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●2009年6月号
■経済危機対策と09年度補正予算案の問題点
  飯山 満
     

■1. はじめに

 麻生首相は、かつてのバブル崩壊後の対応を引き合いに、「堂々と日本の経験として語れる」とするとともに、「大胆な対策を打つことで、世界で最初に不況から脱却することを目指す」と言ってきた。そして

  1. 「安心実現のための緊急総合対策」11.5兆円
      (08年度第一次補正予算1.8兆円)
     
  2. 「生活対策」26.9兆円
      (08年度第二次補正予算4.8兆円)
     
  3. 「生活防衛のための緊急対策」37兆円
      (09年度当初予算)
     
と、財政支出規模で12兆円、事業規模で75兆円もの、いわゆる「三段ロケット」の対策を打ち出した(資料1参照)。
 

 (資料1)
 
 本来、こうした「三段ロケット」の効果や、「積極予算」となった2009年度当初予算や公共事業の前倒し執行の効果を検証するのが先決であるが、実際は「100年に1度の経済危機」に対処するとして、当初予算の審議中から補正予算が取りざたされていた。そして4月27日、2009ねんど本予算が成立して1カ月足らずで、事業規模で56.8兆円、財政支出で15.4兆円もの、過去最大規模の超大型補正予算案を提出した(注)
 
 麻生首相自身、「平成21年度予算の成立こそ最大の景気対策」と強弁していたにもかかわらずである。このことは、政府自ら「三段ロケット」論の見通しの甘さや当初予算の欠陥を認めたことにほかならない。
 
 麻生首相は、「過去最大」にこだわる一方で、「バラマキ」批判を気にしてか、当面の需要の創出とともに、将来の成長につながる「一石二鳥」の施策として、「ワイズ・スペンディング(懸命な支出)」(吉川・経済財政諮問会議民間議員)を厳選したことを強調する。さすがに、「景気浮揚効果は限定的で、負担は将来に回る。このようなバラマキでは、将来的に消費税などの増税をしようとしても国民の理解は得られない」(井堀東大教授)との批判が出るほど、規模あり気のなんでもありの衆議院選挙対策のバラマキである。
 
 そこで本稿では、麻生政権の補正予算案とその前提となっている「経済危機対策」について、働く者、社会的弱者の視点から、どういう狙いや性格のもので、どういう問題点があるのかについて、明らかにしたい。
 
【注】
補正予算の規模について、一般会計追加額の合計は14.7兆円だが、他方、経済緊急対応予備費の減額0.85兆円の修正減少を行うこととしているので、補正による一般会計歳出総額の増加自体は13.9兆円となる。しかし、贈与税減税が0.1兆円あり、雇用調整助成金の0.6兆円は労働保険特別会計の資金を使うため、経済危機対策で追加される「真水」と称される追加財政支出の総額は一般会計追加額14.7兆円に0.7兆円を加えた15.4兆円となる(資料2参照)。  

 (資料2・クリックで拡大します)
 

■2. 経済危機対策の経過

 今回の対策の空前の規模は、よくいえば経済危機の深刻さをあらわすものだろう。経済対策の真水15.4兆円は、2009年度当初予算の一般歳出(51.7兆円)の約3割に相当するし、ハンガリーやニュージーランドのGDPにもほぼ匹敵するほどの巨額なものである。日本国民一人あたりでは約12万円の支出増となる。
 
 まず麻生政権の支持率が上がらないことに気に病んだ政府・与党が、衆議院総選挙や都議選に向けた、いわば起死回生のための対策として大きく上積みされたものである。
 
 自民党の「日本経済再生戦略会議」(町村信孝会長)は、4月15日、「3年間で過去最大級のおおむね40兆円」の規模を目指し、低炭素経済、健康長寿や子育ての安心を柱とする成長戦略である「日本経済再生への戦略プログラム」の最終報告をまとめている。その過程で、「選挙で勝てる数字が必要」として、「チョウチョウ(兆、兆)が飛んでいる」と威勢のいい声が上がっていた。都議選を控える公明党も、定額給付金に続く「成果」として、社会保障分野で「子育て応援特別手当」の拡充などを狙っていた。こうした与党の動きに対し、日ごろ予算を取れなかったものの、平時なら簡単には認められないものも含めて、各省もドンドン積み上げた。
 
