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●2007年5月号
■ 安倍内閣との鮮明な対決の参院選を
                 (山崎耕一郎)
 

■ 1.安倍の支持基盤は偏狭な民族主義

 日米安保条約の改定を強行した岸元首相の孫であり、「闘う政治家」であると自称する安倍首相には、他の歴代首相と違う特徴がある。自分が右翼であることを隠すのではなく、党内右翼であるという事実を誇示しながら支持率を高め、自民党総裁の地位を手に入れたのである。55年体制下にはなかった手法である。かつては岸の弟の佐藤や、若い頃から右翼であった中曽根でさえ、国民に対しては平和主義の顔を見せようと努めていたのである。
 
  安倍自身がどれほど意識してそうしたかは知らないが、拉致議連での活動ぶりや、集団的自衛権、改憲、教育改革などに関する突出した発言は、安倍の支持率を急速に高めた。彼自身は多分、もう少しいろいろな経験を積んでから官房長官になり、また少し経験を積んでから首相になる積りであっただろう。しかし、小泉首相の引退後の自民党の顔として、他に適任者がいなかったので、ぼんぼんのまま自民党総裁選挙で圧勝し、首相になってしまった。彼は修羅場を知らないまま、「2つの敵=北朝鮮と戦後民主主義」と闘う政治家として、首相の座に就いたのである。
 
 首相就任後、当初はやや軌道修正した。小泉首相が靖国神社参拝を誇示したのと違って、「参拝したかどうかは発言しない」という態度で、中国訪問を無事に終えた。国会では、日本の植民地支配と侵略を認めた村山談話や、従軍慰安婦に関する河野談話を、首相としては踏襲すると無難な答弁をした。
 
 小泉内閣の看板であった、新自由主義的「改革」に関しては、教育「改革」以外には、もともと彼はあまり熱心ではなかった。彼の古くから付き合いの多い議員に、郵政民営化に反対して除名された者が多いことが示すように、彼と彼をとりまく集団には、自民党長期政権のなかで肥大化したしがらみが、からみついたままだからである。一応は諸「改革」の政策をかかげてはいるが、急いで決着に持ち込もうという構えはなかった。
 
  こうして「大人ぶり」を見せて周囲を安心させている間に、困った事態が発生した。安倍政権の成立の条件である支持率の高さが、崩れ始めたのである。その原因としては、論功行賞内閣として、親しい仲間をかき集めたら、スキャンダラスな奴が少なくなかったという事情もあるが、安倍が「2つの敵」との対決を不鮮明にしたことのほうが、要因としては大きいと私は見ている。安倍の支持率上昇中についていた右翼的学者、評論家たちの多くが、強い不満をぶちまけていたからである。
 
  支持率低下を防ぐためには、支持層の意向を受け入れた対応をしなければならなかった。その1つが昨年12月の教育基本法改悪の強行であった。安倍を首相に押し上げるのに貢献した勢力にとっては、妥協しすぎた新法であるだろうが、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」と書き込まれ、教員への「養成と研修の充実」という項目も入って、国家による教育の統制が実行しやすくなった。しかしそれでは、支持率の回復には不十分であった。
 
 拉致問題を前面に押し出し、北朝鮮への制裁を強調するのが、最良の方法だと彼は考えているようである。外の「敵」との対決を煽るという、使い古された手法ではあるが、依然として有効ではあるからである。安倍は拉致家族の会を激励し、北京で断続的に開催されている六カ国協議のなかで日本の代表は、常に拉致問題の解決最優先という立場である。拉致された人々の家族の立場に立てば、その主張は理解できるが、六カ国の主張の調整が必要な協議の場所では、それでは他の国はついて来られない。米、韓、中、ロの諸国は、日本の主張を理解すると言いつつ、それをはずして朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との協議を進めている。それを見ていながら、安倍政権は方針を変えようとしない。国内の高支持率維持が最優先なのである。
 
