●第159通常国会にあたって 山本喜代宏社民党衆議院議員に聞く (2004年2月号)
■ 農業問題の訴えに大きな反響
──昨年11月の総選挙で初当選して2カ月あまりですが、国会議員の生活はいかがですか。
山本:毎日が緊張の連続ですね。生活サイクルも一変して、東京と秋田の往復、農作業衣だけではなくスーツも着なければならない。慣れない生活で大変です。
──総選挙では主にどんなことを訴えられたのですか。
山本:総選挙での私の訴えは、農業問題と雇用、景気対策が中心です。小泉改革は市場万能主義ですから、「勝ち組」と言われる人たちはともかく、格差は拡大し、振り落とされる人たちが増大しているわけです。そういう弱者に手を差し伸べるのが、社民党が訴えてきた共生の社会ではないでしょうか。
──新党首の福島さんも「弱者のための政治」を掲げていますから。それで反応はいかがでしたか。
山本:反応はよかったです。
──山本さんの選挙区は秋田2区ですが、農業では今何が問題になっていますか。
山本:第一は減反問題ですね。減反政策はこれから大きく変わっていきます。これまでは国が生産割当をしていましたが、これからはそれぞれが売れる分をつくるようになります。
――それは農家とか農業経営にはどんな影響を与えますか。
山本:政府はもう生産調整に関与しませんから、すべてが市場に委ねられることになります。それで勝てる人たちだけが残ります。政府は、農民に競争させることによって農業経営の大規模化をめざしていきます。中山間地対策と言っても、そこの農家は生き残れない。今でも秋田県は耕作放棄地が10年間で2倍、2600ヘクタールにものぼっています。高齢化、担い手がいない現状では、これからもっと急速に離農者が増えていきます。
――ぼくの小学校時代には八郎潟の干拓が教科書に載っていたのですが。
山本:ああいう大きなところでは株式会社の参入が進みます。直接支払い制度も、大きなところ、良くなるところには払う。他は切り捨てです。労働者や国民間で格差が拡大しているように、農家でも格差拡大が進みます。
――wto(世界貿易機関)での交渉などはどういう影響を与えていますか。
山本:これも外国との競争に耐えられないようなところはつぶれてもらい、農業の「体質強化」を進めるということになります。
――fta(自由貿易協定)も大きな問題になりますか。
山本:ftaは2国間交渉ですが、例えば今交渉が中断しているメキシコとの間はみかんの問題ですね。タイとの交渉はこれから始まりますが、コメの問題が出ます。何もかも効率化一辺倒、それで残れるところだけ残ればいい、というのが日本政府の農業方針です。
――山本さんのところは果実中心だとお聞きしていますが、コメもつくっているのですか。
山本:つくっています。先のftaでは、農産物市場の自由化だけでなく、労働力の問題も出てきます。
――労働力の輸入とかですか。
山本:タイやフィリピンとの交渉では、看護士、介護士、マッサージ士などの労働市場開放も焦点になってきます。
――まさに福祉の現場ですね。
山本:今は少子高齢化ですから、団塊の世代が引退すると、労働力不足になりますので、そういう方面が狙われているのです。財界は大歓迎です。関税がなくなって、外国にもさらに進出しやすくなる。だから「どうしてgdpの1%しかない農業にそんなにこだわるのか」と言う。しかし今、食料自給率は4割ですから、アメリカでbse問題が起きれば、とたんに牛肉が足らなくなり、牛問屋も困っている。牛タンもほとんどがアメリカからの輸入ですから、食べられなくなります。
――仙台名物がなくなってしまいますね。
山本:アメリカやオーストラリアなどが順調なときはよくても、食料自給率が低いからいったん問題が起きると、食生活に大きな混乱がもたらされます。小泉首相は、これだけ外国に依存しているのに、まったくトンチンカンな「農業鎖国」発言をしましたね。実際は鎖国どころではなく、どんどん開放しているのです。
■ 小泉改革は国民生活と地方の切り捨て
――いよいよ1月19日から通常国会が始まりますが。
