総選挙に臨む

3年前、これまでにない格差社会を生み出してきた自民党政治からの転換を求める声が政権交代を実現させた。民社国の三党合意では「日本経済を内需主導の経済へと転換を図り」「国民生活の立て直しを図っていく」と宣言。社会保障、雇用政策の充実、子ども手当、高校授業料無償化、個別所得補償制度など「生活再建」に向けた施策が打ち出された。翌年5月に普天間基地の辺野古移設の閣議決定に反対し社民党は連立を離脱。以降民主党政権は、これまでの自民党政治と変わらない大企業の立場にたった市場競争重視の政策へと変わり、国民の支持も失っていく。自民も民主もだめと、国民の政治・政党不信をつくりだし支持政党なし層を増大させた。「大阪維新の会」などが批判の受け皿として支持を広げようとしているがその先にあるのは改憲と弱者が切り捨てられる社会だ。
 
「生活再建」の実現にむけ、大震災・原発震災からの復旧・復興、脱原発、反消費増税、反TPP、オスプレイ配置反対を訴え広がりをつくれる情勢でもある。社民党の踏ん張りどころだ。
 

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