 現在の日本には、偏狭な民族主義、排外主義がかなりはびこっている。1930年代ほどに大きくはないし、あの頃のように暴力的ではないが、中国、韓国、朝鮮の脅威を誇大に宣伝し、差別意識をまるだしにしながら敵愾心を煽るような傾向が、強まっているのである。大学教授の肩書きをもってそういう発言をする者もいるが、大きな底辺をなしているのは『ゴーマニズム宣言』(小林よしのり著)や『嫌韓流』(山野車輪著)などのマンガを読む層である。とても真面目に論ずる気が起らないような水準の主張であるが、歴史を知らない若い者たちにはうけているのである。この層の者たちは、独自の政治行動を起そうとはしないが、政治においてはおおむね「反米右翼」の主張に共鳴して、安倍の支持基盤となっているのである。
 
  こういう傾向は日本だけでなく、文化の薫り高いフランスにおいても、流入してくる移民、難民たちを口汚く罵る発言がうけている。フランスの次期大統領候補として最有力のサルコジは、そういう流れにのって、移民、難民、外国人労働者の行動を厳しく取り締まれと主張して、支持を上げている。「フランスには優秀な移民しか必要でない」とも公言している。
 
  ただフランスが日本と違うのは、保守政党と極右政党が別になっていることである。まだ読者の皆さんの記憶に残っていると思うが、前回(02年)の大統領選挙の第1回投票で、国民戦線という右翼政党のルペンが、社会党のジョスパン候補(得票16.18%)を上回る16.88%の票を集めて2位になった。1位であったシラクは、ルペンを厳しく批判し、社会党もシラクを支持して第2回投票を行ない、もちろん圧勝した。ドイツでもネオ・ナチの勢力は侮りがたく、州によっては得票5%の議席獲得条件をクリアしているところもある。しかし保守のキリスト教民主同盟は、これとは明確に一線を画している。
 
 つまり、多くの国々で、外国の脅威を煽り、移民や外国人労働者を排斥しようという言動は、一定の支持を集めている。それが日本では、中国(人)、韓国(人)、朝鮮(人)への反感になって現われているのである。違っているのは政治家の反応で、何事も曖昧にするのを好む日本では、保守と極右との境目も、曖昧になっているのである。
 
 そういう条件の下で安倍政権は、現実政治の中で何か実績を上げようとすれば右翼的言辞を控え目にしなければならず、それで支持率が下がればまた「敵」との対決を煽るのである。
 

■ 2.改憲・集団的自衛権への衝動
 
 改憲のための国民投票法案は、すでに国会において、採決の手前まで来ている。日本版「国家安全保障会議」(NSC)設立のための安全保障会議設置法改正案も閣議では決定され、5月には審議が開始されようとしている。集団的自衛権行使について、個別事例の研究を行なう「有識者会議」の設置に関する検討も行なわれるとの報道もある(4月4日読売新聞)。
 
 これらについては、別の論文で詳しく検討されるだろうから私は内容には立ち入らないが、要するに安倍内閣というのは、こういう重大問題をセットで議題にし、対決の緊張感を高めることによって支持基盤を固めているのである。この点が従来の、とくに55年体制下の自民党政府とは違うところである。重大問題をぶつけて、強行突破をしないよう裏交渉を並行しながら、表では野党と激論をして長期政権を維持する、という手法ではないのである。強行突破をしかねない勢いで法案を押し出し、場合によっては本当に強行突破するようでないと、支持率を維持できないのである。あまりにその取り組みが幼稚だから、政権は維持できないのではないかという見方もあるが、そうなればますます「敵」との対決を煽ることが予想されるのである。
 
 最近は、アメリカ政府のほうが現実的である。イラクで泥沼にはまり、他の諸問題では現実的対応をせざるを得ない状況に追い込まれた上に、中間選挙で民主党に敗れたからである。ネオ・コン勢力は閣内からは排除されている。ブッシュの変わり身の早さには、驚く人が多いだろうが、こういうのがアングロ・サクソン流というものであろう。
 
