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●2009年11月号
■連立政権に問われる新時代の政治課題
  広田貞治
     

■1. 総選挙で国民は何を期待したか

8月30日投開票された第45回総選挙での劇的な政権交代に国民は何を期待したのか。
 
 小泉構造改革は国民に痛みを強い、政府発表の「長期にわたる景気回復」によって潤ったのは輸出産業など独占資本の株主と経営者などだけだった。日雇い派遣を頂点とする、急増した非正規労働者は不安定・無権利・低賃金・社会保障なしの惨憺たる生活を強いられ、世界的大不況と同時に街頭に放り出された。正規労働者は非正規労働の管理を含め強密度・長時間労働を強いられ、成果主義に悩まされ、職場は非人間的になった。
 
 中小零細企業は独占資本の押し付けるコストダウンや納期短縮に悩まされた上に発注が減り、多くが倒産廃業を余儀なくされた。資本の海外移転による地方経済の空洞化が進み、農林水産業は輸入産品に押されたうえ燃費高などで採算割れを起こした。地方への財源委譲と称する三位一体改革で中央から地方への地方交付税は5兆1000億円減らされ、財政力の弱い自治体ほど財政は急速に悪化し福祉は後退した。幅広い勤労国民の生活は耐え難いものになり、資本家・経営者の所得の大幅な伸びや官僚の血税浪費に対して大きな不満と怒りをもつに到った。先行きは不透明感を増し、自民党の限界を国民に感じさせた。
 
 選挙前にも民主党の圧勝、政権交代必至は各種調査で予測されていたが、まさかと思われ、自民党への揺り戻しを狙う陽動報道ではないかとも受け止められた。蓋を開けてみると、この予測は上限に近い形で的中した。今まで各種選挙で全勝神話を誇ってきた公明党もトップリーダーを含め10議席を失い21議席に減った。10年に及ぶ自民党との連立政権の中で立党の精神である「福祉と平和」がおろそかになり、国民の生活悪化を大きな部分で容認し、小さな政策をおこぼれとして頂戴して「実現力」を宣伝しても空しいものと取られたのである。こうして、国民は「何が何でも政権交代」を選択したといえよう。
 
 振り返ってみると、05年の郵政選挙で圧勝した後、小泉の禅譲を受けた安倍は衆院の3分の2による再議決を多用し、対米追随、海外派兵、改憲路線を突っ走り、教育基本法改悪、防衛庁の省への昇格など反動立法を強行した。07年の参院選では、小泉構造改革と反動路線に対する反発と「消えた年金」もあって自民党は大敗し、「国民の生活が第一」を掲げた民主党が比較第一党になった。与野党は逆転し、ねじれ国会になった。参院選大敗にもかかわらず居直ろうとした安倍は世論と党内の批判に耐え切れず、政権を投げ出した。
 
 後釜の福田は安倍の国家主義的な反動路線とは一線を画し、平和的な全方位外交を探り、消費者庁設置など柔軟路線を進めようとした。しかし、ねじれ国会の中での小沢民主党の執拗な抵抗と公明党からの「選挙の顔としては物足りない」との批判に耐え切れず、1年でこれまた政権を投げ出した。そして麻生は「漢字読めない、空気読めない、国民の生活実態知らない、発言ぶれる」で、全く国民の信頼を失ってしまった。その上、短命内閣の不名誉を避けたいがため、アメリカ発金融危機を受け「緊急景気対策が必要」を口実に解散を先送りし、かえって傷口を大きくしてしまった。
 
 このように、政策は官僚まかせで官僚の専横を許した上、世襲宰相のひ弱さ・お粗末さによって統治能力もだめになったと見た国民は自公政権に対するレッドカードを出したのである。「民主党と自民党は大して違わず、民主党政権になってもそんなに変わらない」としながらも、「政権交代」の実現のために投票した。大きくはないが期待したものは「暮らしの再建」「民主的な活力」「未来の平和な展望」であったと言える。

