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●2010年6月号
■ギリシャ財政危機の示すもの
  北村 巌
     

■ 深まる欧州ソブリン危機

 欧州の「ソブリンリスク」が世界的に金融市場を震撼させている。ソブリンとはもともと国家主権を意味する言葉であるが、一般に「ソブリンリスク」とは国家財政が破綻するリスクを指している。通常、国債などの国家の債務は、不換通貨体制(金などとの交換の保証がない)のもとではその国の通貨建て債務としては最高の信用を得ることができるはずである。なぜならば、通貨を発行する中央銀行自体の信用が国家の信用と同等であり、両者の発行する債務である通貨と国債の間に信用度の違いは基本的には存在しないからである。
 
 しかし、1999年、ユーロという国家を超えた通貨が導入されたことでユーロ圏の国々では事情が一変した。ユーロの信用は欧州中央銀行の信用を反映し、ユーロ圏加盟国一国の信用を超えた存在となる。これは、加盟国のそれぞれの財政問題から発するソブリンリスクとどのように調和(共存)することができるのか、そこに、そもそもこうした共通通貨導入の困難さがあると考えられてきた。通貨が国の信用に依存していれば、財政が悪化しても結局はインフレになり為替レートが下落するが、国家は通貨を発行し続けて財政を形の上では破綻させないだろう。しかし、通貨の発行の自由がなければ、通貨の価値は保たれたまま政府(国家財政)が破綻することはありうることになる。これは国民国家の財政の普通の姿ではなく、より地方政府に近い地位になったということも可能である。しかし、政治的に一国を破綻させることができないのであれば、共通通貨を増発しインフレを覚悟で破綻を阻止するということはありうる。今回のギリシャへの対応は、そこまで極端ではないが、そうした要素を含んだ措置が採られつつあるといえる。
 
 ユーロ創出にあたっては、今回のような事態を避けるため、ユーロ圏における財政規律を保つための協定(財政赤字の対GDP比率を3%以内に抑える)が結ばれた。現在深刻になっている財政危機はギリシャやポルトガルに限らない。2010年はユーロ圏16カ国すべてがEUの安定・成長協定(財政協定)違反という異例の事態となる予想が有力である。各国の予算がEUの枠組みと一致するよう、予算政策の調和を事前に図る必要があると、予算政策の事前評価を2011年から開始することとなった。しかし、財政出動を必要とするような経済危機が起きた場合、どのように対応すべきなのか、一時的に財政規律をタナ上げした場合、野放図な財政支出増加を行う国があったり、逆に他国の赤字による需要に依存して景気を立て直そうとする動きがでたりするのでは経済圏の運営はうまくいかないだろう。最終的には、経済政策、財政政策そのものの主権を制限する方向へと向かわざるをえないのではないか。そうでなければ、ユーロ圏そのものの解体かハイパーインフレによる解決へと向かわざるをえなくなるだろう。
 
 

■ EU全体での危機への対応

 EUによるギリシャ危機へのこれまでの対応を振り返ってみよう。
 
 ギリシャ政府はユーロ圏諸国とIMFからの融資の条件として求められた追加の財政赤字削減策を5月2日に公表し、続く6日に議会で承認した。公務員給与とボーナス削減に一段と踏み込み、また年金支給額の減額、3月に19%から21%に引き上げたばかりだったVAT(付加価値税)を23%に引き上げるなど厳しい内容である。これらの措置で2010年にGDP比2.5%、2011年には同4.3%の赤字削減効果を見込んでいる。この追加削減策の発表を受けて、ギリシャ国内では大規模なストライキとデモの呼びかけが繰り返され、5日にはその渦中で3名の死者が出る事態となった。こうした国民の財政緊縮に対する反対の強さは、国際金融市場ではギリシャの財政赤字削減が実際には進まないだろうとの懸念を高め、ギリシャ国債の利回り急上昇につながったわけである。
 

(資料1・クリックで拡大します)
 

(資料2・クリックで拡大します)
 