 6カ国協議を担当しているヒル国務次官補は、今年1月のベルリンでの米朝協議をふまえて、漸進的に北朝鮮の核放棄を進めるという方針に切り替えた。アメリカの段階的な制裁解除と並行して、朝鮮の核放棄を進めるということである。対立する双方が同時に目標に到達するためには当然の方法であるが、日本政府の方針は違っている。拉致問題で朝鮮政府が、全面的に日本の主張を認めて謝罪するまでは、関係正常化はしないというのである。現在の朝鮮を考えると、日本側の要求が通るのは、金正日政権が崩壊して、代って登場した政権が「全て前政権の不徳のいたすところで申し訳ございません」と謝罪する以外にない。
 
 しかも安倍は、過去の植民地支配時代の数々の不正・不法な行為について、すでに謝罪は終っているだけでなく、従軍慰安婦については軍による「狭義の強制性を示す歴史的証拠」がないのだから河野談話は「謝り過ぎ」であったという趣旨の発言を国会で行なう始末であった。これには国内外で猛烈な反発があって、安部も弁解を重ねるようになった。その過程で、河野談話を撤回せよと主張する側近たちと、明解な謝罪が当然とする連合国側のマスコミとのどちらにも良い顔をしたがるものだから、『ワシントン・ポスト』は「二枚舌」だと怒ってしまったのである。
 
  しかし、安倍政権実現に向けて動いた者たちはいぜんとして強硬である。たとえば高崎経済大学教授の八木秀次は『正論』5月号で「歴史をこれ以上政治に売り渡してはならない」と題する論文で、要旨次のように述べている。
 
 安倍首相が昨年10月に訪中した際に日中歴史共同研究をすると合意して、日本側の座長になった北岡真一東大教授には疑念がある。南京虐殺について「足して2で割る」式に虐殺を認めるのではないか。従軍慰安婦についての河野談話は撤回すべきである。
 
  歴史を実証的に掘り下げれば、こういう発言を否定するのにはさしたる苦労は要らないと思われる。すでにたくさんの証拠が出ているし、これからも次々と出てくるだろう。しかし問題は、そういう実証的な論文をよまないで、嫌韓、反中、金正日罵倒に同調する現在の日本の一部世論である。同調者が多数派になることはないと思うが、根強いし、傾向的には強くなっているのである。
 
 さきにふれたように、フランスやドイツと違って、自民党を中心とする日本の保守政治勢力は、そういう偏狭な排外主義と手を切っていない。そういう勢力の手をも借りながら、左翼勢力と対決してきた歴史があるのである。これからも簡単には手を切れないだろう。そして彼らの支持を受ける勢力が、その分だけ高い支持率を得て、自民党内の勢力争いで優位に立つという事態は、繰返される危険性が高いのである。そのようにして成立した安倍政権は、偏狭な民族排外主義の支持がなければ持ち堪えられないが、彼らが満足するような政治をすれば、対外的には孤立してでも、国内では改憲、集団的自衛権容認にむけて突っ走ることになりかねないのである。
 
 さきにふれたように、外交、防衛、教育以外の様々な分野の政策に関しては、安倍首相は特に特筆するべき信念をもっていない。一応、小泉内閣の政策を踏襲し、若干の耳ざわりの良い項目を付け加えただけである。ただ、財政再建に関しては、首相自身に信念はなくても、政府としては必要に迫られている。昨年と今年は、大企業だけでも好況になって税収が増えたので国債の発行を抑えることができたが、それが続くという保障はない。税収が増えなければ、過去の債務を払い続けるだけにでも、多額の債券の発行が必要になる。それを抑えるためには、行政改革、公務員減らしには、これまで同様の力点を置くことが想定できる。
 

