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●2011年3月号
■  農業・林業にマンパワーを
    ―― 工業一辺倒を見直す時期
       重野安正 社民党幹事長 に聞く
 

あらゆる場面における規制緩和が進んで、都市と地方の、正規と非正規の、そして第一次産業と第二次産業、第三次産業の格差が広がっている。また、男性と女性の不平等感が広がっている。このようにもろもろの場面で格差社会が進行していると言えます。そういう認識に立ったうえで、ではどうしていくかということがある。
 

■ 山間地の荒廃 ―― 豊かな水は消えてしまった

都市と地方の関係からみて行くと、国民の目線が地方に向いていないという現実がある。だから、地方の人口流出、第一次産業の担い手不足が、反転攻勢に向かっていない。結果として地方は衰退していっている。
 
地方というと第一次産業であり、水田、畑、山ですが、先祖伝来の、大事に守ってきた優秀な農用地がどんどん耕作放棄され、荒廃し続けている。山に限って言えば、人が足を運ぶということがほとんどなくなっている。だから、動物たちが活動範囲を広げて里に下りてくる。里に下りても人がいないもんだから、畑や水田の耕作物を荒らすことが起きている。都会の人たちには想像できないかもしれないが、そういう状況が上流域では進んでいるわけです。 私の地元、大分では今、東九州自動車道建設が山を2つに割りながら南進している。そこに立ってみると、山は見るも無残です。ぜんぜん人の手が入っていないから、木は線香みたいに細くて、やせ衰えている。健康な山ならば、降った雨をしっかり蓄え、間断なく下流域に水を供給してくれる緑のダムなんですが、痩せた山は水を蓄えられないし、下流に流す力はない。
 
どうしてこうなったのか。政治ですよ。木材の輸入の自由化をやったわけです。外国から安い木材を持ってくるもんだから、日本の山は見向きもされなくなってしまった。負の連鎖の結果が今の状況です。
 
国土の70%を占めると言われる山がやせ衰えている。国民の立場から見ても、安心感を持って水を飲める時代じゃなくなったわけです。一方で下流域においては人が集中して、水不足という問題が起きている。これは日本の産業政策のいきついた果て、象徴的な現象なんですね。
 

■ 労働法制の改悪 ―― 憲法に保障された生活ができない

労働政策について言えば、この間、現在の野党側に都合のいい方向に改悪されていった。どこに住んでいようが、どういう人であろうとも、憲法に保障された生活を営むというのは、国民共有の権利です。にも関わらず、仕事をしてその生活の糧である、給料をもらうという、その労働者の条件というのがこの間一貫して悪化している。
 
雇う側は、コスト削減のため、安かろうを求めている。かつてこの国は終身雇用というのが常識だったが、今は多種多様な雇われ方がされている。それはその時々に、雇う側が、「自分が都合のいい働き方ができるんだよ」という甘言を弄して、労働法の規制緩和を要求した結果です。派遣、パートと、いろんな呼び方があるが、とどのつまりは使う側に都合のいい、労働法制の改悪が行なわれてきたわけです。
 
労働者は、自分の意志に反して、極めて劣悪な労働条件に抑え込まれている。仮にですが、本人がその企業で一生働きたいと思っても、そういう雇い方を企業はしてくれない。労働力は派遣会社に一任してといった仕組みに、一気に流れて行ったわけです。その結果、極めて不安定な条件で働く労働者が、全労働者の3分の1も存在しているという、極めて深刻な事態になっています。
 

■ 不安定雇用の増大 ―― 国民に担税力がなくなった

それは財政問題にも大きく響いている。国民1人ひとりが人間らしい担税力を持つということは当然のことですが、不安定な雇われ方をすると国民の担税力は明らかに低下する。その累積が結果として国家財政に極めて深刻な状況をもたらすということにもなっている。小泉以来のこの国の規制緩和路線は、日本の国力を相対的に低下せしめている。日本という国家を支える国民1人ひとりの担税力が低下しているわけです。国の予算編成において、まもなく1000兆円にも及ぶ借金を抱えることになります。
 