 ギリシャ懸念のエスカレートは、資料1のようにギリシャ国債利回りの高騰という形で顕在化し、5月7日の10年国債利回りは12.4%にまで達した。一方でドイツ国債が安全資産として買われたため、ギリシャとドイツの利回りスプレッドは9.65%まで拡大した。さらにギリシャ懸念は周辺国に飛び火した。4月下旬からポルトガル、次いでアイルランドの国債利回りに上昇圧力がかかっていたが、5月に入ってスペインとイタリアにもこれが波及した。加えて、これら債務者である南欧諸国に対する懸念だけでなく、債権者へと懸念が拡大したのも5月第1週であった。ギリシャ、ポルトガルなどの南欧諸国の国債を多く保有しているのは欧州の銀行であるため、これは欧州の銀行の資産劣化懸念となり、信用リスク不安が再び台頭する兆しが出てきたのである。ドルの銀行間金利が上昇したが、これはドル資金の出し手である米国の銀行が、欧州の銀行にドルを貸し出すにあたって、より高い金利を求めてきたということである。
 
 長く調整に手間取ってきたユーロ圏諸国とIMFによるギリシャ支援策はようやく5月7日に最終決定された。ギリシャには3年間で計1100億ユーロという支援枠が用意されることは既に見通しがたっていた。それにも拘らず金融市場の懸念がエスカレートした事態は、「危機感染」とも言うべき状況であった。この懸念の伝播に歯止めをかけるべく打ち出されたのが7500億ユーロの緊急融資制度である。5月10日朝、EU財務相理事会は最大7500億ユーロ規模の緊急融資制度を創設することで合意したと発表した。ここ半年余りくすぶってきた「ギリシャ懸念」が、5月第1週に一段とエスカレートする動きとなったことを受け、緊急措置が必要と判断したのである。この措置は、これまでのギリシャ支援決定の際と異なり、市場が予期していない大きな規模であり、EUが一致団結して危機対応を行うという姿勢を示すことができたことで、市場のパニックを抑えることに成功した。7500億ユーロの内訳は600億ユーロがEU予算から、4400億ユーロがユーロ圏加盟各国の政府保証で調達した資金、そして2500億ユーロがIMFからの資金である。
 
 そして5月10日に欧州中央銀行(ECB)も機能不全に陥っていると判断されるユーロ圏の「公社債市場への介入」を宣言した。証券市場プログラムと命名されたこの介入措置の詳細は公開されていないが、さっそく10日にドイツ連銀を含む複数のユーロ圏加盟国の中央銀行がギリシャ、ポルトガルなどの国債を購入したと報道されている。10日以降、ギリシャ、ポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアのドイツ国債との利回りスプレッドが顕著に縮小したのは、この「即効薬」の効果が大きかったと考えられる。ECBにとって国債購入は、国債の貨幣化を容認することに繋がり、悪性インフレの要素として欧州の中央銀行にとって大きなタブーであった。5月6日の金融政策決定会合では「議題として検討しなかった」としていた。そのECBが短期間で大きな方針転換をすることになったのは、金利、為替、株式市場における懸念が一気に高まってしまい、これになんとしても歯止めをかける必要があったからである。特に国債利回り高騰は、財政赤字を雪だるま状態にする問題であり、財政赤字削減を直接的により困難にする問題であるだけに非常措置が必要であった。今回の「公社債市場への介入」は、具体的には流動性の供給のためというよりはソブリンリスクに対する市場の「過剰な」反応を直接な介入でとにかく止めた、というのが現状である。
 
 ECBは国債の買い取りに加え、銀行に対する流動性供給措置も拡充した。具体的には、「固定金利、かつ上限なし」で5月26日と6月30日の定例の3ヶ月オペを実施すること、一度廃止した6ヶ月オペ(金利は当該期間の主要オペ金利の平均値)を5月12日に実施することを発表。また、米国の連邦準備制度(中央銀行)とのドルスワップ協定も再締結し、欧州の銀行にECBからドル資金を供給する体制を整えた。
 
 これらの緊急措置は、足元のパニックをとりあえず止めることはできたが、根本的な解決にはならない。ギリシャ金融危機を治癒するためにはその根本にあるギリシャや類する国々の財政赤字を削減していかなければいけない。ギリシャ支援措置も、今回の緊急融資制度も、支援を受ける国が自国の財政赤字削減に努力することを、支援の条件としている。
 
 

■ 金価格の上昇が示す各国財政赤字拡大から世界的大インフレへの懸念

 今回のギリシャ危機の動きに歩調を合わせるかのように、金価格の上昇が起きている。金は金本位制が採られなくなった今でも最終的な決済手段となりえる価値保蔵手段であり、金価格の上昇とは通貨の価値の下落を示唆するものである。
 