■ 3.国民生活安定への総合的改革政策を
 
 統一地方選挙前半の結果を見ると、政策的な対決点が不鮮明であったので現職有利に展開したという評価ができる。政策がなかったわけではないが、現状批判が鋭さを欠いていたのである。なぜそうなったかというと、現状批判すると、改革=規制緩和と財政改革の論議になり、それを議論すれば規制にかかわる官公庁、特殊法人などの職員削減や賃金の引下げ、及び地元の業者が要望する公共事業減らしに踏み込まざるを得ない、という事情があったからである。かつては「改革」という言葉は革新勢力の政策をさしていたのだが、現在は自民党を動かす新自由主義側の政策に好んで使われる言葉になっている。
 
  もう1つ、社会党時代以来の重要看板の1つであった北東アジア非核構想、北東アジア総合安全保障体制についても、革新側は現在はかなり遠慮している。北東アジアの安全保障について協議するということになると、拉致問題が解決しなくても金正日政権を含む諸国との協議をしなければならないので、「世論」の支持を得にくかったからである。とくに小泉訪朝で中途半端な情報開示がなされてから、そういう雰囲気は濃厚になった。
 
  しかし今の時点で見ると、右の2点についての世論は、明らかに違っている。80年代以降の様々な面での規制緩和、とりわけ「小泉改革」といわれる諸制度の変更が、日本社会内部の様々な格差を拡大した。当初国際競争のためだとか、財政再建のためだとか言われて認めてきた国民も、その結果の深刻さに気付き始めている。統一地方選を踏まえて、参院選にむけての総合的な政策が論じられるだろうが、この稿では、その要として、右に2点について、私の意見を述べたい。
 
  資本主義である以上、企業の決算に差があることは、国民も容認している。しかし労働運動に力のあった時代には、産業別の賃金が統一して上昇できるように闘争が組まれた。現在はそのような「横並び」は企業から否定され、労働組合側も反撃できない状況である。それに加えて最近では、地域間の経済状況の格差が著しく拡がっていて、労働者だけでなく住民全体の所得の格差を拡大させている。所得の格差が地方自治体の税収にも、地域の商店街の売り上げにも反映して、悪循環を生み出している。
 
  小泉内閣が行なった「三位一体改革」は、その格差を拡大させながら、中央政府の借金返済財源を確保した。社民党の政策の1つである「生き生き元気な地域創造プラン」によると、4.7兆円の補助金「改革」により、税源移譲で地方に廻ったのは3兆円である。交付税なども5.1兆円削られている。もちろん東京のように、何もしなくても一極集中のおかげで税収が増える自治体はあるし、各ブロックの中心にある政令指定都市は、おおむね人口も増え、財政も改善のめどが立っている。しかし他の大部分の自治体は、多少の好況でも人口が減れば、支払う利子を上回る増収は易しくない。結果として、「三位一体改革」は、弱小自治体いじめになったのである。社民党はそういう問題点を指摘しながら、1.地域が独自策を実施する権限・財源の保障、2.地域再投資への法整備、3.住民ニーズに合わせた「小さな公共事業」、等々を提案している。
 
 私は小泉「改革」の悪い結果が出た以上、強くそうした政策を打ち出してほしいと思うが、その前に、1つだけ付け加えておきたい。それはこの間の自治体財政悪化について、革新の側も十分に問題点を指摘し、反対するべきものに強く反対してこなかった責任はあるということである。
 
  たとえば、「バブル」期には、多くの地方でリゾート開発、国際会議場建設、などのプロジェクトが立ち上げられ、それにあわせて新幹線、高速道路の建設が計画された。自治体自身の「箱もの」も数多くつくられた。金融機関や建設業者は、そういうものを作れば税収も増えると言い立てた。マスコミも同調した。それに対して、しっかり問題点を指摘して反対した人ももちろんいるが、発言の矛先が鈍っていた人もいた。当時、現在ほど重症の財政危機を予想できた人はほとんどいなかったのだから、誰の責任とは言いにくい面があるのは確かである。しかし、決定の責任は曖昧にすべきではないし、単なる付和雷同者でも責任の一端は負わなければならない。自分の責任を潔く認めた上で、儲けを目的に予算を無駄遣いしたものを厳しく批判するほうが、説得力がある。
 
