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●2006年11月号
■ 安倍タカ派政権発足と日本の政治
               (広田貞治)
 

■ 1.戦後最年少宰相・最タカ派内閣がスタート
    新たな戦前をめざす「美しい国」
 
 9月26日、衆参両院において安倍晋三が第90代(戦後21代)総理大臣に選出された。田中角栄を2歳下まわる戦後最年少の52歳である。ちなみに、戦前は伊藤博文など3人が40代で宰相になっている。
 
 安倍は岸信介を祖父、安倍晋太郎を父とする保守の血統書つきであり、妻昭子は森永製菓社長の令嬢であった。A級戦犯であった岸信介は、冷戦を奇禍に恩赦となり、1950年代に衆議院議員に当選して4、5年で総理大臣に就任、吉田茂の「軽武装・経済優先」路線を脱し、「双務的な日米軍事同盟強化」路線をめざした。その強権的な政治手法とあいまって60年安保闘争を呼びおこす事になった。国会を包囲した30万人のデモ隊鎮圧のために自衛隊の治安出動も検討したという。そして、安保改定成立直後に退陣を余儀なくされた。「昭和の妖怪」と称される右翼的な政治家である。
 
 安倍はやや穏健であった父よりも、この祖父の血を引く。戦争体験のない若い世代特有の「破邪の戦い」への憧憬を超えた、戦前の国家主義的な強権政治・力の外交を積極的に是認する「闘う政治家」の立場である。小泉の「破壊」の後の「建設」には向かない。
 
 小泉政権の副官房長官として、拉致事件での強硬姿勢が国民の支持を取りつけられたこともあって、タカ派として頭角を現した。その後、自民党幹事長、同代理、官房長官と、小泉の引きでとんとん拍子の出世街道を歩むことになった。
 
 5年5カ月、戦後3番目の長期政権に高い支持のまま自ら幕を引いた小泉首相の実質上の禅譲であった。福田康男元官房長官の不出馬宣言後は、早くから国民の支持率が高く、安倍の次期自民党総裁と総理の椅子は決まったも同然であった。本来は安倍に批判的な派閥あるいは議員が、党役員や閣僚の人事や政治的影響力の確保のために雪崩を打って安倍支持に回った。復党を切望する郵政反対組もまた、ほとんどが首班指名で投票した。
 
  国民の高い人気、とくに比較的平和指向で福祉社会を求める女性の支持率が高い理由は何なのか、若さ、小泉の残像、優しさを幻想とする強いリーダーといったところであろうか、解明されていない。こうしたポピュリズム的傾向は多くの要素から生まれているのであるが、政治的には不安定な要素を高め、アメリカ・ブッシュのような政治を許していく危険性も否定できない。逆に、いつ安倍に見切りをつけるかも分らない。
 
 安倍は「戦後体制(レジーム)からの脱却」「教育基本法を変えて改憲へ」という国家主義的政策に、形ばかりの「再チャレンジ」「フリーター削減」「日本型社会保障モデル」といった社会政策を加えて「美しい国作り内閣」(実質は改憲内閣)を発足させた。
 
  所信表明演説では109ものカタカナ語を用い美辞麗句を並べて、今日の政治課題と彼の信条を網羅的に述べた。格差縮小や社会保障については無内容で、反動的政策については今までの発言にオブラートをかぶせたものになっていて、全体に曖昧なものとなった。「集団自衛権の行使についての検討」「拉致問題の解決を最優先」だけは明言した。
 
 安倍は与党の圧倒的な議席を背景に、官邸主導の行政を押し進めると思われる。ポピュリズムを意識し、マスコミの取り込みや監視抑圧を進め、世論操作を強めることも確実である。司法判断や過去の政府見解を順次踏みにじっていく危険性も持っている。官邸主導の原動力を政治家に求めるとしているが、政治家、官僚、民間人をうまく調整できるかどうかは未知数である。いずれにしても、民主主義の形骸化を狙う危険な内閣である。