 金保有は現在でも直接の金本位制を採らずとも通貨の裏づけとして各国で政府や中央銀行に保有されている。日本の金保有は2460万トロイオンス(2009年末)で、米国の2億6150億トロイオンス(同)の10分の1以下である。他の先進国はドイツ(1億950万トロイオンス)、イタリア(7880万トロイオンス)、フランス(7830万トロイオンス)が比較的多く、英国(1000万トロイオンス)が日本よりも少ない。最近では特に中国、インドなど新興国が外貨準備において金保有を増加させている。
 
 日本は対外債権が積みあがり外貨準備も増加していく中で、金保有を増大させるという選択肢は採らなかった。ニクソンショックの直後には日本の金保有を増やすことが検討されたことがあるとも言われるが、おそらくは国際政治上の理由から本格的には行われなかったものと推測される。仮に日本が外貨準備における金保有を大きく増大させれば、米国の金保有の独占的な立場が崩れ、摩擦を生じるとの懸念があったのではないだろうか。日本は結局のところ、直接的には円の国際通貨としての裏づけを、米ドル建て金融資産を中心とした外貨準備としつつ、間接的にはそれを通して米国の金保有に求めているということになる。その意味で円が国際通貨の役割を担うのは限定的である。
 
 一方で、大陸欧州諸国はもともと金保有が比較的多かったということもあり、大半がそれを維持し続けてきたが、ユーロ圏の圏外との決済の最終的支払い手段として各国の金保有とあわせヨーロッパ中央銀行が独自に保有する1610万トロイオンスの金があると言ってよいだろう。この合計でみればユーロ圏は米国の金保有を上回っていることになる。
 
 新興国のうち、国際政治的に米国やヨーロッパ先進国から独立的な立場を取りうる、中国、インドやロシアにとっては金保有増加を躊躇する理由はない。これらの国の金保有がすぐに米国並みの規模になることは考えにくいが、長期的には莫大な金保有を行う国が数カ国割拠する状況に至るかもしれない。
 
 こうした世界通貨としての役割を潜在的にもっている金の価格上昇は不気味な現象であるといえるだろう。通貨価値の大幅な下落を先取りしているとすれば、断定はできないが、世界的なインフレへの序章であるかもしれない。主要国は超金融緩和からの脱却を目指しているが、中国やブラジルを除けば、やすやすと金融緩和を止めるほどには景気の回復力は強くない。
 
 

■ 財政緊縮は解決にはならない

 ギリシャに対して、厳しい財政緊縮政策の実行が求められたが、これがすべての解決になるわけではない。財政緊縮が公務員給与や年金など中低所得層の国民の収入に打撃を与えるものであり、付加価値税によって国民の実質所得水準を切り下げるものであるから、これは国内消費需要の減少に直結し、ギリシャ国内の景気には大きなネガティブ要素になる。そうすると景気悪化が税収を圧迫し、景気と財政赤字拡大の悪循環から抜け出せない状況が出てくる。これは97年のアジア通貨危機時にIMFが行った失敗であり、これを繰り返すことになる。アジア通貨危機は経済立て直しの金融支援と通貨安がもたらした輸出の拡大によっていちおうの解決をみた。
 
 ギリシャの財政不安はスペイン、ポルトガルなど他の南欧諸国に波及する兆しを見せ、国際的な株式市場の連鎖安を招いた。ポルトガル、スペインの両政府はギリシャの対応を他山の石として動いている。すでに2010年から財政赤字削減に取り組む方針をとっていたが、金融市場からの圧力が高まり、またEUが緊急融資制度の創設を決定する中で、赤字削減策の前倒し実施を発表している。ポルトガルは財政赤字を2009年のGDP比9.4%から2010年は7.3%(従来の目標は8.3%)、2011年の5.1%(同6.6%)に縮小すると発表。そのために国際空港建設などの大型公共投資を先送りし、公務員の人件費を削減すると表明した。また、スペインも2010年と2011年で150億ユーロの追加削減策を実施することを決めた。  
 このようにギリシャを始めとして、足元では国債利回り上昇圧力を抑えるため財政緊縮策を打ち出さざるをえない状況におかれている。しかし、ギリシャなどの財政赤字大幅拡大国が直面している問題は複雑だ。財政緊縮による景気との悪循環のメカニズムを抑える策が本来は必要なのである。とりわけユーロ圏において、ドイツやフランスなどが財政赤字解消を急がずに需要サイドからギリシャの景気回復の中での財政再建の支援を行うことが必要なのである。これが共通通貨圏でなければ、財政再建が必要な国の為替レートの低下を容認することで、こうした目標を達成できるが、同じ通貨を使用している中では、ギリシャにデフレ経済を迫るか、ユーロ圏のほかの国々におけるインフレ容認を行うしかなくなる。
 
