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●2005年11月号増刊
■ 「骨太の方針」に見る小泉構造改革
            (山形大学教授・立松 潔)

 
 ■ はじめに――経済財政諮問会議と「骨太の方針」
 
「骨太の方針」とは、内閣が次年度の予算編成の指針を示すための文書である。正式の名前は「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」と言い、小泉政権が発足した2001年以来、毎年6月に経済財政諮問会議によって策定され、閣議決定されてきた。各省庁が概算要求をする前に、内閣がその指針を示すことで、内閣主導(官邸主導)の予算編成を推進しようというのである。
 
 以前は、内閣から予算編成の指針が示されないまま、各省庁が概算要求をし、大蔵省がそれを査定をするという形で予算編成が進められていた。閣議に予算編成方針が提出されるのは、予算編成の最終段階である12月末になってからであった。政府の方針が示されないまま、各省庁の方針にしたがって概算要求がだされ、結果的にそれを査定する大蔵省が予算編成において最も大きな力をふるうことになっていたのである。
 
 このような事態を改善するため、橋本政権(1996年1月〜98年7月)の下で行われた中央省庁の再編成の際に、内閣(官邸)のリーダーシップ強化の仕組みが取り入れられた。それが、2001年1月発足の内閣府の下に設置された経済財政諮問会議である。同年四月に発足した小泉内閣は、橋本行革の産物であるその新しい仕組みを活用することによって、「官邸主導」の予算編成を進めていることになる。
 
 もっとも、小泉内閣になってから「官邸主導」の意味は微妙に変化することになった。当初、経済財政諮問会議の設置は予算編成の主導権を大蔵省(現在の財務省)から内閣に取り戻すためのものされていたが、小泉政権は財務省の力を利用して他の省庁や族議員の要求を抑える方法をとったため、国政に対する財務省の力は逆に以前より増大したともいわれている。
 
 経済財政諮問会議は内閣総理大臣を議長とし、10名の議員(同会議ではその構成員を議員と呼んでいる)からなる合議体であるが、そのうち4名は民間人をあてることになっており、現在は学者と財界人が2名ずつ就任している。民間人以外の議員(6名)は、首相の最大のブレーンである竹中平蔵内閣府特命担当大臣(経済財政政策)を筆頭とする五名の大臣(内閣官房長官、財務、総務、経済産業)と日銀総裁である。財界人のメンバーは日本経団連会長の奥田碩とウシオ電機社長の牛尾治朗という実力者であるから、財界の意見がスムースに反映できる構成であると言えよう(以上は05年10月の内閣改造前の構成である)。
 
 同会議は単に予算編成の指針を策定するだけではない。経済全般の運営方針や、財政運営の基本方針、全国総合開発計画など経済財政政策の重要事項についても調査・審議することになっており、国政の方向を決める極めて重要な組織として位置づけられている。
 
 その結果、同会議が策定する「骨太の方針」も、単なる予算編成方針ではなく、広く経済財政政策の重要課題を示す、小泉構造改革の基本方針ともいうべき内容になっている。正式名称が「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」とされているのもそのために他ならない。
 
 それでは、今年の「骨太の方針」は、当面の経済財政政策の重要課題をどのように捉えているのであろうか。本稿では、そのいくつかを紹介することによって、小泉構造改革のこれからの方向を明らかにしてみたい。
 
 ■ 2、集中調整期間から重点強化期間へ
 
 今年の「骨太の方針」は、現在の日本経済を、「平成16年度までの集中調整期間における構造改革の進捗によって、バブル崩壊後の負の遺産から脱却し、民需主導の経済成長が実現しつつある」(同、1頁)状態だとしている。ここでの「集中調整期間」とは、不良債権問題の解決を最優先課題とするために、不況の深刻化が避けられない時期を意味している。第1回目の「骨太の方針」(2001年)で2〜3年とされていた集中調整期間は、その後予想外に不況が長期化したため、4年間に及ぶことになった。
 