■ 2.論功行賞・仲良し人事で残ったしこり
    権力を争う大臣・特命大臣・補佐官
 
 安倍は党三役については、幹事長に中川秀直、政調会長に中川昭一、総務会長に丹羽雄哉を指名した。麻生太郎(外相留任)を幹事長にしたかったが、派閥の親分の森喜朗に「幹事長か官房長官は森派から」とたがをはめられ、官房長官は同年輩の塩崎泰久と決めていた安倍は、幹事長には中川を指名する他になかった。中川昭一は村山談話に反対した「自虐史観批判・若手議員の会」以来のタカ派の盟友である。総務会長には、論功行賞で丹羽・古賀派代表の丹羽を選んだが、総裁選直後に「安倍と私達には溝がある」と発言した共同代表の古賀誠との間を裂く狙いもある。
 
  閣僚人事については、「論功行賞内閣」「仲良し内閣」「安全人事」「華がない」「ノーサプライズ」などがマスコミの見出しである。ほとんどの派閥が安倍支持に回ったので、結果的に「挙党体制」に近くなったが、何点かの問題を残した。一つには、総裁選で政策的にも対立した結果、三役も閣僚も外された谷垣禎一は「今後に問題を残す」と明言した。二つには、自主投票とした結果、党三役を外され閣僚二にとどまった津島派に「内心忸怩たるものがある」と言わしめた。三つには、特命担当大臣と省庁を抱える大臣との調整に齟齬をきたす危険性を残した。いずれにしても森派を除き、旧派閥はほぼ瓦解した。
 
  官邸強化のために首相補佐官を2人から5人にふやし、それぞれ拉致、安保、教育、経済財政、広報を担当させることとした。官房長官を支える副官房長官には同期でタカ派の下村博文、元事務次官の的場順三らを任命した。しかし、官邸スタッフには、議員や官僚全体を掌握し時に首相に諫言を辞さない、中曽根内閣での後藤田官房長官のような重みのある要役は存在しない。暴走、動揺する不安材料である。補佐官と大臣・省庁との権能をめぐる衝突も危惧され、議員内閣制の下での大統領制的な試みに疑問が呈されている。
 
  こうした点についてのマスコミの指摘や質問に対して「適材適所」「老壮青のバランスのよい内閣」「実務能力を見てほしい」と答えた。ただちに拉致問題対策本部を設置し、続いて教育再生会議も設置した。しかし、拉致問題では、外務省と官邸とで主導権争いが始まり、教育再生会議では文科省と官邸の間で綱引きが始まっている。
 
  政策面でも意見の相違を残した。経済・財政では、安倍は「3%の経済成長を図り、税の自然増と歳出削減で対応すべきであり、消費税増税は先送り」とし、「低成長を覚悟し、財政再建と社会保障の財源には消費税増税を早めに」とする谷垣や与謝野を閣僚や党三役から外し、経済財政大臣に竹中に近い太田を任命した。社会保険庁改革法案についても、「継続案のまま」と「廃案・出しなおし」で意見対立が明らかになっている。
 
  安倍内閣発足直後の各紙の世論調査による支持率は60〜70%で、小泉、細川に次ぐ戦後第三位の高さを示した。その理由は「政策面」と「なんとなく」が多く「首相が安倍だから」を上回っている。イメージ的な高支持率と評されるが、その内実はわかりにくい。小泉政権発足時より支持率および首相の求心力は弱く、新鮮さや強力さの評価は低くなっている。生活関連の方針が不明確なこともあって、政策が期待通りに展開されるかどうかを見守る気配である。安倍が最優先としている教育基本法については「今の国会にこだわらず、議論を続けるべきだ」が3分の1前後を示している。世論に一貫性や脈絡がないのは繰り返されることだが、トータルではけっこう的確な場合が多い。腰をすえた分析が必要である。

■ 3.封印したか国家主義
   国民生活より企業の利益と国際競争力

 
 安倍は著書「美しい国へ」の中で「経済発展至上主義」を「国家観の再構築」に切りかえると闡明している。また政権構想で「小泉政権の構造改革を加速し補強する」と述べている。安倍の「美しい国」とは「自立した、自由と規律のある、凛とした国家」「世界から尊敬される国」だと言う。国民の感覚とずれがあり、小泉政権の下で日本が美しくなくなったのではないか、といった認識や反省がまったく見られない。
 
