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●2010年10月号
■財界・官僚主導による菅政権の経済政策
  社会民主党政策審議会事務局長 横田昌三
     

■ はじめに

9月14日、大きく党内を二分した民主党の代表選挙は、菅直人代表(首相)の勝利に終わった。今回の代表選挙では、同じ党内の争いかと言わんばかりの激しい論戦が行われたが、政策的な最大の相違点は、昨年の総選挙マニフェストの扱いである。
 
菅代表は、かつてイギリスのブレア首相が強調した、「教育、教育、教育!」になぞらえて、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」を強調し、雇用拡大と経済成長を結び付ける方針を掲げたが、マニフェストの修正もやむを得ないとの考えを表明した。一方、小沢候補(前幹事長)は、2011年度予算編成で原則一律10%削減する菅政権の方針について、「自民党時代からの官僚主導のやり方だ」とばっさりと切り捨てるとともに、マニフェスト堅持を強調した。小沢氏は、過日の参院選の民主党敗北も、菅首相の唐突な消費税発言とマニフェスト修正方針が国民に受け入れられなかったとする。
 
高速道路の無料化政策や議員定数削減などのように、マニフェストは金科玉条ではなく、情勢の変化や国会内での与野党の協議の結果、国民の説明を尽くした上で当然手直しはされてよい。政権党がマニフェストに縛られ、その貫徹を強権的に行うことは、国会の存在意味を無用にするし、民主主義にとって問題である。しかし、ここでの菅・小沢両氏の対立軸は、自覚しているかは別として、新自由主義的構造改革路線を重視するのか、社会民主主義的路線を重視するのか、あるいは、財界やアメリカに追随し大企業支援や輸出主導型経済を重視するのか、一定の対米自立を指向しつつ家計支援や内需主導型経済を重視するのか、の違いである。
 

■ 国民が求めた新自由主義的構造改革の転換

昨年夏の衆院選で、有権者の多数が選択したのは、たんに自民党から民主党への政権交代、権力移行ではない。自公政権下で、新自由主義に立脚した聖域ない構造改革が遂行され、大企業は空前の利益を上げ、内部留保や役員報酬、株主配当が増える一方、労働者の賃金は低下、リストラや非正規雇用への置き換えが進んだ。OECD諸国でも例をみないスピードで社会的格差と貧困の拡大が現れ、生活も、雇用も、社会的セーフティネットの底が抜けてしまった。地方も疲弊し、あらゆる分野への資本の論理の徹底が、人間関係や人間の生存自体崩壊の危機をもたらした。そうしたところに米サブプライム・ローンの焦げつきに端を発した、戦後最悪とされる金融パニック・大不況が追い討ちをかけた。
 
自公政権は、構造改革路線のほころびを、観念的な日本民族のアイデンティティやナショナリズム(安倍政権の「美しい国」)や、巨額の財政出動による不況対策(福田政権、麻生政権)でカバーしようとした。しかし、その不況対策も、選挙目当の負担軽減策や、非常に限定された雇用・失業対策などの弥縫策を除けば、省益優先の一時的バラマキや大企業・富裕層への優遇策ばかりであった。金融市場・金融機関と輸出基幹産業・企業をとにかく支えるということだけであり、構造改革のもたらした負の遺産のために、自公政権は大きく行き詰まった。
 
新自由主義構造改革のもたらした格差・貧困、金融バブル崩壊と世界大不況によって、すべてを市場原理・「民間」という名の資本運動に委ねるよう要求する新自由主義イデオロギーの虚偽と破たんが暴露され、理論的にも、新自由主義に代わるものとして社会民主主義が期待された。そしてなによりも「生きさせろ」の叫びの中、政治を変えてほしいとの思いが多くの民衆の共有のものとなり、生活優先・生活再建の政権交代が期待され、選択された。
 