 しかし、ともかくこの4年間で主要な銀行の不良債権比率の低下が進み、勝ち組大企業を中心にこの3年間は増収増益が続き、失業率も低下するなど景気は「回復」に向かっているように見える。「骨太の方針」(2005年)によれば、このような景気の「回復」こそ「構造改革の成果」に他ならず、改革をさらに推進するためには、これからの2年間(05年と06年)を重点強化期間と位置づけて「攻めの改革」に踏み出さなければならない。すなわち、日本経済は「新たな成長基盤を確立できるか、緩やかな衰退の道をたどるかどうか」の分かれ道にたっており、重点強化期間の構造改革の進展によってその成否が決まるというのである。
 
「骨太の方針」によれば、重点強化期間の課題は次の3つである。すなわち、第一に「小さくて効率的な政府」をつくること、第二に少子高齢化とグローバル化を乗り切る基盤をつくること、そして第三にデフレを克服するとともに、経済の活性化により民需主導の経済成長を確実なものとすることである。
 
 その3つの改革課題は、いずれも小さな政府論や市場万能論に見られるような、新保守主義(新自由主義)的なイデオロギーに基づくものでおり、それはこれまでの「骨太の方針」の内容と基本的には同一である。しかし、政策課題の中には、今回の「骨太の方針」で具体的な方向が示されたものも少なくない。次にそのいくつかを紹介してみよう。
 
 ■ 2、市場化テストの本格導入―官業の徹底的な民間開放
 
 今回の「骨太の方針」で注目されるのは、公共サービスの効率化のための手段として、市場化テストの本格的導入が打ち出されていることである。しかもそのために、「公共サービス効率化法(市場化テスト法)案」(仮称)を05年度中の国会提出に向けて速やかに準備する(7頁)としている。04年の「骨太の方針」では、市場化テストについて、04年度中に6年度中に制度設計を行うとともに、05年度の試行的導入に向けて検討を進めるとしていたのを、さらに一歩進めた形である。
 
 市場化テストとは、「官民競争入札」と呼ばれるように、国や地方公共団体が行っている公共サービスを対象として、官と民が対等な条件の下で競争入札を行い、より優れたサービスを提供できる主体が落札者となり、公共サービスを提供していく仕組みである。公共サービスの効率化や質の向上、民間のビジネスチャンスの拡大に寄与するというのが、導入の根拠とされている。
 
 市場化テストが単なる民間委託と異なるのは、まず第一に競争入札の結果、官の側が引き続き事業を継続することもあり得るということである。民業との競争にさらすことで、官の側の意識変革と効率化を狙った政策ということができよう。
 
 第二に、これまでの民間開放・民間委託、民営化が特定の分野に限ってのものであったのに対し、市場化テストはすべての官業が対象とされている。(さらに、独立行政法人を対象に含めることも検討されている)。市場化テストは、公共サービス分野への市場原理・競争原理の導入を一挙に拡大し、経費の節約=効率化を推し進める強力な手段と考えられているのである。
 
 市場化テストは今年度すでにハローワーク関係、社会保険庁関係、行刑施設関係の3分野8事業(23個所)でモデル事業が実施されている。なお、試行段階ということで今回の入札には官側は参加しておらず、民間企業のみの入札によって実施された。
 
 このうちハローワーク関連の第一弾となる中高年の再就職支援施設「キャリア交流プラザ埼玉」(さいたま市)の運営には、5月の入札に9社が参加し、人事コンサルティング会社「ブライトキャリア」(本社・東京)が落札、6月から業務を始めている。これについて、8月10日の読売新聞は特集記事で次のように報道している。
「まず、求職者が同プラザに入ってきた時の応対が変わった。相談員が『いらっしゃいませ』とあいさつするようになった。/ これまでは、プラザが開くセミナーの内容や相談員の助言をもとに、求職者が自分で再就職の手続きを進めるのが一般的だったが、6月からは、就職したい企業が見つかった場合、相談員が求職者にその企業に適した面接の受け方などの助言も行うようになった。相談員が面接会場まで同行することもある。
 
 プラザ内には、ハローワークの求人情報に加えて、ブライト社が集めた求人案件も張り出されるようになり、選択肢も広がった。/ ブライト社は就職支援を約20年間手がけており、森下一乗社長は『求職者は我々にとって顧客。長年の経験を生かし、就職が決まるまで親身に支援することを心がけている』という。
 運営費もほぼ半減する見通しだ。国の03年度予算では同プラザは年間6040万円で運営されたが、ブライト社の受託額は3400万円だ。これまでに受託が決まったモデル事業の大半は、民間企業の受託額が従来の予算額を大幅に下回っており、民間に任せた方が経費が安くて済むことが証明されつつある」と。
 