山本:今度の第159通常国会は会期が1月19日から6月16日までで、参議院議員選挙が控えていますので、延長はない見込みです。
――7月11日の投票日はもう決まりましたからね。
山本:予定では、最初にイラクの復興支援費などが入っている補正予算案、その後に82兆1109億円の本予算案が出てきます。そのうち国債費は36兆5900億円と、戦後最悪の依存度です。小泉内閣の予算編成は3度目ですが、財政改革をして、国債依存度を減らすという小泉改革は完全に失敗しています。しかも、その内容は所得税の配偶者特別控除の原則廃止、年金支給額の物価下落分の引き下げ、生活保護の老齢加算の段階的廃止、国立大学の授業料値上げ、厚生年金保険料の引き上げなど、犠牲を国民に押し付けるものです。小泉構造改革の3年間で、企業の格差、地域の格差、個人の格差が広がりました。今の政策は地方から見ると、地方切り捨てなのです。
――それがとくに表れるのは、国と地方の税財政を見なおす、いわゆる「三位一体改革」ですね。
山本:三位一体改革について、全国知事会は「紐付きの補助金は要らない。それに見合う税財源を地方に移譲しろ」という態度です。その肝心な税財源の移譲問題にはほとんど手をつけなくて、3年間で4兆円のうち、今回は1兆円の補助金削減ばかりが先行しています。とにかく、小泉首相に言われて各省庁が小出しに削減案を出しただけで、国と地方の本来のあり方、つまり地方分権にはまったく展望がないまま、国の赤字を地方に押し付ける形になっています。それが三位一体改革の本当の姿です。本来なら、自治体の自主性を拡大する税源移譲を実現すべきですし、地方交付税制度・機能は自治体間の格差を生まないために維持される必要がありますが、補助金削減だけが前面に出ているのです。地方財政はこれからますます厳しくなります。
――地方財政だけでなく、地方経済の疲弊がどこでも大きな問題になってきていますね。
山本:新聞には景気はよくなりつつあると書かれていますが、秋田県を見るとぜんぜんそんなことは感じられません。結局、景気回復したのはリストラをやった企業と輸出産業だけです。
――国民生活が回復しているわけではないですからね。
山本:今回の予算に対しては、マスコミですら「景気回復に水をさす」との懸念を表明しているぐらいですからね。年金問題でも、年金収入300万円の65歳以上70歳未満の夫婦世帯は来年からは現在の非課税から10万円を超える負担になりますよ、という話をすると、こちらに耳を傾けてくれます。
――年金改革も大きな問題になってきますね。この間の厚労省案は基礎年金の国庫負担の2分の1への引き上げも見送られましたし、何も大きな改革を提起しているわけではないように思いましたが。
山本:たしかに自民党案と公明党案を足して2でわり、負担は18・35%、給付は現役手取り収入の50%と折衷的な案ですが、将来的に負担は増やします、給付は減らします、という方向性だけははっきりと出しています。でも、10年後、20年後の年金をどうするか、ということはぜんぜん展望を描けないのです。今でも国民年金は破綻状態ですが、これからももっと無年金者が増えることになりかねません。少なくとも基礎年金部分は税制度に移行すれば、無年金者はなくなりますし、公的年金への信頼も少しは回復すると思います。しかし、方向性としては逆で、パート労働者などからも取ろうとしています。
――今の若い人の中では公的年金への信頼がないし、それと就職難でフリーターやパートなど不安的雇用が増えています。
山本:小泉政権下で、非正規雇用が急増したというのも特徴ですね。130万人くらい増えたのではないでしょうか。すべて競争、自由化です。年金も民間でやれ、というのが市場万能論の考え方です。負担が増えれば、中小企業は事業主負担分を払えないと言って、どんどん撤退していきますから。
■ 平和・憲法問題でも危険な動き
――経済問題の他、平和問題や憲法をめぐっても、イラク派兵に見られるように、小泉政権下で危険が動きが増していますね。
