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●2006年7月号
■ 日本経済・景気「回復」の実態
               (山形大学  立松 潔)
 
■はじめに
 
 景気回復が続き、戦後最長の「いざなぎ景気」超えが視野に入ったなどと、もてはやされている。現在の景気が回復に向かったのが02年2月であるから、今年の5月で52カ月になり、バブル景気(86年12月〜91年2月の51カ月)を追い抜いたことになる。「いざなぎ景気」は65年11月から70年7月までの57カ月であるから、今年の11月でそれと並ぶことになるらしい。

  しかし、景気「回復」の中味をみれば、そんな比較がいかに馬鹿げているかはすぐに明らかになる。いざなぎ景気の頃の日本は、戦後最大の好況(好景気)であり、経済成長率は名目で17%、実質で11%であった。失業率は1.2%前後と極めて低く、失業者は多い年でも65万人程度でしかなかったのである。これに対して現在の景気「回復」期の経済成長率は名目で1.1%、実質で2.3%に過ぎない。雇用面で改善が進んでいるとはいえ、05年の失業率は4.4%、失業者が294万人もいる。

  わかりやすく言えば、いざなぎ景気の際の日本経済が健康そのものだったとすれば、現在の日本経済は、バブル崩壊以来の重い病気から回復しておらず、病状が多少回復に向かっているに過ぎないのである。しかも、その「回復」は決して経済全体に及んでいるのではなく、輸出関連産業や勝ち組大企業に限られており、その結果が格差の拡大となって現れている。本稿ではそんな「回復期」の日本経済の実態(病状)について概観してみたいと思う。
 
■ 1.大企業、メガバンクの好決算と株価上昇
 
 景気「回復」の証拠として報じられるのが、大企業の好業績である。日本有数の大企業の集まりである東京証券取引所の第一部上場企業の今年(2006年)3月期の決算集計は、全体の経常利益額で3年連続、過去最高益を更新することになった。新光総合研究所によれば、今年5月31日時点で発表された金融を除く1218社の売上高は502兆8680億円、経常利益は30兆9000億円に達し、昨年よりそれぞれ7.9%、11.3%も増加している。

  大手金融機関の好業績も注目される。六大金融グループ(三菱UFJ、みずほ、三井住友、住友信託銀行、りそな、三井トラスト)の06年3月期連結決算では、税金などを支払った後の最終的なもうけである当期利益において、全グループが過去最高を記録した。当期利益合計で前期比約4倍の3兆1215億円であり、バブル期のピーク(89年3月期、1兆6656億円)を大きく上回った(「朝日新聞」06年5月24日)。

  六大金融グループのうち三大メガバンクと呼ばれる三菱UFJフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの業績は特に注目される。三菱UFJは、当期利益が1兆1817億円と、国内で金融業として初めて1兆円を超え、トヨタ自動車に次ぐ高水準となった。三井住友も前期の2342億円の赤字から、6868億円の黒字に転じ、みずほも前期比3.6%増の6499億円の当期利益をあげ、00年の三行統合後の最高益を更新した。

  企業業績の好転と深く関係するのが株価の推移である。図表1からわかるように、01年4月から2年間下落を続けた株価も、03年4月以降は上昇に転じ、特に昨年(05年)の上昇は急テンポであり、05年5月の1万1082円が今年4月には1万7233円となっている。

  このような株価上昇は、保有株式の含み益の増大や株式売却益の増加によって金融機関の業績を好転させた。また、景気回復に伴って貸出先の企業業績が改善すれば不良債権も減少し、金融機関の財務体質も一挙に改善する。不良債権処理費用が大幅に縮小されたのに加え、融資先の破綻に備えて計上していた貸倒引当金が不要になり、利益として計上できたからである。貸出という本業での利益は低迷しているにもかかわらず、今回の六大金融グループが好決算を達成したのはそのためである(朝日新聞06年5月23日)。



