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●デフレ懸念におびえる米国経済 −レーガン経済政策の繰り返しへ
 (2003年6月号)

 
■ デフレ懸念表明した金融当局
 連邦準備制度公開市場委員会は5月6日の政策決定会合において利下げを見送ったが、会合の声明の中でデフレへの警戒に比重をおいた見方を示した。おそらく金融当局が警戒しているのは、実質成長を重視するあまり、日本のようなバブル崩壊後のデフレ・スパイラルの危険を忘れて金融緩和を怠ってしまうリスクであろう。すなわち実質経済成長率が現在の1%台基調から仮に回復していって3%程度になったとしても、それで気を緩めるわけには行かないと見方を表明したといえる。
 
 このロジックは物価のディスインフレ状況が続けば、景気自体に明るさがでても更に金融緩和に踏み切る可能性を示している。もともとグリーンスパンはじめ金融当局首脳部は米国経済の生産性上昇傾向には自信をもっているようだ。供給側だけから見たGDP成長力は3%以上ある、とみているようである。しかし、このことは供給サイド=生産力の伸びの過剰が起きていることを示しており、需要サイドがそれだけ成長しないと物価に対しては需給ギャップの広がりによる低下圧力が高まることを意味している。
 
 実際、製造業の稼働率は72.9%(2003年3月)という史上最低に近い水準にあり、フローの設備投資の縮小にもかかわらず、生産能力の伸びは止まっておらず、生産設備の過剰感はむしろ強まっている。
 
 昨年6月、米国連邦準備制度は「デフレ阻止:1990年代の日本の経験からの教訓」という論文を公表している。公式見解としてまとめられたものではないが、金融当局が日本の失敗に大きな関心を持っていることを示している。この論文の中では、1995年を境にしてデフレに対する金融政策の有効性が衰えたというモデル分析の結果をもとに、仮に1995年以前に実際よりも金融緩和を強く行っていた場合には、現在の日本のようなデフレの事態は避けられたというシミュレーション結果が示されている。
 
 1995年前後は日本の景気が設備投資の更新需要を背景に一時的に回復に向かった時期であり、日本銀行は金利を下げつづけた公定歩合0.5%で打ち止めとし、中小金融機関の破綻が始まった事態に対して更なる緩和を行わなかった。こうした記入政策は景気(実質成長率)の改善に期待を持ち過ぎ、金融セクターを中心にしたデフレ・スパイラルへのリスクを軽くみてしまったのではないかと米国金融当局の調査部門はみているようだ。この失敗を米国で繰り返さないことが課題であると考えられている。
 
 ニューヨーク株式市場の天井は2000年3月24日(S&P500指数の高値)であったが、その後の株価の動向は日本の90年代初頭に似通っている。S&P500指数を東証株価指数(TOPIX)の10年9ヶ月ラグと比較すると、高値から現在までの価格低下ペースが90年代初頭の日本とかなり似通っており、現在、その動きから離れるかどうかの瀬戸際であることが確認できる。


 資産デフレによるデフレスパイラルが起きるかどうかに関して、株価よりも経済への影響が大きいだろうと考えられるのが、住宅(土地)価格の動向である。米国の住宅価格平均指数は2002年10−12月期も前年同期比で6.9%と高い伸びを示している。勢いという点から見ると、2001年4−6月期の8.5%から落ちてきているといえる。
 
 近年の価格上昇によって住宅に割高感が生まれつつあり、それでも住宅購入が比較的堅調なのは長期金利の低下であるという事情がある。つまり、金融緩和はやり過ぎると住宅価格の維持不可能なまでの高価格を導いてしまうリスクがある。現在のところ利回りから見て、過去のボトムに近づいており、価格安定が可能かどうか注目される段階に入った。