 また、経済界も日本経済全体の需要と供給能力との差である「需給ギャップ」が20兆円から30兆円程度あることから、財政で見てほしいという。しかし、冷え込んだ需要を財政がすべて穴埋めすることはできないし、「小さな政府」こそが正しい道と主張してきた経済界が大型の経済対策を求めること自体、おこがましい。
 
 さらに、4月2日のG20金融サミットでは、世界経済の成長率を4%引き上げることを目標にし、各国が景気刺激策として積極的な財政出動(総額5兆ドル)を出動させることで合意した。そこで、麻生政権はG20合意にもとづき世界のさきがけとなるべく大型補正予算に踏み切ったともいえる。
 
 なお今回、麻生首相は、各界有識者の様々な英知を結集しようと、経済危機克服のための「有識者会合」を開いた。各界の意見をきいて政策に反映させようとしたこと自体は評価できるが、「みんなの声を聞いたぞ」という形式だけとりつくろったにすぎないし、「いいとこどり」された感も否めない。
 
 かくして、「100年に1度の危機」からの脱却を名目として、選挙目当て、財界の要請、国際的な要請によって、中身より規模が先行詞、党利党略的な施策や、企業優遇、富裕者優遇、業界支援策が多く盛り込まれるものとなった。
 
 政府・与党も内需重視を口にはするが、なぜ内需が落ち込んでいるのかについての分析と反省に欠けている。今回の補正に「世界金融・経済危機に関する調査研究費」1億1200万円が計上されたが、まずもって今の危機的な経済状況をもたらした、小泉・竹中改革路線の破綻を認めるべきである。
 

■3. 補正予算案の経済効果

 15.4兆円の真水(財政支出)を投入する政府の経済危機対策と補正予算案は、「全治3年」(麻生首相)といわれる日本経済を回復の道筋に押し上げることができるのか。与謝野馨財務・金融・経済財政担当相は、「社会的なインパクトの大きさは相当なもんだ」(5月8日の閣議後会見)というが、学者やエコノミストの間では評価を二分している。
 
 内閣府によると、「経済危機対策」は、「短期的な危機(「底割れ」のリスク)と構造的な危機(世界経済の「大調整」への対応)に対処するものであり、本対策の経済効果としては、09年度実質GDP成長率を2%程度押上げ、また、需要拡大による40〜50万人程度(1年間)の雇用創出が期待される」としたうえで、「日本経済の景気の底割れは回避され、民間需要主導の経済構造に向けた転換が着実に進行し、中長期的に持続可能な経済成長を目指すことが可能となる」としている。そして、「09年度後半から太陽光発電、環境対応車、グリーン家電等の民間需要が増加するに従い、上向きの力が強まっていく」、「生産・所得の前向きの動きが徐々にそろうことによって、民間需要主導の成長経路への展望が開けてくる」と明るい展望を打ち出している(資料3、資料4参照)。
 

 (資料3・クリックで拡大します)
 

 (資料4・クリックで拡大します)
 
 09年度実質GDP成長率を2%程度押上げるというが、このうち低燃費車や省エネ家電の買い替え補助の恩恵を受ける民間消費は0.7ポイント、公共事業は0.6ポイントを占めるとされている。
 
 しかし同時に、内閣府は「我が国経済は民間活動がその主体をなすものであることなどから、数値は幅をもって考えられるべき」、「底入れの目安について確たることを判断するのは時期尚早」とも述べて、上手くいかなかった場合の予防線も張っている。
 
 こうした経済効果の試算は、国内で生産された財・サービスが各産業や家計にどう販売されたかを5年ごとに総務省がまとめる産業連関表にもとづいて算出される。直近の統計は05年のため、最近の世界的な景気低迷による影響はそもそも反映されていない。
 
 しかも総花的バラマキで、実効性が上がるのだろうか。確かに必要な施策も含まれてはいるが、必要なものならば本予算に組み込めばよく、突然「景気対策」として出すのはおかしい。かえってインパクトが薄まるのではないか。
 