社民党は今政権を離れましたが、政権に参加するに際しどういう政策で行くかということを三党で議論し、三党首がサインをした10133項目の合意があります。そのなかには子ども手当てと高校無償化があげられています。その狙いは、子育てを援助しよう、そのことによって少しでも子どもを産み育てようかという気持ちになっていただきたいという思いです。高校教育では逐年親の負担が増えてきており、その負担感が子どもを産もうかという思いの足を引っ張るのなら、そういう面でも手助けしようじゃないかという、純粋な思いです。子どもを産み育てる条件を、それぞれが持ち寄って、合意形成をして、その政策を実行していく、それが大事だと思っています。
 
出生率のカーブが低下の一途をたどっていて、論理的に見れば、ゼロにもなりかねない。人間こそがこの国を救う、ということを念頭におく、あるいは人間生活の環境をいいものにしていくことを視野におく、そういう議論がなければならないと思います。その延長線上に、少子高齢化社会を反転上昇させたいという思いを込めているわけです。
 
いずれにせよ、当面する課題は雇用問題だということを、わが党が主張していかなくてはならない。菅首相も「雇用、雇用、雇用」というけれども、具体的な政策が見えてこない。予算にしてもきっかけをつかむものであって、雇用についても、少子高齢化についても、もっと長期的構想があってしかるべきだと思います。
 

■ 「21世紀は戦争の世紀ではない」に確信をもつ

社民党の3つ目の主張は、「21世紀は戦争の世紀ではない」ということです。民族間の争い、あるいは多少の国際紛争はあるにしても(それを戦争と位置付けるかの問題はあるものの)、両極対立はもう終わった。第一次世界大戦、第二次世界大戦といった、世界を二分するような戦争はもう起こり得ない。20世紀の幾多の戦争の結果から人間は歴史に学んだわけです。21世紀はそんな時代じゃないという認識です。
 
一方で、菅政権は安易に「アメリカ追随」で進んでいるように思える。三党連立政権が発足した時は、鳩山氏は「普天間の移設は県外、国外」と言っていた。本気でそう思っていたと思いますよ。ところが、アメリカから陰に陽に圧力があったんだろうと思います、これはあくまでも推測ですが、その結果、「辺野古に」という結論を出したわけです。ところが今アメリカは、「辺野古への移設はそう急がないよ」と言い方が変わってきている。それは、戦争を好まない世紀に変わってきていることと、アメリカが、イラク戦争の、アフガン戦争の後始末でえらく苦労しているからです。ブッシュ以降のアメリカの指導者たちは内心、何でこんなことをやったんだと思っていると思いますよ。「イラクは核を持っている」ということだったけれど、核はなかった。今はそんなこととはまったく無縁の争いになっている。アメリカはイラクから撤兵すると言っているけれど、それで、イラクが健康で幸せな国になるかと言うと、まったくその保証はない。アフガンでも同じです。アメリカは、仕掛けた戦争の後始末で苦慮しているというのが現実です。かつての米ソ対立といった次元の戦争は起こり得ないのです。
 
菅政権は、「自衛隊の役割を能動的に考えている」とか言っているわけですが、もうロシアが日本に攻めてくることはない、これからは南西だという。中国だ、北朝鮮だ、と仮想敵をでっち上げて、そういう流れに安易に迎合している。これは警戒すべき問題だと思います。防衛論争だって、自衛隊が前にでなければならないという前提に立っての分析がなされている。そういう仮の理論の中で、防衛力を高めていかなければならないという論法が、だんだん力を増してきている感じがする。
 
われわれの原点として、かの15年戦争が何をもたらしたか、がある。単に多くの人民を失っただけでなく、有史以来、この地球上で殺戮を目的とした原爆が使われたというのはこの2回しかないんです。だから、絶対に戦争をしてはいけない。誰が憲法をつくったのか、アメリカが作ったのか、日本が作ったのかという不毛の論争があるんだけれども、憲法に書かれていることは、まさにわれわれは二度とそんなことをしてはいけないということなんです。21世紀になろうと、22世紀になろうと、われわれの不変の羅針盤だと思っています。
 