 このように、早くもモデル事業の段階で、市場化テストによって大幅な経費削減とサービスの改善など、大きな成果が期待されるとの報道が行われている。今後はさらに、「市場化テストによって仕事を減らされる官の側が抵抗している」という、「官僚=公務員=抵抗勢力」というおきまりのキャンペーンが展開されることになるかも知れない。
 
 しかし市場化テストとは、単なる財政再建や公務員削減の手段ではなく、住民(利用者)の立場から公共サービスの在り方を見直すことであるはずである。官か民かという不毛な二分法ではなく、具体的な公共サービスの内容に応じた検討がなされなければならないだろう。
   
 ■ 3、公務員の総人件費削減
 
 公務員の総人件費削減についても、今年の「骨太の方針」ではかなり踏み込んだ内容が盛り込まれた。国・地方とも定員の純減目標などの明確な目標を掲げて取り組むこと、総人件費改革のための基本指針を05年秋までに策定し、06年度予算や地方財政計画から順次反映させることなどである(同上、9〜10頁)。04年度までの「骨太の方針」が、公務員給与の在り方の見直し・検討の必要性の指摘にとどまっていたのと比べると、時期や検討課題がより具体的に示されることになった。
 
 公務員数の削減目標については、次のような方針が示されている。まず国家公務員については、04年12月に閣議決定された「今後の行政改革の方針」が、05年度から09年度までの5年間で04年度末段階の定員の10%以上の削減を目指すとしている(同上、1頁)。また、地方公務員の削減については、総務省が05年3月に策定した「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針」で、過去5年間(99年から04年まで)の実績(4.6%減)を上回る総定員の純減を図る必要があるとされている。
 
 しかし、図表1に見られるように、日本は先進国の中でも公務員数が飛び抜けて少ない国である。それにもかかわらず、「骨太の方針」はさらにそれを減らそうというのである。しかも必要な行政サービスの内容や水準から適正な規模を導き出すのではなく、初めに削減の数値目標を設定する、公務員数削減の自己目的化とも言うべき方法によってである。これでは、公務員労働者の労働強化だけでなく、行政サービスの低下をも招く危険性が高いと言わざるをえない。
 

 
 しかも公務員の人件費削減や予算規模の縮小による「小さな政府」の実現はすでに限界に近づいている。今年の「骨太の方針」が、「高齢化の本格化がもたらす高負担圧力とともに、国民負担の増加をめぐる議論はいずれ避けられない」(同上、2頁)と、初めて国民負担増加の問題を指摘したのはそのためである。
 
 図表2にみられるように、我が国は租税負担率、国民負担率のいずれにおいても、先進国の中では比較的低い水準にある。(租税負担率は国税と地方税の合計が国民所得に占める割合であり、国民負担率とは、租税負担率と社会保障負担率の合計である)。歳出削減にともなう福祉などの行政サービス低下は、経済的弱者に対して過酷に作用することが多い。そのような弊害を避けるためにも、適正な税制の見直しによる税収増加を検討すべき時期になっていることは間違いない。
 

 
 しかし、現在の新保守主義的「構造改革」路線のもとでの税制改革では、大企業や高所得者の負担軽減と消費税率引き上げなどによる大衆課税の強化が進められる可能性が高い。「所得の多い人から所得の少ない人へ、強制的に富を移転させるという税の仕組みは、頑張って所得を上げようとする意欲を喪失させかねません。ベンチャーで頑張る人が求められる今日、この富の再分配の考え方は見直される必要があります」とは、経済財政諮問会議の中心メンバーである竹中平蔵大臣の言葉である(竹中平蔵『竹中教授のみんなの経済学』幻冬舎、2000年、59頁)。これこそ、「経済の活性化のためには貧富の格差拡大が必要」とする、新保守主義思想の表明に他ならない。このような路線に基づく税制改悪に反対し、貧富の格差是正と福祉の充実を目指した税制のありかたを提示していくことが必要とされている。
 