■ 社会民主主義に立脚した三党政策合意

リベラル勢力から小泉以上の新自由主義者までの寄り合い所帯であり、もともと小沢代表(当時)自身、「普通の国」を志向し、「小さな政府」路線に親和性を持っていた民主党も、選挙で自公政権にとって代わるには、構造改革を進めてきた自公政権との違いを打ち出す必要に迫られた。同時に、新自由主義改革による社会的疲弊や生活破壊への憤り、高まる不安・反発を、「政権交代」のエネルギーとして吸収しようとすべく、子ども手当や農家の戸別所得補償にみられるように、「国民生活が第一」へと大きく路線を転換し、社会民主主義を取り込んだ。それが「国民生活が第一」を全面に掲げたマニフェストの意味なのである。
 
また、「元祖格差是正政党」として、格差と貧困の問題にいち早く取り組んできた社民党も、そのマニフェストにおいて、「格差社会を正し、雇用と社会保障を再建します」、「大企業中心の輸出最優先の経済から、人々の暮らしや地域をしっかり支える内需中心の経済へ転換します」、「金持ちや大企業優遇の不公平税制の是正、財政支出の抜本的見直しなどで財源を捻出します」、「九条(戦争放棄)、一三条(幸福追求権)、二五条(生存権・環境権)など、憲法理念を実現します」の四本柱を打ち出し、「いのちを大切にする政治」、「生活再建」を掲げ、保守二大政党間の政権交代ではなく、新自由主義構造改革路線からの転換としての「働く者と平和のための政権交代」を実現すべく奮闘した。
 
総選挙の結果、民主党は第一党になったものの、衆議院で3分の2を占めることはできず、参議院で過半数を有していない微妙な位置になったこともあり、民主党からの呼びかけで、衆院選の直前に、三党でまとめた「衆議院選挙に当たっての共通政策」をベースに、三党政策協議が始まったが、社民党は、党の政策が反映・実現されるかどうかを基準にして臨んだ。
 
「連立政権樹立に当たっての政策合意」は、冒頭、「小泉内閣が主導した競争至上主義の経済政策をはじめとした相次ぐ自公政権の失政」を批判するとともに、「国民からの負託は、税金のムダづかいを一掃し、国民生活を支援することを通じ、我が国の経済社会の安定と成長を促す政策の実施にある」、「連立政権は、家計に対する支援を最重点と位置づけ、国民の可処分所得を増やし、消費の拡大につなげる。また中小企業、農業など地域を支える経済基盤を強化し、年金・医療・介護など社会保障制度や雇用制度を信頼できる、持続可能な制度へと組み替えていく。さらに地球温暖化対策として、低炭素社会構築のための社会制度の改革、新産業の育成等を進め、雇用の確保を図る。こうした施策を展開することによって、日本経済を内需主導の経済へと転換を図り、安定した経済成長を実現し、国民生活の立て直しを図っていく」として、新自由主義構造改革路線の問題点の上に立った、社会民主主義的な改革の方向性を示している。
 
具体的な政策でも、緊急雇用対策、消費税率5%の据え置き、郵政事業の抜本的見直し、子育てや仕事と家庭の両立、出産時の経済負担軽減、子ども手当て創設、保育所・学童保育の拡充、「子どもの貧困」の解消、生活保護の母子加算復活、父子家庭への児童扶養手当支給、社会保障費の抑制策撤廃、低年金・無年金問題の解決、後期高齢者医療制度の廃止、「障害者自立支援法」の廃止、労働者派遣法の抜本改正、雇用保険のすべての労働者への適用、最低賃金引き上げ、均等待遇実現、地方への権限・財源の移譲、農家の戸別所得補償制度、下請けいじめ禁止の法整備や政府系金融機関による貸付・信用保証制度の拡充、「自立した外交」が掲げられている。連立協議で最後まで問題になった、沖縄の問題についても、「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」としていたし、何よりも全体の締めくくりとして「憲法」が独立した一項目として起こされ、「唯一の被爆国として、日本国憲法の「平和主義」をはじめ「国民主権」「基本的人権の尊重」の三原則の遵守を確認するとともに、憲法の保障する諸権利の実現を第一とし、国民の生活再建に全力を挙げる」ことが宣言されたのである。まさに、「生活再建」を売りとする「政権交代」であり、連立政権に貼り付けられた「品質保証」書が、社民党であり社会民主主義にほかならなかった。
 
