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●特集/戦後60年・転換期の日本の安全保障政策
(2005年5月号)

■ 「平和基本法」制定を巡る諸問題点の検討
   (平和問題研究会 中川二郎)

 
●一、はじめに
 
 憲法第九条二項は「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」としている。しかし、一方で日本は世界第2位の軍事費を持つ自衛隊(軍隊)が存在している。そして、日米軍事同盟強化路線と合わせ戦場であるイラクへの自衛隊の海外派兵が常態化され、国民保護法に基づく「行動計画」策定など戦争を前提とした有事体制づくりが着々と進められている。
 
 こうした、平和憲法と現実のギャップ、あるいは著しい乖離という状況のなかで、ギャップや乖離を作りだしてきた人たちが、国際情勢や日本の現実に合わせて憲法を変えるべきだと主張している。そして、憲法九条を変えてはならないと主張している人の中でも、これ以上自衛隊を海外に出さないために、解釈改憲や明文改憲を許さないために「非武装平和」という理念を一歩後退させて、専守防衛に徹する自衛権(自衛力)保持を認めて歯止めをかけるために「平和基本法」制定を求める動きが出てきている。
 
 そこで、「平和基本法」制定を巡る問題点や課題について読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

●二、何故、今「平和基本法」制定か
 
(1)「平和基本法」制定が提起されている背景
 
 代表的な提起として、1993年4月号の雑誌『世界』に「平和基本法を提唱する」という共同提言がなされている。メンバーは古関彰一氏(独協大学教授)・高橋進氏(東京大学教授)・前田哲男氏(軍事評論家)・山口二郎氏(北海道大学助教授)など9人による共同提言とされている。
 
 最近では社会民主党やフォーラム平和・人権・環境(略称平和フォーラム)などが、九条と現実のギャップが拡大するなかでの自衛隊の縮小・再編プログラムや国際貢献のあり方について平和基本法制定を求める動きもある。そして、今、前田哲男氏・山口二郎氏による平和基本法の再提起が行われている。
 
 その基本的考え方・位置付けは、
@ 日本国憲法前文及び第九条の平和主義の理念は、現在の国際的安全保障環境下においても、また、やがて確立される21世紀の時代精神に照らしても、依然として有効かつ現実的である。
A しかし、現状の自衛隊について、政府は専守防衛と言いつつ実際は戦場であるイラクへの派兵など解釈改憲によって自衛隊派兵を強行している。また、自衛隊は外国への侵攻も可能な巨大な軍事力を持っており、自衛のための必要最小限度を超えている。さらに、こうした既制事実を積み上げ有事体制づくりを着々と進めながら現実に憲法を合わせるためにいよいよ九条明文改憲を行おうとしている。
B こうした現実のなかで、平和基本法は、憲法に反して肥大化した自衛隊の現実を是正するための基本法であり、九条改憲に対する「対抗構想」として、自衛隊の縮小・再編プログラムや平和的な国際貢献のあり方など憲法理念を具現化するためのマニュフェストとして提起されている。

●三、93年当時提起された「平和基本法」の主な内容
 
「平和基本法要綱(案)」として提起されている、主な内容を抜粋して紹介すれば次のとおりである。
 
(1)目的
 この法律は、日本国憲法の下に確定された安全保障に関する理想と基本原則を確認し、そのなかに掲げられた「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう決意し」「日本国民は、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」(前文)「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」「陸海空軍その他戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」(第九条)との精神にのっとり、これら普遍的な理想の実現を図りつつ、日本の安全維持と国民生活の確保、並びに世界平和への積極的寄与についての具体的方法、及び手続きを明示するため制定するものである。
 
(2)憲法との関係
 @ 平和のうちに生存する権利
 日本国民は、日本国憲法の下で「平和のうちに生存する権利」を保障される。政府は、国民生活を様々な脅威から守る安全保障の義務を有する。
 A 自衛権
 憲法九条は、その第一項において侵略戦争を否定し、また国際紛争を解決するための武力による威嚇、武力行使を禁じたが、国連憲章第五一条に規定された個別自衛権は認められている。国民生活を様々な主権侵害行為から防衛するための実力は保持しうる。しかし、憲法九条二項において、一切の戦力が禁じられ、交戦権も否認されているため、保持しうる実力は最小限防御力の域をでることができず、その組織のあり方、装備及び実力行使の方法も極めて限定的かつ抑制的でなければならない。
 