■ 平和憲法の下での企業活動には自ずと枠組みも

護憲の党=社民党が離脱して以降の連立政権の発言には、危機感を持っていて、事あるごとに申し入れをしています。武器輸出三原則の解禁についても、菅総理と岡田幹事長に「ダメだ」と申し上げた。菅総理は「わかった」ということで、変容は止められた。しかし、油断すれば、すぐに持って行かれる。
 
産業界の要請なんですね。戦後の貧しい時代から、高度成長を遂げて、豊かになった。豊かになったということは、製品を大量に消費するキャパが細ってくるということでもある。戦争というのは、ある意味消耗戦だから、それを補給することで産業界は動くんです。しかし、一企業の思惑と国の針路というのは、価値が違う。一企業というのは現状に照らして、日本は平和憲法の国だから、憲法に照らして、許容できる範囲で、企業活動を展開すべきなんです。まあそういう意味では、武器輸出三原則によって制約されているのは日本の軍需産業ですよ。だから、変容させることによって、活路を見出そうとする。
 
そうじゃなくて、平和憲法の下で、豊かで平和な日本のなかで、どう企業活動するのかというのは、企業の努力ですよ。乗り越えていくのであって、キャパの部分を変えようというのは危険なことです。そういう意味で、武器輸出三原則の緩和について、社民党としては強く強く申し入れたわけです。菅さんはいちおう受け入れた形になっています。
 
それについても政府部内にはいろんな意見があるのも承知していますから、どうなるかというのはあります。企業はそういう状況を作ることを通して、自分たちが生き延びて行こうという発想は、憲法をもつ国においてなすことではない。わが国が21世紀の世界に対する貢献というのは、わが国が持つ優れた部分を、成果を、惜しみなく与えて、その国の水準を引き上げて行くことではないでしょうか。医療とか、インフラ整備とか、日本が貢献することというのはいろいろあります。
 
ただ気になっているのは、日本が世界第二の経済大国と言われていたのが、中国に抜かれた。それをどう受け止めるかです。それがあるから、もっともっと労働者の賃金を抑えて経営の側が利益を得られるようにしろ、という経団連側からの要求がある。労働側の声よりも経営者サイドの声の方が強く大きい。それがこの間の春闘の形ではないですか。国民が豊かになることを通して、企業も潤う。企業が物を作っても買う人がいないと、売れないじゃないですか。物を買うのは労働者なんだから。経営者の皆さんの発想法が変わってもらわないといけない。僕たちはそう言い続けている訳です。
 
外国に買ってもらったらいいという問題ではない。日本の労働者が豊かにならなければ、景気は良くならない。それはそれとして受け入れなくちゃいけないと思います。
 
株主にいかに高配当するかについてはひじょうに熱心だけれど、そして二百数十兆円という内部留保がありながら、法人税を下げろといい、菅政権は5%下げた。大企業は膨大な内部留保を持っているわけです。それを吐き出して、自分の企業の富を作りだした労働者に分けるというくらいのことはやってもいいでしょう。労働者の懐が潤えば、物を買うし、旅行に行くんですよ。それの益をまた企業は受け取るんですから、いい循環ですよ。ところが今は、労働者の賃金をあげないから、縮こまる、物を買わない、という負の連鎖になっているわけです。
 

■ TPPは農業を壊滅 ―― 豊かな農業は工業のため

食糧問題も重要です。食糧問題に関連して言えば、社民党はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に反対です。これは日本が持っている潜在的な能力を削ぐことになる。農業の守備範囲は際限なく広い。単に食糧を生産するだけでなく、その営みを通じて、健康な農業、林業には豊かな水を供給する力がある。健康な上流域を形成していくということなんです。
 
TPPは工業分野では関税を撤廃するからつごうがいいかもしれない。しかしその結果、外国農産物が国内農業を圧迫する、まだまだ豊かにできる国土を保全するパワーが間違いなく消えます。日本で今作っている作物が値段の面で太刀打ちできるなんて不可能です。結果として食糧自給率が落ちる。今だってすでに関税に関しては相当な妥協を強いられています。コメを除けば、関税は17%なんですから。農業を営む価値、林業を営む価値というのを見直す機会です。
 
