●2024年2月号
■ 「自己責任社会」から「支え合う共生社会」へ
宝田 公治
■ はじめに
昨年後半から国内外が激動している。昨年10月7日ハマスによるイスラエルへの奇襲は、イスラエルによるガザ地区へのジェノサイドとなり、世界中から「停戦」が叫ばれているが止まらない。米国・日本の対応が問われている。
国内では元日早々、北陸地方を襲った震度7の能登半島地震。2日、羽田空港での日航機と海上保安庁機の衝突事故である。亡くなった方々に哀悼の意を表するとともに、遺族の方々や被災された方々にお見舞い申しあげます。そして、現在も続く被災者の捜索・支援やインフラ復旧に携わっているすべての組織、人々に感謝と敬意を表します。時間が経過するなかで地震の原因究明が進み、人災的な原因も明らかになりつつある。
22年からの物価上昇がくらしを直撃している。23春闘は30年ぶりに高水準の賃上げを勝ち取ったが、実質賃金は昨年11月は前年同月比▲3.0%で、20カ月連続で下がり続けている。24春闘は、物価を上回る賃上げ獲得が至上命題だ。
政治では、自民党派閥によるパーティー裏金問題だ。とりわけ一強を誇った安倍派の組織的虚偽記載に焦点があたっている。「政治とカネ」の問題は、自民党の体質といっても過言ではない。権力は腐敗するというが、まっとうな政治を取り戻すには政権交代しかない。岸田政権が末期的状態に陥っている中で、1月26日通常国会が開会する(争点は本誌2月号飯田論文参照)。国会での野党共闘の前進を総選挙に向けた足掛かりとするなど、政権交代の展望を考えてみたい。
■1.イスラエルによるガザ地区へのジェノサイド
歴史的背景や経緯については、本誌1月号足立論文を参照していただき、ここでは米国の対応を中心に停戦に向けた国際社会の方向を探ってみたい。
- 米国は早々に、イスラエルへの軍事支援強化を表明した。G7は日本を除く6カ国が、イスラエルの自衛権支持の共同声明を出した。イスラエルは、自衛権の名目で難民キャンプ・病院・学校・住宅を無差別に攻撃、まさにジェノサイド(大量殺りく)である。
- 状況打開のために国連安全保障理事会は、「即時停戦の決議」を提案するが、米国の拒否権によって何度も否決された。国連総会では、12月13日、「人道目的の即時停戦の決議」が153カ国の賛成で採択された。前回棄権の日本、カナダなど26カ国が賛成に回った。反対は米国やイスラエルなど10カ国、棄権はドイツ・イギリス・イタリアなど23カ国だった。国際社会の動向は「即時停戦」で、米国は国際社会で孤立している。ロシアのウクライナ侵攻では、「侵略者ロシアを批難」し、今回は「侵略者イスラエルを批難しない」という米国のダブルスタンダードは、国際社会で信用を失っている。
一方、今回日本政府は珍しく米国に追随していないが、石油輸入の9割以上を中東に依存という事情から、背に腹は変えられないということである。
- 1月11日、国際司法裁判所でイスラエルの「ジェノサイド条約」違反(南アフリカ提訴)の審理が始まった。米国やイスラエルもジェノサイド条約の締結国である。
これに対し、イスラエルの報道官は「南アフリカのバカげた言いがかりを退ける」と声明。米国務省は「イスラエルがジェノサイドを行っているという主張には根拠がない」と表明。ブリンケン米国務長官も「ジェノサイドだと批難することは無駄だ」と述べている。米国に「平和」や「人道」を語る資格はない。
- 米国を含む世界各地で「ジェノサイドを許すな」「即時停戦」のデモが繰り拡げられている。昨年11月中旬の米国の世論調査でも、
「イスラエルへの支援」賛成32%(前月比▲9%)、
「即時停戦」賛成68%
となっている。
今こそ日本政府は経済的な理由だけではなく、人道的な立場から米国に対し「イスラエルの即時停戦」を働きかけることが求められる。そのことが平和憲法を持つ日本の使命であり、国際的な地位確立につながるものである。