  この4、5年、とくに日本は美しくなくなった。「金儲けのためには何でもあり」「競争社会では弱肉強食は当然」とする一方、「規範意識と自己責任」を強調する。こうした論理が自殺、犯罪、サラ金地獄、企業不祥事など枚挙にいとまがない社会病理現象を生んでしまったのである。笑っているのは、大企業と成金など大金持ちだけであり、中間層は萎縮し、底辺層はますます苦吟を強めている。トランプの「大貧民・大富豪」のようなものである。また、自衛隊の海外派兵を常態化し改憲を目指している。こうした認識抜きに、国民に納得のいく「美しい国」はできない。
 
 安倍は経済政策や国民生活課題よりも「美しい国」を再建することを優先する。労働者・労組が無力になり資本の自由な活動ができている以上、政府があまり経済に干渉しないほうがよいとの新自由主義的考え方もあると思われる。ばらばらにされ、不満や不安の欝積している勤労国民をまとめるものとしても国家主義が位置づけられていると言えよう。
 
  安倍は臨時国会で成立させたい法案として、最優先の「教育基本法改悪」に加え、「国民投票法」「共謀罪を入れ込むための組織的犯罪処罰法改悪」「防衛庁を格上げするための防衛省設置法」「日米軍事再編・基地移転関連法」など反動法案を列挙している。このうち、「共謀罪」は、99年の国際組織犯罪防止条約起草委員会で、政府が「共謀罪は日本の法原則になじまない」と述べていたことが明らかになり、成立困難の気配が生まれている。
 
  安部は第二次大戦に対する歴史認識を自虐史観とする価値観に変化はないと思われるが、「歴史認識は歴史家に任せるべきもの」として自己の信念を懐にしまっていかざるを得ない。その後の国会論戦の中で村山談話や河野議長談話を踏襲するなど、歴史認識に関する個人的見解を封印した。また、就任後半月にして中国・韓国を歴訪し今後の関係改善に向けて合意し国民の好感を得た。こうした態度に対する右翼的勢力からの批判にどう対処するか悩ましい情勢も生まれつつあった。朝鮮民主主義人民共和国の核実験という暴挙によって、国民の危機感をあおりナショナリズムを高揚させる条件を得て、右翼勢力を巻き込みつつ政治を展開することが可能になっている。金正日が安倍を助ける結果となっており、「小泉同様の強運の持ち主か」との声も出ている。
 
  参院選までは対朝鮮を除いては「ハト派」的に軌道修正して国民の支持を得て、参院選勝利後に牙を向くという危険性も心配されているが、本稿では深く立ち入れない。
 
  安倍流の「美しい国」を作るには、それにふさわしい「教育をしっかり再生しなければならない」と言う。学力向上と愛国心教育が二本柱である。教育の自由競争によって、国際的に通用する英才を育てることを学力向上の軸にすえる。所信表明演説では外したが、いい学校に子どもが集まったら、その学校にその分だけ予算をつける教育バウチャー制度を導入したいという。普通の学校は存続できなくなり、子どもの遠距離通学がふえ、危険性が高まる。学校の外部評価や教員の免許更新も導入し、厳しく分限処分も行い統制すると言う。これらについては文科省や自民党内、保守的教育学者の中でも慎重論があり、官邸が主導する教育再生会議との激しい綱引きが予想される。委員の顔ぶれは多様であり、座長のノーベル賞学者野依氏は全く別の観点から考えを述べており、帰趨は予断を許さない。国際比較でも低い教育予算比率を高め、子どもの学べる条件の整備などには冷淡である。
 
  国・郷土・家族を愛する心と公的規範への忠誠心を「規律」の教育として、強化を図る。自由や人間の絆を家父長的な国家主義の許容範囲内に収めようとするものである。日の丸・君が代の強制と抵抗する教職員への処分に対して違憲判決が出たにもかかわらず、都の控訴を後押しし、さらに全国に広めようとしている。国旗・国歌法制定の過程での「強制はしない」との国会での確認を反故にしている。職務規律が自由を踏みにじろうとしている。教育基本法の改悪を臨時国会で成立させることを至上命題にしている。


■ 4.勤労国民を救わない「再チャレンジ」
    問われるのは非正規雇用の解消

  多くの人はまじめに働いて自分と家族を養い社会に貢献したいと考えている。しかし、まじめに働くこととチャレンジすることは同義であろうか。人には向き不向きがあり、また人間の値打ちには差がないが知的体力的差は厳然たる事実として存在する。まじめに働くがチャレンジのできない人は山ほどいる。逆に、チャレンジできるのはほんの一握りの人であり、再チャレンジできる人はさらに微々たるものだろう。
 