■2. 連立政権のスタートと国民生活改善の課題

 ところが、9月16日、民主党を軸に社民党、国民新党が組む鳩山連立政権が発足すると、この政権に対する支持率は各紙とも70%台を超える高率を示し、期待は急速に高まった(ちなみに社民党の支持率も2%台に上昇した)。閣僚人事が適材適所であり、新大臣がマニフェストに掲げられた生活再建と財源確保のための政策の実現を速やかかつ明快に次々と発表し、行動に移したからであろう。
 
 たとえば、後期高齢者医療制度や障害者自立支援法の廃止、生活保護・母子加算の復活、年金記録の2年以内の整理と4年以内に新たな制度設計変更の確約、介護報酬の7%、介護士賃金4万円のアップと介護施設の建設のスピードアップ、社会保険病院・厚生年金病院の存続、高校の実質的な無料化、アニメの殿堂の建設取りやめ、八ツ場ダム、川辺川ダムの建設中止などがある。新型インフルエンザのワクチンは7700万人分を確保した。労働条件の整備による医師や看護師の確保の努力も表明されている。労働者派遣法の抜本見直しについては具体的な方向付けは示されていないが、原則禁止の方向である。男女差別の撤廃やアイヌ問題の解決、冤罪をなくすための取調べの可視化など人権問題の解決・改善にも言及している。
 
 鳩山首相が「温室効果ガスを20年に90年比25%削減」を気候変動サミットでも公約し、日本の政治の存在感を世界的に示し、自公政権とは異なる新鮮な政治力を感じさせた。財界(鉄鋼や電力などの独占資本)や経済産業省官僚(次官)から「国民生活と経済にマイナス」との抵抗を受けても断固やりぬく決意を示し協力を求めている。
 
 しかし、次のような問題点が残っている。

  1. 最大の目玉である子ども手当については、国民世論でも「所得制限を設けては」とか「保育・教育条件の整備に一部を回してはどうか」といった意見が多数ある。財務相や厚労相は「マニフェスト通りにやりたい」意向だが、今後に議論が残る。
  2. 高速道路無料化については、経済効果はあるという資料も出てきたが、すでに鉄道や航空、内航海運などに打撃を与えており、渋滞もひどくなり環境面の危惧も強まっている。国交相は「少し時間をかけて社会実験を」と発表、慎重な検討が必要になると思われる。
  3. 揮発油税の暫定税率(上乗せ分)の廃止も自動車利用の増加により温暖化ガスの増加につながって環境破壊を招くのではないかとの指摘もあり、国・地方合わせて2.5兆円の財源を失う点でも疑問が呈されている。
  4. 郵政民営化の見直しについては、西川社長の辞任と株の売却凍結では関係閣僚すべてが一致しており、従来の延長としての民営化は見直す点でぶれはない。ただし、どのように見直すかについては食い違いも見られ、今後の調整が待たれる。いずれにしても、形骸化している「ユニバーサルな」郵便局を維持・再建することは必要である。
  5. 農家の戸別補償については、量産品や標準化産品ではないのでその具体化は困難が予想される。

 中小零細企業や住宅ローンの返済猶予を金融担当相が提起した。財務相や多くのエコノミストはその必要は少ないとの認識を示し、銀行界は手足を縛られ経営が苦しくなると反対し、銀行株は下がっている。しかし中小企業を救うため、金融機関が貸し渋りをかえって起こさないように配慮し、金融機関に対する政府補償も含めて具体化を決定する。政府系金融機関の再活用も検討すべきである。
 
 143のダムについてはかなり工事が進捗してしまったものもあり、(諫早湾水門の開門とともに)民主党内でも意見が分かれている。関係する自治体(関係県の負担金の返還や地元自治体の財政)や住民(生活や営業)との十分な話し合いと補償が必要である。
 
