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●2007年7月号
■ 21世紀前半を決める参院選
                 (広田貞治)
 

■ 安倍政権の暴走に「ノー」を

 国会延長がなければ夏休み直前の7月22日、延長の幅によっては29日に参院選の投票日を迎える。参院選は直接政権交代につながるものではない。しかし、与党が過半数割れになれば政権の暴走・悪政に歯止めがかかり、次の総選挙で政権交代をめざす契機にできる。安倍自民党が勝って国家主義的強権政治を進めるか、野党・福祉と平和を優先する民主勢力が前進するか、は21世紀前半の日本の進路を決めるといって過言ではないだろう。
 
 6年前の参院選は圧倒的な支持を得た小泉の就任直後に行われ、自民党は64議席という多数を獲得した。公明党は13議席であり、今回はその維持をめざす。しかし、3年前は年金問題で民主党が勝利しているので、今回、公明党が現状維持だとしても、自民が51議席以下になると与党は過半数割れになる。野党はその実現をめざしてそれぞれ全力を挙げ、棲み分けや共闘も図っている。守る自公は集団的自衛権問題など不安定要素をはらみながらも当面、結束は固い。公明は次々と安倍の反動法案など悪法の成立に手を貸し、選挙公約に「改憲を論ずる」と掲げるなど与党ボケの責任は重大であり、批判は免れない。
 
 安倍政権は高い支持率で出発し、衆院での与党絶対多数を背景に、民主の抵抗も弱く、反動法案を次から次へと成立させた。一方で、佐田行革大臣、本間政府税調会長のあい次ぐ辞任、郵政造反組の復党で支持率を下げた。松岡前農水大臣の不適正な政治資金報告書も問題になったが「あまり辞任が続くと任命責任を問われる」ことを恐れた安倍は松岡を更迭しなかった。4月、中国の温家宝首相訪日で支持率を持ち直し、国民投票法を(教育関連三法も)成立させ、松岡問題も逃げ切って、参院選を迎えるかに見えた。
 
 ところが、5月も半ばを過ぎて年金記録のずさんな管理に始まり、次から次へと国民を裏切る事実が明らかになった。下旬から内閣支持率が急落し、加えて緑資源機構の官製談合疑惑が浮上するに及んで、ついに松岡前大臣は自殺に追い込まれた。内閣不支持が支持を上回る状況となり、6月中旬の今日を迎えている。焦ってばたばたと打ち出す対策は「法的に整理されておらず拙速すぎる」と批判され、信頼回復につながっていない。
 
 政党支持率はまだ辛うじて自民が民主を上回っているが、参院選では民主に対する期待が自民へのそれを上回る傾向が急増している。「総選挙で自民を勝たせすぎた、与野党の力のバランスが必要だ」との声も多い。無党派層、とくに25歳〜30歳代が反自民に回っており、これは参院選に反映されると見るべきであろう。参院選は安倍政権と自民、公明両党に引導を渡すものにしなければならない。
 

■ 「でたらめさ」から年金を守る
 
 年金問題は安倍政権の支持率急落の最大の原因であり、選挙の最大の争点である。「宙に浮いた5000万件の年金記録」「別に1400万件の放置」「誤転記」などによって「保険料を払ったのに、もらえるべき年金をもらえない」ケースが多発している。窓口で「過去の領収証などの裏づけ資料がない限り是正支払いはしない」と突き放された人々の怒りや生活不安、「これでは振り込め詐欺と変わらない」との怨嗟の声が渦巻いている。こうした状況は放置できないばかりか、1日も早く善後策が確立され実施されることが必要なことは言うまでもない。
 
 本来は、責任を持つべき政府がきちんと精査し整理したうえで善後策を「内閣提出法案」として国会にかけるべきである。しかし、新たな問題が発覚して政府の威信をさらに傷つけるのを恐れたのか、安倍は与党の「議員提出法案」の「時効停止、受給権救済法」を拙速にでっちあげ、国会での議論も十分させずに強行成立をめざしている。社会保険庁職員の「無責任さだけ」を叩いて、同庁を6分割し民営化する「社会保険庁改革法案を」抱き合わせにしている。
 