 今回は、環境対応車(エコカー)購入支援と省エネ家電の購入補助制度(エコポイント)が経済活性化に向けた目玉としてあげられている。確かに、買い替えサイクルを復活させる呼び水効果が期待できるとか、自動車と家電は部品メーカーなど関連業種が多く、高い波及効果が見込まれるという指摘もある。
 
 環境省や経産省は、エコポイント制度の経済効果は焼く4兆円、年間のCO2削減効果は400万トンとしている。一方、総務省は5月7日、エコポイントに5%分を上乗せする地デジテレビ促進策などIT関連施策(補正予算750億円)により、09年度の販売台数が約450万台増えると予測し、平均価格10万円として約4500億円の効果があり、関連サービスなどを含め1兆1250億円が見込めるとしている。さらに地方の高速インターネット回線の普及や携帯電話の通話エリア拡大支援など他の対策も合わせると、2兆5000億円に達するとはじいている。
 
 だが、買い替え需要を喚起しても、家計の所得が減少している現状では、他の支出を削って振り替えるだけで、個人消費全体を底上げする効果は限定的ではないか。また、ここ数年の需要喚起の後は大幅な需要減がおそってくるのではないか。
 
 補正予算案の財源確保のため大量発行する国債が、景気回復の足を引っ張る可能性もある。国債の発行によって市場のカネを吸い上げることで、企業の資金調達コストが高くなり、業績が悪化するおそれがある。また、本来民間に回るべき資金を国が横取りして使うだけともいえなくもない。金利上昇による国債の時価の下落は、銀行の抱える国債に数千億円規模で含み損を抱えかねず、金融機関の貸し渋りにもつながりかねない。
 
 しかも、将来の消費税率引き上げが控えていて、いまの財布のひもがゆるむのか。結局、財政支出15.4兆円のうちどのくらいが、成長・雇用に寄与するのかは確定できるものではない。成長戦略の実行により、2020年の国内総生産(GDP)を08年度比で120兆円押上げるという試算も夢のまた夢だろう。
 
 

■4. 補正予算案の問題点

●形だけのエコ、実は業界支援
 ドイツの「環境奨励金」の支給(スクラップインセンティブ)やアメリカの燃費効率の良い新車に買い換える際にバウチャーを発行することに範をとったのか、「エコカー」支援4066億円と「エコポイント」制度2946億円が目玉になっている。
 
 しかし「低炭素革命」を本気でやろうとしているのか疑問である。具体的にCO2削減など低炭素化に向けてどの程度寄与するのか不透明である。以前より消費量は小さいとはいえ、電力消費量が多いテレビほどポイントが高くなるのも変だ。買い換えられたテレビや自動車も膨大なごみになりかねない。本当に低炭素化を進めるつもりなら、自動車・家電メーカーに対し、より厳しい排ガス規制や省エネ基準のハードルを課すべきである。
 
 この間の高速道路の割引やエコカー減税という自動車優遇政策によって、フェリーや鉄道など地球にやさしい公共交通にしわ寄せが出ており、マイカーに頼らなくてもいいまちづくりや地域づくりにもっと大きく踏み出すことが必要である。
 
 結局、環境対策というよりも世界不況で輸出が急減した自動車や家電といった特定業界の要望に応えた要素が強い。自動車や家電の販売不振に対して消費喚起を目的とするのならば、家計に安心をもたらすよう、雇用の安定、賃金引き上げなどの個人消費活性化策を講じるべきだ。メーカー自ら若年労働者を低い賃金でこき使っておいて、車や家電を買ってくれというのも虫がいい。
 
 
●大企業・大金持ち優遇は目白押し
 企業の国際競争力強化に向けた研究開発投資を後押しするため、研究開発減税の適用条件も緩和され、減税枠の拡充や繰り越しも認められる。4年間で2000億円〜3000億円の減税効果と見られている。
 
 先端分野で活躍する研究者に支給する研究基金の創設など、科学技術振興費も総額9000億円規模に上る大盤振る舞いとなっている。
 
 地域の飲食店などでの消費増を期待し、中小企業(資本金1億円以下)の交際費課税も、定額控除の限度額を現行の年400万円から600万円に拡充される。よく高級ホテルのバーに通う首相と違い、厳しい中小企業に接待を増やす余裕はあるのか。
 