  しかし、図表1からもわかるように、今年(06年)5月にはいってから株価は下落に転じている。6月8日には約半年ぶりに1万5000円を下回り、1万4633円にまで落ち込んでいる。5月中旬以降、株価下落は世界的な趨勢となっており、株価上昇により押し上げられた企業業績の底上げ部分が失われることになれば、景気回復にもブレーキがかからざるを得ないであろう。
 
■ 2.企業業績回復の背景
 
 大企業の業績回復の要因を明らかにするため、業種別に06年3月決算の経常利益対前年度伸び率を見てみよう。新光総合研究所のホームページ掲載資料によれば、経常利益の伸び率は、非製造業の3.9%に対し、製造業はそれをかなり上回る16.8%となっている。さらに製造業の中では機械工業が中心の加工産業が15.1%であるのに対し、素材産業がそれをさらに上回る20.6%の伸び率であった。

  素材産業では非鉄金属(48.7%)、石油・石炭(45.2%)、鉄鋼(29.4%)など重厚長大型の産業が特に高い伸びを示している。経済が急成長を続けている中国の輸入増加によって資源や素材製品の価格が上昇したため、我が国の素材メーカーも販売価格の上昇によって高収益を得ることができたのである。いわゆる「中国特需」の恩恵にほかならない。

  非製造業でも鉱業が66.5%、総合商社を含む卸売業が60.9%と、極めて高い伸びを見せているが、これも資源・素材製品価格の上昇のおかげである。原油、鉄鉱石、原料炭などの大幅値上げは、鉱山業に大きな利益をもたらしただけでなく、多くの鉱山権益を持つ総合商社にも、資源関連ビジネスの好調によって高収益をもたらしたからである。

  非製造業で次に経常利益の増加が大きいのが不動産業(33.2%)である。国土交通省の発表によれば、06年1月1日時点の公示地価は、東京が住宅地、商業地ともに15年ぶりに上昇に転じ、大阪、京都、愛知の商業地も15年ぶりに上昇に転じたという(読売新聞06年3月24日)。このような大都市部の地価上昇の背景には、賃貸ビルや投資用マンションなど不動産需要の回復があり、それが賃料上昇や不動産価格の上昇となって不動産大手の収益拡大を支えることになったのである。

  以上のように、企業業績の好調は価格上昇や地価の上昇という幸運によるところが大きいのであるが、もっぱらその恩恵にあずかることができたのは、市場で有力な地位を占める大企業であった。そして、その様子は06年3月の日銀短観からもうかがうことができる。

  「貴社の業況についてどのように判断しますか」という質問に対する回答で、業況が「良い」と答えた企業の割合(社数構成比)から、「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた数値(%ポイント表示)を業況判断指数(DI)と言うが、このDIの数値は製造業が12であるのに対し、非製造業は0であり、業況が良い企業と悪い企業が等しい状態にとどまっている。非製造業にはまだ景気回復が十分及んでいないのである。

  非製造業でも大企業の業況判断指数(DI)はプラス18であり、好調な企業のほうが多い。しかし、中堅企業のDIはプラス3に過ぎず、中小企業に至ってはマイナス9と、業況の悪い企業が多数を占めている。製造業では大企業だけでなく、中小企業のDIもプラスになっており(大企業はプラス20、中小企業はプラス7)、景気回復が規模の小さな企業にも及んでいるのであるが、非製造業の中小企業は依然として不況から脱し切れていない。

  非製造業の中小企業が不振を続けているということは、雇用の問題を考えると深刻である。というのは、現在の日本では製造業の就業者数は全体の2割程度に過ぎず、第三次産業など非製造業が就業構造の中心となっており、さらに多数の従業者(企業ベースで約7割)が大企業でなく中小企業で働いているからである。

  以上のように、企業業績や景況感から見る限り、今回の景気「回復」は、素材価格の上昇や地価の回復など価格面での幸運に恵まれた大企業や、好調な輸出に支えられた製造業を中心とするものであり、従業者の多数を占める非製造業の中小企業には及んでいないことが明かになった。そこで次に、景気回復の実態を生産の動向等についてさらに詳しく検討してみたい。