すなわち、鳩山連立政権とは、新自由主義・市場原理主義の批判・否定に立脚し、この間切り捨てられてきた、社会保障、雇用、地域、農業、中小企業、環境を重視するとともに、対米追従ではない自主外交路線に踏み出し、憲法の保障する諸権利の実現に全力をあげる「生活再建」内閣であり、小沢氏のいうマニフェスト堅持は、新自由主義構造改革路線を否定した政権交代の原点に帰れということなのである。
 
衆院で300を超える民主に対して、社民七の力関係の下で、ここまで社会民主主義的な考えを入れ込ませた努力や、様々な限界はあったが、社会民主主義をまとった政権としてスタートを切った鳩山政権の一翼を担い、政権内で粘り強く国民のために一歩ずつ成果を上げてきたことは貴重な経験としてもっと教訓化されるべきである。
 

■ 鳩山政権の挫折から菅政権へ

さて、普天間基地の移設問題をめぐって、鳩山首相(当時)が移設先を辺野古周辺とすることでアメリカと合意したことを受けて、社民党は、鳩山政権から離脱をし、鳩山政権も崩壊に至った。この鳩山政権の挫折は、三党合意では「生活再建」と対米自立の方向を明確にしながら、現実には財界・大企業や彼らの依存するアメリカとの摩擦・対決を避けて通ることができずに、競争力強化をめざす大企業優先の「成長戦略」へ擦り寄るとともに、外需・輸出依存のためにアメリカ追随に陥ってしまったことの帰結である。
 
理想主義者鳩山由紀夫から現実主義者菅直人への交代は、鳩山三党連立政権が曲がりなりにもまとっていた社民主義の「薄衣」さえ、「品質保証役」を自任する社民党とともに投げうち、身軽になったことを意味する。民主党主導政権となった菅政権は、「寄り合い所帯」民主党の中の、グローバル国家日本の生き残り路線、新自由主義との親和性を露呈させ、民主党自体が資本主義体制の維持・存続を前提とする「もう一つの保守政党」である本質をさらけ出すことになった。
 
実際、菅首相は、V字型支持率回復に自信を持ったのか、鳩山の苦悶をよそに、普天間問題についてそうそうに日米合意遵守を宣言し、アメリカの意向に従うことを表明した。また、財界との関係でも、鳩山政権とは異なり、日本経団連との融和姿勢を示し、新成長戦略をとりまとめた。そして、「第三の道」や「強い経済、強い財政、強い社会保障」、「最小不幸社会」をスローガンとして掲げながら、ギリシアを引き合いに財政再建の重要性を強調し、低所得層ほど痛みの大きい消費税率引き上げを打ち出した。
 
「最小不幸社会は友愛じゃない」と鳩山氏が言うように、憲法は個人の幸福追求権を保障しており、「不幸の最小化」よりは「安心感」の創出、個々がそれぞれの幸せの形を追求できるようにするのが政治の役割だろう。まさか財界の利益の極大化を国益の柱として促進し、そのツケを勤労者・大衆がみんなで「分かち合」えば、ひとりひとりは「最小不幸」ですむというのではないと信じたい。
 
「強い経済、強い財政、強い社会保障」も、順番を間違えれば、法人税率引き下げによる企業の競争力向上という政策に見られるように、「企業が強くなれば、国民生活もよくなる」と主張した自民党の構造改革路線の焼き直しになる可能性が大きい。財界の成長戦略に則った「強い経済」や、増税による「強い財政」を優先させるのではなく、家計の所得が増加することが「強い社会保障」を支え、内需の拡大を中心にすえた「強い経済」を生み出し、それが結果として国の財政の健全化にも寄与するという順番で考えるべきである。
 