 また「年金一元化の発足当時の担当大臣であった菅・民主党代表代行の責任だ」などと、与党内からも顰蹙を買うような妄言を吐く一方で、「政争の具にすべきではない」などと言う支離滅裂のお粗末ぶりである。
 
 3年前の参院選でも年金問題が争点となり、自民党幹事長であった安倍は敗北の責任を取って辞任した。この悪夢が蘇ったのか、大慌てで手を打ち始めたが、お粗末のきわみの連続である。「5年の時効を廃止し、1年で記録の突合を終え、すべての被害者(受給権者)を救済し、国民の年金への信頼を取り戻す」としているが、何の根拠も確証もない無責任発言である。手法は議会制民主主義の軽視であり、ファッショ的である。開設した年金相談も混乱が続き、便乗詐欺も多発している。
 
 次から次に明らかとなる年金記録のずさんな管理の実態は野党の厳しい追及に答える形でやっと認めたもので、自らすべてを公表して国民や国会の批判を受け止め、善後策をともに考える姿勢は最後まで見られなかった。情報公開の点でも大問題である。記録の突合はとても1年間で処理できず、分からずじまいもありうると言われている。
 
 総務省に「検証委員会」を設置して、原因や責任の所在を洗い出す一方で、「第三者委員会」を設置して窓口業務をカバーし「申し出た人すべてをあらゆる手立てで救済していく」という。どちらも法的根拠のないままである。また、国会で安倍が無神経に口走ったように、事実に反した請求に応じて支払うようなことを許せば、かえって信頼を失い、年金財政がますます破綻の瀬戸際に立たされることになる。安倍の手立てと「大丈夫だ」の繰り返しに国民の7〜8割が不信を表明し、社会保険庁改革法案を含めて腰をすえた取り組みを求めている。
 
 今後、年金の一元化の推進、保険料か税かを含めた年金財源の問題、非正規労働者などの完全加入など、国民皆年金を維持するための、より抜本的な制度改革の課題が待っている。年金受給権を守り、制度改革を国民の立場に立って進める条件を整えるためにも、安倍政権にはっきりと「ノー」を突きつけるのが、参院選の最大の争点である。
 

■ 松岡農水相の自殺は安倍の責任
 
 もう一つの争点は「政治と金」「官製談合」の問題である。論功行賞人事で農水相に就任した松岡は政治資金報告書の不透明さを追及されたが、安倍に守られ居直りを決め、国民からあきれられていた。その彼が問題の赤坂議員宿舎の自室で突然自殺した。死ぬ直前に親しい友人に「何も言うなと言われている」「死ぬほかない」ともらしたと言う。
 
 安倍首相の責任は重かつ大である。論功行賞人事、任命権者の責任回避のための松岡擁護、そして緑資源機構の談合問題を含め一切の事実の解明の阻止などである。松岡は針のむしろに座り続けさせられ、ついに耐えられなくなって死を選んだのであろう。松岡の自殺によって、マスコミは「死者に鞭打つことをやめ」、官憲も緑資源機構の官製談合や政治責任の追及に幕を引いてしまった。しかし、国民の批判や不信は根強く残っている。
 
 安倍政権はこうした事態にあせり、「官製談合防止」「天下り規制のため」と称して尻ぬけの「国家公務員法改正案」を、衆院を通過させ参院に送った。日程が窮屈なうえ参院の内閣委員長が民主であることから成立は難しく、廃案の危険性が高いのを承知の上でである。この無理を通すため、会期延長や、国会法五六条の三を使って委員会に中間報告を求める本会議を開催し、そこで「委員会審議省略」「採決」を強行すると言う禁じ手も与党内で論じられている。また、5万円以上の支出の領収書添付を義務付けるだけのザル法「政治資金規正法改正案」も衆院を通過させた。
 
 話は別だが、9年連続の3万人を超える自殺者には心痛む。また、介護制度を食い物にしたコムスンと親会社グッドウイルグループ、無茶苦茶な経営の外国語学校NOVA、少し遡れば生保・損保の大手の脱法行為など、金儲け第一主義の企業体質も小泉と安倍の政権下で蔓延する病理現象を現している。この点でも安倍政権にノーを突きつけるのが参院選の重要な課題である。