 

■ 現代資本主義と財政赤字拡大の構図

 ギリシャ問題は、現代資本主義の矛盾の蓄積として、公的債務の拡大が不可避であることを示している。日本も例外ではない。
 
 なぜ、財政赤字が拡大を続けざるをえないのか。やや単純化して、その原理を考えてみよう。
 
 資本主義的な経済成長のもとでは、原理的に資本を所有する層=資本家階級とそうでない層=労働者、勤労階層の間で、所得、資産の格差が拡大していく。景気の拡大期には資本家階級の奢侈品消費が拡大するが、これは不安定なものであり、資本家階級の消費は所得のレベルに比較して小さい。あるいは企業の所得と投資のバランスも悪化していく。逆に労働者の消費は所得に比較して大きい。その両者の間で所得格差が大きくなっていくと、全体の所得に対して消費は相対的に減少していくことになる。今の日本の現状はこうした原理が端的に表れているといえるだろう。
 
 経済バランスを保っていくために、そうした需要不足を補っていくためには、政府は財政支出を拡大したり減税を行ったりしていくことが必要になる。しかし、財政支出(や減税)が実際にはそれだけの需要を生み出せずに、したがって生産を増加させることなく、かなりの部分がふたたび不労所得として分配されてしまうことになる。
 
 こうした原理を抑制するためには累進課税などで所得再分配を行い所得と消費のバランスを保つ政策や制度が必要になる。1980年代以降、こうした制度は世界中で破棄され、個々の国で事情の違いはあるものの、おおよそ前述の原理が端的に表れるようになってきたのである。
   1990年代には米国でクリントン政権がレーガノミクスの行き過ぎを是正し、経済成長を一定程度に達成しながら財政赤字を克服するという時代があった。ただし、これも冷戦の終了により軍事費を削減できたこと、IT技術の発達という技術革新による経済成長要素が発展した時期にあたったという好条件が手伝ったのであり、十分に所得格差拡大が是正されたことで財政赤字を必要としなくなったわけではなかった。実際にクリントン政権時代も米国の所得格差拡大のペースは衰えなかった。
 
 すでに世界の主要国における資本の蓄積は十分に大きくなってしまっており、すなわち過剰な資本が形成されており、全体としてよほどの利潤率の低下を受け入れない限り、資本家階級、大企業と労働者、勤労階層の所得と富の格差は拡大していかざるをえない。
 
 しかし、財政赤字の拡大は持続可能ではない。ギリシャの場合は外国からの資金調達によって財政赤字による国債発行を可能にしていたため、問題が表面化したときに外国資本の逃避を招きやすく危機に発展した。一方、日本ははるかに大きな財政赤字を抱えているが、いまのところ国内の貯蓄によって国債は消化されており危機は表面化していない。言い換えれば、一方で国債という形で直接、間接に金融資産を増加させてきた人々がいるということである。しかし、金利が上昇し始めると財政赤字は金利支払いの増加により加速的な拡大がいっきに表面化するはずである。この支払いはすなわち一部の資産家層の所得拡大に結びつく。これはあまり需要には結びつかず、税収増加にはつながらないだろう。それどころか金利上昇により実物投資を抑制してしまう可能性も大きい。そうなると、増税により財政赤字の発散を防いでいかざるをえなくなる。 しかし、消費税増税などで辻褄をあわせようとしても、一時的には財政赤字が改善しても本質的には問題は解決しない。所得税の累進性強化や企業のフリーキャッシュフローへの課税強化、あるいは資産家にたいする資産課税を強化(インフレもそのひとつの方法ではあるが)を行わない限り、所得と需要はバランスがとれる方向に向かわないからである。
 
 しかし、税制を通じた所得再分配は、利潤原理による資本蓄積を否定する要素になる。国家間が資本を誘致する競争を行うことで経済成長を保とうとしている限り、徹底的な所得再分配政策は期待できないということになるだろう。こうして現代の資本主義は潜在的には資本主義の否定につながる矛盾を財政赤字の拡大という形で蓄積していくことになる。

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