  その他多くの「改革」、種々の規制緩和についても同様である。とくに労働法制の規制緩和についての見直しがなければ、現在の賃金格差拡大は防げないと私は考えている。国際経済競争激化の中で、「低賃金労働者を使い捨てにせよ」という圧力は、不断に強まっているからである。そういう圧力を防ぐのが、本来の国家の役割である。
 
  たとえば、労働基準法には「労使は対等な契約者」と書いてある。法律を言葉どおり理解すれば、パートの労働者も対等な契約者であり、当り前の権利が認められなければならない。そのように雇用者側の責任を守らせるのが国家の役割である。日本の法律も、その法律の適用も、経営者に甘い。「そんなことを言うと零細経営者が困る」とは、よく言われることである。
 
  しかし、労働契約を結べば、そういう明確な責任が伴うということは、零細経営者にも徹底しなければならない。まして大企業は契約者としての責任を守らなければならない。偽装請負などは論外であるが、サービス残業や年休取得の権利を妨害する労務管理なども、国際標準よりはるかに遅れた水準の権利侵害である。そういう現実を放置しておいて、終身雇用制を崩してきたところに、この間の労働法制規制緩和の重大な問題があるのである。
 

■ 4.北東アジアの平和への積極的提案を
 
  北東アジアの非核・平和構想は、さきにふれたような事情で、最近はあまり口にされることがなくなった。しかし昨年、2つの明確な変化があった。1つは、イラクで挫折したアメリカが柔軟・妥協路線に転換した。もう1つは、経済制裁をはじめとする反金正日の強硬路線が、効果が薄いだだけでなく、日本外交の孤立をもたらした。
 
  拉致問題、とくに金正日政権が情報を全面的に開示しないことについて、日本側が原則的な主張を曲げないことは理解できる。拉致事件が起った当時、社会党も社青同も朝鮮労働党、朝鮮社会主義労働青年同盟と友好関係をもっていたわけだから、私も心を痛めているし、朝鮮側の謝罪はもっとすっきりさせるべきだと思う。しかしだからといって、金正日政権を崩壊に追い込むまで国際的制裁を加えよということにはならないし、また、日本がその数十年前に犯したはるかに重大な犯罪への謝罪を曖昧にするべきでもない。
 
 金正日政権の評価の問題ではない、あの国の体制が好きだろうと嫌いだろうと、国として正式に認めている以上、対等な話し合いをするのが当然なのである。どんなに問題があっても民族自決権を認めるという原則で、世界の平和は維持されているのである。
 
  6カ国協議に参加している国々のうち、中国、韓国、ロシアは、朝鮮を経済的に支援しながら非核化をすすめようとしてきた。韓国は連邦制実現に向けて、準備を重ねている。アメリカは、朝鮮に豊富に埋蔵されている希少金属資源(現在は中国が買い取りつつある)の獲得を狙っているという情報もあるが、ともかく紛争回避の方針である。
 
  朝鮮がエチオピアに武器(ソ連製戦車の部品)を輸出したが、アメリカがその貨物船の航行を黙認したという『ニューヨークタイムズ』の報道もある(4月8日時事通信)。エチオピアがイスラム過激派との戦闘に使うのだから了解したのだという。アメリカの当局者は、原理主義者ではなく、具体的な行為をとおして、朝鮮を「善導」しようという態度である。
 
  このような変化があるから、もし社民党をはじめとする革新勢力が、金正日政権下の朝鮮も入った北東アジア非核・平和構想を提起して諄々と説けば、『ゴーマニズム宣言』の読者や、「2ちゃんねる」の常連などからの攻撃はあるだろうが、今度は、「世論」がそれに同調することはないだろう。朝鮮問題が争点になって「票が減る」という心配がないだけでなく、アジアの情勢に詳しい人ほど、信頼を寄せるようになるだろう。
 