  チャレンジはできないがまじめに働きたい大多数の人に安定した職場と安心できる賃金や社会保障を提供することこそが政治の役割ではないだろうか。実態は逆である。
 
  市場万能主義が自殺、殺人、サラ金地獄、(振り込め)詐欺など経済犯罪、自己破産、過労死、青少年非行など社会病理現象を増幅させてきたのである。しかし、血統書つきの裕福な指導者にはこれらはデータに過ぎず、肌で感じ心を痛める問題ではないのである。
 
  ニート、フリーター、パート、偽装請負、派遣など非正規労働者の大半は、機会の平等も結果の平等も奪われた犠牲者といっても良かろう。400万の労働者が一生懸命働いても生活保護基準を下回る収入しかえられないワーキングプアーなのである。
 
  彼ら彼女らは決して悪平等を望んでいるわけではない。ただ、人間らしく働ける職場と暮らしていける賃金や社会保障を求め、あるいは同一価値労働同一賃金の実施を求めているだけなのである。そうすれば、年金保険料も税金も払うし、悪事に巻き込まれることにはならない。それさえ実現せず、虐げられ、サラ金などの多重債務や健康破壊に苦吟しているだけである。
 
  だから、結婚願望は低くないのに、非婚率が上がり、少子化が進むのである。少子化は今日の社会状況に対する貧しい若者の抵抗の一形態と見るべきだろう。彼らを救うのは「再チャレンジ」などというものではない。本当に必要なのは職業訓練を含む労働能力の向上と、正規雇用、暮らせる収入、安心できる社会保障なのである。「フリーター2割削減」「正規雇用化の促進」を空手形にさせないことである。
 
  「再チャレンジ」は、社民党の福島党首が指摘したように芥川の「クモの糸」であり、クモの糸に群がるのは第2のホリエモンや村上某のような輩であろう。貸金(サラ金)業法改正案は多重債務者の地獄の苦しみを顧みない自民党・安倍政権の正体を現している。
 
  安倍など新自由主義者は憲法二五条に謳われた「健康にして文化的な最低限度の生活をすべての人に保障しよう」という考えを「悪平等は社会を停滞させる」と卑しめて切り捨てる。スウェーデンなど北欧諸国の、最低限の生活保障を実現した福祉社会が高い生産性をもたらしている実態は「人口数が違う」「税率が高い」として歯牙にかけない。国民生活を犠牲にしてでも世界の経済的覇者をめざしたい日本独占資本には面白くないのであろう。


■ 5.経済成長と財政再建、歳出削減と税源
    所得税・法人税の累進性強化抜きで消費税

 安倍は10年間2.2%以上、できれば3%程度のGDP成長率を予定している。最近の景気回復は設備投資に加え消費需要も伸びていて、外需に依存したものではない。しかし、その回復過程は内需というより米中の経済およびゼロ金利によるものであった。
 
  買い控えが続いた後のボーナスの回復などで消費が増えたとは言え、低賃金構造が改善されない限り長続きはできない。生活基盤の公共事業を含め、地方経済の活性化も不可欠である。安倍は著書で「消費不足は海外市場で埋め合わせ、経済成長は実現できる」と表明しており、非正規の低賃金労働者の増大による国内消費の低迷は黙過する。
 
  アメリカ経済は一定の成長を続けているが、相変わらずの双子の赤字が続き、軍事費の膨張もあり「落日近し」との見方もある。ただ、ドルを大量に抱え込む日本や中国などはドル暴落を防ぐためにアメリカ経済を支えざるをえないし、資金運用はうまいので破綻は起きにくい。
 
  中国経済は高成長を続けているが、国営企業、外資、格差、三農問題、汚職など困難な要因が山積している。それにもかかわらず、国際的に低賃金の続く限り製造業の拠点として、および消費市場として成長することは間違いない。
 
日本経済にはアメリカも中国も、東アジア全体も重要である。今後はロシアやインドとの関係も比重を増すであろう。その中でも、当面はアメリカ経済を破綻させずに、日本企業の儲けを続けることが最重要と考えるのが保守支配層の最大公約数である。
 