 住宅購入・増改築を推進するため、贈与税の非課税枠を通常の110万円から610万円に拡大する。しかし、現状でも資産課税は優遇されている上、過去最大規模の住宅ローン減税とダブルとなる。かたやハウジング・プアといわれる方々が路頭に迷う中、富裕層を一層優遇する格差拡大税制である。約1400兆円の個人金融資産の動きの活性化というなら、相続税を強化してはき出させるべきである。
 
 中堅・大企業向けでは、日本政策投資銀行や商工中金を通じて行っている融資枠が当初予算の1兆円から9兆円に拡大される。
 
 公的資金による株価の下支えは主要国で異例だが、政府保証をつけて細大50兆円で株式を買い取る政府機関の新設まで行われる。
 
 停滞する民間の再開発事業を公的資金で支援するため、3年間で7000億円の規模で、民間都市開発推進機構による低利融資や年再生機構による土地取得を進める。また、不動産関係では、官民一体となったファンドの創設や日本政策投資銀行等によるJリートへの支援が充実される。「資産デフレ回避のために非常に意義深いものである。ご尽力いただいた関係者に感謝申し上げたい」(不動産証券化協会・岩沙理事長)というように、業界支援策そのものだが、民間事業への政府支援は異例であり、将来の損失懸念もある。
 
 住宅ローンの借り入れ支援策として、住宅金融支援機構の「フラット35」を頭金なしでも利用可能とするが、「借りすぎ」を誘発しかねず、日本版サブプライム・ローンになるのではとの懸念がぬぐえない。しかも機構にマンション業界支援融資の任務も与えるのは行き過ぎだろう。
 
 
●制度の本質に踏み込まない場当たり的な弥縫策
 世論受けするような選挙向けの場当たり策もオンパレードである。
 厳しい雇用情勢を受け、生産量が縮小しても企業が従業員を解雇せず、休業などでしのいでもらうための雇用調整助成金6000億円を含む総額2兆5128億円の緊急雇用対策費が盛り込まれた。すでに昨年度の100倍以上の雇調金となっているが、雇調金の財源である企業負担の雇用保険ニ事業特会の残高は1兆円余りで、もうすぐ限界となる。
 
 雇用保険と生活保険の間の第二のセーフティネットとして、緊急人材育成・就職支援基金7000億円を設けて、訓練・生活支援給付の支給(単身者:月10万円、扶養家族を有する者:月12万円)及び貸し付け(それぞれ上限月5万円、月8万円)を行うことが盛り込まれた。野党や運動団体の要求に応え、雇用保険を受給していない人の職業訓練期間中の生活を保障するためのものであるが、3年間の時限措置である。水準をアップさせるとともに、恒久的な制度として設けるべきである。
 
 本来、消費を刺激するためにも雇用の安定が重要である。例えば、介護職員処遇改善も4773億円計上されているが、事業者経由であり実際に介護労働者の賃上げに使われる保障はない。「雇用創出対策費」の追加も3084億円にすぎない。
 
3万6000円の「子育て応援特別手当」の第一子への拡充は、1年限りであり、少子化対策というよりも選挙対策といえる。与謝野大臣自身も「1年限りで終わるはずがない」と反対したと報じられている。安心こども基金関係費として1500億円が別途追加されるが、安心して子どもを産み育てる環境こそ構築すべきである。10年は必要といわれる医師不足対策も3年限定となっている。また、女性のガン対策や福祉施設の耐震化、教育費負担支援対策も盛り込まれてはいるが、不十分である。
 
 後期高齢者・障害者などの負担軽減策も計上されているが、後期高齢者医療制度や障害者自立支援法の抜本改正こそ踏み込むべきである。
 
 今回、国直轄事業への地方負担金の問題が明るみになったこともあり、地方が「無い袖は振れない」とばかりに国の対策にはつきあえないと声が大きくなった。そこで、地方への配慮として、地域活性化・公共投資臨時交付金1.4兆円と地域活性化・経済危機対策臨時交付金1兆円が交付されることになった。しかし地方交付税を抜本的に増額するとともに、直轄事業負担金を廃止すべきである。
 
