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●特集/日本の進路を左右する参院選 (2004年4月号)
■ 福祉と雇用で社会のセーフティネットを
   (社民党埼玉県連合代表 日森文尋)

   
――憲法・平和と並ぶ参議院選挙の大きな争点は「げんきに福祉」ですが、この一方の柱について日森さんは候補者(埼玉選挙区)としてどのように訴えておられますか。
 
日森 福祉の問題を考える際には、まず小泉構造改革が何をもたらしたか、を考えねばなりません。私は演説では、言い古されているかも知れませんが、「小泉構造改革は二周遅れのサッチャリズムだ」と言っています。民営化と規制緩和の路線はルールなき競争によるデフレ推進政策で、不況をいっそう深めています。結果として生まれたのは、所得格差の拡大、倒産や自殺の増大、社会保障の切り下げ、犯罪の多発、教育の荒廃などです。生活保護世帯も激増しています。
一言で言えば、弱肉強食の競争社会に一歩も二歩も近づいたということです。
 
●競争社会に福祉を対置
――そのなかで福祉をどう進めるか、ですが。
 
日森 問われているのは、競争社会に何を対置するのか、ということです。そういう意味では、福祉と雇用を柱として社会のセーフティネットを充実する、それを対置するということになると思います。
 
――福祉のなかでは、今回の参議院選では年金が大きな課題になってきますね。
 
日森 今の年金改革論議の中身は弱い者いじめに他なりません。財源がないから、保険料率は上げる、給付は下げる。後は、小泉首相が当初から言っているように、自己責任、自助努力で解決しろということです。国民に責任を押し付けるやり方です。
そもそも、保険料引き上げ、給付引き下げという選択肢だけなのか。もう一つは、財源は消費税を上げるしかないという議論に対し何を言うのか、です。
これは昨年の国会で、保坂展人さん(前衆議院議員)中心にかなり取り上げ、ようやくマスコミも報道し始めていますが、年金積立金の問題があります。一体いくらあるのか。これは諸説ふんぷんですが、150兆円といわれる積立金が一体どうなっているのか、ということです。現実にはこれが勝手に運用され、6兆円くらいの損失を出している。それから、毎日新聞に報道されましたが、これまでに年金福祉施設などに5兆3000億円くらい使われている。また、財投の資金運用部に郵貯、簡保と並んで積立金が注ぎ込まれ、特殊法人にじゃぶじゃぶと使われています。特殊法人の財務実態は、道路公団の問題がありましたが、ほとんど分かりません。特殊法人の多くが、利息さえ自前で返済できない実態などを聞くと、背筋が寒くなる思いです。まず実態を明らかにする、透明性を確保するのが改革論議の出発点です。
 
――福祉の問題は必ず財源問題とからんできますが。
 
日森 それでまた、今消費税率の引き上げがでていますが、もともと消費税を導入するときに、福祉目的に使うという話がありました。今日まで、138兆から140兆円の消費税が集められました。それが自民党の公約通りに使われていれば、今のように大変な話にはならなかったのです。ところが、130兆円を超えるお金が企業減税や高額所得者の減税で失われてしまった。実際は、消費税分が法人税の引き下げや金持ち減税で吸収されてしまったのです。
 
 
●年金制度の充実に向けて
――将来の年金をどう組み立てていくかは、各党の政策で問われる点ですね。
日森 社民党が当面の重点政策に掲げているのは、@基礎年金の国庫負担の2分の1への引き上げ。支出の見直しと不足分の積立金からの借入。国庫負担増による国民年金額の1万3300円から1万への引き下げ。A年額60万円以下の低年金者へのマイナス物価スライドの凍結。無年金者問題の解消。B2011年を目処とする制度の抜本改正。1階部分は全額税方式による「最低保障年金」の創設、2階部分は個人単位の社会保険へ、の三点です。
 
――与党合意によると、国庫負担は2009年度までに段階的に2分の1に引き上げるようですね。
 
日森 今回の改正案は、公明党は通常国会で決めろと言って、自民党は渋っています。基礎年金部分は直ちに国庫負担を2分の1まで引き上げ、近い将来全額税方式に移行するのが私はよいと思います。今の中途半端な賦課方式では、信頼できる年金制度をつくることはできないのははっきりしています。政府が税方式で責任をもって年金を保障することが必要なのです。
 
 
●応能負担の税制改革を
――そうなると、先の財源問題としての税制改革論議が出てきますね。
 
日森 税制改革としては、本来の考え方に戻すことが必要だと思います。今、政府が考えているは、@課税最低限の引き下げ(つまり低所得者への課税)、A年金課税、B消費税引き上げ、です。われわれが考えるのは、そういう税制のあり方ではない。昔のシャウプ勧告でもありましたが、基幹税の充実、すなわち累進的な所得税を基本にした税制改革でないとダメだと思います。間接税を中心に考えるというのは基本から外れています。
 