■2.能登半島地震から見える政治の不作為
自然災害が発生するたびに、生命や地域の尊さが語られる。それならば、それまでの対策が充分であったのか、人災的要素はなかったのか、つまり政治の責任はないのかが問われなければならない。
・(1) 地震規模などの想定
- 最大震度7、マグニチュード7.6が観測されているが、この規模が想定されていたのか。報道によると2014年、政府の「有識者検討会」が海底活断層を調査し、津波の程度を予測する「活断層モデル」を公表している。それによると、能登地方ではM7.6が想定されており今回と一致しているが、あくまでも津波なのである。一方、政府の「地震調査委員会」による地震の規模や発生確率を予測する「長期評価」(例:南海トラフ大地震では最大震度7、30年以内の発生確率78%)は、海底活断層については未実施とのことである。有識者検討会の報告を重視した対応をしていれば、被災を減ずることができたはずである。国民の命を守ることが政治の使命であることからすれば、政治の不作為と言える。
- 石川県内では多数の家屋が全壊し、死亡の原因となった。この地域では、昨年5月珠洲市で最大震度6強をはじめ群発地震が3年以上続いている。群発地震によって家屋の耐震強度が低下(損傷の蓄積)するとされており、だからこそ対策が急がれていたのである。
- 輪島の朝市地域では、200棟以上の大規模火災が発生した。国交省に「地震時等に著しく危険な密集市街地」という規定があるそうだが、この地域は指定されていなかったことも問われなければならない。
・(2) 想定外オンパレードの志賀原発
1月10日、原子力規制委員会が志賀原発(石川県)の事故等について議論した。幸いにも福島第一原発のような過酷事故には至らなかったが、想定外のことが多数発生したと報告されている。
- 今回の震源域は、いくつかの断層が連動して滑り、その範囲は150キロを超える想定外の規模となった。揺れの強さを示す「加速度」も一部で想定を超えた。「日本海側で原発の立地に適した所はない」と断言する専門家もいる。
- 1・2号機の変圧器が破損し、外部電源の一部が使えなくなった。「原発内設備の不具合が原因で、受電できない事態は想定外」だそうである。
- 原発の再稼働には「避難計画の策定」が義務づけられている。今回の地震では、道路の隆起や陥没、土砂崩れにより道路の寸断が多発した。また、放射性物質の漏えいを監視する放射線監視装置(モニタリングポスト)120基中18基が、一時測定不能になった。確実・安全に避難できる経路を再検討しなければならない。
- 情報発信にも課題を残した。変圧器からの油漏れを火災発生と誤報、その量も当初の5倍に訂正した。核燃料廃棄物を保管するプールからも汚染水が流出している。住民の安全・安心のためにも正確な情報発信が必要だ。
- 現在1・2号機は停止中、うち2号機は再稼働に向け規制委の審査中である。山中規制委員長は「海底活断層は、新知見として審査に取り入れなければならない。他の既設原発にも適用するバックフィットも検討する。専門家による研究だけでも年単位の時間がかかる」と述べている。
岸田政権は、原発の再稼働・耐用年数の延長・新規開発など原発推進に前のめりであるが、今回からの教訓は「原発ゼロ」しかないであろう。
・(3) 自衛隊の不適切な行動
自衛隊も災害支援や復旧活動に従事しているが、一方で初動1000人体制について批判的な意見が出されている。それ以外の行動にも疑問の声があがっている。
- 1月7日、陸上自衛隊第一空挺団が習志野演習場で「降下訓練始め」の行事を行った。恒例行事との説明だが、能登では道路が寸断され、空からの救助・支援が求められている時の行動としてはふさわしくない。また、自衛隊の本来任務は国防なので、災害支援は二次的ということか。ならば、政治の役割は、自衛隊の増強よりも災害救助隊(仮称)の創設を優先することだ。
