■ サイト内検索


AND OR
 
 
 月刊『社会主義』
 過去の特集テーマは
こちら
■ 2017年
■ 2016年
■ 2015年
■ 2014年
■ 2013年
■ 2012年
■ 2011年
■ 2010年
■ 2009年
■ 2008年
■ 2007年
■ 2006年
■ 2005年
■ 2004年
■ 2003年
■ 2002年
■ 2001年
■ 2000年
■ 1999年
■ 1998年


 


●2005年11月号
■ 自民党の新憲法草案と改憲阻止のたたかい
            (佐藤 保)

 
 ■ 自民党の改憲草案
 
 8月1日、自民党は、新憲法第一次案を発表した。その目玉が、現行憲法九条二項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」を削除し、そのかわりに「自衛軍を保持する」と明記し、さらに「自衛軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか…国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動」を行うことができるとすることで、自衛隊が「自衛軍」即ち軍隊であること、その自衛隊は「集団的自衛権」を行使できるとした点にあることは、いうまでもない。
 
 今年11月に結党50年を迎える自民党は、10年ぶりに「党の理念・綱領」を改定し、そのなかに、教育基本法の改定とともに、新憲法の制定を盛り込むとされている。これは、新聞が報じたその「新憲法」草案(「朝日」8月2日)である。
 
 日本はすでに、なし崩し改憲によって、世界有数の巨大な軍事力を持っている。小泉首相は「自衛隊は軍隊」だと明言し、アメリカの求めに応じてイラクへ派兵している。だが、その小泉首相でさえ、自衛隊は「戦争に行くのではない」、「非戦闘地域」に復興支援に行くのだと国会で答弁せざるをえなかった。言うまでもなく、憲法九条があるからだ。解釈改憲を強行してきた自民党政府でさえも、「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土・領海・領域に派遣」する「海外派兵」は違憲(1980年10月28日の政府答弁)と言わざるをえないように、憲法九条はどんなに拡大解釈しても、海外での戦争、侵略戦争のための派遣を容認するものとは、なりえないからである。
 
 ■ 集団的自衛権を行使できる軍隊
 
 そこで、「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土・領海・領域に派遣」する海外派兵を行うことができるように憲法九条を変えようというのが、自民党の改憲案である。
 
 国連憲章51条は「集団的自衛権」(自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃に対し、自国が攻撃されていないにもかかわらず実力を持って阻止する権利)を各国に認めている。しかし、日本においては、憲法九条で許容されている自衛権の行使は自衛のために必要最小限度の範囲とされており「集団的自衛権の行使はその範囲を超えるもので憲法上ゆるされていない」(1981年5月29日政府答弁)というのが、これまでの自民党政府の見解であった。
 
 だから、イラクへの自衛隊の派遣のような海外派兵を行ない、集団的自衛権の行使を行なうにあたっては、小泉首相のように自衛隊は「戦争に行くのではない」「非戦闘地域」に行くのだと、国会で国民をあざむく答弁をせざるをえない。だが、国民をいつまでも、だまし続けることはできない。こうして、国民をごまかさないでも、公然と海外派兵を行ない、集団的自衛権を行使をすることができるように、憲法九条二項の明文改憲に乗り出したというわけである。
 
 小泉首相は「自衛隊は軍隊ではない、戦力ではないという(憲法の)規定、これは常識に合わない。まぎらわしい解釈がないように、しっかり国を守る部隊だと、国軍だと、誤解ないように表現を改めたほうがいい」(03年11月2日、フジテレビの番組)と語ったことがある。長年の自民党政権の手による「なし崩し改憲」で、憲法九条二項「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という規定は空洞化し「常識に合わなく」なっているから、変えたほうがよいというわけである。
 
 自分たちが国会における多数の「暴力」で憲法違反の既成事実を積み重ねておいて、それに合うように憲法の条文を改め、自衛隊を正規の「軍隊」と認めたほうがいい、とは全く国民を愚弄した言い分だ。しかも、これまでは自民党政府自身が憲法上許されていないとしていた集団的自衛権を行使できる軍隊、海外で戦争、侵略戦争にさえ加担できる軍隊を保持することを憲法に明記すべきだというのが、自民党の「新憲法草案」なのである。
 