 
●基金の乱造、予算単年度主義の形骸化
 自治体などにお金をプールし、複数年度の支出を確保する狙いから、総額」4.3兆円にのぼる46種類もの基金が作られる。うち30が新設であり、補正でこれだけ多くの基金を設けるケースは異例のことである。46基金のうちの22が農林水産分野で計0.7兆円、社会保障分野は11の基金に2.8兆円を計上している。これらの基金は、憲法第八六条や財政法第一一条の予算単年度主義を形骸化させる懸念も強い。
 
 なによりも基金の具体的な使途が各省庁に委ねられ、省庁が国会の審議を経ず数年にわたり、ある意味で自由に使えることになる。基金の使途や効果に関するチェックが不可欠である。背景には、単年度では消化困難なほどの予算が計上されてしまったため、とにかく枠取りしたということがある。
 
 
●公共事業と施設費
 麻生首相は、「未来の成長につなげることを重視した。公共事業も15兆円のうち2.4兆円に抑えた」と胸を張るが、「ワイズ・スペンディング」も名ばかりで、底力発揮・21世紀型インフラ整備と称して、この間抑制してきた道路や橋梁、港湾、新幹線などの従来型の大型公共事業も大盤振る舞いとなっている。
 
 たとえば、「国土のミッシング・リンク」は、さまざまな理由で建設が中断されて高速道路、環状道路などがつながっていないため機能が発揮できない「失われた輪」のことだが、首都圏では、首都高速中央環状線、東京外郭環状道路、首都圏中央連絡自動車道といった環境面などから問題の多いものが含まれており、反対の市民運動も大慌てで対応している。
 
 また、公共事業費のなかの「その他施設費」も、補正によって当初予算の4倍以上の2兆8969億円が追加されている。耐震化や太陽光発電の導入などを名目に、役所の施設費や営繕費が予算項目の中にズラリと並んでいる。「役所の悪乗り」ともいうべきものも多く、たとえばアニメやマンガ、ゲームに関する展示を行う「国立メディア芸術総合センター(仮称)」の建設費用など、本当に緊急に打ち出さなければいけないものなのか、疑問が残る。
 
 
●民営化の破綻
 経済対策で融資枠が増える政府系金融機関に対し、財務基盤の強化のために増資が行われる。日本政策投資銀行と商工組合中央金庫の「完全民営化」も3年半延期される。この間の政府系金融機関の民営化の行き詰まりを意味するといえよう。
 
 
●やりたい放題
 ソマリア沖・アデン湾における自衛隊の海賊対策費や、「社会保障カード」の導入、街頭防犯カメラ、ラチ問題関連情報の収集経費まで、もっけの幸いとばかりに予算が付けられている。
 
 
●借金の拡大と巨額の財政赤字
 補正予算案は大半が国債発行でまかなわれ、追加発行額は10兆8190億円(建設国債7兆3320億円、赤字国債3兆4870億円)となっている。日本の人口1人当たり約8万5000円の借金が増えたことになる。一般会計の総額は補正によって102兆円を超えるが、税収を上回る44.1兆円が国債であり、歳入に占める国債発行額の割合は43.0%と、戦後最悪になる。
 
 09年度末には国の債務残高だけで、初めて900兆円を突破する見通しであり、「世界一の借金王」と自嘲した当時の小渕首相も「びっくり」する異常事態である。「ぼろぼろになった旗だが一応立っている」(麻生首相)というが、「2011年度に基礎的財政収支を黒字に」という政府目標は達成不可能になっている。
 
 
●粉飾疑惑〜税収見通しの修正せず
 政府は、今年度の実質成長率の政府経済見通しを当初の0%からマイナス3.3%へと大幅に下方修正し、08年度分もマイナス0.8%からマイナス3.1%とした。しかしこれに伴う税収の減額補正はなされていない。すでに08年度の国の一般会計の税収が補正予算を3年連続で下回ることが、ほぼ確実になっており、09年度の税収も30兆円台後半から40兆円台前半に落ち込む見通しにも関わらずである。
 
 また、2009年度後半の需要減についてどう対応しようというのかもわからない。市場では早くも第二次補正予算に注目が集まっているという。大幅な税収減と「霞が関埋蔵金」の枯渇を受けて、国債の追加発行で帳尻合わせをするのだろうか。
 