■ 3.輸出主導の生産回復の危うさ
 


 図表2で鉱工業生産指数の動きを見ると、05年は前年比1.3%の伸びであったことがわかる。それを財別に見ると、「建設財」がマイナス2.4%、「非耐久消費財」がマイナス0.4%となっている。「建設財」は公共事業抑制などの影響で、5年連続のマイナス。飲食料品・被服・娯楽費など家計で購入される日用品である「非耐久消費財」は、6年連続のマイナスである。非耐久消費財は内需の比重が高いため、個人消費の低迷や輸入拡大の影響を受け、低迷が続いている。

  これに対し、設備投資に向けられる「資本財」は4.0%増加し、3年連続で拡大した。また輸出の比重の高い「耐久消費財」も、2.9%増でやはり3年連続の拡大である。原料・部品・燃料など、生産活動に投入される「生産財」も、1.1%の増加にとどまったが、4年連続で拡大が続いている。生産財では、アクティブ型液晶素子、駆動伝導・操縦装置部品、固定コンデンサ、リチウムイオン蓄電池など、IT機器や乗用車向けの部品を中心に伸び率寄与度が大きい。耐久消費財では普通乗用車の伸び率寄与度が最も大きく、ついで液晶テレビ、小型乗用車、二輪自動車となっている。

  鉱工業出荷指数を内外需別に見ると、国内向けが0.8%の伸びにとどまっているのに対し、輸出向けが3.7%と高い伸びになっている。製造業における生産の回復が内需より外需に牽引されたものであったことが、ここからも明かである。

  以上のように、輸出の拡大とそれに伴う設備投資の活発化が、資本財や生産財、耐久消費財の生産拡大を引き起こし、今回の景気回復の原動力になっていたのであるが、しかしこのことは外需依存に特有の危うさも抱えている。輸出市場は常に厳しい国際競争のもとにあるため、円高の進展などの環境変化によって、たちまち苦戦を強いられることになるからである。



  図表3に見られるように、昨年(05年)の対ドル為替相場は、1月の103.2円から12月の118.6円へと、大幅な円安が進行した。05年の輸出産業の好調はこのような円安に支えられたものでもあったのである。ところが、今年に入ってからは逆に円高傾向が強まっている。図表3からも、06年4月の1ドル=117.1円が五月には111.5円になっていることがわかるが、今後も円高傾向が続くようだと、輸出産業の業績は悪化を免れず、景気回復にもブレーキがかかることが考えられる。

■4.個人消費の低迷と二極化



  図表4は2005年度のGDP(国内総生産)の対前年度伸び率と項目別の増加寄与度を示したものである。これによれば、05年度の国内総生産は対前年度比で3%という近年では比較的高い伸びを示している。どの需要がGDPをどれだけ増加させたかを示す「寄与度」では、民間最終消費支出が1.3%、財貨・サービスの輸出が1.2%と、ほぼ同じウエイトを占めており、続いて民間設備投資が0.9%となっている。02年度から04年度までの景気回復期には輸出の寄与度が最も高かったのであるが、05年度になると個人消費の回復が顕著になり、企業設備投資もこのような輸出と個人消費とに支えられて拡大することになったと言われている。

  しかし、個人消費の寄与度が高いのは、GDPに占める比重が高いからであって、その年伸び率は2.3%に過ぎず、民間企業設備の6.6%、輸出の9.2%の拡大と比べれば、低い水準にとどまっている。言いかえれば、個人消費向けの商品やサービスを供給する企業は、設備投資関連産業や輸出産業に比べれば、低成長を余儀なくされざるをえなかったということである。

  個人消費低迷の原因の一つは、勤労者の可処分所得の減少である。総務省の「全国家計調査」によれば、05年の勤労者世帯の可処分所得は対前年比で実質0.8%の減少(名目1.2%の減少)であり、これに伴い消費支出も実質値で0.3%の減少(名目値で0.7%減少)となっている。勤労者の家計は依然として所得も消費も貯蓄率も悪化を続けているのである。