  最近の日本の外貨獲得をみると、貿易黒字よりも所得黒字(海外投資した資本からの還流)のほうが05年から上回るようになった。日本の資本は国内では過剰だが世界にさらに進出するにはまだ不十分であり、あらゆる名目でさらに法人税減税と自由化を求める。WTOの合意を待つだけでなく、各国別にFTA(自由貿易協定)やEPA(経済協力協定)を求める。素材産業と先端技術ならびに金融を押さえた上で国際的な分業と協業を進め、アジア諸国を日本経済圏にもっと強く囲い込もうとする傾向は強まる一方である。アジアの共通通貨論や基金構想もドルやIMFとの関係に配慮しながら具体的検討が深まるであろう。こうした政策が遂行される。
 
  日本の独占資本にとって、平和的に海外で利益を上げるのが一番望ましい。しかし、万が一に備えて、共通の利害を持つアメリカと一体となった軍事力でも担保しておきたいのである。「一国平和主義」を批判し、「国際貢献のために汗を流せ」と言うのはこうした要求の裏返しなのである。安倍は当然に受け入れ、推進する。
 
  財政再建は、「骨太の方針2006」で「歳入・歳出一体改革」路線を堅持し、「2011年までに国の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する、不足金額16.5兆円を解消するために、最大14.3兆円の歳出削減と、歳入増(景気回復による税の自然増か消費税などによる増税かは不明のまま)を図る」となっている。
 
  財界は、歳出削減について、公務員人件費の削減を優先的に求め、公共事業を挙げ、最後に年金など社会保障費(を持続するための設計変更と称する)削減を掲げる。それでもなおかつ不足するときは消費税率の引き上げと言っている。安倍はこの線に沿い、来年度の国債発行を今年度以下に抑制することにしている。市場化テストが強行され、公務員への攻撃は続き、公的行政サービスへの民間資本の参入を促進する。公共事業の扱いはまだ分からない。
 
  安倍は、消費税について「逃げず、逃げ込まずだ」を原則に、「09年には基礎年金の国家負担の3分の1から2分の1への引き上げをにらんで08年秋には」と述べるにとどまっている。定率減税は来年で全廃となるが、同時に減税された法人税や所得税の累進性の強化による税収増には一切ふれない。尾身財相は減価償却や先端技術開発の扱いなどで、さらに「エンゼル税制」なども加えて企業減税を進める考えを表明している。国民を犠牲にして企業業績を上げていることには口をぬぐって「経済成長なくして少子高齢化の日本で社会保障を充実できない」と主張する。
 
  経済財政諮問会議や規制改革・民営化推進会議については小泉政権とともに役割を終えたとの説があり、今後の帰趨は予断を許さない。だから、竹中は議員も投げ出したとの説もある。議会を軽視する政治を助長する諮問会議や審議会はなくしたほうが良い。
 
「イノベーション」とは一般的に「技術革新」と訳されるが、御手洗・日本経団連会長の掲げるそれは単なる技術革新ではなく、経営システムや社会運営など社会全体を資本の論理が貫くものにする、というものだ(シュムペーター理論)。大企業には都合がよいが、国民には痛みをさらに強めるものとなろう。安倍はこれを推進するという。

■ 6.「自前の改憲」はアメリカの要求
    中国・韓国との外交関係に注目

安倍の「戦後体制からの脱却」は、自前の軍隊とそれを支える国民的基盤・国家主義を取り戻すという「戦前回帰」の意味だ。しかし、当面数十年はアメリカと政治経済面でも軍事的にも一体で進むのが最適だと判断する。「アメリカ占領下でアメリカの指導で作られた憲法を自前の憲法に替える」と言いながら、「集団的自衛権の行使」「日米共同軍事行動」「改憲」は、実はアメリカの国際戦略に沿ったものであり、羊頭狗肉である。
 
  遠い将来の真の狙いは「核兵器を持つ自前の国防軍を持ち」「アジアの盟主として中国を押さえ込んだ後はアメリカとも対等な外交を展開する」ということであるが、このことはその時代が来るまではタカ派といえども決して公言はしない。靖国参拝はそういう決意を伴ったものであるから、簡単には引けないのである。
 
  アメリカは、日本がアメリカについてくる限りではそれなりの対応をする。拉致問題や六者協議、中国の牽制などでは日米政府の利害は一致している。ところが、不安定の弧にまで日米軍事協力の範囲が拡大され、集団自衛権の行使を行うとなれば、日本はアジアの孤児になる危険性があり、保守勢力の中にも疑問が少なくない。イギリスのブレアが対米追随で国民の信頼を失い、退陣表明を余儀なくされた事実にまなぶべきである。
 