山本:昨年12月19日の空自への先遣隊派遣命令など、イラク復興支援法では派遣命令は20日以内の国会承認を必要とするので、通常国会が始まると、まずこの問題が冒頭から出てきます。後、国会で問題となる大きな問題は、弾道ミサイル(md)導入や国民保護法制案ですね。
――憲法改正問題は総選挙の時は「隠れた争点」と言われましたが、憲法改正手続きのための国民投票法案が通常国会では出てきますね。
山本:すでに1月4日に中山秀直自民国対委員長が、同法案を議員立法として提出する意向を表明しています。憲法改正を政治日程に登らせるための動きですね。自民党が05年、民主党が06年と言って、憲法改正の競争を始めましたので、動きは急になっていくと思います。
国民投票制は非常に難しい問題ですね。しかし、われわれが言ってきた護憲は、主に憲法前文と9条なのですが、今出てきている国民投票制は憲法改正との絡みですし、そこに踏み込むと、前文や9条の改正にもっていかれる危険性があります。
――憲法調査会の最終答申は05年の予定ですか。
山本:いや、前倒しされて、衆参の憲法調査会は年内に答申をまとめる方向になっています。
■ 院内外のたたかいを結んで
――最後に、社民党として今度の国会へはどのように臨もうとしていますか。
山本:今回、社民党は小さくなりましたので、委員会の理事を出せない、議事運営委員会にも理事を出せないのです。私は農林水産委員会所属で、bse問題が騒がれていますが、理事会でまず議論するので、後からそれを聞く、という状況になっています。国民投票法案が出ても、特別委員会でもできない限り、内閣委員会や法務委員会で議論されるようになると、最初からは議論にかめない。そういう難しさがあります。
院内の力関係がこういう状況ですから、決定的に重要なのは大衆運動です。
――当面は自衛隊のイラク派兵反対の運動が大きな大衆運動の課題ですね。
山本:けっこう各地で運動や学習会がつくられています。民主党も、現在進められている形での派兵には反対ですから、共闘できるところで共闘するのは当然です。
――憲法問題はどうですか。
山本:社民党はもちろん、共産党も今の自民党や民主党の改憲動向には反対ですね。憲法問題は、今後の動き次第では参議院選挙の争点になるかもしれません。憲法問題でも、平和フォーラムとかと協力して、憲法学者をはじめ、多くの人たちを結集できるような運動を起していくことが必要です。
――環境権を入れろとか、国民投票法案をつくれとか、そういう意味の改憲を唱える人たちは市民運動とかおりますが、9条改憲に反対というのはまだ多数派だと思います。
山本:前のほうの問題は難しい問題です。しかし現在の憲法のもとでも、環境政策を充実することは可能ですし、充実するべきだと思います。具体的に改憲作業が進むなかで、自民党が少しでも支持を広げようと国民の意向を一定取り入れる可能性もあります。だからといって現在の力関係のなかで、私たちが改正に向けた積極的な提言を行うべきだとも言えません。いずれにしてもイラク問題を含めて、大衆運動がどれだけ盛り上がるかが、今後の改憲論議にも影響を与えていくと思います。反対の声も起こらず、自衛隊がどんどん海外に出ていくようになれば、9条を含めた改憲というのは、今の状況では思いのほかすぐやられてしまう可能性があります。
――それから、もう1つ重要なのは小泉構造改革がもたらす国民生活への痛みの取り上げですね。
山本:小泉改革は、「民間でできるものは民間に」という規制緩和と民営化の路線ですから、失業、倒産など、たくさん痛みをもたらしています。地方には、地方の切り捨てですね。
――年金問題でも、昔は国民春闘の課題でしたが、今はどうでしょう。
山本:課題にならなかったら、自分たちで課題になるように取り上げたらいいのです。社民党は弱者の党、平和の党ですから、これからもそういう方向でがんばっていきたいと思います。
――期待しております。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
(1月14日、聞き手=本誌・細井雅夫)
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