――応能負担の原則を貫く。
 
日森 そうです。今のように所得格差が開いている状況のなかで、所得の再配分をはかるには応能負担が必要です。間接税は逆進性が強く、低所得者に重くのしかかってきます。
 
――まだいろいろな考え方があるなかで、当面は考え方の原則、方向性をはっきりさせるということですね。
 
日森 若い人のなかでは重税感が強い。累進課税見直しと社会保険料引き上げが原因です。年金保険料も与党合意では18.35%まで引き上げられることになります。これでは、だんだん勤労意欲も衰えていくのではないか、と思います。
 
――税制改革はこれから大きな論議になっていきます。
 
日森 いったん下げたものを上げるというと抵抗があるかと思います。しかし、やはりあるべき税制、所得再配分機能を強化するという租税体系を実現しなければなりません。日本の租税負担率は、先進国中で最低水準と言われています。税の社会保障への還元率、これも日本は欧州諸国の半分程度だと言われています。社会保険料という比例税で対応してきたためですが、これが重税感を生み出しています。税体系を本来の姿に戻し、社会保障財源を確保すべきではないでしょうか。
 
 
●労働をもう一つの柱に
――最初のお話で、セーフティネットのもう一つの柱に雇用、労働を挙げられましたが。
 
日森 今は本当に大量失業時代ですね。何がそれをもたらしたか。八六年の労働者派遣法から始まる労働法制の改悪、それと95年に日経連が出した「新時代の『日本的経営』」が大きな役割を演じたと思います。それらによって、働く者のセーフティネットはズタズタにされてしまいました。労働基準法は労働者の雇用など最低基準を定めたものですが、それすらも改悪される。有期雇用も1年から3年に延ばされました。労働力の使い捨てが進んでいます。
 
――日経連はあのなかで3つの雇用形態を挙げていますが、確実に不安定雇用が増えています。
 
日森 「新時代の『日本的経営』」にそって、労働法制の改悪が進められてきました。フリーターも400万人を超えましたし、失業率は5.1%まで持ち直したと報じられていますが、正規雇用は減って、実際に増えているのは、パートやアルバイト、派遣労働者です。
 
――フリーターの問題は、NHKテレビで特集を組んでいました。
 
日森 勤労意欲がなくなることは、社会の活力もなくなります。セーフティネットの構築で大きいのは、やはり法の整備です。それが企業の利潤を確保するために、ズタズタにされてしまったのが現状ではないでしょうか。
しかも、賃金の個別化、成果主義などの導入などによって、労働組合がそれこそ春闘ではないですが、集団で交渉し、労働協約を結ぶ、労働条件を確保する、ということも減っています。裁量労働制などが進めば、サービス残業撲滅と言っても、現実にはもっと増えてしまいます。
ワークシェアリングは連合の文書にはよく出てきますが、現場ではほとんど話題になりませんし、進んでいません。雇用創出もたいへん重要ですが、もっと今の雇用をどうするのか、という視点が必要だと思います。さらに、雇用継続保障法とか、名称はどうであれ、勝手に首切りをさせない法律も必要になっています。
 
 
●将来の社会像をつくる
――今度の参議院選挙は社民党にとっては分水嶺となる選挙ですね。憲法・平和は大きな問題ですが、やはり今日お話をうかがった生活と福祉の問題も大きな課題となっています。
 
日森 社民党は憲法の話だけだと「今までと変わらないね」となる。憲法の危機は平和主義の否定とともに、憲法全体に貫かれる人権の否定にもあると思います。人権という観点からも、やはり労働、福祉が重要な課題となっていると思います。
年金は現役の皆さんにも大きな問題になっています。負担は増えますし、将来もらう予定の年金の平均所得代替率は50%。しかも、統計を取るたびに特殊出生率は下がっていて、1.39から1.32になっている。計算の基礎数値そのものがすでに揺らいでいるわけです。3月16日の国会で、首相は2013年まではやらないと言ったそうですが、その後に支給年齢のさらなる引き上げが出てくる可能性があります。今の改正案で本当に五年もつかどうかも分かりません。
 
――それと福祉制度全体の制度設計が問われてきています。
 
日森 そういう意味では、社民党は4月10日の党大会に「社会民主主義宣言」(仮称)の原案を出して、論議していくわけですが、「どういう社会を当面目指すのか」。又市幹事長は今後10年くらい先の国の姿を示すとしています。そういう全体像と合わせて、福祉の再構築の問題も論議できればよいと考えています。
 
――スペインの総選挙では、社会労働党が勝ってイラク問題では世界の流れが少し変わろうとしていますが、参議院選挙で少しでも流れを変えられればと思います。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。
 
(2004年3月17日 聞き手 細井雅夫(編集部))

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