それだけでなく、TPPはあらゆる面に影響します。アメリカにとって都合の悪いものは全部撤廃しろと言っているわけで、日本の経営者団体にしたってそれで国際競争力が高まると言っている。しかし、そのことで70%の国土を守っている農業のパワーを奪っていいのか、ということです。TPPを入れたら日本の農業は間違いなく駆逐されます。それでいいのかという議論です。「極端な話」ではなくて、そうなるんです。農業を守っている人たちだけの問題ではない。国民すべてに影響するわけですから、国民的議論をする必要がある。われわれは郵政民営化問題をやっていますが、TPPには郵政問題も含まれるんです。全ての産業に関わる問題でもあります。アメリカの言う通りの国際貿易秩序を作っていくということですから、よくよく足元を見てみたら、あらゆるものが影響を受けます。
 
話が元に戻るけれど、国土の7割を占める山を健康にしようと思ったら、膨大なマンパワーが要ります。国が責任をもった、一大プロジェクトを組むという発想が必要です。目的意識的に山林労働者を教育して増やしていかないといけない。国が計画を立てて、雨が降ったら水を蓄えることができる山にしていかなくてはならない。CO2の吸収源というのは山ですよ。行政、企業を含めて、健康な山を育て健康な国土にするという一大プロジェクトを立てる必要がある。そこに人を動員すれば、相当な雇用が生まれます。
 
日本では列車に乗るとあちこちに鉄橋がある。鉄橋の下はかつては満々と水をたたえて流れていました。それが今は真ん中に一筋しか流れていない。しかし、地下水だって、降った雨が森林によって蓄えられ、表面を流れる水と地下に浸透していく水とに分かれるんです。年間に降る降水量は昔も今もそんなに変わらない。それは水を溜めるべき上流域の営みが劣化しているということを端的に物語っている。
 
第一次産業と第二次産業は対立的に語られることが多いが、水がなければ鉄鋼は出来ない。水が必要な工業はたくさんある。豊かな農業を工業が応援する、そうすれば結果として必要な水を供給してくれるんです。脱ダムの動きがあるけれど、やたらとダムを作らないと、水が供給出来ないということではない。水が涸れるからダムを作るんです。ダムの水は溜めているから死んでいる。水は流れていなければ生きていないんです。水道水は溜めた水をろ過して薬品を加えている。上流域のような、酸素を多く含んだ水だったら、そのまま飲めるんです。いずれにせよ、豊かな第一次産業があって、自分たちの生業は出来るんだ、ということを全ての国民が考えないといけない。
 
こうした産業間の調整をするのが政府の役割であり、政治の役割だと思っています。それぞれが勝手に動いたのでは国は滅びますよ。
 

■ 政権合意10133項目は社民の政策
―― 統一自治体選で自信をもって訴えて行こう

今菅政権は少しバタバタしすぎています。連立政権発足のときに合意した10133項目の政策課題は、ほんとうに議論して作ったものです。とくに沖縄条項は、社民党が頑張らなかったらとても入らなかったものです。皮肉にもそれで行こうと決断したのは鳩山さんだったんです。社民党は辺野古の問題で政権から離脱しましたが、10133項目については思いもあり、また責任もありますから、協力すると言っています。全面的に評価はできないけれど、予算編成などについても積極的に協議をしました。今後とも協力してすすめていきたい。政権離脱の原因は沖縄問題だけですから、アメリカの姿勢が変化していることもあり、連立政権が、沖縄問題について腰を落ち着けて解決していこう、沖縄の世論に依拠し急がないとなれば、それはそれとして評価していくことになると思います。政策課題を丁寧に丁寧に検証しつつ、主権者にとって好ましい方向にもっていくために、やっていこうと思っています。だからと言って、この沖縄問題等々が解決されないままに政権の枠組みを変えるつもりはありません。それはあくまでも政府の側の問題です。主権者にとってどうなのかという視点から、考えることです。
 

今年の最大のテーマは何と言っても春の統一自治体選挙です。とにかく頑張って候補者を擁立してくれと各県連合に要請しているところです。177通常国会の論戦は、即統一自治体選に反映されていくんだろうと思っています。

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