 ■4、自己負担増加による医療費抑制
 
 社会保障費、特に医療費については、すでに第1回目の「骨太の方針」において、抑制の目標値の設定の必要性が強調されている。すなわち、「医療費、特に高齢化の進展に伴って増加する老人医療費については、経済の動向と大きく乖離しないよう、目標となる医療費の伸び率を設定し、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する」(同、21頁)と。今年度の経済財政諮問会議で問題になったのは、まさにその「経済の動向と大きく乖離しない」医療費の伸び率の設定であった。
 
 新聞報道によれば、今回の「骨太の方針」の取りまとめに当たって、経済財政諮問会議の民間議員は、名目国内総生産(GDP)の伸び率に高齢者増加率を加味した数値を、医療費抑制の目安にすべきだと提案したという(読売新聞、05年6月22日)。すでにみたように民間議員とは財界2名、学者2名であり、民間議員提案は多くの場合、財界の意見を反映したものになっている。
 
 もっとも、現在の日本の国民医療費の水準は国際的にみて決して高いわけではない。図表3にあるように、日本の国民医療費の対GDP比は7.9%と、OECD30カ国中の17位に過ぎない。しかし、今後高齢化の進展などによる医療費の増加は必至であり、厚生省の試算では現行制度のままだと、国民医療費は2025年度には56兆円(03年度は32兆円)にふくらむと予想されている。医療費のGDPに占める割合を現状程度に抑制すべきだという財界の要求は、このような将来予測に基づいているのである。
 

 
 ところでここでいう国民医療費とは、その年に国民が傷病の治療のために費やした費用を指しており、保険給付分だけでなく、患者負担分も含めた治療費などの総額である。(ただし、出産費用や健康診断、美容整形など保険適用にならないものは含まれていない)。このような意味での国民医療費が、高齢化に伴って増大するのは当然であり、それをGDPのような医療と無関係の経済指標にあわせて抑制するというのは、いかにも乱暴な議論と言うしかない。
 
 結局、「骨太の方針」(2005)には、民間議員の意見がそのまま盛り込まれることはなかったものの、「医療費適正化の実質的な成果を目指す政策目標を設定し」、(その達成のために必要な)具体的な措置の内容とあわせて05年中に結論を得ること、そして、06年度の医療制度改革を断行することが盛り込まれた(12頁)。現在そのための検討が急速に進められているところである。
 
 今後懸念されるのは、患者自己負担の増加である。80年代の臨調・行革期以来の医療制度改革の流れを見ると、一貫して自己負担(患者負担)の増加が進められているからである。
 
 まず82年成立の老人保健法では老人医療無料化が廃止され、また10割給付が原則だった健康保険の本人負担が84年から1割となり、さらに97年から2割負担、03年4月から3割負担に引き上げられている。02年10月からは医療費の自己負担限度額の引き上げも実施された。
 
 今回の「骨太の方針」の方針を受けて、厚生労働省が策定した医療制度改革試案(05年10月19日発表)にも、高齢者の窓口での自己負担を増やす(70〜74歳は原則1割から2割に、夫婦で約520万円以上の年収がある70歳以上の高所得者は3割にする)内容が盛り込まれた。
 
 しかし、このような患者の自己負担を増やすことが果たして国民医療費の抑制につながるかどうかは大いに疑問である。国民医療費は公的負担と患者負担をあわせた総額であるから、保険からの負担が患者自己負担にかわるだけでは医療費の総額は変わらない。これによって医療費が抑制されるとすれば、それは受診の抑制を通じてである。
 
 たしかに、これまでも患者自己負担の引き上げ直後は、医療費抑制の傾向が見られていた。しかし、それは一時的なものに終わり、しばらくすると再び医療費が膨脹することを繰り返してきたのである。
 
 しかも、受診抑制は早期発見・早期治療に逆行する。早期発見すれば簡単に(安い費用で)治癒したものも、症状が悪化してからだと治療期間が長引き、その結果医療費も増加するということになりかねない。さらに、自己負担の増加に伴う経済的打撃は低所得者になるほど大きくならざるをえない。このままでは、社会保険のもつ弱者救済という福祉的機能がますます空洞化することになろう。そのような事態を避けるためには、医療費抑制は医療における無駄の排除や生活習慣病の予防など、自己負担増加を伴わない方法で進めるべきであろう。

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