 福島・社民党党首が就任した少子化、消費者、男女共同参画、食品安全の担当大臣にも、生活に密着した課題が多数待ち構えており、保育・学童保育、教育の拡充など着実に期待に応えていかなければなるまい。消費者庁の入居ビルは高家賃なので転居の検討から始まった。辻元議員が国交省副大臣に就任したが、ダム、航空・空港、道路の見直し、観光振興など課題山積である。民主党との政策の違いを乗り越えて連立に参加した以上、社民党は全党挙げてしっかりと支え、その中で力をつけていかねばならない。
 
 いずれにしても、新政権の最大の役割は「生活再建」であり「内需拡大による景気回復」である。新政権のスタートダッシュに対して国民は「従来の政権交代とは違うな」と感じ始めている。この期待を裏切らないように、与党間ならびに閣僚間の意思疎通を図り、閣僚委員会・閣議を活かし官僚を使いこなしていかなければならない。政策をまとめ、補正予算の見直し、来年度予算編成の基本方針をまとめ上げなければならない。国家戦略局や行政刷新会議がどのような機能を発揮するのか、最終的な権限や責任は組織的にどう整理されるのかは今後問われていく。三党の党首会談は「基本政策閣僚委員会」で行なわれ、三党幹事長会議などでも与党間の調整を行うことになった。

■3. 取り巻く国際情勢と外交課題(経済、安全保障、環境)

 鳩山首相は9月22日に国連総会恒例の首脳会合で外交デビューした。最初に中国・胡主席と会談、日中の戦略的互恵関係を確立し東アジア共同体をめざしていくことを確認した。次に、気候変動サミットで「温室効果ガスを20年に90年比25%削減」を公約し、アメリカや中国、インドなどに積極的な参加を呼びかける布石を打った。続いて米オバマのほか、韓、露、英、豪などとの首脳会談を開き、信頼関係の構築に向けた顔合わせを行った。さらに核不拡散・軍縮を課題とした安保理首脳会合で「被爆国の責任において、非核三原則を堅持し核廃絶に取り組む」と演説し、議長のオバマ大統領とともに世界に核廃絶を呼びかけた。こうした一連の外交デビューは国際的にも国内的にも高い評価を得た。
 
 並行して、岡田外相はクリントン国務相と11月に行われる日米交渉に向けて下慣らしを行ったが、微妙な問題についてはノーコメントであった。来年1月のインド洋上の給油活動打ち切りについては、代替の日本の民生支援強化策をアメリカは事務レベルで内諾した模様である。沖縄の基地問題などで「SACOでの日米政府間の合意については守ってほしい」とアメリカが言うのは当然だが、日米の信頼関係を壊さず、しかし徐々に沖縄県民の負担を軽減し、アジア諸国の不安を取り除く方向に交渉を進めなければならない。「米軍再編問題を100日以内の課題に」ともしているが、普天間基地は辺野古あるいは嘉手納基地への移転ではなく、国外への移転を追求すべきである。地位協定や日米軍事一体化の見直し、核持込み禁止、思いやり予算廃止(実際はほとんどが人件費に使われているので善後策が必要)も重要な課題であるが、予断を許さない。米軍基地に関する諸問題の解決は沖縄の経済建設、アクション・プログラムの実現へのロードマップとも関連するので、沖縄県民と全国民の共闘・監視が必要である。また外相は「11月末までに核密約についての調査」を外務省に命令している。これは今後に向けた重要な情報開示の一環である。
 
 日朝国交正常化について外相は「核や弾道ミサイル、拉致の問題の解決抜きに国交正常化はない」と再三述べているが、これは従来のように敵視し交渉の窓口を閉ざして制裁を強化するという意味ではなく、交渉を進めるために北朝鮮の軟化を迫る要素が強い。最近の北朝鮮はアメリカや韓国との交渉ならびに六者協議の再開に応じる可能性を強くにじませており、離散家族の再会にも応じた。おりしも、蓮池兄が「自由な議論ができない世相に危険なものを感じていた」と口を開き、横田(前)、飯塚(現)拉致被害者家族会会長の発言も「制裁強化」から「早期解決」に転換してきている。平壌宣言から7年、日本も米中韓の協力を得ながら前向きに対処すべき情勢になっている。自公政権の制裁一辺倒の強硬路線を変更し、米朝協議の進展と歩調をあわせて日朝国交正常化交渉を精力的に進めるべきである。その方が問題解決への早道であり、東アジア共同体や北東アジア非核地帯設置に向けた一里塚にもなる。