  経済を考慮すれば、中国をはじめアジア諸国との友好関係の安定を望み、中国・韓国との首脳交流の実現のためには、靖国参拝について柔軟な対応を求める声が圧倒的である。安倍も10月22日の衆院補選を意識して、中国・韓国との首脳会談を素早く実現した。ただ、今後の「歴史認識」「靖国参拝」「朝鮮半島問題」の取り扱い次第では取り返しが付かない失敗に直面する可能性が残っている。成功すれば、相当に評価を上げると思われる。
 
  イラク戦争は泥沼化し、アメリカ国内でも反対が過半数となって久しく、ネオコンの勢いは昔日の面影を失いつつある。ブッシュは安倍政権にイラク・テロ特別措置法の延長や米軍再編などでさらに要求を強める。そのアメリカでも、靖国神社とくに遊就館の展示の戦争史観に対する批判が強まっている。安倍は、それをかわすためにも、ますます米軍再編と日米軍事一体化などで莫大な財政を伴う対米追随を余儀なくされる。
 
  イスラム世界の反米機運は高まるばかりであり、EU諸国も着かず離れずの国が多く、中南米でも反米政府が次々と生まれ、旧ソ連の中央アジア諸国も中国やロシアとともに上海協力機構に加盟し共同軍事演習を行うまでになっている。アメリカは孤立しつつある。
 
  安倍は中国を日米豪印で封じ込めるとの外交戦略に言及しているが、米中の経済交流はますます深まり軍事交流も始まっている今日、妄想としか言いようがない。台湾問題を安易に扱えば、靖国以上に日中関係を悪化させる。「政経分離」はまったく成り立たない。
 
  対米追随一本槍で今後も安保外交政策を進めれば、日本はアジアと世界の孤児になって行く危険性が高く、軍事費の増大は避けられない。沖縄をはじめ軍事基地縮小・不平等条約・協定の改廃と平和外交こそが国民の求めるものであることに反するものである。
 
  にもかかわらず、安倍は「集団的自衛権の行使について具体的に検討する」と言って内閣法制局を脅し、防衛庁を防衛省に昇格させ、自衛隊の海外派兵の恒久法を制定し、日米軍事一体化を進めようとしている。そして、五年をめどにした改憲である。
 
  安倍は安保・防衛についても官邸主導を強めるため、安全保障会議を強化し、日本版SNC(国家安全保障会議)を設置するが、どの程度機能するかは未知数である。テロ、朝鮮の核ミサイルを利用して、日米軍事一体化と軍事大国日本の道を防衛庁とともに進めることになる。武器輸出三原則は骨抜きになり、非核三原則も脅かされかねない。

■ 7.自民党独裁の対抗勢力をいかに作るか
    知事選での共闘から政治的統一戦線へ
 
  安倍の新自由主義と国家主義の政治に対抗するのは、格差是正(社会民主主義)と平和外交を主目標とする政治勢力であろう。目下は前者が圧倒的に優勢に見えるが、後者が力をえる可能性を内包した情勢である。
 
 10月22日には大阪と神奈川で衆院補選が行われるが、大都市部の傾向をうかがうことができる。ちなみに、新内閣発足直後の朝日の世論調査では、自民党政権の継続を望む声が47%、民主党政権を望む声が36%であった。力を入れてほしい政策は、各紙共通して、年金・福祉改革がダントツで、続いて景気・雇用、財政再建、教育改革で、アジア外交、改憲は低位であった。また、在任中の靖国参拝については反対が半数近くであり、賛成を10ポイント近く上回っている。訪中・訪韓後は「東アジア外交」は増大した。
 
  小泉政権以降、自民党は固い支持基盤(粘土)を失う見返りに無党派層(砂)の獲得を狙い続けているが、今回の調査では無党派層の4分の1(9%)が自民支持へ変わった。安倍の政権のイメージは一定の成功を収めたといえよう。こうした状況を踏まえ、参院選の候補者の見直しを、郵政造反組の復党とも絡んで処理しようとすれば、党内の火種を抱えることになり、無党派層の支持を失うかもしれない。
 