  このような勤労者家計の悪化の要因の一つは、企業業績の回復にもかかわらず、その成果が労働者に還元されていないことである。図表5に見られるように、日本企業の労働分配率は01年以降年々低下を続けている。大企業は利益の増加によって体力(経営体質)が強化されているにもかかわらず、労働者の所得は低迷し、生活水準の悪化が続いていることになる。まさに労働者不在の景気「回復」であると言えよう。

  個人消費に関しては、所得格差の拡大を背景とする「消費の二極化」も影を落としている。「日本リサーチ総合研究所」が06年4月に行ったアンケート調査によれば、所得が1000万円以上の層では、今後1年間の消費支出を「増える・充実させたい」とする回答が増加しているのに対し、600万円以下の階層では逆に消費支出を「減る・節約したい」とする回答が増加しているという(「産経新聞」06年5月26日)。

  小泉「構造改革」路線が描くシナリオは、勝ち組大企業の(輸出)競争力強化と富裕層の消費拡大によって景気回復を進めようとするものである。しかし、国民の多数の生活を置き去りにした景気回復は脆弱なものでしかない。消費を増やすのは少数の富裕層だけで、それ以外の勤労者が消費を減らすことになれば、多数者を相手とする企業の成長は困難だからである。

  個人消費が低迷しても、輸出産業は外需に依存して成長することができる。しかし、すでにみたように、非製造業や非耐久消費財産業は、供給先が国内中心であるため、現在でも低迷を余儀なくされている。そして、もし今後消費税増税が実施されるようなことになれば、さらに深刻な打撃を被ることになるであろう。消費税は逆進的であるがゆえに「下流」階層の消費に深刻な影響を及ぼさざるを得ないからである。(なお、所得格差の拡大については、本誌06年4月号の畑隆論文を参照のこと。

■5.地域間格差の拡大

  景気回復の過程で地域間格差の拡大も続いている。自動車など輸出向けの製造業の比重の高い地域(愛知県など)や、大企業や富裕層の多い東京などの大都市圏が景気回復の恩恵に与っているのに対し、非耐久消費財製造業や非製造業の中小企業が多い地域は依然として低迷を続けている。



  図表6は05年の有効求人倍率の上位グループ(10都県)と下位グループ(10県)について、この3年間の改善度を比較したものである。ここからわかるように、全国的には02年の0.54から05年の0.95へと、0.41ポイントの改善が見られたのに対し、下位グループの雇用環境は依然として低迷を続けており、0.04ポイントから0.21ポイント程度の改善にとどまっている。また、1位の愛知県の有効求人倍率は1.67に達しているにもかかわらず、青森県は依然として0.40という低い水準にとどまっており、雇用格差は一層大きくなっているといえよう。

  雇用格差は賃金格差とも結びつく。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、05年の有効求人倍率下位グループ10県のうち、7県は所定内賃金の水準(05年)でもやはり下位グループ(10県)に含まれているのである。所定内賃金水準(05年)が最も高いのは東京都であるが、下位グループの平均賃金は東京都の3分の2ないし6割程度でしかない。しかも、2000年から05年にかけて、46道府県のうち44道府県で東京都との賃金格差が拡大している(格差が縮小したのは山形と島根の2県のみ)。

  市場万能論の考えによれば、以上のような地域間格差は、労働力の移動により市場を通じて解消されるという。青森県など失業の多い地域の労働者が、愛知県など人手不足の地域に出稼ぎすれば、青森では失業者が減り、愛知では人手不足が解消されることになる。こうして、労働力需給が均衡すれば賃金格差も縮小するというわけである。

  しかしこの説は、人口の流出する地域では消費も減少し、それにより地域の景気が一層悪化するということを見落としている。不況が雇用悪化を生み、その結果の人口流出によって消費が減少することで、不況が一層深刻化するという悪循環が生じてしまうのである。

  小泉政権は東京など大都市へのてこ入れ策には熱心であるが、地方に対しては自助努力を強調し、地方交付税交付金など財政支援を大幅に削減している。これでは地域間格差は拡大するばかりであろう。地方自治体が自ら努力することは当然であるが、政府も支援策を強化し、地域間格差の拡大に歯止めをかけるよう努めるべきであろう。



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