(3)軍事力によらない安全保障(省略)
 
(4)最小限防御力
 @ 任務
 憲法の精神を尊重し、国土に対する主権侵害行為から国民を防衛することを任務とする。
 A 指揮
 内閣総理大臣がこれを指揮する。
 B 平和・軍縮省
 厳格に管理された最小限防御力の保有と運用にあたるため、仮称・平和軍縮省(あるいは平和・安全省)を設置する。同省の長は文民をもってあてる。
 C 基本原則
 最小限防御力は、日本の主権の及ぶ領土・領空・領海を越えた防衛活動はできない。相手が武力を行使したときにはじめて武力を行使する姿勢を守る。また、最小限防御力の発動は国会の原則として事前の議決と承認が必要である。
 D 編成・装備
 平和基本法の任務遂行の限度内において、適正な水準の定員・予算・編成・装備は国会の議決と承認を必要とする。なお、規模については、近隣諸国との協議、相互承認の原則を確立していく努力をする。
 E 文民の優位
 平和・軍縮省は、文民の優位原則のもとに運営される。
 F 情報公開
 最小限防御力は、装備・作戦・情報収集など、すべてについて国会に情報を公開する義務を負う。
 G 隊員の権利
 志願によって構成される最小限防御力の隊員の民主的権利(組合結成の公認含む)は、通常の公務員と同様に尊重される。
 H 履行義務・罰則
 この法律は、軍縮プログラムを含めて政府に具体的履行義務を課し、これに反した場合の罰則を定める。
 
(5)経過措置
 平和基本法が成立したあと、自衛隊は任務の異なった国土警備隊(仮称)に改組される。また、非軍事を中心とする国連の平和維持活動など、国際的な貢献を任務とする国際救難隊(仮称)は分割して別組織とし、志願によって構成する。このとき、全ての隊員の任官が保障される。
 最小限防御力に向けての軍縮プログラムを策定し、それにしたがい、また、周辺諸国の軍縮過程と連動させつつ、装備・定員の削減を行う(平和基本法が成立したとき、国会は国土警備隊を合憲と認める)。
 
(6)非軍事的方法による世界平和への積極的貢献(省略)

●四、危惧されるいくつかの課題
 
(1)今日的な政治情勢・力関係をどう見るか
 
 憲法と現実のギャップ・乖離を埋め、憲法理念を具現化するための平和基本法の提起である。しかし、今日的な政治・国会情勢や力関係から見て可能かどうかという問題が生じる。自民党は解釈改憲で自衛隊を海外に送り出している。現実や野党第一党である民主党内部でも自衛隊容認や海外派兵容認が多く存在するなかで、例え「政権交代」が実現したとしても、「自衛のための最小限防御力」や「国際貢献のあり方やそのための組織」などについて平和基本法で定めた場合、むしろ自衛隊の存続と海外派兵を法的に認めることになってしまうのではないかということである。
 
 また、立憲主義に立って憲法は、国民の主権を守るために時の国家権力が守るべき規範を定めた最高法規である。しかし、今日的な教育基本法改悪の動きなど見ればあきらかなように、一旦基本法を制定すれば、政府・与党は逆に基本法を法律事項として「改正」し、集団的自衛権容認の方向に向かってしまうのではないかということである。93年当時も議論されたが、いずれにしても今日的な政治情勢・力関係をどう見て対応するかである。
 
(2)憲法九条二項堅持が課題
 
 自民党や財界など改憲派の憲法改正素案が示されてきているが、その狙いが軍隊(自衛隊)保持の明確化と集団的自衛権行使容認にあることは明らかであり、憲法九条二項改正である。そこで、改めて基本法制定の根幹に関わる個別自衛権問題についての九条二項との整理が必要である。
 
 日本の自衛権については、国連憲章などの国際法規と日本国憲法の解釈を巡って戦後長い議論経過がある。人によって解釈は様々だが大別すれば、@自衛権を放棄しているとする説と、A国際法規からして自衛権はあるが日本の場合は憲法九条二項の規定から自衛権=自衛力ではない。したがって、あくまで自衛権行使は非軍事的・平和的手段で行わなくてはならないとする説と、B「戦力に至らない実力(武力)」によって自衛権を行使できる説があると理解している。
 