「第三の道」について、「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出につなげる」ことや、特に、医療、介護、環境、教育、子育て、一次産業の振興などは日本が抱える大きな課題であり、この分野を中心とすることは当然であるといえる。しかし問題は、こうした分野で働く人々の賃金・労働条件であり、雇用の「質」である。
 

■ 財界・大企業の利益に則った新成長戦略

6月18日に閣議決定された「新成長戦略〜元気な日本復活のシナリオ」と、9月10日に閣議決定された「新成長戦略実現に向けた三段構えの経済対策〜円高、デフレへの緊急対応〜」における菅政権の経済政策をみてみよう。
 
「民主党には成長戦略がない」という財界の批判を受けて、鳩山政権当時から新成長戦略の議論が進められてきたという経過からして、財界主導に他ならない。しかも内容は、国民向けの美辞麗句は別として、麻生政権の下での成長戦略とほとんど変わりはない。求める財界も、作っている官僚も変わっていないのだから当然と言えば当然である。特に、日本経団連の「豊かで活力ある国民生活を目指して〜経団連 成長戦略2010〜」や、経済産業省の「産業構造ビジョン2010」、国土交通省成長戦略、総務省の「新たな成長戦略ビジョン――原口ビジョンII――」などが下敷きとなっている。その基調は、企業がため込んだ利益を海外市場での競争力強化のために投資したい、海外進出や海外市場での競争戦を国家ぐるみで後押しせよ、企業の負担を減らせ、ビジネスチャンスをひろげろという財界・大企業の利益にかなうものとなっている。
 
問題と思われる項目をピックアップしておこう。国産農林水産物の輸出拡大、公共施設の民間開放と民間資金活用事業の推進、新たなPPP・PFI事業の拡大、公務員の民間への出向の円滑化、容積率の緩和、「国際戦略総合特区」、民間都市開発プロジェクトに係る規制緩和、「大都市圏戦略基本法(仮称)」、全国で展開する規制の特例措置及び税制・財政・金融上の支援措置等の政策パッケージを講じる「地域活性化総合特区」、国際医療交流促進、原子力の着実な推進、「環境面で優れ、安全・安心な製品や食品、交通やエネルギー等のインフラ整備」(パッケージ型インフラ海外展開、原発・水・新幹線などの国家資金を投じた企業の海外進出の後押し)、法人実効税率引き下げとアジア拠点化の推進等、日豪EPA交渉の推進、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略、金融市場と金融産業の国際競争力向上、「アジアの資金を集め、アジアに投資するアジアの一大金融センター」としての「新金融立国」、幼保一体化の推進、各種制度・規制の見直しによる多様な事業主体の参入促進(保育の基準の緩和、市場原理化、応益負担化)、混合診療解禁、特別養護老人ホームへの民間企業参入、日本国内投資促進プログラム、国民ID制度の導入の検討、民間事業者によるカジノ運営の解禁、民間事業者による行政が有する国民の情報の利用・活用、地域の人的リソースを有効活用するための非定型的変形労働時間制の運用等々。
 
「雇用が広がれば、所得が増え、消費を刺激し、経済が活性化する」という「好循環」には賛成だが、カネがないことを悪用して、「財源を使わない規制・制度改革」が両輪だとして「日本を元気にする規制改革100」などの規制緩和が打ち出されている。新成長のために「潜在的な需要を抑えているルールを変更する」とか、規制緩和で「埋蔵需要の掘り起こし」というが、「需要=国民の要求」ではなく、「需要=資本の儲け先」というとらえ方だ。たとえば介護や保育、福祉にしても、国民的な生活向上の要求は強いがお金がなく手が出せない。そのために家計支援を強化するはずだったのに、そうではなく民主党が福祉や雇用を強調するのなら、それに悪のりしてして、規制を緩和してどんどん民間参入させて資本の利潤拡大を目指し、お金のない人や儲からない地方部の要求を切り捨てようとしているとも感じられる。自公政権と違い、ひとりひとりの「幸福」を重視するという鳩山政権の姿勢も後景化し、成長という名の資本の拡大にとらわれすぎている。
 