■ 憲法・平和の争点隠しを許さない

「護憲論者は平和ボケの一国平和主義者である」「国益を考えればアメリカと協調して世界平和に貢献するのは当然」と言うのが最近の改憲論の主軸である。いわゆる国際貢献論である。緒方貞子氏のような人が「国連の役割を果たすには、軍事力で平和を作ることも必要」と言うと、普通の人々は「そうかなあ」と納得してしまいがちである。
 
 それに、「北朝鮮は何をするか分からないから備えが必要だ」「中国が軍事費を急激に増大している」と煽る。
 
 安倍の「GHQ押し付け憲法から自前の憲法へ」「戦後体制からの脱却」はいかにもアナクロ(時代錯誤)であり、戦前回帰であって説得性がない。対米追随の日米軍事同盟強化を進める一方で、こうした主張を展開するのは、アメリカに「日本がナショナリズム、自主防衛路線へ歩み始めた」と危惧する発言(長期的には正しい指摘)が散見されるようになるというちぐはぐさが生じている。
 
 憲法、軍事問題、従軍慰安婦問題などでは自民、民主ともにかなり入り乱れているので、参院選の争点にはなりにくい。民主の方が内部意見の対立幅が大きく苦しい状態なので、安倍は「改憲」を争点にしたがっていた。ところが、与党にも慎重論が根強く存在する上、混乱する年金問題で支持率が急落したことで、争点から後退した観は否めない。しかし、安倍は諦めたわけではなく、マニフェストの主要項目に残したいと言い続けている。選挙に勝てば、集団的自衛権の行使や日米軍事同盟の強化、改憲の策動を強める姿勢を隠さないのである。民主は前代表の前原が同趣旨のことを強調するなど、イラク撤兵を超えてはこの点には切り込めない。
 
 憲法と軍事問題で明快な対抗軸を持っているのは社民と共産だが、どちらも支持率が低迷し政治的影響力が落ちているので、残念ながら、マスコミも大きくは取り上げない。
 
 社民党が「憲法九条を守れ」と訴え続けることは当然であるが、それだけでは国民の共感を大きく得ることはできない。年金、医療、介護など生活課題にも力を入れつつ、「21世紀の平和構想」の具体化、中国・台湾問題や朝鮮半島の問題で現実的な政策が必要である。安倍政権の支持率の推移に明らかなように、国民は中国や韓国、さらには北朝鮮とも「うまく、平和的に」外交戦略を展開することを望んでいる。かつての社会党の野党外交を想起し、全力で再現すべきである。
 
「改憲」是認が多数になってきた一方で、「憲法九条は変えない」が今でも多数派であり、その点では社民は暗黙裡に国民から期待されているのである。北朝鮮や中国に対する恐怖心や嫌悪感を安倍に煽られ、改憲や集団的自衛権行使に悪用させてはならない。集団的自衛権行使ノー、改憲ノーを安倍に突きつけることは参院選の重要な争点である。

■ 「非正規労働者」と真の連帯を

 底流として最大の争点は「弱肉強食の競争主義」か「人間的な連帯の民主主義」か、言い換えれば、新自由主義か社会民主主義かである。「格差」という言葉は心に入りにくいと言われているが、その通りで、「最低賃金を1000円に」とか「誰でも月額10万円の基礎年金」「非正規の正社員化の制度化」などの具体的政策のほうが分かりやすい。
 
 07年度の「骨太の方針」が6月19日に閣議決定されるが、参院選を意識して、労働ビッグバン(規制緩和)や消費税増税・企業減税などの重要課題はほとんど先送りされた。ホワイトカラー・エグゼンプションも非正規労働のさらなる増大策も盛り込まれなかった。しかし、参院選で与党が勝てば、たちまち息を吹き返して強行される危険性は残っている。選挙戦を通じて、組織労働者に非正規労働者の組織化を呼びかけ、労働者を側面から支援する制度・政策を提起することである。簡単ではないが、遅すぎることはない。社民が最も力を入れるべき課題である。
 