  公明党の太田新代表は「所信表明を聞くと、言われるほど安倍総理はタカ派ではない」とか「公明党は集団自衛権の行使は絶対反対だが、いろいろ研究するのはやむをえない」「改憲ではなく加憲の方針に変わりはない」と述べながら「自公連立は崩さない」と明言した。しゅくしゅくと安倍政権の反動政治が進められることになる。自民党を勝たせているのだから、安倍・自民党にもっと強くものを言い、それが通らなければ野党になるべき筋なのである。小泉との連立の間に与党ボケが重症になったのかもしれない。平和と福祉の党の看板が泣くような事態が続けば、支持者や国民の批判が強まるであろう。
 
  民主党は豪腕小沢を代表に再選し、「政権交代」を最大のスローガンにして、衆院補選と来夏の参院選の勝利をめざしている。保守政治家と左右の社民的勢力の寄せ集め世帯であること自体は必ずしも否定すべきものではないが、政治理念や基本政策でのすり合わせがまだでき上がっていない。とくに最も重要な安保・防衛や新自由主義経済・行政改革・規制緩和などで自民党に似た政策が多い。保守二大政党では意味がない。
 
  小沢は社民的な考え方や政策を口にする機会が多くなり、安倍・自公政権の全野党に共闘を呼びかけている。他党は「院内共闘は一致する課題では大いに進めるが、選挙共闘はやや慎重にならざるを得ない」としている。社民党は「選挙共闘ではなく、いくつかの選挙区で棲み分け」を模索し、民主党がそれを呑まない限り実現は難しいとしている。自民党政治を終焉させると言っても「民主党について来い」ではその可能性は高くない。民主党が今後も社民的傾向を強め、安倍内閣に毅然と対峙するなら、国民にとって望ましいことであり、野党共闘に厚みが出るであろう。
 
  共産党は、党内には柔軟な戦線統一を求める声も少なくないが、中央は独自の闘いを進めている。社民党への共闘呼びかけは粗雑で配慮の欠けたものが多いと言われている。
 
  こうしたことを考慮すると、市民運動が指摘するとおり参院選での共闘もできうる限り進めることは必要であるが、簡単ではない。沖縄県知事選に引き続き、都知事選などでも統一候補の擁立を実現し、勝利めざして汗をかきあうことが現実的ではないか。

■ 8.社民党の消長が日本を決める
    主体強化と共闘拡大で未来へ

  社民党は共産党と同じように小さな政治勢力になってしまい、政権を担うどころか、政権に与える影響力も弱くなってしまった。野党第一党効果を失い、小選挙区制が追い討ちをかけている。政治理念や政策は良いのだが、政治的力量を失ってしまったのである。現在は「ないない尽くし」の中でも議席を死守し1議席でも前進することしかない。善戦健闘が続けば、国民や労働運動が社民党を飛躍的に発展させる時期が来る。
 
  逆に、ジリ貧状態を続ければ、消滅の危機を迎えないとも限らない。そういう事態を回避し、逆に国民に新たな期待を抱かせるための可能性として、社民勢力の結集を真剣に検討する時期に来ている。日本の政治の反動化が土壇場まで来ている現実を直視するならば、反自公の政党・政治グループとの共闘を避けることは賢明とは思われない。主体性を強化しつつ検討が進むことが望まれる。どの道、困難な政治情勢はまだしばらくは続く。
 
  本質的には、労働運動が広い意味で強くなければ労働者・市民の党、社民党は強くならない。同時に、きちんとした労働者・市民の党がなければ労働運動も市民運動も発展しない。
 
  こうしたことを考慮しつつ、できるだけ早く自治体選と参院選の候補者を擁立し、安倍政権の危険な政治に反対し、選挙勝利をめざすことが求められている。そして、11月19日に行われる沖縄県知事選挙では、危険な日米軍事一体化路線と基地の再編強化にノーを突きつけるためにも、沖縄県民の暮らしと平和を守るためにも、全野党統一候補の糸数慶子氏の勝利を勝ち取ることが必要である。続いて、来春の東京都知事選挙でも反石原の統一候補を擁立して独裁者的な石原都政に終止符を打つことで、4月後半の統一自治体選挙、7月の参院選の勝利につなげよう! そこから日本の明るい未来が開ける。



(2006年10月14日)


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