■ 企業会計不信の危機は乗り切る
 こうした株安状況の中で、証券市場で目立ってきたのは株式市場と社債市場の乖離である。米国の株式市場と社債市場の関係をみていくと、2001年以降、株価指数と社債の国債との利回り格差で測られる信用度との間に強い相関関係がみられてきた。エンロン、ワールドコムなど不正会計問題が市場の大きな関心事であったことから考えると、ごく自然なことである。ところが、2003年に入って両者の乖離が目立ってきている。例えば、米国の10年物国債と投資適格最低格付けの社債の利回り格差をとってみると、2002年末3.5%であったのが、現在では2.8%とおおよそ0.7%の改善を示している。平均的にみて企業に対する市場の信頼感は回復し、企業会計不信は乗り切れたといえる。
 
 ところが、株価指数のほうは、S&P500でみると、2002年末879.82から945(5月12日)へと過去の両者の相関関係から見ると小幅の改善であり、株価が企業への信頼回復を反映していない格好であった。ブッシュ政権としては更に株価を回復させることが大きな政策目標になっている。

■ 実質1%台の経済成長に留まる
 足元の景気動向に目を転じてみよう。米国2003年第1四半期GDP統計(事前推計)によれば、実質GDPは前期比年率1.6%(以下伸び率は年率)と2002年第2四半期の1.4%とほぼ並ぶ1%台の低成長であった。国内最終需要は1.2%の伸びとかなり低いものにとどまったうえ、さらに民間最終需要だけをとってみると1.0%と2001年第3四半期以来の低い伸びであった。個人消費のうちでも耐久財、特に自動車需要が昨年第4四半期に継続して減少している。この統計にイラク戦争の悪影響が現れている可能性は指摘できるだろう。また、輸出が▲3.2%と大きく減少したため、最終需要全体は0.6%の伸びであった。
 
 このような需要の弱さの中で、それでも1.6%成長を確保できたのは、輸入の減少が大きかったからであるが、これは米国向け輸出に依存するアジアの産業にかなり影響を与えていた可能性がある。もっとも、米国の輸入依存度の高いIT関連では、企業の情報関連投資が15.0%の伸び、そのうちハードウェアは19.3%の伸びと回復傾向を示した。この分野は価格の低下が大きいが名目でも9.9%の伸びを示した。90年代後半のようなブームではないがIT投資の回復傾向は変わらないといえるだろう。一方で、構築物は▲1.9%と減少が続いた。商業ビル、工場など構築物投資の減少は2000年第4四半期をピークとして減少傾向が継続している。IT投資の回復が起きても企業の設備投資全体に回復傾向がでないのはこのためである。設備投資がGDP比で上昇していくような状況にならないと本当の景気回復感は出てこない。
 
 一方、名目GDPは4.2%成長と堅実な増加を示しており、すぐに米国経済がデフレ・スパイラルに陥る危険性は今のところ小さいといえる。ただ、消費者物価動向をみるとコアの物価上昇率は、3月分で前年同月比1.7%に低下しており、最近半年だけをとると1.1%の低率となる。日本のようにマイナスが恒常化しそうな状況ではないが、低すぎるインフレへの警戒は生まれてきている。一時回復していた期待インフレ率も最近になって再び低下し始めている。名目所得の安定的増加が、日本の90年代後半以降のようなモノのデフレと資産デフレのスパイラル発生を防ぐために必要であり、そのためには市場のインフレ期待を安定的かつ維持可能な水準に保つ必要がある。

■ イラク戦争は「終わった」が
 米国の4月分消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード)は81.0と予想以上の大幅な改善の動きを示した。イラク戦争の見通しがたった事が消費者心理にはかなり良い影響をもたらしたようだ。3月は現状指数、期待指数ともに61.3(改定値)であったが、4月は現状指数が75.3、期待指数が84.8と期待の回復が著しいのが特徴となっている。過去のパターンからみると、消費者信頼感指数で85程度、期待指数で100程度の水準が景気動向の分岐点になっており、4月の水準では景気が再加速を始めたとまでは言い難い。今後、再び一時的に下方にぶれる可能性はまだ残っているものの、概ね現在の景気停滞もしくは緩やか拡大局面において、消費者センチメントの底打ちが起きていると評価できるだろう。
 