■4. 財政再建と経済成長戦略

 現在、企業は設備投資も雇用も増やさないから本質的な景気回復にはほど遠い。逆に、暮から年明けにかけて二番底の心配もあり「また年越し派遣村ができるのではないか」との危惧も強まっている。7月の失業率は5.7%だったが、雇用調整助成金に頼って失業をまぬかれている労働者数を考慮すると、実質9%台でアメリカとちょぼちょぼだとの見方もある。中国など新興国とアメリカの景気回復に期待するほかない状態である。
 
新政権は「バラマキ」と言われようが、直接国民の財布を潤して消費購買力を増やすことが内需拡大・景気回復につながる成長政策とみなしている。自公政権は企業を儲けさせてこそ財政も国民生活も豊かになるという立場の政策であったが、新政権はその逆に消費購買力を向上させなければ景気は回復しないとの立場であり、子ども手当は定額給付金と異なり半恒常的で内需拡大と少子化対策を兼ねるもので有効であると考えている。
 
各種の生活再建策には財源が必要である。そこで、補正予算の再精査などによって当面7.1兆円の財源を生み出そうとしている。歳出の削減では、官僚の天下り先団体への駆け込み的な基金をはじめ、2、で述べたような中止・見直しのほか、各省庁に(ムダはないと答えるので)「優先順位の下位」5項目を洗い出すよう命じている。閣僚委員会などでも官僚の説明を聞くだけでなく、厳しく再検討を命じている。しかし、生活関連予算は元々足りないぐらいなので削減は困難である。歳入増では、特別会計の洗い直しで埋蔵金の活用を図るほか、税調を政府税調に一本化し、消費税の値上げは行わないが、タバコ税、租税特別措置などの見直しを進めるが、国債は増発しない予定である。
 
また、新時代の産業政策としては、従来からの高度資本財(素材から工作機械まで)の物づくりの発展に加え、ソーラーなど環境産業の発展、福祉や医療、教育の充実の中での雇用増大や関連産業の高度化、ナノ・テクノロジーの多様な活用、観光産業の振興などを上げているが、こうした成長政策の具体化はこれからである。アメリカのサマーズ元ハーバード大学長(元財務長官)の指摘「日本では全産業分野が整っていてベンチャーが生まれ成長する余地がほとんどない」の検討を深めると同時に、すぐ企業に役立たないが将来役立つ基礎研究に財政支援を行うことも長期的な景気対策につながる。また、北欧諸国のように教育条件を整備し国民全体の教育水準を高めることは近未来の知識産業時代に適応できる創造力を養うことになり、中長期的な景気対策を準備することになる。

■5. 大きな政府か小さな政府か

 アメリカではオバマ政権が国民健康保険制度の導入をめざしているが、共和党のみならず国民の中にも「大きな政府反対論」が根強くあり、実現は楽観できない。日本では年金も医療も崩壊の危機に立っているが、他の施策も含めて「大きな政府か小さな政府か」が問われている。このとき忘れてならないのは、給付と負担の関係である。
 
 ヨーロッパとくに北欧諸国では国民負担が7割の国もあるが、子どもの教育も医療も老後や障害者の年金などの福祉政策も生活保障住宅も充実していて、家計からの出費が少なくてすむので、国民の負担感は大きくない。万が一に備えた貯蓄の必要性もないので消費は安定向上している。確立した福祉制度と政治が信頼され、政府が代わっても大きな変更ができないほど定着している。負担に対する給付が納得できるものなのである。企業は「社会的負担は重い」と感じているが、企業内福祉が必要なく、雇用・失業問題も「社会保障政府(労働組合が所管、中央・地方の政府と経営者団体が参加)」で円滑に処理され、高い水準の教育と高度な知識産業に耐えられる労働力訓練が社会的に行われているので、我慢あるいは肯定できるのである。「高福祉・高負担は経済活力を奪う」は日本の保守勢力のデマである。日本の企業や労組の啓発も必要である。
 