  北東アジアの平和が、党や政府の責任者による取り組みだけで進まないのは、言うまでもない。広範な民衆が行なう交流、無数の人脈が作り出す国民的な友好の輪が、決定的に重要である。そういう広がりを作り出すためにも、国会での論戦に期待したい。
 

■ 5.改憲阻止・対抗勢力の構築へ
 
 はじめにふれたように、政策上の諸論点と同時に、改憲が参院選の大きな争点であることはいうまでもない。国民投票法案が今国会で通っていてもいなくても、それは同じである。安倍内閣には、改憲という政治的対決点を鮮明にしておかないと支持率が落ちるという事情があるのだから、いずれにしても焦点になるのである。そしてその場合の改憲は、集団安保論とセットでの改憲である。これも現在の世界情勢を分析した結果の結論ではなく、安倍支持陣営の衝動がそうさせるのである。
 
 したがって改憲阻止の陣営も、大きくまとまらなければならない。環境、人権、福祉などの項目がないから「加憲」もいいではないかとか、国のあり方について根本的に議論する「論憲」も必要だとか、いろいろな意見があるのは、私も承知している。国民投票法案についても、それを通した上で国民に真剣に訴えなければ、革新は再生できないという意見もある。そういう意見を全て包み込んだ大きな陣営を築かなければ、改憲は阻止できない。もちろん政党も、可能なところは全て受け入れる、党としては包み込めない自民党、公明党のなかの改憲反対者にも活躍の場を与えるという方針も必要である。
 
 地方選挙前半が終ったところでのテレビ討論の最後に、社民党の又市幹事長が、「野党第一党の民主党が、全野党の結集を呼びかけてほしい」と発言したら、鳩山幹事長が「共産党を含めるかどうかは党内に意見があるが、その議論はする」と答えていた。私はこういう率直な意見交換ができることが、改憲阻止だけでなく、日本を支配している自民党と独占資本に対抗する大きな陣営を作るうえで重要だと思う。野党第一党が音頭を取り、労働組合を代表する連合が協力する陣営に、「真中より左は全て」そして「右の一部」も包容する構えが求められているのである。
 
  共産党を含めるのは、昔から社会党左派にとっては当然の前提である。しかし民主党や連合の中に、反発が強いのは事実である。今度の都知事選のように、民主党が支持した浅野候補は「石原と同じ」だし、「民主党は自民党とおなじ」とのキャペーンを繰返すのに、反発が出ないほうがおかしい。しかし、そういう党をも大きく包み込んでいくスケールを持たなければ、国家は動かせないのである。
 
  革新勢力は80年代、国鉄分割・民営化をめぐる攻防で敗れ、総評が連合に吸収されて、運動の力をなくしてしまった。ちょうどその頃にソ連の社会主義も崩壊して、労働者運動の「未来」も見えにくくなってしまった。あせった社会党の中では、結束して持ち堪えるのでなく、主導権争いが激化して、90年代に社会党が3分解してしまった。
 
  この不幸な歴史があるのは事実だが、現在では、変化の芽も出ている。かつてのような「主導権争いに勝ってから全てが始まる」という当時の過ちを総括して、チャンスがあれば大きく結集して対抗勢力を、という気運がある。元社会党員だけでなく、新旧の様々な左翼の中にも、市民運動のなかにも、統一した対抗勢力を望む声は強い。ただ、前世紀の負の遺産(潰しあいの歴史)が重いので、誰もが消極的になっているのも事実である。改憲という事態は、そういう事態を換えるチャンスではある。参院選で、社民党をはじめ、改憲反対の議席を一つでも多く確保すると共に、この選挙を契機に、多様な勢力を包容した対抗勢力の陣営ができるよう期待したい。

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