 組織労働者の「非正規まで責任が持てない」という、自己保身にとられやすい論理は、財界・保守の分断攻撃を許し、非正規からの反発を買い、職場の連帯感が失われ、年金問題に現れたように公務サービスを毀損し、自分たちの労働条件を引き下げる結果を招くことは実証ずみである。
 
 公務労働者は公務の民営化に対して闘うと同時に、勤労国民により良いサービスを提供することに心を砕くべきである。また同一職場の働く仲間に始まり、非正規の底辺労働者の実態に思いをいたし、労働者の団結を取り戻しつつ、人間的な職場と誇れる仕事を実現すべきである。
 
 暗黙裡に財政難の中の人件費原資を奪い合うのではなく、財政難が大衆増税の一方で、空前の利益を上げている企業は減税したまま、高額所得者の所得税の累進性も緩和したまま、株利得課税は軽減するなどの不公正税制が、とくに自治体財政を苦しくさせ、住民サービスを切り捨てざるを得なくしている現状を暴露し、その是正に力を注ぐべきであろう。その力は全労働者の連帯からしか生まれない。
 
 正規労働者が非正規の組織化および要求のくみあげに努力し、その要求を使用者・資本にぶつけ、最低賃金の引き上げなどに全力を挙げることである。重要なのは直接の利害より働く者全体の連帯・団結である。今、古い言葉の新しさを噛みしめる好機になっている。こうした連帯に向けた闘いが幅広くできるかどうかは今後を占うものであり、真に21世紀前半を決めていく最重要のテーマである。

■ 国民は何を期待し、期待しないか

 政権交代はそれ自体、政治に刺激と緊張を与えるという点では評価すべきである。しかし、政権交代が何をもたらすのかも慎重に検討されなければならない。政権交代があっても従来の政権と変わらないのでは、政治不信は払拭できず、逆に不信を増大させかねない。
 
 中長期的に雇用・社会保障・税財政・民主主義・平和などで、どういう方向に向かうかは大変重要である。「保守二大政党政治」の政権交代では、あまり期待は持てない。
 
 国民の投票基準は、国政では個人の魅力よりも政策、それ以上に重視されるのは政党の総合力量であろう。政権政党に求めるのは全体の総合力であり、安定感であろう。しかし、政権党の腐敗堕落が続き、多数に胡坐をかきすぎると野党第一党にお灸をすえてもらおうと考える。現下の情勢は敵失もあって野党第一党の民主に風が吹いている。民主にはまだトータルな力量と安定を感じてはいないが、お灸をすえ、政策や行政を正す力はあると、国民多数に見られている。それ以上に期待されるか否かは今後にかかっている。
 
 一方、社民は基盤の労組を失ったことが大きく、総合力で国民の評価を受けられないままである。しかし、苦しくても的確な先見性を持って献身的に闘いぬけば、時間を経て、やがて評価され花開く。とうとうと流れている新自由主義と国家主義の流れを変えることは大変に難しく、現実から遊離した無益な教条であるかのような錯覚に陥りやすい。
 
 民主は環境、労働などで財界との距離を広げたが、年金問題暴露と野党第一党効果で有利な情勢を迎えている。しかし、社民は1〜2%の支持率で低迷している。統一自治体選挙でも苦戦したが、参院選も厳しい状況のまま迎えねばならない。それでも勝利をめざし全力で闘いぬくべきことは言うまでもない。と同時に、中期的には、今後の歩むべき道、とくに主体の強化と共同戦線の拡大を意識的に結合して、勢力拡大を図るべきであろう。
 
 ヨーロッパ社民勢力は新自由主義と結合した「第三の道」を模索したが、あまりうまく行かなかった。それに学び、新自由主義を克服する社会民主主義をはっきりと掲げ、労働者・勤労国民の支持基盤を再構築することをめざすべきである。それができるかどうか、参院選で社民党がどうなるかは21世紀前半を決める大きな要素である。折りしも、年金問題と住民税のアップその他で、多くの勤労国民は怒りと将来不安にさいなまれているのである。ピンチの社民がチャンスを迎えているのである。
(07年6月15日記)。

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