- 1月9日、陸上自衛隊ナンバー2の小林陸上幕僚副長はじめ幹部を含む数十人が靖国神社に参拝した。小林副長は休暇を取得しての参拝としているが、移動には公用車を使用している。宗教施設への部隊や組織的な参拝を禁じた事務次官通達に違反する可能性があると同時に、この時期の行動としては全くふさわしくない。
・(4) 日航機と海上保安機の衝突事故
能登地震と直接の関係はないが、1月2日羽田空港で、震災救援のための物資を運ぶ海保機と日航機が衝突炎上した。海保機の乗員6人のうち5人が死亡した。日航機の乗客乗員379人は、乗員の日ごろの訓練とチームワークを発揮、奇跡的に全員が脱出できた。今後、事故原因の徹底究明により再発防止が求められる。
これまでの報道から言えることは、1つは、管制官が海保機に滑走路への侵入許可を与えていないのに、なぜ進入したのかである。これまでも誤進入のトラブルが発生しており、対策の必要性は10年以上前から指摘されていたという。ならば、なぜ対策強化がされてこなかったのか。2つは、羽田の過密状態の問題である。政府の外国人旅行者の拡大方針が、現場にしわ寄せされ、安全が疎かにされてきたのではないか。
■3.政権交代の展望
・(1) 世論調査から見える岸田政権の末期状態
北海道世論調査会による昨年12月の分析によると、低下を続けていた内閣支持率は22.5%(前月比▲4.3%)、不支持率65.1%(+4.3%)となった。自民党支持率も26.3%(▲3.5%)と低下した。内閣支持率と政党支持率の合計が50%を切ると「政権末期状態」と言われるが、岸田政権はその水準になった。ちなみに民主党政権が誕生した09年の麻生政権の支持率は14.5%(09年1月)、自民党支持率23.5%(09年7月)だった。岸田政権が、「減税・給付金・物価高対策・子育て・賃上げ」など国民受けする政策を出しても、「納得しない・期待しない・反対」となっており、政権への信頼はない。その他、健康保険証廃止、辺野古の国の代執行、関西・大阪万博など主要政策も批判が賛成を上回っている。
野党支持率では、8カ月ぶりに立憲7.7%(+1.4%)、維新7.0%と立憲が1位になった。しかし、「対抗勢力として野党に期待できるか」に
「できる」15%、
「できない」78%、
野党は今のままでは「受け皿」として認められていない。ちなみに、政権交代した09年当時の民主党支持率は20%余りであった。
・(2) 「政治とカネ」の問題は自民党の体質
原稿執筆中(19日)のニュースによると、「安倍派幹部7人と二階派の二階元自民党幹事長は不起訴」とのこと。あまりにも、国民の感覚とかけ離れた結果である。「安倍・岸田・二階の3派閥は解散」とのこと。派閥の解散で真相を隠そうとしている。問題の核心は、法律を作った政治家がそれを守っていないことなのである。現在、自民党は「政治刷新本部」で茶番劇を演じている。「政治とカネ」の問題が浮上すると、論点をすり替えて世間を煙に巻くのが、自民党の常套手段である。
この間の経緯や議論から言える問題点の1つは、問題の本質である裏金疑惑の徹底究明がされていないことである。派閥も議員個人も収支報告への不記載の額と使途が明らかにされなければならない。政治資金規制法の目的は「国民の知る権利、つまり政治資金の流れを公明にすることで、民主政治の健全を守る」ことなのである。単純な記載ミスで済まされる問題ではない。2つは、立件されるのが派閥の会計責任者と不記載4000万円以上の議員だけである。長年にわたって虚偽記載を組織的に指示したのは誰か。会計責任者であるはずがない。派閥の中枢を担う代表や事務総長である議員以外に考えられない。3つは、松野前官房長官や西村前経産相は、国会で追及されても「政府の立場として回答を控える」と真相は明かさなかった。