 ■ 民意からかけ離れた改憲「翼賛」国会
 
 先の総選挙で小泉自民党は、この選挙は「郵政民営化」賛成か反対かの国民投票だと訴え、「憲法改正」を選挙の争点とすることは意識的に避けていた。にもかかわらず、選挙で圧勝するや否や、待ち構えていたように、改憲に向けて突き進み始めた。
 
 衆議院本会議は、国会招集日の翌9月22日、自民、公明、民主などの賛成で、「日本国憲法に関する調査特別委員会」を設置した。この「特別委員会」の設置目的は「日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法の広範かつ総合的な調査を行うため」となっている。一言で言えば、改憲の手続き法案づくりのための委員会である。
 
 民主党の新代表となった前原誠司氏は、2000年5月、衆議院の憲法調査会で「日米安保条約そのものが立派な集団的自衛権の行使だ。個別、集団の違いはないという考えに立ち、自衛権をしっかり明記すべきだ」(朝日新聞、2000年5月31日)と述べている。そのことからも明らかなように、小泉首相と同じ筋金入りの九条改憲論者だ。代表就任後も、九条二項の削除と自衛権の明記を主張している。
 
 むろん、民主党は改憲論一色ではない(朝日新聞社が総選挙前に立候補予定者に行ったアンケートで積極改憲論は自民党87%、民主党46%〈「朝日」8月31日〉)。だが、前原氏は朝日新聞社のインタビューに答え、改憲論議については「拙速には考えていない。党内のコンセンサス(合意)を得てしっかりまとめたい」としつつも、改憲の手続きを定める国民投票法の制定については「前向きに取り組む」と語り「我々も責任を持たないと(憲法改正の発議は)通らない。イメージとしては大連立的な考えを持たないとやれない」と述べたと報じられている(朝日新聞、9月20日)。
 
 九条改憲をめぐる国会の状況は、総選挙における自民党の圧勝と九条二項改憲で自民党に近い民主党新執行部の選出で、一段と厳しいものになった。ただ、公明党の神崎代表は、総選挙後に憲法「九条の一項と二項は堅持し、集団的自衛権の行使は認めない。そこは揺るがない。九条で合意できなければ、連立そのものに響いてくる」(朝日新聞、9月28日)と語っている。とはいえ、自民、民主二大政党の「九条改憲翼賛国会」という状況に変わりはない。そこで、これにどう立ち向かい歯止めをかけるかが、憲法闘争の当面最大の課題となった。
   
 ■ 憲法に対する国民意識の二重基準の総決算としての改憲攻撃
 
  国会内で九条改憲に立ち向かう勢力は、衆、参両院とも、社民、共産両党に、改悪に慎重な公明、民主などの議員を加えても圧倒的に小さい。だが国会内の力関係は、民意を反映したものではなく、憲法九条に関する国民の意識状況から、かけ離れている。たしかに、自衛隊を認める人々が1960年代以降増加し、国民世論のうえでは「自衛隊と憲法九条は共存している」(NHK「図説戦後世論史・第2版」)という矛盾した状態が続いている。しかし、改憲をあおるマスメディアの世論調査でも、九条改憲反対が、今も国民の多数を占めている。
 
 憲法に対する国民、有権者の意識は、この4年余りの小泉政権下で、一段と後退したが、小泉政権成立直前の世論調査(朝日新聞、2001年4月)では、憲法改正の「必要がある」と答えた人は47%だった。九条については、「変えない方がよい」が74%(20代前半では85%)に上り、逆に「変える方がよい」は17%にとどまった。九条改憲阻止の闘いの成否は、この九条は「変えない方がよい」とする7割の国民にかかっている。この7割を維持し、さらに拡大する努力が実を結ぶことができれば、勝利への展望が開けてくる。
 
 ところが、この同じ世論調査で「今の自衛隊は憲法に違反していると思いますか。違反していないと思いますか」という質問に対する答えは、「違反している」が13%、「違反していない」が61%だった。また「自衛隊を今後どうしたらよいか」には12%が「強化する」、66%が「現状程度にとどめる」、16%が「縮小する」と答えている。
 