 一方、企業マインドは停滞したままである。4月分ISM(全米サプライチェーンマネジメント協会)製造業総合指数は3月の46.2から小幅ながらさらに下落し45.4となった。2ヶ月連続で50を割り込み、企業の景況感の悪さが現れている。ただし、ISM受注残指数は季節調整してみると、3月37.6から4月43.2へと50を割っているものの鋭い回復を示ていた。また非製造業ISM指数は3月47.9から4月50.7へと上昇しており50割れは3月のみで済んだようだ。企業マインドは全体として停滞しているものの、先行きには幾分の期待がでてきている。

■ 大幅財政赤字覚悟のブッシュ減税案
 2003年の予算教書は、中期的に今後の財政赤字増大を容認する内容となった。昨年まで将来見通しを黒字としていたことからみると大きな転換である。今回の予算教書による財政収支見積もりでは、2008年度の段階でも1890億ドルと2000億ドル近い財政赤字が残ることになる。しかもこの前提条件をみると、2003年から2008年の平均経済成長率は実質3.3%、名目4.9%とかなり高めのものとなっており、米国がほぼ潜在的な成長を達成し続け、かつデフレに陥らないという前提になっている。
 
 この前提条件が楽観的過ぎるかどうかはともかくとして、こうした前提条件のもとでも2008年度の財政赤字が2000億ドル近いものとなっており、行政予算管理局の見積もりでは2008年度は循環的な要因による赤字はゼロとなる予定であるから、1890億ドルと巨額の構造的財政赤字が残る計算となる。この解消のためには増税か歳出削減しかありえない。歳出、歳入ごとに対GDP比をみていくと、まず歳出は対GDP比19.7%で固定していくことが想定されている。この歳出の内訳でも国防費は対GDP比で2003年度3.5%が2008年度3.3%と漸減していく見通しとなっており、戦争による国防費の増加やその後のテロ対策などでの国防費の増加は見積もりに組み入れられていない。非国防部門の中では、純金利支払いが1.5%から1.8%へ増加していく見通しである。その他の歳出はGDP比で漸減だが大幅な歳出カットは予定されていない。この純金利支払いも平均支払い金利の低下が追い風になっているために漸増で済んでいるのであって、金利上昇の影響が出てきた場合には雪だるま的赤字拡大が起こるリスクを内包している。歳出面の大幅削減を前提としているのならともかくとして、そうなっていない歳出見通しはやや現実性に欠けるのではないだろうか。歳入面は足元での景気悪化と減税による税収減から将来的には経済の回復に伴う増収が期待されている。しかし、それでも歳入はGDP比18%強で頭打ちとなる構造にあり、増税以外には歳出水準を補うすべはない。ブッシュ減税は黒字の分配というようなものから大きく踏み出ているといわざるをえない。歳出削減策に切り込まず、こうした中期的な財政赤字見通しを表明すること自体が、米国経済のデフレ懸念払拭策として、財政からのインフレ政策を提起していることになるのではなかろうか。しかしながら、需要創出という面では全面的に減税の効果に期待する内容になっており、赤字の増大ほどには需要創出は進まないということになるだろう。
 
 ブッシュ政権の減税案はその大半が配当課税の撤廃など株式関係の減税であり、減税による個人消費の刺激よりも株式市場の建て直しを優先させた株高政策である。株価上昇を実際に実現することができれば、企業の資本調達コストにプラスとなり、設備投資への刺激材料となるほか、資産家層の個人消費にも一定のプラス効果はあるだろう。しかし、減税額ほどの有効需要創出効果があるとは考えられない。
 
 一方、手っ取り早い有効需要創出になる国防費については大幅な増加が行われる可能性がある。予算教書では名目GDP比3.5%程度の規模とされているが、イラク戦争の戦費は含まれておらず、今後のテロ対策名目での支出拡大に余地が残されている。資産家・高額所得者への大幅減税と国防費増加の組み合わせはまさにレーガン政権の経済政策に瓜二つ、といえるだろう。

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