 このうち、Bの説は政府見解となっており、自衛隊保持の論拠とされ際限のない軍拡をもたらしている。@の説もA説も結論において武力による自衛権は憲法上禁じているという点で変わりはない。読者からすれば議論のあるところであると思うが私はAの説で整理すべきと考える。いずれにしても、平和基本法制定を求める場合は、九条二項を堅持することを前提に基本法の整理をすることが重要であると考える。
 
(3)「最小限防御力」の中身をどうするか
 
前述のとおり『雑誌・世界』(93年4月号)提起の基本法制定の提言では、最小限防御力について基本原則として「最小限防御力は日本の主権の及ぶ領土・領空・領海を越えた防衛活動はできない。相手が武力を行使したときにはじめて武力を行使する姿勢を守る」としている。
 
 このことから言えることは「専守防衛の立場で武力行使に向け最小限防御力」を有するということであるが、その中身が軍事か非軍事ということである。特に、政府が自衛隊保持の根拠としている「自衛のための必要な最小限度の実力は保持できる」との説と論理的に違いをはっきりするためにも明確にすることである。
 
 最近、新たに提起されているのは、平和基本法の内容として、「日本は固有の自衛権を有し、侵略その他の主権侵害に対し阻止する権利及び実力を保持・行使する。一方で、九条の規定により戦力保持と交戦権が禁止されているため、保持しうる実力は専守防衛をもっぱらとする最小限防御力の域を出ることはできない」。また、「戦力とは異なる最小限防御力」ということも提起されているが、具体的にどのような目的・任務・装備・編成となり、軍事か非軍事かなど整理することが必要である。
 
(4)専守防衛による自衛権行使は集団的自衛権行使につながる危険性
 
 専守防衛に徹した「最小限防御力」による実力が日本の領土・領空・領海に限定した場合であっても、日本単独での防御が不可能となれば、他国(軍事同盟国)の支援を受けざるを得なくなる可能性が高くなるが、このことは集団的自衛権の行使である。現に日米安保条約はそのために存在している。日本国内における米軍の再編・強化は日々強化されている。日本が攻撃されれば日本の意思とは別に米軍の自発的行動展開が発生することは容易に想定できる。
 
(5)自衛隊のあり方
 
 自衛隊のあり方について、現状の自衛隊が世界でもトップクラスの装備・編成を持ち、アジアなど各国の脅威となっていることから、経過措置として平和基本法が成立したあとは、当面、「専守防衛に徹して、日本の領土・領空・領海を越えて戦闘する能力を持たない国土警備隊(仮称)に縮小・改組される」ことは意義があり重要なことである。
 
 しかし、「国土警備隊」(仮称)や「最小限防御力」という構想は、縮小過程の経過措置的組織として軍事的性格を持つことは理解できるとしても、最終的にはこの組織を持って合憲とすることは武装自衛を認めることになりかねない。したがって、九条二項との関係からすれば自衛隊の最終的な姿は非軍事組織とする必要がある。

●五、最後に
 
 以上、「平和基本法」制定に関わる危惧する事項について述べてきた。ただし、平和基本法制定自体を否定するものではない。憲法の非武装中立の理念を具現化し日本の外交や内政の基本に憲法を据え、将来的に軍備を解消するものであれば極めて大きな意味があるものである。
 
 その際、重要なことは平和基本法全体に憲法「九条二項」(国際法規からして自衛権はあるが日本の場合は憲法九条二項の規定から自衛権=自衛力ではない。したがって、あくまで自衛権行使は非軍事的・平和的手段で行わなくてはならない)をいかに徹底するかであると考える。
 
 また、中身をあいまいにしたまま平和基本法だけを一人歩きさせることは一番危険なことであり、基本法ができれば平和が守れるわけでもないし、それ自体が自己目的であってはならない。平和基本法だけを一人歩きさせれば結果として、実質的に憲法改悪につながることは明らかである。したがって、平和基本法論議と同時に、それ以上に重要なことは九条問題だけでなく職場(権利破壊)・地域(生活破壊)の隅々から広範な護憲運動を構築する努力である。
 
 平和基本法制定に関わって危惧する事項をいくつか述べてきたが、平和基本法についての紹介や説明が不十分で、護憲派の中で必ずしも十分な議論ができている状況ではない。いずれにしても議論はこれからであり、数多くの批判や議論から一定の方向に修練されることを期待するものである。

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