 財政出動による道路、ダムなどの公共事業の増大はかつてのような経済波及効果を持たないだけでなく、政官業の癒着の温床となり財政を苦境に陥れたので、この点では小さな政府にすべきである。しかし、福祉社会のための施設建設や省エネ・環境・美観の面で有効な建設は必要であり、一方、建設労働者の移転先を創らねばならない。
 
 北欧などヨーロッパでは、中央と地方の役割が「補完の原則(基礎自治体がもっとも身近な行政を、その足らざる点を県などが補完し、県ではやりきれない仕事を中央政府が行うという考え方)」の下で分担されている。生活に身近な課題は身近な自治体で行うほうが、日本のような二重行政や縦割り行政による無駄遣いがなく、効率的な財政運営ができる。地方分権はケインズ主義の中央主導の限界を補い福祉社会を創造する重要な手段である。選挙中も直轄負担金の不当性を訴えた知事会や特定市長会、町村長会などが財源をすぐにでも5:5にするとか、国と地方の対等な協議の場を求めてアピールを行ったが、当然である。総務相は「国と地方の協議の場を、法制化を待たずに実現する」「補助金を11年度から『一括交付金』にする」などと述べ、地方分権を推進する決意を表明した。

■6. 真の男女平等参画、差別のない社会に向かって

「原始、女性は太陽であった」「天の半分は女性が支えている」という言葉がむなしく聞こえる時代が長く続いてきた。ほんの一握りの女性を除いて、職場でも家庭でも女性は虐げられ、蔑まれてきた。しかし、福祉社会を創造するには真の男女平等が必要である。女性が子どもを産み育てる過程でも働き続けられ、同一価値労働同一賃金を保障される社会は、多様な差別を克服するヒューマンな社会でもある。クオータ制度やアファーマティブ・アクションも含めて、速やかかつ着実にその実現に向けて努力を続けなければならない。
 
 また「弱肉強食の競争至上社会が最も活力を生むという考え方(新自由主義)」を「人間の絆や連帯による協調社会が基礎にあってこそ競争も実りあるものになるという考え方(社会民主主義)」に代えていく必要がある。この転換は制度政策を変えたらすぐに実現するわけではない。日常生活の根底的な考え方を変えるまでには非常に長い時間がかかる。女性差別撤廃条約の本旨を活かして男女の協力や連帯が生まれ向上するのに比例して実現していく。少子化、食品安全、消費者、男女平等参画はある意味で一体のものであり、女性の雇用や労働条件、若者の雇用や賃金と関連付けて解決を図っていかなければならない。  
 昨秋以降の大不況で失業に直面したのは日本人労働者に負けず劣らず日系中南米人など外国人労働者たちであった。ご都合主義的に期間工などで採用し不況になったら街頭に放り出すことや、技能実習制度などを悪用して外国人労働者を非人間的に搾取することは許されない。戦前からの在日韓国・朝鮮人なども差別を受けながら生き抜いてきたが、この不況で日本人以上に生活苦に追い込まれている。課税や健康保険などの福祉政策ではかなり日本人と同じ扱いを受けているが、地方参政権など多くの権利が制約され、欧米諸国より厳しい。男女平等社会を創ると同時に在日・滞日外国人労働者の権利を擁護し、安心して働き生きていけるようにしなければならない。「内なる国際化」の進展は将来の労働力不足を補う外国人労働者の移入への準備としても必要であることに留意すべきであろう。