しかし、閣僚を解任された今も今後も真相は語らないだろう。こんな人たちに政治刷新ができると誰が信用するというのか。4つは、政治刷新本部の役員にも裏金疑惑の対象者が多数存在することである。とりわけ安倍派は10人中9人が該当すると言われている。5つは、問題にされているのが派閥のパーティーであるが、議員個人のパーティーは問題にされていない。派閥の解消を力説している菅前首相や小泉進次郎元環境相などは、1回のパーティーで数千万円の収益を得ている。これこそ、パーティーに名を借りた事実上の「寄付」に当たるのではないか。6つは、1989年リクルート事件を発端に自民党自らが「政治改革大綱」をまとめたが、全く実行されてこなかった。「政治とカネ」の問題は、自民党の体質である。
世論調査では、「パーティー裏金問題に対する説明」に「十分でない」73.8%、「自民党に自浄能力は」に「ない」77.6%、「裏金問題で自民党と派閥の対応は」に「問題ある」89.6%と全く信頼されていない。また、「政治資金ルールを厳しく・法規制強化を」に「厳しくすべき」83.8%となっている。
・(3) 安倍政治への追随も支持率低下の一因
21年総選挙と22年参院選で勝利した岸田政権は、「黄金の3年間」を手に入れたと言われたが、現状は真逆である。要因は多くあるだろうが、その1つに安倍政権の継承、安倍派への忖度がある。転換点は、22年参院選中に安倍元首相が銃撃によって死去したことだ。岸田首相は安倍派への配慮から、国民の過半数が反対している国葬を強行した。その後、旧統一教会問題が浮上し、自民党との癒着が明るみになった。経済的には「新しい資本主義」と言いながら、アベノミクスの異次元緩和の継承による円安が、物価上昇の一因となって国民の生活を襲っている。そして、安倍派をはじめとする派閥ぐるみのパーティー裏金問題である。安倍元首相の死去以降、これらの問題が表面化し、マスコミも報道するようになったことが、岸田政権の支持率低下と軌を一にしている。
・(4) 政権交代のカギは立憲のリーダーシップ
これまで述べてきたように、情勢は解散総選挙に向けて「野党共闘・政権交代」の実現を求めている。その中で、一番に求められるのは野党第一党・立憲民主党のリーダーシップである。共通政策をまとめるには、小異を捨てて大同につくことが重要である。1つ1つの政策実現に向けた共闘の積み重ねが求められている。その一歩として、先の臨時国会で若干の紆余曲折はあったものの、内閣不信任案を野党がまとまって提出したことの意義は大きい。1月26日召集の通常国会では、まず自民党パーティー裏金疑惑の解明である。疑惑議員の証人喚問や政治資金規制法の強化で野党が結束し、自民党を追い詰めることによって国民の信頼を得ることである。
政策の基本に関しては、立憲民主党の綱領・基本政策の柱に「支え合う共生社会」とある。これは、自民党の新自由主義による「自己責任社会」とは対立軸にある(『野党第一党』の著者、尾中香尚里さんの捉え方)。
政権構想に関しては、最近、立憲民主党泉健太代表が繰り返し主張している野党連携による「ミッション明確化内閣」の設立である。新しい政権の共通項目になるであろう「政治資金規正法の改正」「文書通信費の改革」「トリガー条項の発動」「教育の無償化」など野党が共闘できる「まずはやるべきことを必ずやる、ミッションを明確にした内閣・政権を作るべき」との考えだ。この提案は、総選挙勝利に向けての1つの考え方ではなかろうか。
筆者は、昨年本誌2月号で「歴史的転換の闘いに勝利しよう」と訴えた。今年こそその情勢にある。「『自己責任社会』から『支えあう共生社会』への転換」を勝ち取ろう!
<1月19日>
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