それにしても、自公政権の既視感が漂う。国家戦略室の縮小とパラレルであるかのように、経済運営の司令塔として設けられた「新成長戦略実現会議」も連合が入っただけで、経済財政諮問会議の焼き直しであるし、「緊急的な対応(ステップ1)」、「機動的対応(ステップ2)」、「新成長戦略の本格実施(ステップ3)」という、時間軸を考慮した「三段構え」の政策展開も、「麻生三弾ロケット」を思い出してしまう。「歴史は繰り返す、1度目は悲劇として、2度目は喜劇として」とならなければよいことを祈るばかりである。
 

■ 社民党の経済政策

社民党は、既に「社会民主党宣言」でその経済政策の基本方針を明らかにしている。党宣言は、「平和・自由・平等・共生」こそ日本の社会民主主義の理念であるとし、「社会的な規制による公正な市場経済」、「生きがい、働きがいの持てる労働環境」、「公平で持続的な税財政」、「社会の連帯を柱とした社会保障」、「公正な国際経済と平和を基礎にしたアジア経済圏」、「両性平等社会の実現」、「豊かな自然環境を次世代に」、「食と生命の安全を担う農林水産業」などの方向性を提示している。 これらは、日本国憲法の具体化に通じるものであり、憲法の規定する、国民主権、平和主義、個人の尊重・幸福追求権、様々な自由権、両性の平等、公共の福祉、生存権、教育権、労働権、地方自治などといった条項を現実のものとしていくこと、すなわち「憲法を暮らしに活かす」ことが社民党の経済政策の基本となる。まさに人間優先の論理に立つことであり、資本の利害と国民の生存権との対決ともいうべき政治経済状況下において、資本のための規制緩和でなく、人間のための規制=社会民主主義的規制の強化といった方向性が貫かれなければならない。重要なのは、立派な憲法があるのになぜ実現されないのか、人間性の蹂躙と破壊がどこから何によってもたらされているのかを実態に即して明確にし、憲法原理を現実化させる実践に踏み出すことである。
 
社民党は、昨年、「ヒューマン・ニューディール〜いのちとみどりの公共事業」をまとめ、「いのち」(医療、介護、子育て、福祉、教育)と「みどり」(農林漁業、環境・自然エネルギー)の分野へ重点的に投資し、働きがいのある人間らしい仕事をつくることを打ち出している。また、昨年暮れの経済対策や2010年度予算編成に際してまとめた提言でも、「雇用」、「環境」、「医療」、「福祉」、「地方」、「教育・科学技術」、「平和」の7つの柱に力を入れ、個人消費の活性化、安心・安全の確保、仕事の創出、地域振興、低炭素社会への転換を「一石五鳥」的にすすめるとしている。人間らしく生活していくために必要なサービス・産業を中心とした経済は、エコ経済となるとともに、中長期の成長力強化につながる需要刺激として、仕事の創出を始めとする裾野の広い波及効果をもたらす。「環境・エネルギー革命」は、外需依存経済から内需型経済への転換の大きな起爆剤であり、今後の日本経済と雇用を支えていく大きな柱の1つとなる。社民党の各種の提言は、「生活再建」と「社会構造の転換」の両立を図ろうとしたものだ。
 