■7. 今後予想される政治闘争と社民党・労働組合の役割

 9月28日、谷垣が若手の河野や西村を破り自民党総裁に選ばれ、早速、来夏の参院選の準備に取りかかる。自民党再生を望む国民は少なくないが、政界再編を含む反撃力は大きいとは思われない。連立政権や民主党が大きなエラーをしない限り、厳しいだろう。
 
ただ、

  1. 4年間消費税を上げずに財源が足りなくなりやっていけるわけがない、
  2. 日米基軸とインド洋上の給油活動の中止、地位協定の見直し、普天間基地の県外移転、辺野古への移転反対などは矛盾し、民主党と社民党の意見に隔たりがある、
  3. 環境は重要だが、財界の指摘するように国民と企業に大きな負担をかける、諸外国も本当に巻き込んでいけないなら絵に描いた餅に終わる、
  4. 八ツ場ダムなどの工事中止は関係住民や自治体の声に沿うべきで、かえっていろいろな経費がかかり生活や地域経済を破壊する、
  5. 国民へのバラマキは貯蓄に回って景気回復につながらない、

などと政府批判を強めるであろう。
 
 公明党は八ツ場ダムの工事中止については政府批判をしているが、今後は自公共闘を清算し、(与党病的体質を考慮すると)政権にすり寄ってくる可能性がある。共産党、みんなの党は今のところ「良い面には協力する」として政府批判はしていない。
 
 官僚は圧倒的な安定政権の前に、4年間は解散がない可能性も感じ取り、全体に恭順の意を表している。自民党一辺倒だった農水省や国交省の事務次官が手のひらを反すように「新政権に全面的に従います」と態度を豹変させ、官僚のしぶとさを改めて見せ付けた。政権と財界、自民党との間をうまく泳ぎ調整する役割で存在意義と矜持と既得権益を保とうとするだろう。政治が官僚を指導する力が持てるかどうかが問われる。
 
 マスコミの多くは財政や安保、労働問題などを意識して「行政や外交の継続性を考慮すれば微妙な軌道修正は許される」と論評している。また、一部は千葉法務大臣の「国民の目線に立って検察の暴走をチェック」発言について「小沢や鳩山の政治資金報告の問題に指揮権を発動するようなものだ」と批判した。マスコミは本来権力者や政権を批判するものであるが、自民党政権時代は自主規制したり、お伺いを立てたりした。新政権はFCCを検討するなど放送内容に不介入だから、主体的で自由な報道を根付かせていくべきだ。
 
 順調にスタートした連立政権だが、どんな難関が待ち構えているかは予測がつかない。また、来夏の参院選で民主党が単独過半数を獲得すれば連立の必然性がなくなるとの見方もある。しかし、世論は「民主党中心の連立政権」が「民主党単独政権」や「民主・自民の大連立政権」より多い。社民党は連立政権に入った以上、全力でこれを支え、誤った道に踏み入らないようにしなければならない。安易に離脱を考えてはいけないが、同時に「下駄の雪」になってもいけない。厳しい状況判断が問われ続けるであろうが、絶えず勤労国民の実体や意識を的確に把握し正しい判断を下すよう全党の力量を強化していくべきである。
 
 そのためにも、革新的な無党派国民各層との連帯をさらに強めなければならない。労働運動の強化は絶えず続けるべき課題であるが、連合の主要組合が民主党支持を外すことは当分ないだろう。非正規を含む労働者全体を考慮し、いわゆる「庶民」全体のための政治をめざす勢力と幅広く共闘し、その基盤を広く大きく強くしなければならない。社民党は連立政権の中で未来への架け橋に、あるいは政治の品質保証役になり、民主党が保守化せずに「国民の生活が1番」や、憲法九条などを活かした平和外交を貫くようにする責任がある。
 
 北大・山口教授が社会新報で提起している「社民党の選択(民主に入って左派を支える)」は、党員・支持者の意識を考慮して慎重でなければならない。それよりも参院選を幅広い社民勢力を結集して闘おう。

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