 このような国民の意識状況は、現在でも、基本的には変わっていないと思われる。憲法九条を変えることには反対だが、自衛隊は九条違反ではないから現状のままでよい。この「自衛隊と憲法九条の共存」とでも言うべき矛盾した国民の意識状況(坂本義和氏の表現を借りると「憲法をめぐる二重基準」〈『世界』05年9月号〉)に付け入って、自民党は改憲派が国会で3分の2を超えた今、九条改憲とりわけ九条二項の改訂、削除を強行しようとしている。
 
 ■ 「二重基準」を克服するオールタナティブ
 
 坂本義和氏(東大名誉教授)は、このような保守勢力の「二重基準の総決算」としての「改憲」の動きへの対抗力を、「これまで二重基準と正面から取り組んでこなかった『護憲』という名の現状維持傾向に求めることには限界がある」とし、「二重基準の矛盾をどうするのか、を言わなければ有効な反撃にはならない」と「二重基準を克服するオールタナティブ」を打ち出すことの重要性を指摘している(『世界』05年9月号「憲法をめぐる二重基準を超えて」)。そして、自らの制度構想を提言し、「いま先ず変えなければならないのは、憲法ではなく現実なのです」と述べている。
 
 1990年代の初期に、「平和基本法」の制定と地域安全保障システム構築を提起した憲法学者らのうち、古関彰一氏(独協大教授)ら4人で「憲法九条維持のもとで、いかなる安全保障政策が可能か」(『世界』05年6月号)という論文を書いている。この論文でも、「平和基本法」提起は「九条と現実に架橋を試みる政策提起だった」「九条を維持しつつ発展させていく安全保障の【もう一つの選択肢】は可能だ」「日本社会を説得する説得力ある対策が示されれば、改憲を食い止める世論への結集軸になり得る」として、こう書かれている。
 
 「今日もとめられているのは改憲ではなく、憲法理念をより具現化し明示的に国内および世界に発信するための新たな『国家行動基準の確立』=【もう一つの安全保障】の選択である」。
 
 さらに、改憲派が「焦点」としている九条二項について、自衛隊は軍隊なのだから「二項は削除ないし改訂しても現状を変えることにならない」という主張に対し、「装備や軍事費では世界有数の実力部隊であるが、現在にいたっても自衛隊は正規の『軍隊』ではない」とし、軍隊の定義を示したうえで「自衛隊は『軍隊』になりきれていない武装組織」だとしている。そして、「軍隊」になりきれなかったのは「憲法の制約」があったからなのだから、自衛隊にかけられた「憲法の制約を重視し、これをさらに強めていくことを」提唱している。加えて「改憲派が狙うのは、このような制約を根絶やしにし、自衛隊のあり方を抜本的に改革して、自衛隊を軍隊と認めることによって海外での軍事活動を可能にすることである。戦後日本が守ってきた平和国家の理念を否定し、戦争に参加しうる国家に変えることである」。だが、それは「現在の自衛隊と日本社会を根本的に変えてしまうことになる」と警告している。
 
 ■ 改憲阻止の全勢力を結集しよう
 
  改憲阻止、九条改憲阻止は、07年参議院選挙に向けて、当面最大の政治闘争の課題である。第42回護憲全国大会(埼玉)をはじめ、全力をあげて取り組みを強化しなければならない。
 
 改憲阻止の闘いをめぐる状況は、国会の力関係だけでなく、日本経団連をはじめ財界、保守勢力が、総力をあげて改憲攻撃を強めており、かつてなく厳しい。しかし、労働組合も、自治労、日教組、私鉄総連、全国一般、国公連合などをはじめ、闘う姿勢を強めつつある。民衆の危機意識も、次第に高まりつつあり、市民運動も盛り上がりはじめている。
 
 社民党、共産党、労働組合、市民運動の団体、その他改憲阻止の一点で一致する組織や個人が、あらゆる障害を克服して結束して立ち上がることが、強く望まれる。国会内の小さな力を院外の大衆運動の力で、大きな力に転化しなければならない。

本サイトに掲載されている記事・写真の無断転載を禁じます。
Copyright (c) 2017 Socialist Association All rights reserved.
社会主義協会
102-0072東京都千代田区飯田橋1-8-8 ASKビル4階
TEL 03-3221-7881
FAX 03-3221-7897