この間の構造改革による格差・貧困の拡大で、税を納めることのできる人が減り、給付を受けなければならない人が増えている。参院選中も、菅首相のようにいきなり消費税率をアップすることを批判するとともに、まず不公平税制の是正を図り所得の再配分機能を強化すること、そして、低所得層の所得を引き上げ、税を担えるだけの所得水準、生活水準を実現するのが先であり、税収の向上や財源の節約のためにも、まず格差や貧困問題の解決を図るべきであることを訴えた。
 
その後も、低炭素経済社会への転換、雇用の回復、落ち込む地域経済・地方の活性化、広がる貧困の解消を柱とした経済対策をうち、国民生活を向上させるべきだとして、八月二七日に、「緊急経済対策四本柱の提言」をとりまとめた。さらに、九月九日には、財政が厳しいとはいえ景気の二番底を招来しないためにも、切れ目のない思い切った規模の経済対策を実施すべきであることとして、国民新党と共同で要請を行った。 財源を考える際、この10年、資本金10億円以上の大企業の経常利益は、15兆円が32兆円に、内部留保は142兆円が229兆円になり、家計は苦しいのに企業は豊かになっていることも十分押さえておく必要がある。「企業は空前の金余り状態」(日本経済新聞5/24)、「内需主導の成長のために最も重要な要件は、企業貯蓄の大幅な削減」(英フィナンシャルタイムス社説1/13)、「デフレ対策、200兆円の企業マネーを生かせ」(第一生命経済研究レポート3/4)、「どうするべきか、過剰な企業蓄積」(富士総研レポート3/19)といったように、新聞やシンクタンクも、問題は企業の金余りにあると指摘している。「政府財政が悪化するなかで、日本経済の活性化の観点からも、企業が蓄積する資金をどう国内向け投資に誘導するかが政策課題だ」(日経)と言われる始末である。
 
企業の余剰を大企業の海外進出の推進や金融投機に回すのではなく、どう家計支援や労働者の賃金・労働条件向上に結びつけるのか。虫のいい法人税引き下げ要求が出されているが、小渕内閣の法人税減税でも、競争力はアップしなかったし、大企業は内部留保を積み上げるか配当や役員報酬に回すだけで国民生活には回ってこなかった。逆に、法人の負担を増やすと、納税額を増やすよりは研究費や人件費の「生き金」で使ったほうがよくなるというインセンティブが働くのではないか。課税ベースの拡大と企業の社会保険負担の拡大も合わせて検討していかなければならない。
 
財政再建は国民生活に気を配りながら進めるべきであり、まずは生活の建て直しが優先される。社会保障や雇用対策、教育、環境分野に財政出動することで、内需は活性化するし、また社会・経済の真の構造転換や持続性の確保にもつながり、さらに老後や子育てなどの不安を一掃しうるものになる。国民の不安が少なくなれば、個人消費の増加で企業の生産活動なども高まり、それが税収増となる好循環をもたらすはずだ。  

■ おわりに

大企業依存と一体化した対米依存をのりこえ、脱却していくことなしに、「誰もが人間らしく生活することのできる社会」、「1人も切り捨てられない、平和と希望の社会」を築いていくことはできない。
 
社民党は野党になったとはいえ、派遣法改正や郵政改革など、国民生活重視の課題にはアクセルを踏んでいく立場で、昨年の10テーマ33項目の「政策合意」の実現を民主党に対し粘り強く求めているし、国民新党との政策協議も進めている。また、公明党をはじめとする他の野党の間に入って、社会保険病院存続や比例定数削減問題などの政策課題ごとの共闘にも乗り出している。あわせて、政治の「品質保証役」として、社民党の離脱でタガの外れた菅政権が暴走しないようしっかりとブレーキをかけていく役割がある。
 
社民党のこの間の経済対策に関する提言は、菅政権の政策運営を社民主義の側に引き戻す意味もある。多くの労働者・民衆、社会的弱者、市民運動との連携を強化し、現実政治の中でしたたかに憲法理念の現実化をめざす社民主義による改革に努力していきたい。  

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