 
●狙いは消費税率アップ
 昨年末に定めたばかりの「中期プログラム」を改定する方針が明示されたが、社会保障財源として消費税引き上げの道筋を示したといっていたのに、改定により財政赤字の削減にも消費税を当てる可能性が出てきた。
 
 いつもは放漫財政に厳しいはずの財政制度等審議会が、過去最大規模の財政出動を「妥当なもの」と容認し、「対策後の財政再建への道筋を明示することが必要」であるとして、消費税増税を含む税制改革について意見をまとめることになっている。
 
 麻生首相は「景気回復後、消費税を引き上げる」と述べており、また、与謝野馨財務・金融・経済財政相も「たくさん(お金を)使ったので、それを取り戻す必要がある」と発言しているように、今回の史上最大規模の対策のツケを将来の消費税率引き上げで国民が払うことになる。総選挙向けに今は配れるだけ配っておいて、3年後に永続的な消費税アップで取り返そうという「悪質サラ金的な手法」では、消費刺激にも格差是正にも逆効果である。
 

■5. あるべき対策

 今、必要なのは、量や額を競うことより、あらゆる分野の格差是正に資する内需拡大策や、「改革」の名によって壊された社会保障制度の再生、環境分野をはじめ将来を見据えた産業育成・雇用創出策に重点を絞ることである。子育て、介護、医療、福祉、環境、農林水産業、交通、地域など、「構造改革」で切り捨てられてきた人間社会の基盤維持に関わる領域や、誰もが人間らしく生活していくために必要なサービス・産業を中心とした内需に、経済の軸足を本格的に移していかなければならない。
 
 社民党は「構造改革」路線から決別した「もうひとつの道」を具体化した、日本経済再建策として「いのちとみどりの公共事業」〜「ヒューマン・ニューディール」〜を提唱している。また、民主党も、「環境のニューディール」と「安全・安心のニューディール」構想を打ち出している。老後や雇用に不安を抱えていては、現在の消費も抑えざるをえない。
 
 G8労働大臣会合の議長総括も、「人々への投資が、生産性を高め、回復を奏功させるための不可欠な手段である」としている。医療・介護・福祉、年金、教育、雇用の安定などにお金を優先的につぎ込み、国民の安心・信頼を回復させる。
 
 そして、エネルギー政策を石油などの化石燃料依存から太陽光、風力など再生可能な自然エネルギーに転換させることで、環境重視へと産業構造を変える。「いのちとみどり」の分野は、一石三鳥・四鳥もの投資効果があり、未来に向けた安心を生む公共投資として将来の日本の中長期の成長力強化と雇用拡大につながる。
 

■6. 最後に

 金融依存からの脱却が求められていたのに、現実は逆に、資本主義は金融依存を深めなければ増殖運動を維持できず、バブル崩壊・不況化を繰り返すことによって生き残り続けようとする。しかし、資本主義経済を基盤とする国家の支えがある以上、バブル崩壊・不況自体によって資本主義の経済体制が滅んだり、、終わったりすることはない。今回の補正予算案に見られるように、選挙対策としてのバラマキと同時に、資本や企業の利益を守り、資本主義体制を維持しようという性格が濃厚である。だが、資本主義が生き残り続ければ続けるほど、優先的に守られるのは資本・企業の利益と存続であり、真っ先に切り捨てられ、犠牲になるのは、人間・労働者である。
 
「大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!」とばかりに、国民の血税をばらまくのではなく、人間の共同と連帯を大事にする社会民主主義的な経済・社会を構想し、追求していくことが求められている。今回の危機は、「市場原理主義の限界を示すものであり、今こそパラダイムシフトが必要」(連合2009春季生活闘争方針)であり、「危機からの脱出は『社会民主主義以外に道はない』」(オーストラリアのケヴィン・ラッド首相)。今こそ、憲法第二五条の「生存権」や第ニ七条の「労働の権利・義務」などを政治や生活に活かし、幸福追求権と平和的生存権を保障する「護憲と平和への道」を現実的に切り拓いていかなければならないときである。

 

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